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『Three☆Points』 山本政志監督 インタビュー

2011年6月24日 (金)

interview
山本政志


『聴かれた女』以来、待望の最新作『Three☆Points』を完成させた山本政志監督。ある理由から、映画制作における不自由さを感じ、その反動から今あえて「超インディーズ宣言」を掲げ、「共通のキーワードを作る」ということもやめ、「開いてとことん自由にやれないか」という考え方の元、「ほんのり激しく、スペシャル気まま」(キャッチコピー☆)に完成された『Three☆Points』。京都、沖縄、東京篇とそれぞれに全くタイプの異なる内容で展開される本作は、東京篇を除いてはほぼ、監督のノリと嗅覚とノー天気さで構成されている。山本監督といえば・・・あのじゃがたらをプロデュースした経緯などを持ちつつ、『ロビンソンの庭』で町田康(町蔵)を主役に抜擢するなど、音楽、ミュージシャンとの結び付きが強い監督でもある。本インタビューではそんな監督ならではの「今ヤバイ!」ミュージシャンのお話も飛び出し・・・さらに!朗報!あの『ジャンクフード』がDVD化決定というニュースも☆ やさしい毒がたっぷり効いた独特の口調で展開されるエピソードとこのお写真↑を観て頂ければ・・・もう、多くを説明する必要はないでしょう。難しいことはノンノン!これを読んでちょっとでも気になって下さった方はぜひ、劇場へ☆ INTERVIEW and TEXT and PHOTO: 長澤玲美

人が危ないとか危険だとかって言うと自分の嗅覚みたいなものがさ、「もうそれしかないだろう」って思っちゃうんだよね。


--- 山本さんのTwitterに「昨日くらいからようやく宣伝モードに突入」とありました(笑)。

山本政志(以下、山本) ああ、そうそうそうそう(笑)。で、やろうと思ったら酔っ払って寝ちゃって。いろいろ書く予定だったんだけどあんまりにもちょっと酔っ払ってて・・・最悪(笑)。心を入れ替えて今日からやろうかなって。

--- よろしくお願いします(笑)。『Three☆Points』の東京上映に際して、特別に準備されているものはあるんですか?

山本 いやあ、もうそれが今回はずぼらの極致で、京都と沖縄はいろいろやるんだけど、東京はあんまり考えてなくて。これから考えないとマズイなって思ってるんだけど。京都はHipHopのイベントをやって、沖縄は上映最中、ワークショップをやることにして。映画に興味があってワークショップに通うような子達っているでしょ?そういう役者志望と監督志望を集めて、1本のエピソードを小分けにして演出を任せてみて、俺もその中の一部は演出しつつ、それを1本化させてみて、最終日に上映しちゃおうと思って。

--- それを東京で上映する機会はありそうですか?

山本 まあ、作品じゃないんでね、見せるものにはならないと思う(笑)。1回こっきりのイベントみたいな感じで気楽にやった方がおもしろいと思うんで。

--- 最新作『Three☆Points』は、『聴かれた女』(06‘)以来になりますが、結構時間が空いていますよね?

山本 そうね。あれ以降、『Three☆Points』をやるきっかけになったのは企画が2本進んでたんだけど、ダメになっちゃったの。1本はかなりデカい話で荒戸源次郎とやってて。まあ、荒戸さんも人間に問題があると思うんだけど(笑)。

荒戸源次郎 1646年長崎生まれの博多育ち。鈴木清順監督『ツィゴイネルワイゼン』(80)、『陽炎座』(81)を製作。映画界の常識を破るエアドーム型映画館〈シネマ・プラセット〉で長期興行を成功させ、社会現象に。89年、阪本順治監督のデビュー作『どついたるねん』を製作し、再び映画界に旋風を起こす。他に鈴木清順監督『夢二』(91)、坂東玉三郎監督『外科室』(92)など、多くの話題作を製作、良質な映画を世に出し続けてきた。03年、自ら監督した『赤目四十八瀧心中未遂』で、14カ月ロングラン、映画賞30冠超受賞の快挙を成し遂げた。最新作は太宰治原作の『人間失格』。

--- 人間に問題が・・・(笑)。

山本 「僕はいい人です」って、あの人は悪い人なんで(笑)、その話は成立しなかった。その次に1本、今度は歌舞伎町を舞台にしたちょっと軽めの追っかけ映画の話があって、それは○○とやろうとしてダメになって、次に△△から「全く同じ内容でやらないか」って言われて、去年の1月から動いてたんだけど、お金は集まったのにGO出来なかったの。「会社がちょっと弱体化したのかな?」って思ったんだけど、理由としては何社か集まって責任を取る幹事会社がちょっと弱いって事らしいけど、それは言い訳だと思うんだよね。そんな感じで映画会社とやる話が続けて全部ダメになったからあまりにも疲れちゃって、こんな映画作りのやり方で時間を浪費してくのはキツイなあって思って、「もう今すぐ、次の日からでも撮れるようなものをやりたい」って思って『Three☆Points』になった。結局ね、ダメになったその2本はプロデューサーの答えを待つしかないわけよ。でもそれって、映画との距離がすごい離れてるじゃん。だから、その反動だよね。それとは真逆なことをすぐにでもやりたくなって、脚本もないような形でやってみた。それも1つじゃなくて何種類か、それも各々が関連しないことをやってみようと思って。あとは映画として何か共通のキーワードを作るっていうそういう不自由なこともやめようと思った。「開いて自由にやれないかな」っていう考え方で『Three☆Points』を撮り始めた。でも、それが決定的になったのは、以前うちの演出補をやってた諏訪敦彦って奴がいるんだけど、最近は東京造形大学の学長をやってるの、血迷って。

諏訪敦彦 1960年生まれ。東京造形大学デザイン学科在学中に『はなされるGANG』でぴあフィルムフェスティバル入選。卒業後、映画の現場に入りながら、テレビドキュメンタリーの演出に携わる。1996年、『2/デュオ』で長編映画監督デビュー。以降も精力的に活動し、国際的な活躍を見せる。2008年、東京造形大学の学長に就任。

--- 血迷って・・・(笑)。

山本 何かの悪いウィルスにかかったとしか思えないんだけど(笑)。そのウィルスと飲んだ時にウィルスに話したのよ、「ちょっと即興でこういうことをやろうかなって思ってる」って。そしたら、ウィルスが「それ、絶対やった方がいいですよ」みたいに言ってくれて、それが結構、引き金になった部分で。で、その翌日から一気に準備進めて猛スピードで完成させたの。

