ヴァンゲリスは1943年3月29日、南ギリシャのボロスに生まれアテネで育ちます。本名ヴァンゲリス・オデッセイ・パパサナシュー。父は画家、母はシンガーという芸術一家に育ち、4歳からピアノを勉強。60年代はじめに「FORMYNX」というポップ・バンドを結成して、音楽活動を本格的に開始。その後1968年に伝説のバンド、アフロディーテス・チャイルドを結成。パッヘルベルのカノンを編曲したシングル「Rain and Tears（雨と涙）」がヨーロッパや日本で大ヒットしたりするものの、1971年、音楽的方向性の違いによりバンドは解散、ソロ・アーティストに転向。
　1973年に初のソロ・アルバム『EARTH』を発表。以降、『Heaven and Hell（天国と地獄）』、『Albedo 0.39（反射率0.39）』、『Opera Sauvage（野生）』、『China（チャイナ）』、『Direct（ダイレクト）』、『The City（シティ）』、『Oceanic（オセアニック）』等々、ジャンルにとらわれない多くの作品をリリースし、その独自の音楽は高い評価を獲得。
　また一方で、『動物の黙示録』、『南極物語』など、映画音楽にまで活動範囲を拡大し、やがて、『炎のランナー』、『ブレードランナー』、『1492コロンブス』のサウンドトラックを手掛けて世界的に評価が高まってゆきます。特に、『炎のランナー』は1982年のアカデミー賞で作品賞とオリジナル作曲賞を受賞し、テーマ曲は世界的に大ヒット、アルバム、シングルともに全米ビルボードのポップス・チャートの１位となっています。
　蛇足ながらこの『ブレードランナー』のテーマは、『2001年宇宙の旅』でおなじみのリヒャルト・シュトラウスの『ツァラトゥストラ』を変容させたような音楽であり、映画そのものが『2001年』とは正反対の未来像を描いたものであったことを想起させるアイデアが秀逸なものでもありました。似たようなことは『炎のランナー』の「エリックのテーマ」でもおこなわれていました。英国の王家ではなく神の王国に仕える信念を貫いたエリックのテーマは、ヘンデルが王家の遊興のために書いた壮大な『王宮の花火の音楽』のパロディにも聴こえるのです。
　そんなヴァンゲリスが1999年には、2004年開催のオリンピックのエンブレムの除幕式の音楽も作曲。2002年にはFIFAワールド・カップのテーマソングを作曲、その年日本で最も売れた海外アーティストのシングル盤となり、2003年にRIAJ（日本レコード協会）からインターナショナル・ソング・オブ・ザ・イヤー賞を受賞しています。
　その他にも、1980年代にはギリシャ・エピダウロスで公演されたマイケル・カコヤニスの『エレクトラ』の舞台音楽や、スペインで公演されたヌーリア・エスペルの『王女メデア』の舞台音楽など、幅広い世界で活躍をしています。また、彼の活動は音楽だけに留まらず、ビジュアル・アーティストとしても活躍。1997年夏の世界陸上アテネ大会では、音楽とセレモニーも手掛けており、彼の幅広い才能は、オスカー賞、ゴールデングローブ賞、エコー賞、ゴールデン・ライオン賞など、数多くの受賞というかたちで証明されてもいます。