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橋本徹の『素晴らしきメランコリーの世界』対談

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2010年11月25日 (木)

interview

橋本徹の『素晴らしきメランコリーの世界』対談


多くの音楽ファンから絶賛を浴びた橋本徹氏によるアプレミディ・レコーズの『音楽のある風景』シリーズと、そのスペシャル・イシュー『美しき音楽のある風景〜素晴らしきメランコリーのアルゼンチン』、そしてスピリチュアルでロマンティックでチルアウト・メロウなコンピレイション『Chill-Out Mellow Beats〜Harmonie du soir』に続き、カルロス・アギーレの来日やNujabes追悼、HMV渋谷店の伝説のコーナー「素晴らしきメランコリーの世界」など、2010年の静かなる音楽ムーヴメントの最後を飾る『素晴らしきメランコリーの世界〜ピアノ&クラシカル・アンビエンス』の発売を記念して、渋谷・公園通りのカフェ・アプレミディにて選曲・監修をされた橋本徹氏と、元HMV渋谷店3Fマネージャーの河野洋志氏、そしてアプレミディ・レコーズの制作担当ディレクターの稲葉昌太氏を交えて興味深いお話を聞くことができました。
(HMV商品本部ジャズ/ワールド担当バイヤー 山本勇樹)

稲葉昌太:このコンピレイション『素晴らしきメランコリーの世界〜ピアノ&クラシカル・アンビエンス』は、HMV渋谷店の最後を飾った「素晴らしきメランコリーの世界」という伝説的なコーナーに始まり、カルロス・アギーレの来日、中島ノブユキさんの新作『メランコリア』のリリースやNujabesの追悼といった一連の出来事を軸にした“静かなるムーヴメント”の集大成ですね。

橋本徹:去年の年末に、HMV渋谷店のリニューアルを機に「素晴らしきメランコリーの世界」という売り場が生まれ、フリーペーパーもスタートして、僕自身も足を運び、買わせてもらったりしていて、やっぱりこの一年間、こういうテイストが自分にいちばん沁みて来て。科学者の寺田寅彦の随筆を機に、「心の調律師のような音楽」という言葉が自分の中ではぴったりきたんですが、それは「素晴らしきメランコリーの世界」と同義だと思っていて。『素晴らしきメランコリーのアルゼンチン』も『Chill-Out Mellow Beats〜Harmonie du soir』も、大きな意味では同じようなコンセプトなんだけど。

山本勇樹:何か導かれるように、美しい音楽のつながりを感じた2010年の最後にこういうコンピレイションが聴けるのはとても嬉しいですね。

橋本:稲葉さんとは、当初は9月に「HMV渋谷閉店に伴う売り場への追悼みたいな意味合いで出しましょう」って話をしていたんですが、カルロス・アギーレの来日や選曲パーティー「bar buenos aires」とか、中島ノブユキさんの『メランコリア』や鈴木惣一朗さんの『シレンシオ』がリリースされ、Nujabesの追悼盤も11月にずれ込んだりで、結果的には機が熟した感じがありますよね。紅葉が深まる晩秋の、とてもいいタイミングでこれを届けられるかなと思っていて。

河野洋志:そういう流れでは、テーマの“ピアノ&クラシカル・アンビエンス”は最も提案しやすいし僕たちも聴きたい音楽かもしれませんね。

橋本:まずはピアノが美しい曲だったり、クラシカルなニュアンスを持っているような曲をオール・ジャンルで集めてみようかと。今後も色々な切り口で無限にできるわけだけど、タイミング的にもテイスト的にも届きやすいというところで、第1弾はこういうようなものになったんだ。当然、ブラジルやアルゼンチンのピアニストがフィーチャーされていたり、ポスト・クラシカル寄りなものがあったり、あるいは象徴的なNujabesの「Reflection Eternal」の源になった巨勢典子さんの「I Miss You」だったり、中島ノブユキさんがピアノを弾いているCalmの「East Wind」だったり、カルロス・アギーレがピアノを弾いているランブル・フィッシュだったり、というのが核になって構成されているという感じですね。

