第16位

2005年8月12日 (金)

Robert Wyatt

カンタベリー・シーンのカリスマ

日本にもプログレ・ファンを自称する人は少なくないが、そのなかでもカンタベリー一派に目を向けていた人は少数派だったと思う(今は再評価されているので、そんなこともないが)。キング・クリムゾンピンク・フロイドが絶大な評価を受けている60年代末から70年代前半、ひっそりと歴史的重要作品をいくつも発表していたバンドがソフト・マシーンである。ロック・リスナーが聴くとまんまジャズ、ジャズ・リスナーが聴くと未知の音楽。余りにも独創的で既成の概念からかけ離れていたソフト・マシーンの初期の中心人物が本稿の主人公、ロバート・ワイアットである。

ロバート・ワイアット(本名:ロバート・ワイアット・エリッジ)は1944年イギリス、ブリストル生まれ。父親は心理学者、母親は放送関係のジャーナリストであったという。幼少期にロンドンの郊外ダルヴィッチに移ったワイアットは、母親の影響からモダン・ジャズを聴くようになり、早くからピアノやドラムスを演奏していた。そしてカンタベリーのサイモン・ラグストン・スクールで、後にソフト・マシーンを結成するマイク・ラトリッジ、ブライアン・ホッパーらと出会っている。

アートスクールの彫刻科に進んだワイアットはスペイン放浪の旅に出る。そこでオーストラリアからやってきたデヴィッド・アレンに出逢う。その後カンタベリーに戻り、ケヴィン・エアーズと知り合い、ソフト・マシーンの原型となるバンド、ワイルド・フラワーズを結成する。しかし今度はケヴィンが放浪の旅に出てしまい、バンドは解散へ。しかし66年、ケヴィンがカンタベリーに戻ってきたことによって、ようやくソフト・マシーンが誕生するのであった。因みにピンク・フロイドもこの年に結成されている(実際バンド同士の交流もあったようだ)。

ソフト・マシーン〜マッチング・モウル〜転落事故

結成当初のソフト・マシーンはサイケデリック・ロックの影響が色濃いながらも、独自のポップ・センスで評判を集めていった。ロンドンやパリでライヴを行っていた彼らだが、アレンがビザの問題からイギリスに再入国できなくなり、エアーズ、ラトリッジ、ワイアットが中心となってジミ・ヘンドリックスとアメリカ・ツアーを敢行。そんな中デビュー・アルバムを制作するがツアーに疲れたエアーズがバンドから離脱。その後ヒュー・ホッパーが加入したソフト・マシーンはジャズに大きく傾倒していく。そういったいきさつからワイアットはバンド内で重要な位置を占めていたにも関わらず、バンドとの方向性のズレから脱退を余儀無くされるのであった。

ソフト・マシーンを離れたワイアットは以前から交流のあったデイヴ・シンクレアフィル・ミラーらと新バンド、マッチング・モールを結成。バンド在籍時の70年に発表したソロ・アルバム『ジ・エンド・オブ・アン・イアー』での作風を踏襲したユーモアとウィットに富んだ実験精神に溢れるポップ路線のアルバム2枚を発表。いずれも高い評価を受けるが、メンバーそれぞれの活動が表立っていくことにより、バンドは空中分解。約1年という短い活動期間にピリオドを打った(デイヴ・シンクレアフィル・ミラーハット・フィールド&ザ・ノースを結成する。その後はややこしいので省略)。

マッチング・モール解散後のワイアットに待っていたのは思いもよらない事故だった。73年6月。友人宅で酒に酔ったワイアットは五階の窓から落下。一命は取り留めたものの、下半身不随というハンディキャップを背負うことになるのであった。半年ほどにわたる入院生活を経て、ワイアットは再出発。74年に傑作との誉れ高いソロ・アルバム『ロック・ボトム』を発表。ドラマーとしての道は絶たれたが、個性的なヴォーカリストとして豊かな才能を知らしめた。翌年発表の『ルース・イズ・ストレンジャー』も素晴らしい出来栄えで各方面から絶賛された。

70年代後半は目立った音楽活動は控えめになるが、共産党に入党し政治的な活動も行っている。しばらく音楽活動から遠ざかっていたワイアットを再び表舞台に押し上げたのはパンク以降のUKシーンに多大な影響を及ぼしていたレーベル<ラフ・トレード>。新世代からのラヴコールに応じたワイアットは同レーベルからシングルをリリース。85年には待望となるアルバム『オールド・ロットンハット』をリリースした。

その後も世代を問わず、多くの仲間とファンに囲まれて、ワイアットはマイペースに活動を続けている。現時点での最新作は2003年発表の『クックー・ランド』

決して忘れられない声

生粋のプログレ・ファンはもちろんのこと、バリバリのリアル・タイム・ニュー・ウェイヴァーやポスト・ロック世代の若い世代からも支持を集めるワイアットの魅力はどこにあるのだろうか?前衛とポップの間を自由に行き来する柔軟な音楽センスももちろんだが、多くのファンは牧歌的なその"声"に魅せられているのだろう。

遥か彼方に佇む山の上に独りで住んで、空気だけを食べて過ごしている仙人のような風貌から発せられるか細い声...マッチング・モールの"オー・キャロライン"やエルヴィス・コステロとクライヴ・ランガーが書いた"シップビルディング"などでその美声を堪能する事が出来る。その魅力にハマった人はカンタベリーの底なしの魅力にハマったのも同然なのだ。オルタナティヴへようこそ。

※表示のポイント倍率は、
ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。

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