--- 空いていた期間は映画を撮るために企画や動きがあったけれどなかなか実現せず・・・という状況があっただけで、映画作りのために行動されていたんですね。そして、その反動から本作が。

山本 そう。その反動からね、そういうシステムとは全く縁がないような作り方をとことん自由に気ままにというか、そういう形で撮れないかなって思って。映画ってこんなに不自由なものかなって思っちゃったのもあったね。で、この『Three☆Points』だね。

※ちなみにこの『Three☆Points』のキャッチコピーは、「ほんのり激しく、スペシャル気まま」です☆

--- 「超インディーズ宣言」と今、あえて掲げられました。

山本 1月から4月くらいは時間があったから、インディーズ映画とかをよく観に行ってたんだけど、あまりにもつまんなかった。みんなすごい小さい世界になっちゃってて、まあね、それはそれでいいんだけど、観たのはほとんどそんなのだったから。で、みんなさ、「予算を使ってない」って予算のせいにしたりとか。俺はそんなもんじゃないと思ってるから、映画作るっていうのは。それでも、あんまり説教オヤジみたいなこともしたくないし、ただやっぱり、インディーズっていうのは「自由な映画を作る」っていうことで存在価値はすごい大きいと思うから、そこで新たなお客さんが生まれていって、新たな物作りが生まれていかないと。音楽は結構、そういうのが自由でしょ?自分で作るような環境があって、個人で発信するようになってて。マーケット自体がなくなるとかそういうのは分からないけど、作り手の自由さは結構、伸びたところがあると思う。本当は映像もそこにいくはずなんだけど、まだちょっと届いてないと思って。だから、そういうこともあって、今回は自分にそういうチャレンジをさせてみようかなって思った。でも、『Three☆Points』が終わった今となったらね、次は「脱インディーズ宣言」をやろうと思ってるんだけど。

※超インディーズ宣言 企画を立ち上げ、制作費を集めるために何社もの会社を交渉し、時間は使い捨てオモチャのように浪費され、挙句の果てには没企画へ。ちょっと考えてみる。果たして、これだけが“映画”を誕生させる道なのか?自分が“映画”を始めた時、金は無かったが、もっと伸びやかに“映画”に挑んでいったはず。しかし、気が付くと自分の“映画”が産業としての道だけを歩いていた。他の道は当然ある。答えは全て、“映画”を始めた頃にある。金も無いが情熱だけはある。周囲に頼み込み、無理な協力をお願いする。こういったやり方は経済的にも効率的にも、いつまでも出来るはずがない。そんな分かりきったことをあえてやってみる。そこに“映画”の、1つの答えがあるのか?無くてもいい。これは「超インディーズ宣言」なのだ。

--- もう・・・ですか?(笑)。

山本 うん、1本やるとすぐ飽きちゃうから(笑)。

--- ちなみに観られたインディーズ映画はどんな作品ですか?

山本 いろいろ観たけどね、つまらな過ぎて作品名は言わない。でも、今上映してる『ピュ〜ぴる』はおもしろかったよ。

--- 『ピュ〜ぴる』!わたしも近々観に行こうと思ってました。

山本 あれはいいよ、すごいいい映画だったよ。心の美しい・・・俺が言うと何か本気で言ってないみたいだけど(笑)、これは本当に!作った奴も出てる奴もすごいいい感じで。俺は2年くらい前に観てて、すごいおもしろかったから、いろんなところで「おもしろかったよ」って話してる。

※後日、『ピュ〜ぴる』観に行きましたが、「観たいッ!」と思っていた予感がやっぱり的中☆素晴らしかったです。ピュ〜ぴるが生み出す作品はとてつもなく独創性に溢れ、ピュ〜ぴるの存在への共感とピュアさにびしばし感銘を受け。また、ピュ〜びるとその家族の絆にもほろっとさせられ、ピュ〜ぴるがみるみる変化していく姿はそれはそれは美しく。松永大司監督のピュ〜ぴるに対する8年越しの温かい眼差しが丁寧に掬い取られた映像詩。さらに、吉永マサユキ氏のスチールがバツグンに秀逸☆観終わった後、思わず!パンフレットと魂くん、シゲルくんを購入しちゃいました。東京での上映は終了ですが、これからは全国へ!お近くに『ピュ〜ぴる』の上映があったのなら、是が非に☆数年後かには続編が観れる?そうですよ(松永監督がTwitterでメッセージを下さいました☆)


Three☆Points


--- 「超インディーズ宣言」を掲げて、自由に撮って完成した『Three☆Points』ですが、手応えはいかがですか?

山本 自分ではおもしろいと思う。京都は現場で柴田剛がすごいがんばったんで本当にいいチームだった。まず、準備も何も全くしてない状態で京都に入って、「6日間の準備で撮る」っていう実験的なやり方をして。日数がなくて「ロケ場所はこことここにしよう」とか「あ、こいつおもしろいな」って思ったりするとそこから頭と感覚がスピードで回転していくんで、自分が試されてるような感じがして(強調して)すっごいおもしろかったね。京都はすごい集中力上がってたから、もうね、頭が冴えちゃって眠れなくなっちゃって。2時間寝たらすっきりみたいなそんな感じだったね。沖縄はね、京都よりさらに何も考えてなくて、「何とかなるだろう形式」でやってたんだけど、「ヤバイ・・・全然アイデアが出てこない」っていうのも結構あった。でもそれがまたスリルになりつつ、俺のノー天気さが爆発してると思う(笑)。どんどんバカになっていく自分がいて。でも、そういう映画のやり方って本当に初めてだったから、自分にとってはかなり刺激になったし、すごい新鮮だったね。

--- 観ていて画面からもその感じが伝わってきました(笑)。

山本 そうでしょ?(笑)。みんながもうちょっと軽い感じになってくるとね、「案外いろんなことが簡単かもしれない」って思って、いい感じになっていくんじゃないかなって思うけどね。で、東京は普通の映画作りをやって。あえて1本は普通のこともやって、「普通のこともやれるんだ、バカじゃないぞ」ってことを見せようかなって思って(笑)。

--- 京都、沖縄、東京と3つの場所を決められましたが、それぞれに理由があったんですか?

