インタビュー:佐野元春
2007年7月6日 (金)
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─アルバム『 Coyote 』、本当に素晴らしい作品だな、と感じています。 佐野:どうもありがとう。 ─ リリースから 2 週間ほど経ちますが、プロモーション活動などから佐野さんが感じられている反響はいかがですか? 佐野:今回のこの新作『Coyote』、できるだけ多くの音楽リスナーに聴いてもらいたいということもあって、比較的多くのプロモーションを展開してますね。とにかくホットメディア、 TV のアピアランス、これも久しぶりですね。全国ネットをはじめ 3 、 4 番組に出ています。 「久しぶりに佐野元春見たぜ!」っていう人、それからコアのファンの人たちは前回の『The Sun』から続いて三年ぶりのアルバムということで注目してくれていましたし、前回の『The Sun』というアルバムもファンから高い評価を得ていた。その次の作品ということで、非常に注目されているな、という中でのリリースでした。 全般的に「久しぶりに佐野の新作聴いたよ!」という人から、『The Sun』の流れで聴いてくれていた人まで、今回は本当に評判がいいですね。かつてなくコミュニティーから、あるいは多くの … 最近ではインターネットを通じてどんどんメッセージが入ってきますしね。そういった方からの感想が入ってきています。 ─ 前作『 The Sun 』のレコーディングから 3 年というスパンがありましたが、今回の『 Coyote 』までの心境の変化は? 佐野:前回の『The Sun』から今回の『 Coyote 』まで 3 年の間に全国ツアーを2回行っているんですね。ライブもすばらしかった。で、前回の「星の下 路の上」全国ツアーが終わった直後に『Coyote』のレコーディングプロジェクトを立ち上げて、 7 ヶ月間くらい制作して、そしてロードしながら曲も書いていたし。詞とか、それから作曲についてはほとんどね、食事をしたりとか散歩をしたりとかと同じように日々やってるんですよ。ですので、ここ半年〜一年くらいの自分の感じ方、考え方がこの『Coyote』アルバムに集約されているんじゃないかと思いますね。 ─ 前作『 The Sun 』から独立レーベルである Daisy Music からのリリースですが、今作に関して佐野さんから「今作が真の意味での Daisy Music 第 1 弾」といった発言がありましたよね? 佐野:前回の『The Sun』アルバムは、レーベル立ち上げのドタバタのなかでのリリースだったんですが、そのこともあって今回の『Coyote』アルバムこそが自分のレーベルからの第 1 作目という、 ( そういう ) 気合を入れて制作しリリースしました。 ─ では今作が独立レーベルとして制作の初期段階を含めてがっちり取り組んだアルバムということになりますが、そのあたり制作現場やプロモーションなんかの面で変化したことというのはあったのでしょうか? 佐野:まずレコーディングの現場は、ご存知の通り参加ミュージシャンがこれまでの The Hobo King Band に代わって Mellowhead の深沼君、 NONA REEVES の小松君、 Great 3 の高桑君、そして僕を含めて4人の「バンド」という構成でレコーディングした。もう現場はすごくクリエイティブにスパークするような、まさにロックンロールの現場でしたね。 |
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「ソングライターは生身の人間、今の社会に、今の世界に生きている」 | |||||||||
─その参加ミュージシャンという点は今回の作品の大きなトピックとしてありますよね。まずそもそも今回のメンバーでレコーディングを行われようと思った最大の理由というのは? 佐野:これまでの The Hobo King Band 、ミュージシャンとしては本当に一流のメンバーですよね。その彼等とこの 10 年間レコーディングにステージに共にコラボレーションしてきました。その結果として『The Sun』という素晴らしいアルバムができました。日本ではそれほど多くはないと思うジャムバンド系統のポップサウンド。 The Hobo King Band の連中達とあのアルバムを創れたことは僕の誇りですね。それはソングライティングの面においても同じです。「いいアルバムだな」と。 |
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佐野:で、あれに続く同じ傾向のアルバムが自分から出てくるか?という自分の問いに対して、やっぱりそれは難しい ... というくらいあの『The Sun』というアルバムは僕のなかではかなり頂 ( いただき ) の上にあるアルバムでした。ですので、次に自分の向かうステージは『The Sun』というアルバムと同じ傾向のものではなく、アプローチを全く変えた新しいもので、僕自身が新鮮に感じる何かであるべきかな ? と思い立ったときから今回の参加ミュージシャン達に声を掛けたわけです。 | |||||||||
