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Top 100 Albums - No.1

Sunday, May 23rd 2004

3ヶ月以上にわたって毎日1枚づつ、ポピュラー音楽史に残る名作を紹介してきた『Top100 Albums』企画も本日で第1位の発表となりました。首位に選出されたのはビーチ・ボーイズ『ペット・サウンズ』です。

1位『ペット・サウンズ』、2位ビートルズ 『リヴォルヴァー』 。これら上位2作品の共通項はというと、90年代以降のロック/ポップス・シーンで、そのサウンドの画期性、影響力の大きさが広く取り沙汰され、再評価が著しかった点が挙げられる。

かく言う30歳代半ばの筆者も、当然リアルタイムでは接することが出来なかった訳で、『ペット・サウンズ』を初めて聴いたのは、80年代半ば頃のこと。個人的な感想を書くことを許してもらえば、既に一部で名盤と呼ばれていた『ペット・サウンズ』の「良さ」を、初めは実感できなかったことを正直に白状したい。ラジオから流れてくる全米チャートやMTVをきっかけに、それとは異質なものとして聴き始めた主に英国のニューウェイヴ勢やインディ系に深くのめり込んでいった当時10代の筆者にとっては、ニューウェイヴ以降のアーティストたちが、影響を受けた、と公言する60〜70年代バンド――ヴェルヴェット・アンダーグラウンドドアーズストゥージズ、ややポップなところであればバーズなど――のアルバムの「良さ」は、比較的早く掴めたのだが、その当時の耳で聴く『ペット・サウンズ』には、やはりサウンド的に難解な部分あったのだと思う。もちろんそれ以前に普通に耳にしていた、ビーチ・ボーイズの60年代初期のシングルなどは「優れたポップ・ソング」だと感じていたし、メロディのポップさを『ペット・サウンズ』に聴き取ることも出来たつもりだったが、例の「モノラルでくぐもった音像」、それまで聴いてきたものとは異なる「ポップスの定石から外れた不思議なアンサンブルやコード感」が、こちらの感情に何かモヤモヤしたものを残すので、当時は、綺麗なアルバムだね、などと素直に言えないものがあったのだった。当初は、アルバム収録曲中でも、他曲とは異質な感触を持つ『スループ・ジョン・B』が、むしろそれまでのビーチ・ボーイズのイメージと近いせいで聴き易く感じたことも付け加えておこう。

では個人的感想はこのくらいにして、以下では『ペット・サウンズ』が生み出されることになる背景、ビーチ・ボーイズ〜その音楽的才能ブライアン・ウィルソンについての初期活動の流れを追っていこう。

ブライアン・ウィルソンと、その兄弟カール、デニス、いとこのマイク・ラヴ、クラスメートのアル・ジャーディンの5人からなるビーチ・ボーイズは、1961年のデビューからサーフィン、クルマ、女の子、といった米西海岸的イメージを題材にした数々のヒット曲を量産。すぐに米ポップス・シーンの牽引車的な存在となっていった。しかしグループの重要人物ブライアンは、ツアーとレコーディングを繰り返し続ける活動をする中で、疲弊していき、遂に64年12月23日、コンサートツアーに向かう飛行機の中で精神的な破綻をきたしてしまう。65年に入ると彼はツアーに参加するのをやめて、家にこもっての作曲活動、スタジオでのレコーディングに専念することになった。

ツアーには不参加、という音楽活動をとることになったブライアンの作るサウンドは、同時期からLSDなどドラッグに手を出すようになったことも相俟って、それまでのバンド主体のサウンド作りから、より個人的な感覚が強調された作りへと変化を遂げていく。そんな折り、ブライアンに衝撃を与える作品が1966年に発表される。ビートルズ『ラバー・ソウル』だった。

『ラバー・ソウル』を聴いたブライアンは、これからは「トータル・アルバム」の時代だということを察知し、またそのアルバムの深層に胎動している、その後から60年代後半にかけての「時代/音楽が動いていく感触」を予見的に感じ取った。そして「あのアルバムを超えるものを」という高い創作意欲や、ビートルズという存在自体への強い対抗意識を抱えて新作の制作にとりかかることになる。ツアー中のメンバーが居ない間、ブライアンは長時間スタジオにこもり、ほとんど小編成のオーケストラと言っていい演奏を組織するため、ハル・ブレイン、ラリー・ネクテルといった当世一流のスタジオ・ミュージシャンを大量に雇い、コピーライターだったトニー・アッシャーをブライアン自身と共同作業する作詞家に抜擢するなどして、新作『ペット・サウンズ』の制作を進行していく。この辺りのスタジオでのやりとりは1997年にリリースされたボックスセット『ペット・サウンズ・セッションズ』で聴くことができるが、そこではブライアンが大きな声を出して参加ミュージシャンにあれこれと細かい指示を送っているのが確認できる。