山本 これはもうめちゃくちゃいい加減で、京都は林海象と電話してて、海象が「遊びに来いよ」って言うから、「おお、そうだな」なんて言ってたのが頭にずっと残ってて京都に行ったし、沖縄は「そろそろ行きてえなあ」って思ってたから行ったっていうただ単にそれだけの話で(笑)。掘り下げゼロだもんね。「京都は日本のヘソというか伝統文化があって・・・」みたいなこと、全くないからね。

林海象 映画監督。1957年7月15日 京都府京都市生まれの映画監督・映画プロデューサー・脚本家。株式会社映像探偵社代表取締役社長、京都造形芸術大学芸術学部映画学科教授・学科長。制作会社「映像探偵社」を起こし、1986年にモノクロ・字幕映画として撮った『夢みるように眠りたい』で映画監督デビュー。監督作の多くに、探偵が登場するのも特徴。代表作『アジアンビート』シリーズでは、永瀬正敏を主演に起用。後の『私立探偵 濱マイク』シリーズの原型になった。

--- 京都を象徴とするような風景も出て来ませんもんね?(笑)。でも、「京都 HipHop」のキーワードから柴田さんにラインプロデューサーのお話をされたんですよね?

山本 そうそうそうそう。剛とはね、あいつの8ミリ映画を観ておもしろかったんで、そこからかな。昔、あいつの上映の時のトークにゲストで呼ばれたんだけど、あいつ、しゃべりが全然下手で「何てバカなんだろう」って思って、もう二度と会うことはないだろうと思ったら、その後また、『おそいひと』がおもしろかったんで。最近はちゃんと字幕なしでしゃべれるようになってるけど、前は字幕か手旗信号ないと分かんなかったよね。知能が3くらい上がってると思う(笑)。54くらいだったのが57くらいになったんじゃない?

『堀川中立売』 柴田剛監督×石井モタコ 対談!
『おそいひと』 柴田剛監督 インタビュー

柴田剛 映画監督。1975年、神奈川県生まれ。99年、大阪芸大卒業制作作品として、処女長編『NN-891102』を監督。00年、ロッテルダム映画祭(オランダ)、Sonar2000(スペイン)他各国の映画祭やフェスティバルに出品後、国内でも劇場公開を果たす。02年、パンクライブドキュメント『ALL CRUSTIES SPENDING LOUD NIGHT NOISE 2002』を制作。04年、長編第2作となる『おそいひと』を完成。第5回東京フィルメックスを皮切りに、各国映画祭(15カ国以上)に出品(05年ハワイ国際映画祭にて Dream Digital Award を受賞)。08年、長編第3作『青空ポンチ』を監督。ライブ&PV集『バミューダ★バガボンドDVD』を制作。自作の上映活動や様々な企画やイベントへの参加を経て、2010年、長編第4作『堀川中立売』が全国公開中!(速報!ドイツ、フランクフルトで毎年開催される日本映画祭、NIPPON CONNECTION 2011で「NIPPON VISIONS AWARD」賞を受賞!)。本作には京都篇のラインプロデューサーで参加!

--- そんな・・・(笑)柴田さんにラインプロデューサーをお願いしたのは、「映画がおもしろいから」という理由だけではないですよね?

山本 まあ、剛はうちと同じインディーズで過度に外れてるから。俺と同じような外れ方で近いから、何とか組めるんじゃないかなって。普通に伝えたら、「え?」って言われるようなことをおもしろがる数少ない奴かなって。「HipHopでやろう」って、京都に行く2日前くらいに思い付いたんだけど、ちょうどたまたま芝居を観に行って、そこである役者と話してて、「京都のHipHopはいいっすよ」って言うから、「どんなのがいるの?」、「ANARCHY(アナーキー)って奴がいるんですよ」って言うんで、その日の夜にYOUTUBEで観たらかなり本物の匂いがしたんで、「あ、これだな」って思って、その日の夜に剛に電話して、「ANARCHYと会いたいから、それだけ段取りしておいて。もしかしたら、HipHopかもしれない」って言って、京都に行ったの。そしたら、同時進行であいつが2日間くらいでいろいろと「ANARCHYはどこにいるんだろう?」ってANARCHYのラインを辿りつつ、探してくれてて。あいつ、HipHopは全然知らないけど、その中で間接的にいろんな人と会ってて。で、俺が行った日にANARCHYに辿り着いて会えたんだけど、会ったらさ、めちゃくちゃ俺好みのすごいいい奴でちゃんと筋通ってるし、気持ちいい奴だなって思って。ただ、撮影日がちょうど神戸と名古屋でライブが入ってて無理だったから、「じゃあ、誰か紹介して」っていうような形で彼もあちこち声かけてくれたと思うんだけど、それと剛のラインがいろいろ重なってきて、出演してる奴らと次から次に会うようになってっていう感じだね。その中でスケジュールが合いつつ、ちょっとイケそうかなって奴を選んでって。オーディションも最初からやるつもりでいたから、そこで女の子達を決めていって。エピソードもね、まるっきり考えてなかったから、「どんなことしてたの?」、「今までヤバイってどんなことだった?」っていうような話を聞いて。本人がそのまま自分のエピソードを演じてもつまんないから、スラッシュみたいな形でぐちゃぐちゃにして、「じゃあ、このエピソードはそっちがやろうか」とかそんな感じでやってみた。脚本もないから、メモみたいな構成を書いてみんなに配って、気が向いたらそのままカット割り出したりするんだけど、全くもってカット割が変わるから(笑)、何の参考にもならない。一番酷いのが「夜だけで25〜6カットあるね」って現場に入ったら、5カットくらいで終わったとか、そんなのもあったね(笑)。

ANARCHY ヒップホップMC。MAGUMA MC'sのRYUZOが設立したR-RATED RECORDSに所属。

--- 本当に現場のノリなんですね。

山本 うん、そんな感じで結構自由にやったね。いつもリハーサルは1週間か2週間くらいやるんだけど、今回はそんな時間もないから、トレーニングみたいなことをちょっとやりながら芝居を作ってみたりとかして。京都の最終エピソードは裁判所に行って出頭する話だけど、あそこの男の子と女の子はオーディションと面接の時に「あ、明らかにこの子達は出来るな」って踏んでたのもあって、シチュエーションだけは与えて全部丸投げしてみたの。で、ちょっと時間をあげて部屋の中のシーンを作ってみてもらって。それで俺が行ってちょっと手直しをしながら進めてみたら、やっぱりよく出来てた。特に廃墟でペインティングするあのバカ女(笑)役の平島(美香)、最高上手いよね。本当はああいう奴じゃないんだけどね、全然。

--- 柴田さんのような映画を作る人って他にいますか?

