David Fray : Baroque Encores (Hybrid)
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たまねこ | 東京都 | 不明 | 14/November/2025
D.フレイといえばバッハであるが、今作は純粋なバッハによる鍵盤曲はフランス組曲4番のアルマンドのみ。メインピースはバッハのトランスクリプション、他スカルラッティやラモー、ロワイエらバロックの大家によるチェンバロ用の鍵盤曲で構成されている。 出鱈目に好きな曲を並べただけのように見えなくもないが、これがフレイの手にかかると楽曲が一つ一つが親密さと共通の物語性をまとい、一つの世界に統一されていく。 フレイの出す音は空気のヴェールで包んだように柔らかく、彼の音楽はしばしばロマン的であると評されるが所以だが、空間を漂っていた音が急遽一転してある到達点にかけて集中していく様が特徴であり、聴いている側はその凄まじさに魅せられていく。 第11曲目のロワイエの「めまい」のような、弛緩と緊張が連続して幾度となくくり返される楽曲において、その特徴ともいえる美点はいかんなく発揮されている。 また、フランスバロックの楽曲は、チェンバロのアーティキュレーションをそのままピアノに取り入れて弾いたところで格好がつかないものであるが、フレイも多大な研究を費やしたとみえる。 第8曲目のクープランの「神秘的な障壁」に代表されるようなテンポ・ルバートの扱い方、さらに音色に極限までにレゾナンスをかけることで、チェンバロのどこか影と憂いを帯びた響きをモダンピアノに移し替えることに成功している。 余談だが、今作の録音にはスタインウェイではなくYAMAHAのピアノが使われているようで、これらの楽曲にYAMAHAの丸みのある、輪郭がややぼやけた音が似合うと考えたのは流石である。 いかにもフレイらしい選曲なのは13曲目のBWV29のシンフォニアだ。 こちらは無伴奏バイオリンパルティータ3番のプレリュードとしての原曲の方が有名かもしれない。 (そして多くのピアニストが、この3番をラフマニノフがピアノ独奏用に編曲したマスターピースを好んで録音している) バッハはこのプレリュードを教会カンタータ BWV29「神よあなたに感謝を捧げます」のシンフォニアに転用しており、原曲の軽やかさから一転、こちらはパイプオルガンとトランペットの響きが重厚な教会音楽に仕上がっている。 この曲をさらにピアニストのヴィルヘルム・ケンプが教会音楽らしい荘厳さを損なわずにピアノ独奏用に編曲したものが本CDに録音されたバージョンである。 当然ながらフレイの解釈も転用されたカンタータに即したものになっている。 重心の低い、ゆったりした足取りで進む音楽は途中いくつかの小クライマックスをやり過ごしながら、神を讃える大団円で結実する。 多くのピアニストは概して、煌びやかなラフマニノフ編曲版をスピーディーに腕自慢とばかりに弾くが、フレイがケンプ編曲版を厳かに弾くのは、彼自信がデビュー当時から公言している通り、バッハとケンプの信奉者であるからにほかならないからだろう。 「バロック・アンコールズ」というタイトルはアンコールピース的な小品を集めたものという意味にとれるが、どの曲ももう1回(encore)と再度繰り返しねだって聴きたくなるような中毒性をたたえていることに重なるのである。 つい先日、フレイは14年ぶりに来日公演を行い、こちらのアルバムから何曲かを披露したリサイタルを拝聴したが、研ぎ澄まされた音楽性はもとより、音楽の推進力、求心力が並外れており、一つの小宇宙を体感できる夢のような体験だった。1 people agree with this review
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