バルトリ/『マリア』
『サリエリ・アルバム』やマイナー・オペラのアリアを集めた『禁じられたオペラ』を成功させ、昨年2006年には久し振りの来日を果たし大きな話題となったチェチーリア・バルトリ。圧倒的な歌唱能力とチャーミングな容姿が相俟って、世界中の人気と注目を集め続けています。
その彼女の新譜は、これまた個性的なテーマを選んだものとなりました。タイトルの『マリア』とは19世紀に活躍したスペイン出身の大メゾ・ソプラノ歌手マリア・マリブラン(1808-36)を指します。ちなみに、彼女が活躍した当時は、男声テノールのジョヴァンニ・ルビーニも登場し、近代声楽が始まったとされる時期に当たります。
マリブランは、30歳を前にして落馬のため早世してしまったが、時代を代表する歌手であることに変わりはありません。その名声はきわめて高く、たとえば、ヴェネツィアにあるマリブラン劇場とはもちろんこの歌手の名にちなんで付けられたものであることにも例えられます。また、作曲家ロバート・ラッセル・ベネットは歌劇『マリア・マリブラン』(1935)を書いていますし、オペラ好きな映画監督ヴェルナー・シュレーターも『マリア・マリブランの死』(1972)という作品を撮っています。
バルトリは、このアルバムを、スペインのフラメンコからチロルのヨーデルまで、言語にしてイタリア、フランス、スペイン、英語と実に多彩な作品で構成しています。それは、大歌手マリブランにオマージュを捧げるとともに、ベル・カント歌手としての自分のルーツと更なる可能性を探ろうとしているためなのかもしれません。
収録作品の多くは世界初録音となります。たとえば、ナポリのサン・カルロ劇場の音楽監督も務めたイタリア・オペラの作曲家パチーニの『イレーネ』は長く忘れられていた作品の一つ。
マヌエル・ガルシアは、マリブランの父で、『セビリャの理髪師』の初演でアルマヴィーヴァ伯爵を歌ったことでも知られる19世紀前半に活躍した名高いテノール歌手。アレヴィの『クラリ』もマリブランが主役を演じた作品です(なお、2008年5月にはチューリヒ歌劇場で、バルトリ、A.フィッシャー、ヘンメルリらの当アルバム・メンバーで上演が予定されているとのこと)。
ロッシは、マチェラータ生まれの指揮者・作曲家で、同地の劇場がテアトロ・ラウロ・ロッシと彼の名を冠すような名士。
メンデルスゾーンの演奏会用アリアは、声、独奏ヴァイオリンと管弦楽の編成で書かれたロンドン・ヴァージョンで演奏されています。ヴァイオリンには世界的名手のヴェンゲーロフがフィーチュアされているという豪華さも聴きどころのひとつです。
アルバムの最後は『ノルマ』。有名な曲を歌ってアルバムをまとめるというのも心憎い意図。
伴奏のスキンティッラ管弦楽団とは、チューリヒ歌劇場のオーケストラのこと。但し、その中で、17、18世紀音楽上演用として1996年に特化したピリオド・オーケストラ部門を指します。指揮者は『サリエリ・アルバム』でもタッグを組んだアダム・フィッシャー。気心の知れた阿吽の呼吸が約束されているということでしょうか。
マヌエル・ガルシア(1775-1832):(19世紀の歌手で、マリア・マリブランの母親)
レチタティーヴォ、シェーナとアリア(セミラーミデ)
:”E non lo vedo…Son regina” from Act 2 of La Figlia dell’aria
ジュゼッペ・ペルシアーニ(c.1799-1869)
ロマンツァ(イネツ):”Cari giorni”〜『イネツ・ディ・カストロ』(第2幕)
ジョヴァンニ・パチーニ(1796-1867)
ロンド(タンクレディ):”Dopo tante e tante pene”Alternative aria for Rossini’s opera Tancredi
マリア・マリブラン(1808-1836)
ロンド(アディーナ):”Prendi, per me sei libero”Alternative aria in Act 2 of Donizetti’s L’elisier d’amore
マリア・マルブラン
“Rataplan”:Chansonette, published as No.6 in the Album Lyrique
マヌエル・ガルシア
Caballo:”Yo que soy contrabandista” from the monologue opera El poeta calculista
ジャック=フロマンタル・アレヴィ(1799-1862)(仏)
カヴァティーナ(クラリ):”Come dolce a me favelli” 〜『クラリ』(第1幕)
ジョヴァンニ・パチーニ
Scena ultima “Se il mio desir…Cedi al duol” and stretta”Ira del ciel”(Irene)〜『Irene o L’Assedio di Messina』(第2幕)
フェリックス・メンデルスゾーン(1809-1847)
演奏会用アリア『不幸な女よ』、op.94 ソプラノとオーケストラのための
ヨハン・ネボムク・フンメル(1778-1837)
“Air a la Tirolienne avec Variations”
ラウロ・ロッシ(1812-1885)
ロンド・フィナーレ(アメリア):”Scorrete, o lagrime”〜melodramma comico in 3 acts Amelia ovvero Otto anni di costanza
ヴィンチェンツォ・ベッリーニ(1801-1835)
最後のアリア『おお、花よ、お前に会えるとは思わなかった・・・ああ、この思いを乱さないで』(アミーナ:s)〜『夢遊病の女』
ヴィンチェンツォ・ベッリーニ
狂乱の場『あなたの優しい声が』(エルヴィラ:s)〜『清教徒』
ジョアッキーノ・ロッシーニ(1792-1868)
ロジーナのカヴァティーナ『今の歌声は心にひびく』(s)〜『セビーリャの理髪師』(第1幕)
ヴィンチェンツォ・ベッリーニ
カヴァティーナ(ノルマ):『清らかな女神よ』(s)〜『ノルマ』(第1幕)
マイケル・ウィリアム・バルフ(1808-1870)(アイルランド)
バラード(Isoline):”You moon o’er the mountains” from Act 1 of the Maid of Artois
チェチーリア・バルトリ(S)
マキシム・ヴェンゲーロフ(vn)
スキンティッラ管弦楽団
インターナショナル室内ソロイスツ
合唱指揮:ユルク・ヘンメルリ
指揮:アダム・フィッシャー
録音:2006年8月〜10月 チューリッヒ