山本 なかなかいないよねえ。でももう1人ね、俺がすごい買ってる奴がいるんだけど、全然映画撮らないんだよ。昔、『w/o』っていうドキュメンタリーみたいなのを撮った、長谷井宏紀(はせいこうき)って奴なんだけど。浅野忠信の事務所(ANORE)に入ってカメラマンみたいなことやってて。実はね、今回、東京篇のカメラで誘ったんだけど、事務所に聞いてみても行方不明で。で、やっと行方掴めたらクロアチアにいて、「ちょっとその期間は難しい」って言われて。京都篇が剛で東京篇が宏紀だったら、結構おもしろかったんだけどね。あいつ、本当ぷらぷらぷらぷらしててさ(笑)、映画撮ったら絶対いいと思うんだけどね。剛ともすごい仲いいよ。

※長谷井宏紀 2000年、『w/o』を発表。 ソウルネット映画祭にてデジタルエクスプレス賞を受賞。その他、ロッテルダム国際映画祭、ウイーンビエンナーレ国際映画祭、ニューヨークMOMAに招待される。 その後、ミュージックビデオや短編映画の監督をしながら世界を放浪。 2008年、セルゲイ・ボドロフ監督『MONGOL』ではスチールとして参加。 2009年、映画監督エミール・クストリッツア主催のクステンドルフ映画祭にて監督作品『GODOG』が最高賞であるゴールデンエッグアワードを受賞。 現在は、同監督が所属するバンド「ノースモーキングオーケストラ」のドキュメンタリー映画を製作・監督しながら、フィリピンでの長編映画の準備をしている。 またフランス映画『Alice au pays s' émerveille』では俳優としても参加している。


Three☆Points


--- 調べてみます!続きまして沖縄篇ですが・・・「行き当たりばったり おもしろ人間ドキュメント こんなにアホでいいのか?衝撃の結末とは?」と題されていますが、沖縄に行ってから3日くらいはカメラを回さなかったそうですね?

山本 そうそうそうそう。何も出会いがなかったし、無駄に回してももったいないから。で、あっちこっち車で回ってたんだけど、金武(きん)っていう基地の街(沖縄で最も“危険な街”と言われている)の話がちらっと出始めてて。その時にちょうどね、撮影クルーがいたから車降りてみたら、昔WOWOWとかでプロデュースやってた仙頭武則がいて、あいつの現場だったの。だから、「金武ってどうなの?」って聞いたら、「あそこは危ない。今でもかなり事件が多いし、たまり場とかクラブがあるけど、撮るのに金かかっちゃったりするよ。2〜30万かかるかもしれない」って言われて。「まあ、でも、山本だったら出来るんじゃない?」みたいな感じに言われて、「それだったら金武が絶対おもしろいな」って思って。人が危ないとか危険だとかって言うと自分の嗅覚みたいなものがさ、「もうそれしかないだろう」って思っちゃうんだよね。で、金武に入ってぷらぷらしてたの。そしたら、案の定めちゃくちゃおもしろくて。刺青屋の前でうちのスタッフがその店の前で出てる眉毛のないスキンヘッドの子と話してて、「ああ、これだ!」ってすぐ思ったから、そこからカメラ回し始めて。「中行こうよ。知ってるお店だから」とかってなって。だから、あの回ってる映像はやらせでも何でもなくて本当にあそこからあのまま入って。だから、金武はあそこで「イケるな」って思って。

あとは「他におもしろい人いたら紹介して」ってあちこちに言ってたら、あの“てっちゃん”が登場して来て。どういう人かもよく分かんなかったんだけど、俺が信頼する奴の紹介だから、「とりあえず行ってみよう」ってなった。で、会ったらあれでしょ?(笑)。「やっぱり、沖縄に来てね、ぶっつけで撮ったりするのはよくないよ。人と人が触れ合ってそれからカメラを回さなきゃ。それをいきなり来てさ、じゃあ、蟹獲りに行こう!って、そんなことあり得ないよね」って言ってた俺が、数分後には、「じゃあ、蟹獲りに行こうか!」って言って、すごいバカだな俺って思って(笑)。おもしろい人間がいるとね、やっぱりカメラ回したくなるんで。金武に入るまでは全然興味なかったけど、金武に入ってからの連鎖はいろいろ出て来たねえ。

※仙頭武則 プロデューサー。1961年神奈川県生まれ。カンヌ4作『萌の朱雀』(97・河瀬直美監督)、『M/OTHER』(99・諏訪敦彦監督)、『EUREKA』(00・青山真治監督)、『UNLOVED』(02・万田邦敏監督)の連続受賞、ベルリン『独立少年合唱団』(00・緒方明監督)をはじめとする国際映画祭等で12カ国98賞を受賞。日本を代表する国際的プロデューサー。90年WOWOWに営業職で入社。92年より映画制作を開始し、11年間で43人の監督と50作品以上を手掛ける。

--- 『Three☆Points』を観た方の反応でも、”てっちゃん”は大人気だったそうですが、沖縄で最も美味しい蟹と言われるノコギリガザミって・・・どんな味なんだろうと(笑)。

山本 すごい美味しいみたいよ。本当は料理してくれるつもりだったみたいなんだけど、移動しなきゃいけなかったから。その蟹に泥を吐かせるのにちょっと時間がかかるんだって。

--- 沖縄で有名な人とかではないんですよね?(笑)。

山本 高江で森を一緒に案内してくれた石原岳が教えてくれただけで、有名人てのじゃない(笑)。あいつも俺も「おもしろい!」って思う人のレベルが高いから(笑)、そのへんは全然分かってもらえてて。あいつに紹介された時、”てっちゃん”のこと、蟹がうんぬんって言ってなくて、「とにかく変な人。行けば分かる」って話だったから。

※てっちゃん 恩納村の海辺にゲストハウスとバーを経営。マングローブ林に棲む沖縄で最も美味しい蟹と言われる、ノコギリガザミを捕まえる名人。上半身は取材中、常に裸。蟹の穴を見つける感覚はまさに野人!元ドレッドヘアのラスタマンだった。

--- 本当にあんなにすぐに蟹を捕まえちゃう感じなんですよね?(笑)。

山本 そう!すごいよねえ。びっくりしちゃった、最初、俺(笑)。だって、外さないじゃん?あれ、全然ミスないんだよね。狙ったとこ、必ず蟹いたからさ。「うわー、何で分かるんだろう?」って思って。100発100中なんだよね。

--- 蟹に指を挟まれて「痛っ!」って”てっちゃん”が言うと、試写室も大爆笑でした(笑)。

山本 だってね、爪1つ剥がれちゃってたもんね(笑)。(しみじみと)すごいよねえ。

--- 石原岳さんとはもう長いですよね?

