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シューベルト(1797-1828)

CD ヴァイオリン・ソナタ集 ミドリ・ザイラー、インマゼール

ヴァイオリン・ソナタ集 ミドリ・ザイラー、インマゼール

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    松浦博道  |  静岡県  |  不明  |  2019年05月13日

     19世紀ウイーンのビーダーマイヤー時代(*1814〜15年のウイーン会議以降、1848年の3月革命での保守的なメッテルニヒ体制・ウイーン体制の崩壊まで続いた当時の時代様式・パラダイムの呼称名)に、主としてドイツ語歌曲(=Deutsche Lieder)の天才作家として先輩格の崇拝する偉人作曲家ベートーヴェンを凌ぐ才能と独特で伸びやかな抒情性あるメロディストとしてにわかにウイーンの街のサロンで活躍をしていた才人シューベルトが書いたわずか4曲のヴァイオリンとクラヴィーア(=ピアノ)のためのソナタ全曲を1枚におさめた持っていて損はしないレアーなお宝物アルバム。  20〜21世紀ヨーロッパ古楽界の大家・確かな解釈者としての実力を誇るオランダ出身のフォルテピアノの名手インマーゼルと、ベルリン古楽アカデミーやアニマ・エテルナのコンマスとして有能な日系の混血女流ヴァイオリニストであるミドリ・ザイラーのコンビネーション・組み合わせで演奏・収録したビーダーマイヤー時代の典型的な軽快で優美なサロン的室内楽としてしばし演奏されるシューベルトのヴァイオリン・ソナタの通念を覆した金字塔的アルバム内容で楽しむ大人の魅力が詰まった確かな1枚となっているのが当盤の他の盤にはない特別な香りが漂う希少な1枚だ。  ザイラーの弾く1814年製のフランツ・ガイセンホーフ(1753〜1821)のウイーン・オールド・ヴァイオリンの歴史的な響きと、インマーゼルの弾く、こちらはレプリカだが、1814年製のウイーンのヨハン・フリッツによるフォルテピアノの響きの組み合わせで、19世紀初頭の楽都ウイーンのカンマームジーク(=室内楽)の世界が堪能できる、いわゆるピリオド楽器・古楽器使用による鮮烈で耳に違和感なく響くシューベルトの世界も、この様な意表を突く時代楽器の使用によって聴き直すと、これまでのモダン楽器使用によるありきたりの演奏・録音などのアルバムでは味わうことのできなかったユニークさが当アルバムが普通ではない、従来にはない魅力をアピールしていることは一聴瞭然の内容だ。  今日「ウイーンのストラディバリ」として楽器マニアの間では有名なドイツのフュッセン出身のフランツ・ガイセンホーフの手による1814年制作のヴァイオリンの響きは、イタリアン・オールドの最高峰ストラディバリウスや、オーストリアのヤーコブ・シュタイナーの影響を受けつつも、あまりイタリア製のオールドやモダンの力強いコンサートホール全体を包み込む様な奥底まで響くヴァイオリンの世界とは異なり、やや貧弱でクリアーな音色を出すには厳しい難点があることをシューベルトの4作のソナタを通して耳で確認できる点はユニークで斬新なアイデア・発想だと言えようが、ガイセンホーフを含め、ウイーンやドイツ、チェコなどの18〜19世紀の中欧・東欧の楽器は、当たりはずれはあろうが、総じてあまり鳴らない個体が多いのがイタリアンやフレンチなどの弦楽器と比べた時、19世紀当時の音楽習慣に合わせるためにガット弦を使用している点などもあり、ややもくすんでいて、音の響きが落ちるのが実際の話だろう。18〜19世紀にかけてウイーンで制作されたヴァイオリンは、ガイセンホーフ以前では、これまでに、ライドルフ王朝やティーア(=ティール)王朝の他、ベートーヴェンも愛用・使用したとされるゼバスティアン・ダーリンガーや、ポッシュ、レープなどの多数の個体が市場に出回ってきたが、それらの多くが歴史的および資料的価値という点では、名器の部類に入るだろうが、肝心な音の方が、貧弱でパワーに欠けるという相反する特性があるため、なかなか、今日、実際にウイーン製のヴァイオリンやビオラ、チェロをファースト楽器として使用しているプロは数少ないだろうと言えるものがある。