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“スコットランド”&“未完成”
クレンペラー指揮バイエルン放送交響楽団
メンデルスゾーンは1969年5月23日の収録。クレンペラーの《スコットランド》は、他にウィーン響(1951/VOX)、フィルハーモニア管(1960/EMI)との録音が知られており、特にフィルハーモニア盤は有名な存在ですが、今回のバイエルン盤はそれをはるかに上回る名演と言えるものです。
この演奏の前には、スケールの雄大さがどうとか、音の彫りの深さがどうとか、テンポが速いとか遅いとかといったことを、あれこれ語ることが空しくなってしまうほど、音楽の自然な移ろいがとにかく魅力的で、バイエルン放送響の楽員たちから、客演という立場でよくもこれだけ深みのある美しい演奏を、しかも全編にわたって引き出せたものと驚かないわけにはゆきません。
ちなみに、この作品の第4楽章のコーダは、第1楽章序奏主題に基づく壮大なものですが、クレンペラーはなぜかこれをカットしており、ホルンによって導入される第4楽章第2主題に基づく1分強の簡潔なコーダを自作して、悲痛な気分のまま曲を終わらせてしまっているのです。
フィルハーモニア盤の魅力のひとつが、この部分の、きわめて壮大な演奏であったことを考えると皮肉としか言いようのない処置ですが、バイエルンでの演奏の場合には、これでも良いと思えてくるから不思議です。
どこからどう見ても《スコットランド》史上、最高に美しい演奏であり、あからさまな形での感情移入表現などほとんど無いにもかかわらず、無味乾燥さや、冷たさは塵ほども見当たらないのです。これに較べればスタジオ盤は敢えて“標本"と言いたくなるくらい冷たい感触が支配的で、比較すればするほど、演奏会でのクレンペラーの魅力がクローズアップされてくることは間違いありません。ちなみに、この《スコットランド》と同じ日には、《真夏の夜の夢》と《フィンガルの洞窟》がとりあげられており、どちらも超の付く見事な演奏となっています。
《未完成》は1966年4月1日の収録。クレンペラーのこの曲の録音は、ほかにベルリン国立歌劇場管(1924/ARCHIPHON)、ブダペスト響(1948/HUNGAROTON)、トリノ・イタリア放送響(1956/CETRA)、フィルハーモニア管(1963/EMI)、ウィーン・フィル(1968/DG)の5種があり、音質はともかくそれぞれに見事な仕上がりをみせています。特にウィーン・フィルとのものはオケの性格もあって非常に美しい演奏となっているのですが、今回のバイエルン盤はそのVPO盤に較べて、よりクレンペラー的性格の強い内容になっているのがポイントでしょう。よほど体調が良かったのか、演奏は首尾一貫して強い緊張をはらみ、パワフルなオーケストラのサウンドと相まって実にたくましい《未完成》を聴かせてくれるのです。第1楽章展開部での追加ティンパニや、再現部でのピツィカート処理のリズミカルで強靭なこと、木管声部が常にしっかりと確保されて美しい対旋律を立体的に聴かせてくれる点も見事としか言いようがありません。