その後、ツアーから戻ったメンバーは、ブライアンが作った『ペット・サウンズ』の音を聴いたが、その全く新しいサウンドを理解できず、「何だ、この音は。犬にでも聴かせる気か」というような極度に否定的な反応を示したという。ともあれ、強く反発したマイク・ラヴに対して、アル・ジャーディンがブライアンに理解を示したことがきっかけとなり、残りのヴォーカル・パートもメンバーの協力により無事録音が済んだ。結果7万ドルを費やされた『ペット・サウンズ』は66年5月16日にリリースされたが、3枚のヒットを生み、評論家やDJには評判が良かったものの、セールス的にそれほどの成功を収めるには至らなかったのである。ビートルズにも負けない、いやひょっとするとそれ以上の創造力を発揮したブライアンはこの結果に落胆した。世間はやはりサーフィンとストライプ・シャツのビーチ・ボーイズを求め続けていたのだった。さらに直後、ブライアンの傷を深くするような出来事が起きたのは有名な話だ。ビーチ・ボーイズが所属していたキャピトル・レコードは、『ペット・サウンズ』の「失敗」を打ち消そうとするかのように、その直後にベスト盤をリリース。従来のビーチ・ボーイズのイメージが満載されたベスト盤は好セールスを記録した。

ここからは余談になるが、『ペット・サウンズ』の完成後、 ブライアン・ウィルソンは“グッド・ヴァイブレーション”の制作に入った。1万6千ドルが費やされたという同シングルは、66年10月に発表され、同年12月10日付で全米ナンバーワンを獲得。これは発表されていればビートルズ『サージェント・ペッパーズ』を凌ぐ壮大なコンセプト・アルバムとなったであろうといわれる未完の作品『スマイル(Smile)』から派生した作品だった。なおその後、現在に至るまで、不安定な精神的問題を抱えながらも、ブライアン・ウィルソンが近年再び精力的な活動を行っていることはご存知の通り。

冒頭で書いた個人的感想とも、多少、関連するところになるが、80年代には、一般的にビーチ・ボーイズの世間的評価は、今と比べてもかなり低かった(ついでにいうとビートルズの評価も同様に低かった)。ブライアン・ウィルソンのソロが発表された88年には一部で盛り上がりもあったが、概してビーチ・ボーイズは「時代遅れ」のようなものと考えられていたし、『ペット・サウンズ』や未完の作品『スマイル』が、今ほど普通に音楽ファンの話題にのぼることは少なかった。またインディ系のエル・レーベルに居たルイ・フィリップなど一部のアーティストを除くと、ビーチ・ボーイズブライアン・ウィルソンに影響を受けたと思しきアーティストは90年代に比べると、当時あまりに少なかったという事実からも、そうした時代性が説明できるだろう。日本国内の状況で言っても『ペット・サウンズ』の名ライナーノーツを書いた山下達郎氏や、少数の音楽ライターなどを除くと、メディア上で同作のことを声高に「名盤」と騒ぎ立てる風潮もほとんど無かった。大袈裟に言えば、当時は何か『ペット・サウンズ』について語ったり、書いたりすることは、「聖域」に触れるような怖さがあったし、筆者などはいまだにそのような感覚を持っている。『ペット・サウンズ』の良さを知っている人にとっては、それについて言葉を重ねれば重ねるほど、圧倒的な音楽の前で何か言葉が虚しく響くように感じられるからかもしれない。

90年代に入ると『ペット・サウンズ』、そしてブライアン・ウィルソンの名前が、若手ミュージシャンの発するサウンドや、そのインタビュー発言から、かなり聞こえてくるようになった。英国のハイ・ラマズ 『ギデオン・ゲイ』『ハワイ』や、米国のフレイミング・リップス 『クラウズ・テイスト・メタリック』を代表的な作品として、その他にもアップルズ・イン・ステレオや、米アセンズ周辺のインディ・シーンから90年代後半に輩出されたバンドたち、日本のフリッパーズ・ギターコーネリアスらの音楽には、直接的ではないにしろ『ペット・サウンズ』的なるもの、という記号と交錯する感触が少なからずあった。またその他では、それまでグランジ〜オルタナ系で知られていた、米シアトルのサブ・ポップ・レーベルから、96年に“駄目な僕(I Just Wasn’t Made For These Times)”が、ステレオ・ミックスの7インチ・シングルとしてリリースされたというのも、以前のファン層とは違う世代に『ペット・サウンズ』が受け入れられている、ということを証明する象徴的な出来事だったと言えるだろう(現在は入手困難)。以降、サブ・ポップはパーニス・ブラザーズに代表されるポップなバンドを前面に押し出していくことになるが、まぁ、この辺りの話は余談か。そしてさらに言えば、前記のような状況や、ソフト・ロック再評価の波ともリンクする形で『ペット・サウンズ』『フレンズ』期のサウンドが若い音楽リスナーの間で人気が出たことも追記したい。

