
メキシコ・モダニズムの知られざる源流
レブエルタス: ピアノ音楽全集、第1巻
ロドルフォ・リッテル(ピアノ)
【概要】
◆「センセマヤ」で知られるメキシコの作曲家でヴァイオリニスト、指揮者のシルベストレ・レブエルタスに関する
最新の音楽学的調査が2024年に開始され、それに伴う未出版作品の校訂・録音プロジェクトが、これまでのレブエルタス像に劇的な修正を迫るものとなりそうです。
◆ロベルト・コルブ=ノイハウス博士による「シルベストレ・レブエルタス作品注釈付きカタログ」の改訂出版と、ピアニストのロドルフォ・リッテルによる「ピアノ作品全集」の録音プロジェクトの始動は特に注目されるところで、レブエルタスが若くしてヴァイオリニストとして成功する以前、さらに若いときはピアノ曲の作曲家だったという才能の豊かさが浮かび上がります。
【作品】
◆レブエルタスはこれまで、若い頃のストラヴィンスキーの影響を受けたような原始主義的でリズミカルな管弦楽作品で知られていましたが、このアルバムに収録された初期作品の多くは、それらとは全く異なるロマン派的な特徴を示すものです。そして中には、古典派的な作品があったり、モダニズムへの接近を見せる奇抜な作品があったりで、若きレブエルタスの試行錯誤ぶりも伝わってきます 。
【演奏】
◆演奏はメキシコ国立音楽院の教授でメキシコ音楽の権威として知られるドイツ系メキシコ人のロドルフォ・リッテル。ヤマハ・アーティストでもあるリッテルは、メキシコの知られざるロマン派作品発掘紹介に精力的に取り組んでおり、リッター自身が学者でもあるため、未出版作品の楽譜校訂や解釈においても主導的な役割を果たしながらレコーディングに取り組んでもいます。
【録音】
◆2024年12月に、メキシコシティのベジャス・アルテス宮殿大ホールで収録されています。マリア・カラスやクレメンス・クラウスも登場した歴史のあるホールです。
【仕様】
◆装丁はデジパック仕様で、差し込みブックレット(英語・12ページ)には、メキシコの作曲家、ピアニスト、歴史家、音楽研究者のルイス・ハイメ・コルテスによる解説などが掲載。EU製で、ディスクはメジャー・レーベルでもおなじみの独オプティマル・メディアが製造。
Piano Classics ・
Brilliant Classics ・
Berlin Classics ・
Neue Meister
作品情報付きトラックリスト
CD [48'45]
レブエルタス
メキシコ近代音楽の巨匠、シルベストレ・レブエルタス(1899-1940)は、これまで主に管弦楽作品「センセマヤ」や「マヤ族の夜」、あるいは弦楽四重奏曲によってその名声を確立してきました。彼の音楽的遺産は、カルロス・チャベスと共に推進した「メキシコ国民楽派」の枠組み、とりわけ先住民族文化への回帰や、荒々しくも鮮烈なリズムと色彩を特徴とする「メキシコ的モダニズム」の文脈で語られることが常でした。
調査・校訂・録音
しかし、2024年から2026年にかけて行われた最新の音楽学的調査と、それに伴う未出版作品の校訂・録音プロジェクトは、この固定化されたレブエルタス像に劇的な修正を迫るものとなりました。
ロベルト・コルブ=ノイハウス博士による「シルベストレ・レブエルタス作品注釈付きカタログ」の改訂出版と、ピアニストのロドルフォ・リッテルによる「ピアノ作品全集」の録音プロジェクトの始動は特に注目され、レブエルタスがヴァイオリニストとして大成する以前、すなわち1915年から1920年代初頭にかけての「習作期」に、驚くほど多くのピアノ曲を書いていたことが明らかになりました。これらの作品群は、彼が30歳を過ぎてから突如として作曲家として目覚めたという従来の通説を覆し、若き日の彼が、ロマン派やサロン音楽の語法を深く内面化していたことを証明する側面も持っています。
1. マルガリータ [3'00]
レブエルタスがまだ16歳前後、メキシコ国立音楽院で学んでいた1915年頃に作曲。長らく未出版の手稿として保管されていましたが、2024年にメキシコ国立自治大学から出版されたクリティカル・エディションに収録され公開。
19世紀末のロマン派的な語法に忠実で、旋律の歌謡性が重視されています。
2. アルバムの綴り [2'03]
1915年作曲。タイトルはフランス語。ポルフィリオ・ディアス政権下のメキシコにおけるフランス文化への傾倒(フランコフィリア)が、若きレブエルタスの教養形成に影響を与えていたことを示唆する重要な作品。短い性格的小品であり、即興的かつ親密な雰囲気を持ちます。
3. 前奏曲 [2'27]
作曲時期は1915年から1924年の間と推測されています。ショパンの前奏曲集をモデルにしたと思われる、単一の動機や和声進行を探求する小品。
4. アレグロ [1'00]
1939年の作曲とされています。極めて凝縮された、力強い律動を持つ作品。
5. アンダンティーノ・クアジ・アレグレット [2'25]