河野:“静かなるムーヴメント”なんですが、その音楽には未来につながる力がありますよね。良心的なリスナーがじっくりと後世に伝えていくような感じ。

橋本:じわじわとその音楽の良さが沁みてくるみたいな。この『ピアノ&クラシカル・アンビエンス』では、僕としてはそういう音楽が広く聴かれていく上で指標となるような三つの柱としてNujabes、中島ノブユキ、カルロス・アギーレという存在が重要かなって思って、それを中心に編集していったところはありますけどね。『素晴らしきメランコリー』のシリーズは、例えば第1弾はピアノを中心とした『メランコリア』だとすれば、第2弾はギターを中心とした『シレンシオ』的なイメージ、というヴィジョンは当然あって、セルジオ・サントスやサラ・タヴァレスが入って来てもいいんだろうし。

稲葉:今回はまず日本人のピアニスト巨勢典子さんで始まって、ブラジル人のアンドレ・メーマリ、アルゼンチン人のフアン・スチュワート、ロシアのニュー・コンポーザーズ、と続きます。

山本:国やジャンルを越えた世界観はアプレミディ・レコーズのコンピ・シリーズの魅力の醍醐味ですよね。

橋本:僕の中でこの感覚は『音楽のある風景〜冬から春へ』から始まっていて。あのときにメンタル・レメディーでコンピが始まり、アンドレス・ベエウサエルトで終わる、音で世界旅行をして行くっていう意識が芽生えて。特典小冊子にも世界地図を載せて『音楽のある風景』シリーズに収録した全アーティストを国別に掲載したり、音楽で世界旅行するという感覚は大切にしているな。

稲葉:全てが繋がってますよね。実は『音楽のある風景〜冬から春へ』が2009年12月にリリースされたときに行った対談では、「エンディングが何かを予感させますね」って話で終わっていて(笑)、実際2010年はその通りになっていると凄く感じますね。

山本:素敵な物語がありますよね。河野さんがアルゼンチンに行ってカルロス・アギーレに会ってきたり。

稲葉:まだ11月ですが2010年を振り返ると、色々な偶然や出来事が積み重なって一つの流れになった一年だったなと凄く思っていて。

橋本:去年の今頃はカルロス・アギーレの来日が実現するなんて夢にも思っていなかったですよ。そこで山本さんと河野さんと稲葉さんが果たした役割はものすごく大きいわけで。

河野:昔から僕らの好きな音楽は内容は良いのに地味だったり、ジャンル分けができなかったり、売りにくいという理由でお店にないというか、例えばセレクト・ショップに行っても、そういう切ない感じの音楽のテイストだけで揃えられた売り場がなかったので、パッケージ販売が厳しいと言われるこの時代だからこそ、改装を機にそういうことを二人でやろうということで、あの売り場に関しては始まったんですけど、それが本当に時代の空気とうまいこと共鳴したというか、そういう音楽を潜在的に求めている人が沢山いて、そこからまた色々と繋がっていきましたね。

橋本:やはりどこか「慰撫されるような感覚」っていうのを音楽に求めてる人が、この時代この世の中に、少しずつ増えているのかもしれないね。

素晴らしきメランコリーの世界
〜ピアノ&クラシカル アンビエンス
「心の調律師のような音楽」をキーワードに、あらゆるジャンル/年代を越えてグッド・ミュージックを愛し、必要とする人々によって起こった2010年の静かなるムーヴメントの最後を飾る、橋本徹(サバービア)選曲・監修の究極のメランコリック・コレクション!
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橋本徹 (SUBURBIA)

編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷・公園通りの「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・グラン・クリュ」「アプレミディ・セレソン」店主。『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは200枚を越える。NTTドコモ/au/ソフトバンクで携帯サイト「Apres-midi Mobile」、USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」を監修・制作。著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。

http://www.apres-midi.biz