現地ウイーンの大御所ウイーンフィルの団員も、かつてはガイセンホーフを使用してきたらしいが、近年では、ガイセンホーフ以後にウイーンで弦楽器制作家として知られた、ニコラウス・ザビッキやガブリエル・レンベックなどの個体や、東ドイツ(=サクセン)の町で、音楽の母ヘンデルの生誕地ハレのモダン制作家ヨアヒム・シャーデの個体を使用する様に変ってきているらしい。さらに言えば、弓・ボウ(=bow)は、当時のウイーンの制作家の手によるものではなく、フランスのトルテ・ファミリーや、イギリスのドット・ファミリーのものがウイーンに輸入されて使用されていたのではと、このアルバムのライナーノートの中で、古楽器研究家のルドルフ・ホップフナーは指摘・言及している。  まあ、楽器の話になってしまったが、それはともかく、シューベルト音楽の持つサロン的・女性的魅力と、シューベルトにとって最も身近で親しみのある楽器であったクラビーア(=フォルテピアノ)によるやや、アクションの弱い音色の出るヨハン・フリッツ鳴る人物の忠実な復元・レプリカを使用したことは単なる偶然ではなく、19世紀往時の響きの歴史的再現という意義においては、大変有意義で、合理的な判断および選択であったと高評価できる魅力と付加価値が認められる。  あまり芳香で大胆な男性的な音色ではないが、ガイセンホーフとヨハン・フリッツの組み合わせによる楽器で、限りなくシューベルトが生きていた頃に近い音色の世界が相応に再現されていることは、プレミア価値という意味合いも込めて持たせる意味で、5つ星評価を与えたく思った次第である。楽器に関心のない無教養なクラシック入門者が聴くのであれば、当アルバムの価値の利点(=virtue)はいくぶんにも強調できないだろうが、楽器に詳しい方やクラシック上級者が聴くのであれば、このアルバムは画期的で、超お宝物的な1枚として愛蔵盤として家宝にできる大人の魅力を生んでいる充実なコンテンツ内容で上出来の1枚でもある。  ガイセンホーフとはこんな音色の個体かという点を確認したい方や、当時のオリジナル楽器の響きで、シューベルトに室内楽の世界にはまりたい方、従来の解釈にはない学術成果を時代の考証をもとに反映させて企画から演奏・収録への実現に至ったという事の経緯と独自のコンセプトを受け入れ、それを高く買う方には、当アルバムはきっと耳に有益な情報源をもたらしてくれるエスプリの効いた上質でいて退屈にはさせない、熱心な音楽マニアの期待感を裏切らない内容のアルバムとして持っていたいと親しみを感じることだろう。  シューベルトの書いた4作のヴァイオリン・ソナタは同時代のベートーヴェンの10作もの芸術的な完成度を誇るヴァイオリン・ソナタの存在感の重さ・大きさに比べれば、内容や質、魅力の点で大きく落ちるものだが、ベートーヴェンにはない、シューベルトという歌曲作曲家のビーダーマイヤー風ピアノ書法の魅力や、ベートーヴェンでは少し堅苦しいとストレスを感じる方は、耳に心地よく入り込んでくる柔軟・フレキシブルで、ウイーン風に言えば「ゲミュートリヒ」な居心地の良さとしての軽やかな愛らしさを求める方には、大きく受け入れられるに間違いないだろう。  見苦しい長文レビューになってしまったが、肩の力を抜いて、何も考えずにリラックスしてウイーン音楽を、という向きの方には無条件でおススメできる至福のアルバム内容である。星評価も、もっと一般に広く聴かれるべき価値あるものとしての、いっそうの需要と流布を見込んで、5つ星としてみたまでである。モーツァルトのヴァイオリン・ソナタに関心のある音楽ファンにもおススメしたい1枚だ。

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