─佐野さん御自身の中には何かアルバムに向かわせる特別な感情みたいなものはあったのでしょうか? 佐野:ソングライターは生身の人間ですから、聴いてくれているリスナーと同じ様に今の社会に、今の世界に生きている。 僕はめったに自分の個人的な心情を曲にしたり言葉にしたりはしないんだけれども、でも今回の『Coyote』アルバムは「コヨーテ男」という僕の代理人みたいな ( 笑 ) ものが出てるけれども … だいぶひりひりした世界、社会のなかでね、僕自身が個的に感じている風景をね、スケッチできたんじゃないかなと思いますね。 |
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─では実際のレコーディングセッションまでの流れについてお伺いしたいのですが、今回のアルバムの前に「星の下 路の上」という 3 トラック e.p 、それから Music United 名義で「世界は誰のために」をリリースされてます。今回のアルバムに関するセッションというのはこれらの先行作品に関するセッションから継続的に続いてきたものなんでしょうか? 佐野:その通り。今回の『Coyote』アルバムの前に、いま指摘してくれた通りに「星の下 路の上」という 3 トラック e.p があった。これが始まりだったと僕は思いますね。あの3曲のレコーディングセッションで、僕はちょっとした閃きがあって、このメンバーでフルアルバムを創ってみたら?と思ったわけです。それがこの『Coyote』アルバムに繋がったわけです。 まあ、ミュージシャンについて言えば先ほど名前を挙げた3人、ここ10年もちろん彼等の演奏をレコードでも聴いていたし、ライブでも聴いていた。ミュージシャンとしての、そしてプレイヤーとしてのポテンシャルも充分過ぎるくらいですね。すばらしいプレイヤー達。それと同時に僕が注目したのは、彼等がみんな優秀なプレイヤーであるのと同時に、素晴らしいソングライターだということですね。そして、歌手だという、シンガーだということですね。だから僕ら4人が組めば必ず素晴らしいサウンドになると思って。 そして実際はそれ以上の結果になりました。だから参加ミュージシャンの3人にとても感謝しています。 ─その今回参加されている御三方というのはまさに「佐野元春を聴いて育ってきた世代」のミュージシャン。そのことで佐野さんがなんというか … 逆にある種のプレッシャーみたいなものを感じられるということは? 佐野:プレッシャーはないよ。ただ弟みたいな世代の前で、「兄貴はビシッとしてなきゃいけないな」っていうのは … 「ヘマはダメだぜ!」っていうのは、それはプライドとしてあるよ。常に彼等は僕の背中を見ているからね。 でも , レコーディングセッションのなかではドジな僕も見え隠れしただろうし、また彼等がびっくりするくらいの何か力量を発揮した場面もあったのかもしれない。いずれにしても参加ミュージシャンの3人は、彼等が持ってる以上のしっかりとしたインスピレーションを僕に貸してくれた。そのことはすごく嬉しかったよね。で、そのへんのバンド …5 年 10 年やってるそのへんのバンドよりも、よっぽどバンドらしかったと思う。そしていい結果が得られたと思っています。 ─ちなみに実際のレコーディングにおけるコミュニケーションの場面はいかがだったんですか?印象的なエピソードなどあれば教えていただけますか? 佐野:うーん … 僕はシンガーであり、ソングライターであり、同時にプロデューサーでもあるので、スタジオのなかにいるときには本当に一生懸命でまわりのことはよく見えない。でもたぶん僕の知らないところで面白い事はいっぱい起こってたんじゃないかな ( 笑 ) ? それは機会があったらメンバーに聴いてみて下さい ( 笑 ) 。 |
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─今 ” プロデューサー ” と言う言葉がありましたが、特にプロデューサー的な視点でフォーカスした場合、佐野さんにとって彼等はどんなミュージシャンなのでしょうか? 佐野:さっきも言ったんだけれども、 ( 彼らは ) 優秀なプレイヤーでありシンガーでありソングライターでもある。だから、同じ立場の僕が持っていく曲の料理方法については的を得てるんだね。常に彼等はセッションのときに僕の言葉をよく聞いてくれて ... 言葉っていうのは歌のなかの詞をよく聞いてくれて、感じてくれて、そっから誘発されたものを演奏に展開していく。これは素晴らしいですね。
僕が常々自分の創るものに求めるものは、言葉をいかに音楽化するか、音楽をいかに言葉にするか、その「ボーダー」を払っていく。そのことが僕のいちばん追求したいことですね。その点でいえば … そうですね、多感な頃に僕の音楽を聴いていた彼等が、常に僕のいいところをよく知っていたんだと思いますね。僕の音楽のゴキゲンなところ、良いところを、彼等が知っていてくれて、それによって助けられた部分というのはずいぶんあるんじゃないのかな?僕が変な方向に行こうとすると、無言のうちに「佐野さんそれ違いますよ」「佐野さんのかっこいいとこはこれですよ」って言ってくれていたように思いますね。 |
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