山本 うん。岳はね、『てなもんやコネクション』の専用劇場を作る時の建築グループにいて、次の『熊楠 KUMAGUSU』(以下、『熊楠』)からは美術スタッフしてくれたり。

※石原岳 山本監督『てなもんやコネクション』の専用上映館“TANK2”の建築に参加後、未完の大作『熊楠』の美術部に粘菌担当として参加。大阪名物“維新派”の建て込みグループに参加した後、沖縄に移住。現在、高江に住み、ノイズミュージシャンとしても活躍。UA七尾旅人を高江に招いての音楽イベントを毎年開催。また、住民として、「高江米軍ヘリパット建設反対運動」に参加している。

--- 「高江米軍ヘリパット建設反対運動」に参加されたりもしてるんですよね?

山本 うん。つーか、ああいうの苦手でさ、俺(笑)。うちのスタッフが2人くらい泊まるところがなかったから、その活動を支援してる家に泊めてもらうことになって、「顔出しておいた方がいいから」って岳に連れて行かれたんだけど、どういう風に対応していいか分かんなかった。でも、とりあえずカメラは回しておいたんだけど、使わなかった。俺がまるっきり興味ないっていうのが露骨に出てるからね(笑)。何かねえ、ダメなんだよねえ。ああいうものはインタビューして人の意見を反映させるよりはあの自然空間、森を映せば自動的にクロスするって俺は思ってるから、森は興味深く撮れた。でも、俺のバカっぶりが結構出てて、かなりバカっぽかったよねえ(笑)。

--- 「俺の映画の中で初の社会派だ」っておっしゃっていましたしね(笑)。

山本 超バカっぽいよね(笑)。「すげえ、ヘリ来るか!これでヘリが来れば映画の神様が、俺に社会派になれって言ってんのかも」だって(笑)。

--- ちなみに岳さんはノイズミュージシャンでもあるんですよね?

山本 うん、時々やってる。高江にミュージシャンいろいろ呼んだりしてるんだよね。

--- UAさんとか七尾旅人さんを呼んだりもしてるんですよね?岳さんはおそらく、「情熱大陸」で初の肩書き、「主婦」で紹介された高江在住の森岡尚子さんともつながっているんだと思うんですが。

山本 そうそうそうそうそうそうそうそう!あのへんとすごい仲いいの。だから、森岡さん家の庭でやったりとかもしてるみたいよ。そういう人達が結構いるんだよね、あそこは。本当に何にもないところで田舎だけど、何かおもしろいところだよ。誰ん家か分かんないけど、人ん家に勝手に上がってOKだからね。俺も知らない間に人ん家で高校野球とか観てたなあ(笑)。ちょうど沖縄の高校が出てて優勝しちゃって盛り上がりがすごかった時だったから。

--- 大宜味村では神秘的なウガンジョ(礼拝所)巡りもされたりと、沖縄篇は京都篇とは違って、沖縄感がありますよね。

山本 沖縄好きだからねえ。あの全体の感じ、時間がかなり好きなんだよね。あそこにいると俺ね、だんだんダラしない人間になるし、どんどんバカになっていく(笑)。頭の中で音を立てて脳が壊れていくのが分かるの(笑)。いっつもそうだけど、あそこに行くと何か楽になっていくんだよねえ。

--- 今後、沖縄で映画を撮る企画はないんですか?

山本 中江(裕司)とかいるし、地元の奴が撮ってるから、「あんまり手出すのやめとこう」って前は思ってたけど、最近ちょっと「撮ってみてえなあ」って思い出したね。沖縄があまりにもおもしろいから。

中江裕司 映画監督。京都府立洛北高等学校から琉球大学農学部へ入学して以後、沖縄県で生活する。学生時代から映画研究会で8ミリ作品を発表しており、自主映画の仲間とオムニバス映画『パイナップルツアーズ』を制作して商業映画デビュー。日本映画監督協会新人賞を受賞。以降も、作品のほとんどは沖縄が舞台。2000年、『ナビィの恋』で芸術選奨新人賞受賞。また、2005年5月には真喜屋力らと、那覇市の閉館した映画館を「桜坂劇場」として復活。劇場を運営する「株式会社クランク」の代表取締役社長を務め、体験ワークショップ「桜坂市民大学」等も開催している。

--- 山本さんのキャラクターと言いますか、そのコミュニケーション能力と嗅覚で沖縄を撮ったら、いわゆる沖縄の商業映画を撮っている監督の作品とは全く違うものになると思いますし、沖縄の違った側面、よりディープなところまで観れるような気がするのでかなり観てみたいです。

山本 それは今回、沖縄の地元の奴がすごい言ってくれた。「沖縄に住んでても知らなかったことが結構あった」って。例えばさ、金武でビリヤード場をやってる諸見里(真三)さんのインタビューがあるでしょ?おもしろいじゃん、あの人の発想とか生き様って。俺はああいうのはすごい信じられるんだよね。「向こうが死んでこっちは金稼いで」っていうのを笑いながらシニカルに話せるっていうあの感じがあるってことを地元の人も知らないし、文章では分かるんだけど、空気感とか実際にこういうのを観るのってあんまりないからね。

それとか、金武の刺青屋にいたのは地元のヤクザで結構ずっと長い伝統的なヤクザなんだよね。で、薦められたのは「あのへんでヤクザ映画を撮らんか?」って。「すごい話がいっぱいある」とかって言って(笑)。

※諸見里真三 金武で生まれ金武で育ち、現在同地でビリヤード場を経営している。ベトナム戦争の頃に思春期を過ごし、在日米軍相手に商売を始める。金武町の昔と裏表を語れる人物。

--- 沖縄のヤクザ映画って、今までありませんでしたっけ?