『ペット・サウンズ』のサウンドについて少し触れよう。アレンジ面については、さまざまな種類のパーカッションの多用が認められるが(コンガやグィロなどのほか、ティンパニなどのオーケストラ系のそれも)、そしてそれらにフィル・スペクター風の深いエコーを使用することによって、モノラルでありながら非常に奥行きのある音像を実現しているのがポイントになるかと思う。その他、作曲面に関していうと(…と同時にアレンジにも関連するが)、作品自体に絶妙な浮遊感や繊細さを与える大きな要因となっているコード・プログレッションの妙味が挙げられる。転調を繰り返したり、ルート音に拘らない自由な発想のベースラインがあったり、という、かなり複雑なコード進行。ただしこれらは理詰めで考えられたというよりは、ブライアン・ウィルソンがそれ以前に受けてきた影響や天賦の才能、ドラッグの使用による感覚的な鋭さなどが組み合わさって、自然に生み出されていったのではないか、という見方が強いということは記しておきたい。

最後になってしまったが、収録各曲のひとくちコメントを。メリーゴラウンドのようにゆらめく冒頭のギターを打ち破るかのようにスネアのひと叩きで、豊潤なヴォーカル・ハーモニーの作品世界に突入する1-“素敵じゃないか(Wouldn't It Be Nice)”、後半部分のヴォーカル・ハーモニーが圧倒的に美しい2-“僕を信じて(You Still Believe In Me)“、マイク・ラヴがリード・ヴォーカルをとり、高音のパートでブライアンと交替する、全体にプログレッシヴなポップ小品といった感じの3-”ザッツ・ノット・ミー(That's Not Me)“、全編ブライアンのソロのみで歌われる哀切な人気曲4-“ドント・トーク”、ストリングスからティンパニへとなだれ込む圧巻のエンディングが見事な5-“待ったこの日(I'm Waiting For The Day)”、映像の小品を観ているかのような気分にさせてくれるインスト曲6-“少しの間(Let's Go Away For Awhile)。もともとはカリビアン・フォークソングであり、50年代末〜60年代初期にかけてのフォーク・ソング・ブームで、キングストン・トリオほかが取り上げ有名になった7-”スループ・ジョン・B(Sloop John B.)“。この曲は当初アルバムには入れるつもりがなかったとも言われ、本作中ではやはり浮いた感じではある。と、ここまでがアナログ時代のA面。

B面トップは、ロック史上初めて「ゴッド」という言葉が登場した曲で、本作中でも最高の楽曲という声もある8-”神のみぞ知る(God Only Knows)“。もともとは”ハング・オン・トゥ・ユア・エゴ(Hang On To Your Ego)“というタイトルだった9-”救いの道(I Know There's An Answer)“。余談ながらソニック・ユースフランク・ブラックピクシーズ)に同曲のカヴァーがある。ホーン・アレンジと特徴的なベースが面白い佳曲10-”ヒア・トゥデイ(Here Today)”。傑作の声が高い11-“駄目な僕(I Just Wasn't Made For These Times)。のちに”グッド・ヴァイブレーション“で有名になる楽器「テルミン」を使用。ドン・ウォズ監督のドキュメンタリー映画(95年)のタイトルにもなった。アルバム表題にもなっているインスト曲12-”ペット・サウンズ(Pet Sounds)“、ブライアンのセンチメンタルな側面が、前面に出ている13-”キャロライン・ノー(Caroline No)“。最後に吠え声を発している犬は、当時ブライアンが飼っていたバナナとルーイの2匹。

上記の各曲コメントは最小限にとどめたつもり。自分で言うのも何だが、ある意味でこれは正解ではないかと思う。むしろ上に書いた情報など無視してダイレクトに音に飛び込めるという素晴らしい権利(?)を、まだ『ペット・サウンズ』を聴いたことのない人は持っているのだから。前のほうで筆者が書いたリスナー体験と同じく、最初はピンとこない、という人も必ず居るはずだし、何度聴いても良さがわからないというリスナーだっているだろう。当たり前の話だが、名盤を100枚ご紹介してきたこの企画も、そしてその順位も、もちろん絶対ということはあり得ないし、そもそも音楽、特にCD、レコードを聴くということは限りなく個人的な行為としての楽しみに溢れているもの。中でもこの第1位に選出された『ペット・サウンズ』を聴くということは、大袈裟に表現すれば、誰が聴いたとしてもブライアン・ウィルソンという、いち個人の稀有な才能と対峙するような感覚を強いるところがあるように思う。そしてこのことは、本作に対してよく「孤高の名作」という表現が使われたり、数多くの名盤とは全く異なる独自のフィーリングがある、などと言われたりすることと繋がっているのだろう。

* Point ratios listed below are the case
for Bronze / Gold / Platinum Stage.  

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Pet Sounds

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Pet Sounds

Beach Boys

User Review :4 points (169 reviews) ★★★★☆

Price (tax incl.): ¥1,694
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(tax incl.): ¥1,218

Release Date:23/March/2001

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