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橋本徹の『音楽のある風景〜アルゼンチン』対談

2010年4月28日 (水)

interview

橋本徹の『音楽のある風景〜アルゼンチン』対談


昨年、四季折々に4枚のコンピレイションCDがリリースされ、移りゆく季節を感じながら音楽を聴く喜びとまだ知らぬ音楽との出会いに深く感動を与えてくれた、橋本徹氏によるアプレミディ・レコーズの『音楽のある風景』シリーズより、スペシャル・イシューとして、いま最も注目を集めるアルゼンチン音楽編が登場です。今回は、その『美しき音楽のある風景〜素晴らしきメランコリーのアルゼンチン〜』の発売を記念して、暖かい風に春めく某日、渋谷・公園通りのカフェ・アプレミディにて選曲・監修をされた橋本徹氏と、『音楽のある風景』のシリーズおよびサバービア〜アプレミディのライナーの執筆を手掛ける音楽文筆家の吉本宏氏、アルゼンチン帰りのHMV渋谷店3Fフロア・マネージャーの河野洋志氏、そしてアプレミディ・レコーズの制作担当ディレクターの稲葉昌太氏を交えて興味深いお話を聞くことができました。(HMV商品本部 ジャズ担当バイヤー 山本勇樹)

稲葉昌太:やっぱりアルゼンチンがすごいことになってきましたね。

山本勇樹:前回の『音楽のある風景〜冬から春へ〜』の対談の締めくくりで言っていたことがその通りになってきましたね。前作の最後の曲、アンドレス・ベエウサエルトの「Madrugada」はエンディングでもあり、何かの始まりを予感させるようなサウンドでもあるとも言っていましたよね。HMVの渋谷店でも今回のコンピの収録アーティストの精神的支柱ともいえるカルロス・アギーレを中心としたアルゼンチン音楽の人気はすごく高まってきています。

橋本徹:ジョー・クラウゼル(メンタル・レメディー)で始まって、アルゼンチンのアンドレス・ベエウサエルトで終わるという前作の流れが、今回のコンピへいい形でつながっていったね。

吉本宏:心を鎮めるミュージック・セラピーという趣を感じるよ。真のヒーリング・ミュージックとも言えるんじゃないかな。

橋本:ここ数ヶ月の自分の内省的なモードを反映している選曲にはなっているかもしれないね。叙情的で優しい無常感に惹かれるような。

稲葉:最近の音楽は無理やり元気を出そうというような曲が多いですからね。

橋本:アンリ・マティスが「私が夢見るのは、心配や気がかりのない、疲れを癒す座り心地のよい肘掛け椅子に匹敵する何かであるような芸術」というようなことを言っているんだけど、今回はそういう意識があるかもしれない。

吉本:アルゼンチンの音楽には、包み込まれるような包容力と、心に響いてくるスピリチュアルな感覚があるよね。特に音数の少ない静かな曲の中に爪弾かれるギターの音色や、まろやかな響きの打楽器ボンボ、倍音をたっぷりと含んだ壺型のパーカッション、ウドゥの響きはすごく心に共鳴するよ。

橋本:吉本くんや山本さんがやっている選曲パーティー「bar buenos aires」での、カルロス・アギーレからジョー・クラウゼル、ガール・ウィズ・ザ・ガンとつながる流れに通じる雰囲気があると思うんだよね、今回のコンピは。

稲葉:アルゼンチン音楽だけでまとめたといいつつも、そうは聞かせないところが、やはり橋本さんの選曲のおもしろいところですよね。クラシカルで詩情にあふれていて、ヨーロッパ的な香りもしますし。

橋本:時間をおいて熟成されていく感じとか、タイムレスな感じを求めていたということもあって、アルゼンチン音楽が注目を集めてきたというタイミングではあるんだけど、ここに収められている音楽自体は、ひとつのジャンルやキーワードだけで消費されたくないという想いはあるな。

吉本:アルゼンチン音楽といえば、これまではアルゼンチン音響派であったり、ネオ・フォルクローレであったりしたんだけど、このコンピはそれらの音楽のさらに繊細で静謐な側面を切り取って、新たな切り口でまとめられたという印象を強く感じるよ。それを象徴するのが1曲目のセバスチャン・マッチからアレハンドロ・フラノフのピアノ・ソロへとつながる流れなんだよね。それが、結果としてセラピーの役割を果たしていると思うんだ。ビル・エヴァンスやキース・ジャレット、パット・メセニー&ライル・メイズにも通じるような。

橋本:もっと言えば、内省的なシンガー・ソングライターが好きな人も、ポスト・クラシカル的な印象派のピアノや室内楽のような音が好きな人も、あるいはヌジャベスのようなメロウ・ビーツが好きな人も、誰もが自然に心を穏やかに落ち着けたいなと思ったときに普遍的に響くものにしたいと思ったんだ。

山本:楽器で言えば、ムビラ(親指ピアノ)やピアノ、シタールなどの響きが象徴的ですし、音楽的にはメディテイティヴなサン・ラやファラオ・サンダース的な鎮魂のテイストから、それこそフリー・フォークやフォークトロニカ好きな人まで、入り口はたくさんありますよね。

橋本:アルゼンチン音楽は、宇宙と大地というか、すごくスピリチュアルなものからネイティヴなものまでつながっていて、太古の記憶と宇宙の彼方へ思いを馳せられるような悠久と幽玄の感覚があるね。それと、1曲目の最後の語りのように、夢とも現実ともつかないおぼろげで幻影的な雰囲気というのも感じるよね。

吉本:橋本くんが“心の調律師”ということを言っていた感じだね。

橋本:うん。寺田寅彦の随筆から“心の調律師”という言葉がひっかかっていて、この何ヶ月かの間で自分の中でどんどん重みを増していった言葉で、カルロス・アギーレやセバスチャン・マッチの音楽を聴いているときに、まさにそういう音楽だなと思ったんだよ。わかりやすく言えば、ユセフ・ラティーフの「Love Theme From Spartacus」の先にあったものというか。

美しき音楽のある風景
〜素晴らしきメランコリーのアルゼンチン〜
橋本徹(サバービア)監修レーベル「アプレミディ・レコーズ」が提案する ライフスタイリングCDの決定版にしてヒットシリーズ『音楽のある風景』の 特別編となる、アルゼンチンの素晴らしくもメランコリックな音源を収録した 美しい1枚!
profile

橋本徹 (SUBURBIA)

編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷・公園通りの「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・グラン・クリュ」「アプレミディ・セレソン」店主。『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは200枚を越える。NTTドコモ/au/ソフトバンクで携帯サイト「Apres-midi Mobile」、USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」を監修・制作。著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。

http://www.apres-midi.biz