基本情報
内容詳細
精神科医や心理援助職が出会うPTSD(心的外傷後ストレス障害)はつねに、保健医療や心理臨床の既定の境界線を超え、被害者と加害者ないし被災者と過失責任者とのかかわり、補償制度や司法制度、公的および民間の援助組織と背中合わせにある。そのなかで精神科医や心理援助職は、「科学的なエビデンスと社会的な使命をいかにして共存させるのか」という問いを、絶えず投げかけられる。本書はこの問いを受け、阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件、和歌山毒物混入事件、惨事ストレスなどを取りあげながら、臨床疫学、日本語版診断尺度作成、エビデンスに基づいたPTSD治療法としての薬物療法や認知行動療法、トラウマ記憶の脳科学、遺族の複雑性悲嘆治療の試み、偽記憶をめぐる司法論争など、文字通り複眼的にトラウマティック・ストレスをめぐる諸問題にアプローチする。1995年の阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件の衝撃以後、近年の通り魔事件や大災害、重度事故まで、PTSDへの社会的関心がかつてなく高まっている。本書は、急成長をはじめた日本PTSD研究の創成期から臨床研究の第一線でリードしてきた著者の12年間の軌跡であり、「日本におけるPTSD研究勃興期の記録」そのものでもある。
目次 : 心的外傷概念の歴史的変遷とPTSDの誕生/ PTSDの臨床疫学/ PTSDとうつ病/ PTSDの症状評価/ CAPS(PTSD臨床診断面接尺度)日本語版の尺度特性/ PTSDの診断基準をめぐる問題点/ 阪神淡路大震災復興期のストレス要因/ 地下鉄サリン事件被害者の心のケア/ 和歌山毒物混入事件被害者の長期経過/ 惨事ストレス―災害救援者のメンタルヘルス対策/ PTSDと前頭前野/ PTSDに対するSSRIの効果/ 精神療法はトラウマ記憶をどう処理できるか―長時間曝露法の経験から/ 暴力的死別による複雑性悲嘆の認知行動学/ 「蘇った記憶」と「偽りの記憶」をめぐる論争/ 心的外傷はいかにして解離減少をもたらすか―神経生物学的視点も含めて
【著者紹介】
飛鳥井望 : 1952年東京生まれ。1977年東京大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院分院神経科入局。1982年東京都立墨東病院神経科医員。1987年同医長。1992年東京都精神医学総合研究所社会精神医学研究部門副参事研究員。2001年同参事研究員。現在、同社会精神医学研究分野長、医学博士、日本トラウマティック・ストレス学会理事(初代会長)、日本社会精神医学会理事、日本精神科救急学会理事(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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