才人シー・シャン・ウォンのベートーヴェン探求シリーズ三部作の最終アルバムは、
これまで音になっていなかったピアノ・ソナタ第30番のスケッチを含み、
まるでベートーヴェンの創作過程を直接覗きこむかのような刺激満載!
『Unheard(これまで聴いたことのないもの)』は、シー・シャン・ウォンによるベートーヴェンの知られざるピアノ作品探求の第3弾。ベートーヴェンの多くの作品は、完成された作品よりも未完成の作品を多く残しているため、これまで一度も聴いたことのない作品が数多くあります。彼のスケッチ帳は豊富な情報源であり、現在世界中の図書館や個人コレクションに所蔵されています。スケッチや断片の中には、単なる試みや簡単にメモしたアイデアにすぎないものもありますが、作品の創作過程を明らかにする興味深いものも多いです。『Unheard』は、そうしたスケッチを完成させた作品や珍しい作品、つまり文字通り、これまでなかなか聴くことのできなかった音楽をまとめたアルバムです。ベートーヴェンの信じられないほど豊富なアイデアと創造力を明らかにしてくれるのです。
収録作品としては5曲で、晩年の傑作ピアノ・ソナタである第30番が中心を占めています。この作品については、第1楽章以外はベートーヴェンのスケッチ帳に作曲過程を示す様々な楽想が書き残されており、この録音では、クラコフのヤギェウォ大学(ヤギェロン大学とも)アルタリア・コレクション収蔵のスケッチ帳に記載されたスケッチや楽想をもとに、音楽学者ユルク・ヴィッテンバッハがそれぞれを補筆・完成させたヴァージョンで演奏されています。第2楽章はヴィッテンバッハによるスケッチ楽想の完成版で演奏され、第3楽章はベートーヴェンが完成させた最終ヴァージョンとヴィッテンバッハがスケッチから完成させたヴァージョンとが各変奏ごとに対比される形で配置されおり、作曲初期の楽想からベートーヴェンが完成させた私たちが聴きなれている形になるまでの乖離が明示されています。
『ニ長調の作品 Unv 12/Biamonti 213』は「ソナタ」「幻想曲」などとされた作品で、大英博物館にカフカ・コレクションに所蔵されています。1970年に出版されました。ボン時代の若書きで、楽器は特定されていません。3楽章形式ですが、第3楽章は断片的なため、ここでは第1楽章と第2楽章が演奏されています。
『ピアノ協奏曲ニ長調』は1888年にイタリアの音楽学者グイド・アドラーによって発見された草稿で、当時はベートーヴェン作とされ、ブライトコップツの「ベートーヴェン全集」にも未完の作品として収録されていましたが、その後の研究でベートーヴェンと同時代のボヘミアの作曲家ヨハン・ヨゼフ・レスレル[1771-1813]のピアノ協奏曲(1809年出版)のスケッチであるということが判明しています。
『ピアノ協奏曲第6番ニ長調 (Hess 15/Biamonti 641)』は、協奏曲第5番『皇帝』で成功を収めたベートーヴェンが1814/15年頃に作曲した作品で、第1楽章のみ70ページ余りのスケッチと30ページ256小節のスコアが残されています。1986年に音楽学者のニコラス・クックらによって完成され、さらに2015年にコーダ部分が改訂されました。円熟期のベートーヴェンならではの『皇帝』や合唱幻想曲を彷彿とさせる音楽が聴きごたえ十分です。
シー・シャン・ウォン(ファン・シュヤン)は1979年オランダ生まれのピアニスト。スイスでブルーノ・カニーノらに学び、12歳でオランダ放送管弦楽団と共演しデビュー。古典派から現代音楽までの幅広いレパートリーは高い評価を受けており、2002年からはチューリッヒ芸術大学で教鞭をとっています。(輸入元情報)
【収録情報】
● ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番ホ長調 Op.109
第2楽章はクラコフ・ヤギェウォ大学アルタリア・コレクション収蔵のベートーヴェンのスケッチ帳の楽想を完成させたヴァージョンで演奏
第3楽章はベートーヴェンの最終ヴァージョンとスケッチ帳の楽想を完成させたヴァージョンを並置
1. 第1楽章:Vivace, ma non troppo
第2楽章(スケッチ帳楽想完成版)*
2. Prestissimo(前半)*
3. Trio. A tempo*
4. Prestissimo(後半)*
第3楽章
5. 主題:Andante molto cantabile ed espressivo**
6. 第1変奏:Molto espressivo
7. 第1変奏:Andante con moto(スケッチ帳楽想完成版)*
8. 第2変奏:Leggiermente
9. 第2変奏:Allegro(スケッチ帳楽想完成版)*
10. 第3変奏:Andante piacevole(スケッチ帳楽想完成版)*
11. 第3変奏:Allegro vivace
12. 第4変奏:Un poco meno andante cio e un poco piu adagio come il tema
13. 第4変奏:Allegro(スケッチ帳完成版)*
14. 第5a変奏:Allegro(スケッチ帳楽想完成版)*
15. 第5b変奏:Allegro - 第5a変奏(スケッチ帳楽想完成版)*
16. 第5変奏:Allegro ma non troppo
17. 第6変奏:Andante un po' Adagio(スケッチ帳楽想完成版)*
18. 第6変奏:Tempo I del tema. Cantabile
19.主題回帰:Cantabile
20. ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番ホ長調 Op.109〜第2楽章主部:Prestissimo (Trio)(第2ヴァージョン、スケッチ帳楽想完成版)*
21. ベートーヴェン:ニ長調の作品 Unv 12/Biamonti 213〜第1楽章(シー・シャン・ウォンによる完成版)
22. ベートーヴェン:ニ長調の作品 Unv 12/Biamonti 213〜第2楽章(シー・シャン・ウォンによる完成版)
23. レスレル/伝ベートーヴェン:ピアノ協奏曲ニ長調 Op.15〜第1楽章アレグロ(カデンツァ:シー・シャン・ウォン)
24. ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第6番ニ長調 Hess 15/Biamonti 641〜第1楽章アレグロ(ニコラス・クック、ケリーナ・クワン、ヘルマン・デシャンによる完成版、カデンツァ:シー・シャン・ウォン)
25. ベートーヴェン:アルバムの小品(ピアノ・ソナタ第30番の主題による)(ユルク・ヴィッテンバッハによる完成版)
*編纂・完成:ユルク・ヴィッテンバッハ
**装飾:シー・シャン・ウォン
シー・シャン・ウォン(ピアノ)
カメラータ・シュヴァイツ(スイス・カメラータ、23,24)
ハワード・グリフィス(指揮:23,24)
録音時期:2020年11月21,22日(1-22,25)、2021年10月18日(23,24)
録音場所:チューリッヒ、スイス放送スタジオ(1-22,25)、オーバーシュトラッセ教会(23,24)
録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)
世界初録音(23)