山本 『沖縄やくざ戦争』って映画があるらしいんだけど、金武のヤクザは「観た?」って、みんなその映画の話するね。俺は不勉強でちょっとよく分かんなかったんだけど、諸見里さんも言ってたし。大宜味村で養殖屋をやってるおじさんいたでしょ?

--- ますおみさん!

山本 そうそう。あの人も元ヤクザなの。でもそこはあんまりこだわらずに外しておいたんだけど。あの人が出てくるのはすごい短いシーンだけど、ちょこっとしゃべっただけで雰囲気出るから。でも、ヤクザとかうんぬんじゃなくて、俺はあの人とすごい仲良くなって、昼間っからあそこの養殖場で結構だらだらだらだらずーっとかなり飲んでて。次の日、岳と会う約束してたんだけどすっぽかしちゃったし(笑)。で、あの人もその映画の話してた。あとは「沖縄のヤクザは南部と北部で分かれてたのが一体化したんだけど・・・」っていうようなそういうすごいおもしろい話をいっぱいしてくれて。だから、沖縄は基地問題うんぬんってばっかりで確かにそれもあるんだけど、そこだけの区切りじゃないところもいっぱいあるから、切り口はもっといっぱいあると思うけどね。でもさ、俺も沖縄に着いた時にやっぱり、どっかからその話は出て来るだろうと思ってたし、出て来た時の対応がどうなるかは自分では分かんなかったから。でも、「その対応があれなのかよ、お前は!」って話もあるけどね?(笑)。「バカ過ぎるだろ!」って(笑)。

※ますおみ 大宜味村の長老の一人で塩屋湾の漁業権を持つ数少ない村の有力者。住まいは自分所有の笩の横のプレハブ小屋。毎日新聞配達のおばさんが弁当を運んでくれるが、朝8時頃にはすでに泡盛を引っかけていたりする。いろんな村の問題の陰の調整役でもある。
--- 具体的に今後、沖縄で撮る映画があるかもしれないという可能性も。

山本 興味あるよね。基本的に東南アジアとか大好きだからね。昔、タイ(『マンダラオーバードライブ』)で撮ったことあったから。そういうことを含めて、沖縄はつながるところがすごいあるから。

--- ちょっと無国籍な感じといいますか。

山本 うん、そうだね。そうそうそうそう。香港(『てなもんやコネクション』)でも撮ってるし、ああいう感じはね、自分の庭みたいな感じがしてかなり好きだから。でも、あんまりハマり過ぎるとダラしない極地になっちゃうからさ(笑)、気を付けないと。



Three☆Points


--- 京都、沖縄と来て、最後は東京です。

山本 東京はキツかったねえ。

--- キツかった・・・?

山本 まあ、俺のミスっつーか、制作担当で柱になってやってくれる予定だった奴に1週間前にドタキャン食らっちゃって。東京の現場は学生ばっかりだったから、そいつがいないと成立しないようなところがあって。俺、結構頭きちゃってさ、それでバランスがぐちゃぐちゃになっちゃって。1週間前だから代わりの奴を補填することも出来ないしさ。予想以上に仕事があって・・・結構キツかったよねえ。だから、そういう中でも完成出来たからそこはよしとするんだけど、京都とか沖縄では制作過程を重要視してて、参加した奴がどんだけおもしろがれるかっていうのがやっぱりあって、京都と沖縄はそれに成功してるんだけど、東京は役者とはあったけど、スタッフとの一体感が全然なかったねえ。俺がないって思ってたんだから、みんながないって思ってたと思うんだよね。不思議な感じだったね、ああいう感じ。今まで撮ってて初めてだったもん。

--- キャスティングは前から決まってたんですよね?

山本 うん、村ジュン(村上淳)蒼井そらはもう決めてた。村ジュンは若松孝二さんの『キャタピラー』のぴあでやった試写会場でばったり会ったんだよね、ひさびさに。俺は脚本家の橋本裕志(ひろし)と観に行ってて、その会場に村ジュンがいたから「おう!」とかって言ってて、で、「橋本、飲みに行こうか」って下に降りたら、また下で会ったから、「じゃあ、お前も飲みに行くか?」って誘って。村ジュンは酒全く飲まないんだけど来て、映画の話とかしてる流れで「お前、やる?」、「やります」って話になって決まったの。

村上淳 橋本以蔵監督『ぷるぷる』(93)で映画初出演。以後、低予算映画から大作まで幅広く出演し、現在50本以上の作品に出演、多種多様な役柄を演じ、抜群の存在感、演技力は高く評価されている。特に最近の充実ぶりは目を見張るものがあり、昨年の『ヘブンズ・ストーリー』、代表作に『新仁義なき戦い』、『この世の外へ、クラブ進駐軍』共に阪本順治監督など。本作で山本監督作品初参加、初主演。

蒼井そら 2002年AVデビュー、以来、人気AV女優として確固たる地位を獲得。その後、テレビ、ラジオに活躍の場を広げ、2005年「嬢王」(TV)ではメインキャストの1人に選ばれ、俳優としての評価も高まる。人気タレントをも凌ぐ知名度を誇り、海外での人気は特筆ものである。特に中国では中国版Twitterのフォロワーが150万人を超すという驚異的な人気ぶり。山本監督作品『聴かれた女』の主役に抜擢され、確かな演技力で監督からの信頼を獲得、本作で3年ぶり2度目の山本作品出演。これからの活躍が期待される女優。

若松孝二 宮城県出身の映画監督、映画プロデューサー、脚本家。常に反権力、反体制を旗印に掲げた日本のアンダーグラウンド映画を代表する映画監督。近作では『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』、『キャタピラー』等で、公開前から話題を集めた。また、『キャタピラー』で寺島しのぶがベルリン国際映画祭最優秀女優賞受賞!

