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安田和信の古典派中毒「ビエロフラーヴェク指揮のヴォジーシェクの交響曲」

Thursday, August 21st 2003

特別寄稿:安田和信の古典派中毒
第4回「ビエロフラーヴェク指揮のヴォジーシェクの交響曲」

 ボヘミア出身のヤン・ヴァーツラフ・ヴォジーシェク(1791〜1825。ドイツ名でヨハン・フーゴ・ヴォルツィシェク)はプラハで修行した後にウィーンで活躍した作曲家。フンメルに師事し、ベートーヴェンに激励され、シューベルトと影響し合った才能ではある。
 だが、残念ながら現在ではそれほど知られているわけではない。それでも、プラハ時代の師トマーシェクから受け継いだラプソディ、即興曲、牧歌などのジャンルを含むピアノ独奏用の小品には少なからぬディスクがある。
 交響曲ニ長調作品24(1823年完成)はこのジャンルに残された唯一の作品で、作曲者自身が自信作と考えていたと言われるとおり、非常に聴き応えがあるものだ。

 筆者はこの作品の存在を楽譜でまず知り、こんなに素晴らしい曲が有名でないのはおかしいと思った。旋律の案出能力、周到に計算された形式とそれを支える和声の巧みさ、そしてオーケストレーションの多彩さ、どれをとっても1820年代産の交響曲としては一級品である。
 第1楽章冒頭主題に含まれる動機がこの楽章だけでなく後続楽章の主題で再使用されている点は、プラハにいた頃からベートーヴェンに夢中だったということを思い起こさせる。この動機、簡素極まりない順次下行進行(移動ドで「ドーシラ」)なのだが、それを反対にしたかたち(順次上行進行)を含め、この動機が様々なパートに顔を出しつつ、対旋律を纏っていく。
 ところが、ベートーヴェンの「運命動機」的な執拗さとは異なり、ひとつの動機を多用しながらもむしろ多彩さのほうが優る点が、歌曲作家でもあったヴォジーシェクの特徴であろう。大ざっぱな言い方を許していただけるなら、彼の交響曲は、シューベルトが目指した以上にベートーヴェン的であるとともに、ベートーヴェン以上にシューベルト的特質を備えていると言えるのではないだろうか。

 ハイドンとモーツァルトの様式がまだ模範として機能していた1820年代にあって、この作品の中間楽章は先進的な趣きが濃厚だ。アンダンテはメランコリックな歌謡主題が流れるなかで、荒々しく途切れがちなトゥッティが割り込んでくる。その対比の仕方は18世紀ではあり得ない類のものではないか(ベートーヴェン時代のスイスの批評家ハンス・ゲオルク・ネーゲリがモーツァルトの音楽に対して性格の不統一を理解しがたいと批判したのと同じ類のものかも知れぬ)。木管楽器の使い方も、現代人にはいわばシューマン風に響く。
 ロ短調に始まりロ長調で終わるアンダンテはなんとも風変わりなことに、ニ短調で書かれた激烈な調子のスケルツォに続く。スケルツォは8分の9拍子だから1拍を3分割するリズムが基本となる3拍子なのだが、2拍子部分も混在するために拍子の感覚が見失われる。長調で安定する部分が皆無で短調に完全に固執し、激しい表現に満ちた主部とは対照的に、トリオは長調となり、ホルンの伸びやかなカンタービレが非常に印象的だ。

 この作品は1960年代に現代譜が出版されたためか、現在ではベートーヴェン時代のウィーンにおける交響曲の知られざる名曲との位置づけがなされている。だが、一般的にはまだまだまだまだ知名度は高くない。上でこの作品の特徴を屁理屈っぽい言い回しで書いてしまったが、理屈ぬきに現代の聴き手を魅了するに足る内容を持っていることは間違いなく、もっと演奏されるべきだし、聴かれるべきなのだ。

 この曲の録音は、実は筆者の手許にあるCDだけでも6種に及ぶから、良心的な指揮者やレコード会社はやはり事情をきちんと分かっているのだろう。目下の最新盤は、NHK交響楽団への客演で日本でも知られたチェコ出身の指揮者イルジ・ビエロフラーヴェクの盤である。
 これまで、筆者は最も辛口な表現に満ちたトーマス・ヘンゲルブロックの盤[独ハルモニア・ムンディ]、極端に走らずバランスの良いチャールズ・マッケラスの盤[ハイペリオン]をよく聴いてきた。
 この二つと比べて、ビエロフラーヴェクの盤はまずオケが上手く、響きに厚みがある。木管楽器以外をピリオド楽器に持ち替えたヘンゲルブロック盤はコントラストに溢れてはいても、響きの薄さが難点だっただけに、ビエロフラーヴェク盤の豊穣な響きには大いに惹かれた。速い楽章でオケを煽るいっぽうで、アンダンテを濃厚な歌で満たすなど、表現もけっこう濃厚である。筆者としては、本盤をまずは基準として欲しい。

(やすだかずのぶ 音楽学者、音楽評論家)


特別寄稿:安田和信の古典派中毒
→第4回「ビエロフラーヴェク指揮のヴォジーシェクの交響曲」
→第3回「イヴァン・モニゲッティ独奏のボッケリーニ、チェロ協奏曲集」
→第2回「トーマス・ファイ指揮のヨーゼフ・ハイドンの交響曲」
→第1回「コンチェルト・ケルンのヨーゼフ・マルティン・クラウス」


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ヴォジーシェクの交響曲

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