Book Meter Reviews

こちらは読書メーターで書かれたレビューとなります。

powered by

• ケイ

  読了日：2022/01/02

  傑作。ヘンリー五世(1413-1422)。各幕の前にくるコーラスのもたらす素晴らしい効果。観客、読者ともに、その心はアジャンクールに連れていかれ、ひろがる光景を心に刻む。その勇壮な語りとは対照的な、ウェールズ、スコットランド、アイルランドの兵士たちのたどたどしい言葉、現地でまみえるフランス兵との噛み合わない会話は、フォルスタッフ亡き後の緊張緩和を担う。イギリス王ハルとフランスのキャサリンとの会話も含め、通じない言葉での会話が全体を通してあり、2人の結婚がconformityをうむという演出かな。

• ケイ

  読了日：2023/06/28

  この幕切れよ…しかし、各幕の始まりごとに観客を場面転換に誘うコーラスや、幕後の余韻をヘンリー六世の悲劇に向かわせたり、上演当時にエリザベス一世がエクセターに託したアイルランド討伐へとつなげるコーラスを実際に耳にしたならば、また印象は違うのだろう。さて、ヘンリー五世はイギリスをフランスに勝利させた英雄か、市井の意見を汲み上げる徳のある人物か、あるいは酒場の中を切捨て捕虜の皆殺しを命じる冷酷で計算高い男か。アヒルとウサギの騙し絵のように、見方によって違う姿でうつるハル。アンビバレントな王位なり。

• ケイ

  読了日：2022/04/02

  シェイクスピアの素晴らしさはなんと言ってもコーラスにあると思うのだ。舞台が始まる前、幕間(この時代に幕自体はなかったようだが)、そして最後。観客の想像力を掻き立てる話術は見事。考えてみれば私の好きな落語も、語りから想像力に訴えるものだから、根本は同じかもしれない。フランスとの戦争や、謀叛のもの達との場面は緊張感を高めるが、ヘンリー五世が身分を隠してウェールズやスコットランドの兵士らとする会話でそれが緩む。しかし、彼らとの会話がしばしば真理をつく。

• クプクプ

  読了日：2025/08/31

  面白かったです。この作品はイギリス人に特に人気のようです。ウェールズ人大尉のフエルリンが原文でスペルがなまっていて、松岡和子さんが、会津弁か何かの日本の方言で訳した、というのが、結果的に肩の力が抜けて成功していました。物語の全体像はとらえられなかったですが、最後の方で、男女の、俺の母国語ではないカタコトのフランス語、私の母国語でない英語で、愛を伝え合う、部分は手に汗を握りました。母国語でない言葉で、単刀直入に伝えるのは、読んでいる、こちらも真剣な気持ちになりました。

• 鐵太郎

  読了日：2019/08/21

  この翻訳で、通算三冊目か。かつて「我ら幸いなる小数」という言葉を海洋冒険小説で知って以来、シェイクスピアのこの戯曲には特別な関心を持っていたもの。内容の重厚さや人物の運命の綾やきらめく言葉を求めてというより、読んで元気になるために、かな。でも今回読んで気づいたのは、ヘンリー五世王の持続する意志の強さ。身内だった裏切り者やフランス兵捕虜の処刑など、シェイクスピアがこの王にどんな姿を求めたのか、考えると不思議。そして、翻訳者の差ってすごい。

レビューをもっと見る

(外部サイト)に移動します