豚の報い

神と豚と人間の同居する島。「死んだ人間が神様になる」と言われている沖縄では、神は人々の暮らしと密接な関係で結びついている。それは、宗教的な概念というよりも、深く生活の中に根付いたものである。また、豚はお祝い事、普段の食事で必ずといっていいほどよく登場する。食卓に欠かせない存在であると同時に、神聖なものとして崇められてもいる。

この物語の舞台「真謝島」は、聖なるものと俗なるものとが混じり合い、神と豚と人間とが同居する島として描かれている。実際には存在しない架空の島だが、沖縄で最初に神様が降りて来た島として名高い「久高島」がモデルとなっている。この島は、古代信仰が各島々に色濃く残っている沖縄の中でも、特に厳粛で神秘的な島として知られている。本作に登場する島のシーンは、すべて実際に久高島でロケーション撮影されている。

原作は、沖縄という固有の風土で生きる人々の力強さ、陽気さ、ひたむきさを描き、98年に芥川賞を受賞した又吉栄喜の同名小説。この原作の世界に、崔洋一が得意とするユーモアや猥雑さに加えて、今回はさらに静謐さをも兼ね備えた演出で挑んでいる。過去に『共よ、静かに眠れ』『Aサインデイズ』など、沖縄を舞台にした作品を発表してきた、崔洋一監督の沖縄への熱い思いの集大成と言えよう。

主人公の正吉には、映画初主演の小澤征悦（父親は、世界的指揮者の小澤征爾）。新人とは思えない圧倒的な存在感で、大人になろうとする青年の心の機微を見事に演じきっている。

彼を翻弄するネーネーたちには、沖縄出身の早坂好恵、あめくみちこ、沖縄で活躍する上田真弓がそれぞれ扮し、沖縄のバイタリティ溢れる女性をのびやかに表現している。また、岸部一徳が島の医者役をひょうひょうと演じる他、吉田妙子、平良進、仲嶺真永、島正廣ら、沖縄芝居のベテラン、若手が脇を固めている。

神の島(真謝島)の豚小屋で生まれた19歳の大学生・正吉と、心に癒せぬ傷を持ちながらもめげない女3人の、3泊4日の厄払い珍道中を描いた物語。沖縄の風土と人々をユーモラスに描いている。(CDジャーナル　データベースより)