Sailor / Trouble

74年にデビューし翌75年に発表した『トラブル』からカットされた「二人のシャンパン・グラス」が英国で2位を記録する大ヒットとなったモダン・ポップ・グループ、セイラーの記念すべき1stと、ルパート・ホルムズ＆ジェフリー・レッサーによるプロデュースも納得の音を聴かせる2ndを2in1仕様で収録したお得盤。

あらためて、70年代は面白い時代だったと思う。このディケイドの初めにロックの原型が形成され、そしてそれが次第に進化していった。その過程でさまざまな枝分かれが起こり、さまざまな音楽へと発展した。まさにそれはカンブリア紀の生命大爆発にも似ていたと思うのだけれど、その支流のひとつが英国のヒネくれポップス、もしくはモダン・ポップとも呼ばれる一派だ。
〜中略〜
セイラーのデビュー・アルバム『SAILOR』は74年の8月にエピック・レコードよりリリースされた。セイラーの特徴は、エレクトリック・ギター、エレクトリック・ベースといったロックの常套楽器を使っていないこと、コーラス・ワークが素晴らしいこと、無籍風の曲調が多いこと、などが挙げられる。およそロック・バンドらしくないのだが、でもそこにはロックのスピリッツが横たわっている。

ファースト・シングルとなった「トラフィック・ジャム」を聞くと、明快なコーラスがビーチ・ボーイズを思わせてくれる。どこか人懐っこいリフがキャッチーなのだが、そこにストリングスを重ねるところは、やはり尋常ではない。「ザ・ガールズ・オブ・アムステルダム」では、飾り窓の女たち（娼婦）のことが演劇的な手法で歌い込まれていく。他にも、1920〜30年代にかけてパリで活躍した褐色のダンサー、ジョセフィン・ベイカーを歌にしたものがあったり、＜フランス・水夫・港町＞といったモチーフがしっかりと盛り込まれている。

セイラーが真価を発揮したのは、75年のセカンド・アルバム『トラブル』だ。このアルバムからは、全英第二位となった「二人のシャンパングラス（Glass Of Champagne）」と、「ガールズ・ガールズ・ガールズ」のヒットが生まれている。プロデュースとエンジニアリングはジェフリー・レッサーで、アソシエイト・プロデューサーとしてルパート・ホルムズの名前がクレジットされている。この二人はワイド・スクリーン・プロダクションを設立し、ルパートの名作『ワイドスクリーン』を制作することとなる。 いかにも偽物っぽい中華サウンドが奏でられる「トラブル・イン・ホンコン」とか、トロピカーナな雰囲気満点の「ココナッツ」、チャランゴが鳴り響くラテン風味の「パナマ」など、脳内物見遊山の世界旅行が続いていく。この自由気ままな音楽漫遊は、初期のムーンライダーズにも、トロピカル三部作を出した頃の細野晴臣とも、自然な形で通じ合っているように思う。 異国情緒が幾重にも重なり合った「インストゥルメンタルの「ジャカランダ」は、由紀さおりとのコラボレートで話題となったピンク・マティーニや、フェイクな懐かしラテンを展開するラス・ルビアス・デル・ノルテの先駆といったところだ。効果音の入った「ストップ・ザ・マン」は疑似サウンド・トラックのようでもあり、ピアノの八連符で始まる「二人のシャンパングラス」は名曲でありビートルズの残り香もほんのりと感じさせてくれたりもする。そしてアルバムは、ノスタルジックな佳曲「懐かしきニッケルオデオンの響き」で幕を閉じるのだ。〜解説より

解説 小川真一
帯・解説付き国内仕様盤
原盤: 7T’S (GLAM CD 72)
解説：小川真一