橋本裕志 脚本家。北海道出身。1989年、『とっておき Virgin Love! 童貞物語3』(バンダイ)で脚本家デビュー。その後、浦沢義雄の紹介でアニメの脚本・シリーズ構成などに携わる。1998年の『ショムニ』以降は実写作品中心となる。
--- ひさしぶりに脇役じゃない村上さんの演技を拝見したんですけど、素晴らしかったです。

山本 素晴らしいよね。

--- やっぱり、改めて、すごく色気のある俳優さんですね。

山本 村ジュンはね、TVの「私立探偵 濱マイク」の時に俺も役者で参加してたから、役者仲間みたいなとこがあってさ。休憩中、俺と芝居して遊んでたんだけど、あいつはアドリブ出来るし、「あ、宅急便屋さん?」とかって訳分かんないことやって遊んでて(笑)。でも正直言って、あいつの芝居はすごいオーバーだと思ってたの、全体的に。「引いたら絶対よくなるのに何で引かないんだろう」って思ってて。でも、根がすごいいいから、俺はあいつに結構興味あったし、「1回一緒にやってみてえなあ」とはずっと思ってたんだよね。今回、実際に現場で引いたんだけど、引けば引くほどよくなった。「あーあ(笑)」ってくらい、いろんなこともやってくれるし。いいと思うよ、やっぱり。で、やりやすいんだよね、あいつ。役者の変な特権意識みたいなのもないし。うちの組はゲリラが多いのに喜んでやるからね(笑)。初日はお台場のホテルのロビーでゲリラだし、デパートの即売会みたいなのもゲリラだし、今回はかなりゲリラばっかりでめちゃくちゃやってるんだけど(笑)、あいつ、それをすっごい喜んでやってるからやりやすかったよ。

--- 村上さんはモデルでもあるので、シャツ1枚の着こなしもさすがですし、スクリーンにすごく映えますよね。

山本 そうね、それとか佇まいがね。色気あるよ、本当に。

--- その村上さんと共演の蒼井そらさんは『聴かれた女』に続いて2回目のキャスティングですが、どんなところが魅力ですか?

山本 そらはね、『聴かれた女』の時、映画的芝居が結構出来たからね。でも今回は芝居を経験し過ぎちゃったところがあって、しかも舞台を直前までやってたからその癖が付いちゃってて、それを消すのが少しだけ時間かかったね。最初はちょっと「え?!」って思って、「今、こんな芝居やってるぞ!」って、俺がさらにわざとオーバーに演技して見せたら、「えー!」って言ってたけどね(笑)。俺はお芝居みたいなお芝居が嫌いだからさ。その後はすぐにイイ感じに戻ったけど、そらもやっぱりやりやすい。

--- そのお2人をメインにした現場の雰囲気はいかがでしたか?

山本 出演者全員とは本当に全然やりやすかったし、何の問題もなかった。今までスタッフに支えられて映画作りしてたみたいなところが結構あったんだけど、東京は役者に支えられたね。あれで役者ミスってたら本当大変なことになってたなって思って。(しみじみと)何とか乗り越えられてよかったわあ。

--- 村上さんと蒼井さんのセックスシーンがちょっと生々しくてよかったです(笑)。

山本 本当?まあ、絡みになるとね、そらが大活躍するからね(笑)。俺はもう、あいつにほとんど頼るからね。「どうしよっか?」とかって言うといろいろ技出してくるから、緊張感あっておもしろいよ。(感情を込めて)すごい上手いんだよねえ、ああいう色っぽいところ。村ジュンも感動してたもん。「そらちゃん、すごいねえ」って(笑)。

あと、東京は妙な不思議さみたいなものを感じてくれたらうれしいっていうのと、京都と沖縄は結構のびのびしてるけど、都市の閉鎖性みたいなね、閉塞感を出さればなあって思って。その閉塞感の中で打ちひしがれてる人間に対しての光がちょっとは見えてくるのと毒を全部毒のまんまかっさらって淡々と生きていくヤバさみたいなところも出そうかなっていうのはすごいあって。村ジュンの役は、社会から疎外されてアウトローになっちゃってぐちゃぐちゃになってるけど、そこの中でも救いみたいなのがあって、それが毒と付き合って毒に食い殺されるようになった時に初めて精神が洗われるような状況になれるっていうようなものになればなあっていうのがあったね。どうしても東京は都市的なものが撮りたくなっちゃうからね。まるっきり関係が違うもんね、他のパートと。

--- 全部タイプの違う3篇なので、3本の映画を一気に観たくらいのヴォリューム感ですよね。他のキャスティングについても伺いたいのですが、黒猫チェルシーの渡辺大知くんが意外でした。

山本 あれはね、チープ助監督の平波っていう数少ない出来るスタッフがいるんだけど、そいつに「誰かいねえか?」って言ったら、「大知くんいますよ」ってなって、『色即ぜねれいしょん』は観てたし、会ったらすげえ伸び伸びしてていい子だったから決めたの。出番が少なかったからちょっとかわいそうだったけどね。この前の試写で「お前、損したなあ(笑)」って言ったら、「いや、思ったより出てました!」ってさ。

渡辺大知 1990年8月8日生まれ。2007年3月、黒猫チェルシーを結成。高校生バンドとして注目を集める。2009年上京し、4月にミニアルバム「黒猫チェルシー」でデビュー。また映画『色即ぜねれいしょん』の主役に抜擢、ユーモラスながらも青春のど真ん中でもがく高校生を好演、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞するなど、高く評価されている。これからが期待されるミュージシャン若手俳優である。

--- 青山真治さんもちょっとだけ出演してますね。

山本 青山、上手いでしょう。(しみじみと)あいつ、上手いよねえ。

--- 一瞬どなたかと・・・(笑)。

山本 分かんないよね、ハゲててね。八百屋のオヤジみたいになってるもんね。「あれ、八百屋のおやじが服着てる」っつってさ(笑)。

青山真治 映画監督。1964年、北九州市生まれ。立教大学入学後、8ミリ映画の製作を開始。1996年、浅野忠信主演『Helpless』で劇場デビューするや蓮實重彦を始め、各方面で絶賛され注目を集める。監督作品、多数。2000年には『EUREKA(ユリイカ)』でカンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞とエキュメニック賞を受賞し、同作品の小説化により、三島由紀夫賞も受賞。本作での艶っぽい演技は今後、役者としても要注目!また最新監督作『東京公園』が6月18日(土)より公開!

--- 青山さんとは昔からのお付き合いですか?

山本 仲良くなったのは、濱マイクであいつが演出した回(第6話「名前のない森」)に俺が役者として出てからだね。青山は才能あるからさ、俺、才能ある監督はすごい褒めて、酷いとボロクソ言う癖があって(笑)。あいつの前ではあんまり褒めなかったけど、他のとこに行っても、「いやあ、青山はいい!」とかって言ってて。それからの付き合いかな。で、Twitterに青山がいたから、今回ひさびさに「おう!」って感じで、連絡し合って。

--- 現場ではいかがでしたか?

山本 まあ、短いシーンだからね。監督とかを出す時はね、一切、演技指導しないの。「そのくらい自分でやれよ」って思ってるから(笑)。だから俺、あいつに一言も言ってなかったと思うよ。「どうすりゃいいんだよ」って言われて、「知らねえよ」って(笑)。でもあいつの演技、ヤバイくらいいいよねえ。ちなみに俺のおすすめは悪役の小田(敬)が大好きなんだよね。いいでしょ、あいつ?

小田敬 大宮・浦和界隈のアウトローで、“敬”の名を知らない者がいたら、モグリだ。それほどまでにその世界で知名度の高いカリスマ。『聴かれた女』で正体不明の情報屋“秀”役で映画初主演し、今回で2度目の山本作品への参加となる。圧倒的存在感で裏社会の男、村田役を公演!重要な空気を付加している。

--- 『聴かれた女』にも出演されてますもんね?確かに存在感がありますし、声も独特で。

山本 あいつはね、本物の匂いがぷんぷんするから大好きなの。出て来るだけでかっこいいじゃん、何か。

--- 山本さんは役者をされていることもあって、普通の監督とはキャスティングをする際の感覚などがまた別なのかなあと思うんですが。

山本 役者をやる前から素人は大好きだから、素人を見る目は相当あるし、それは自信あるんだわ。役者にはまだ自信ないんだけど。オーディションで「この子は使おう」って思った時はだいたい100発100中くらい当たるからね。あと、自分で芝居をやるようになったら、演出がちょっとおもしろくなった。役者にヒントを与える時に言葉で言うのが大っ嫌いだから、「やってみせる」って方向が最近だんだん強くなってきてて、伝達しやすくなったね。でも、「この通りにしろ」っていうんじゃなくて、「俺だったらこうやる」っていうことなんだよ。例えば今回、村ジュンとも1日だけ激突があったんだけど、一人で狂気になっていくところね?「これはちょっと納得出来ない」って言うから、「いや、俺はそういう感じ、出来るよ?」って言って、狂っていく過程をやって見せたりしたのよ。そういう時って役者はね、何かヒントが欲しいんだよね。で、俺はそのヒントを言葉で出すのが辛い。それってどうしても形になっちゃうから。俺が思う芝居って音楽に近いから、「こういう音なんだよ」っていうことをこっちが出して見せることが一番分かりあるかなって。で、そういうことが役者をやっていくと前より出来るようになったから、自分にすごいプラスになってると思う。とにかくね、言葉で説明するのが本当に嫌で嫌でしょうがないの。何か、嘘ついてるような感じがしてね(笑)。で、言葉ってね、掴もうとするものをちっちゃくするんだよね。だから、前は言葉で説明する時はまるっきり関係ねえことばっかし言ったり、訳分かんない例え話ばっかりしてたんだけど、今はそういうことはやらずに演技して見せるっちゅう方向が自分の1つの選択肢として増えたかな。

--- 東京では渋谷のスクランブル交差点のシーンがありますが、あれは合成ではないんですよね?

山本 うん、全然普通に撮ったよ。そらがすごいびびってて、後半は「もうダメー!危なーい!」とかって言ってた(笑)。

--- 普通に危ないですよね?(笑)。

山本 危ないけど、あれも俺が最初にあの真ん中に立って見せたから(笑)。ああいうのは俺が率先してやっていかないと危ないからね。あれも死角のポイントがあると思って探しながらやってたんだけど、やっぱりあったから。でも、役者ならあのくらいはやらなきゃ(笑)。

(次の頁へつづきます)



『Three☆Points』 6月25日(土)より沖縄 桜坂劇場、名古屋 シネマスコーレでロードショー!他、順次公開決定!


6月25日(土) 沖縄 桜坂劇場初日上映(13:10〜)後、ミニトークショーに”てっちゃん”参加決定!さらに!沖縄編の制作スタッフでもある温泉太郎、元桜坂劇場ディレクターの真喜屋力の3人による映画トークあり!

6月25日(土)〜7月1日(金) 沖縄 桜坂劇場
6月25日(土)〜7月1日(金) 名古屋 シネマスコーレ
7月23日(土)〜8月5日(金) 横浜 ジャック&ベティ
7月30日(土)〜8月12日(金) 大阪 シネ・ヌーヴォ
8月6日(土)〜8月12日(金) 大分 シネマ5
8月27日(土)〜9月2日(金) 新潟 シネウインド

オフィシャルサイト:http://www.three-points.com/index.html

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山本政志監督作『ジャンクフード』、DVD化!


パン屋に行くことを日課とする1人暮らしの老女のエピソードで始まり、ドラッグ漬けのOLの大波乱の1日など、無国籍化が進む都市の混沌とした出来事を点描。また実際のチーマー、暴走族、在日外国人などの素人が大挙出演し、それぞれの世界を荒々しくも自由な感性の映像で活写されていく。

山本政志監督作『ジャンクフード』、6.24リリース!

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山本政志(やまもとまさし)

『闇のカーニバル』(83)がベルリン・カンヌ映画祭で連続上映され、ジム・ジャームッシュやニューヨークのインディペンデント監督から絶大な支持を集める。また、じゃがたらのファーストアルバム「南蛮渡来」や日比谷野外音楽堂での「アースビート伝説’85」をはじめとする多数の音楽イベントをプロデュース、江戸アケミや町田康(町蔵)など、当時のパンクロッカー達を俳優として起用するなど、ジャンルを超えた独創的な活動で注目される。『ロビンソンの庭』(87)(ベルリン映画祭 Zitty賞、ロカルノ映画祭審査員特別賞、日本映画監督協会新人賞)では、ジム・ジャームッシュ監督の撮影監督トム・ディッチロを起用、香港との合作『てなもんやコネクション』(90)では専用上映館を建設、『ジャンクフード』(97)を全米10都市で自主公開、『リムジンドライブ』(01)では単身渡米し、全アメリカスタッフによるニューヨーク・ロケを敢行するなど、国境を越えた意欲的な活動と爆発的なパワーで常に新しい挑戦を続けている。監督として活躍する一方、その独特の風貌・キャラクターを活かし、俳優活動も行っている。