1915年作曲。旋律の流動性と、伴奏部の軽快なリズムが特徴的で、舞曲的な性格と歌謡的な性格の中間に位置するような作品。
6. 第2曲 サロンの舞曲 [2'05]
1915年作曲。当時のメキシコの社交界で好まれたワルツ、マズルカ、あるいはハバネラといった舞踏音楽のスタイルを踏襲。優雅さと共に、どこかメランコリックな陰影を含んでいるのが特徴。
7. レント・ドロローゾ [3'58]
1915年作曲。「痛ましく、遅く」という指示通り、悲劇的で重厚な情緒を湛えています。若きレブエルタスが、人間の苦悩や悲嘆といった深遠な感情を音楽的に表現しようと試みた野心作であり、半音階的な進行を多用して緊張感を高めています。
8. 歌 [1'04]
1915年作曲。極めてシンプルで素朴な「歌」です。複雑な展開を排し、旋律線の美しさそのものを呈示することに主眼が置かれています。メキシコ民謡の形式を借りつつも、特定の民謡の引用ではなく、オリジナルの旋律による抒情的な小品です。
9. ヴァルセッテ [2'05]
1915年作曲。ショパンのワルツや、サティの《ジュ・トゥ・ヴ》のようなカフェ・コンセール様式の影響を感じさせる、チャーミングで洒脱な作品です。重厚さよりも軽妙さが際立っており、レブエルタスの旋律作家としてのセンスが光ります。
10. 第1曲 練習曲変ロ短調 [0'57]
1915年作曲。1分に満たない短い楽曲ですが、「練習曲」の名にふさわしく、特定のピアノ技巧(例えば、急速なパッセージ、重音、あるいは左手の跳躍など)の習得を目的としています。
11. アルバムの綴り [1'22]
1915年作曲。タイトルはスペイン語。こちらはより簡潔で、日記の走り書きのような即興性が特徴。
12. 冬の歌 [1'43]
1915年作曲。季節を題材にした標題音楽的な小品。
13. 秋の歌 [2'25]
1915年作曲。ワルツのリズムに乗せて、秋の哀愁やノスタルジーを歌い上げる作品です。《Invernal》と対をなすような季節の情景描写であり、枯葉が舞うような旋律線や、短調と長調の揺れ動きによる感情の陰影が見られます。
14. ハンガリー風奇想曲 [1'20]
1915年作曲。4。リストの《ハンガリー狂詩曲》やブラームスの《ハンガリー舞曲》の影響を受けた、エキゾチズム(異国趣味)の習作です。ハンガリー音階(ジプシー音階、増二度を含む)の使用や、チャールダーシュ形式に見られるような「ラッサン(緩)」と「フリスカ(急)」の対比、あるいは装飾音を多用した即興的なスタイルが取り入れられていると考えられます。
15. マッティナータ [3'18]
1915年作曲。4。レオンカヴァッロの歌曲で有名な「マッティナータ」のジャンルに属する作品です。朝の爽やかな光や希望を表現した、明るく伸びやかな旋律が特徴です。3分を超える演奏時間は、この曲が単なる断章ではなく、展開部を持つまとまった楽曲構成を持っていることを示唆しています。
16. 楽興の時 [0'55]
1915年作曲。シューベルトによって確立された「楽興の時(Moments musicaux)」の伝統に連なる作品です。形式にとらわれず、作曲家の一瞬の楽想(インスピレーション)を自由に書き留めたような、極めて短く、かつ密度の高い小品です。
17. 憧れ [1'17]
1915年作曲。秒 4。タイトルは「懐かしむこと」「憧れること」を意味します。副題が示す通り、サロン風の舞曲(おそらくハバネラやダンソンといったラテン的なリズムを含むもの)の形式をとっていますが、踊るためというよりは、過ぎ去った日々への追憶を誘うような、感傷的な性格が強い作品です
18. 歌曲 第1番 [1'06]
1915年作曲。。ドイツ語のタイトル「Lied(歌曲)」が付けられていますが、ピアノ独奏曲であり、メンデルスゾーンの「無言歌」のスタイルを踏襲しています。ドイツ音楽(特にシューマンやブラームス)への傾倒が見られ、声楽的なフレージングをピアノで模倣することに焦点が当てられています。
ソナティナ [2'14]
1915年作曲。ソナタ形式という古典的な構造を習得するための習作。合計演奏時間は2分強と非常にコンパクトですが、均整の取れた構成美を持ち、若きレブエルタスの構成力を示す作品。
19. 第1楽章 アレグレット・クアジ・アレグロ [1'10]
呈示部、展開部、再現部を持つソナタ形式の縮小版と考えられます。簡潔ながらも動機の展開が見られます。
20. 第2楽章 アンダンティーノ [1'04]
歌謡的な緩徐楽章。
21. アルバムの綴り [2'17]
1915年作曲。タイトルはドイツ語。フランス語、スペイン語に続く、言語違いでの「アルバムの綴り」です。
22. 詩曲 [1'51]
1915年作曲。詩的な情景や物語を音楽で描写しようとした自由形式の作品。形式的な制約よりも、感情の流れや色彩感を重視した、ラプソディックな展開が特徴。
23. 歌曲 第2番 [2'08]
作曲時期は1915年から1920年代と推測されています。第1番と同様の無言歌スタイルですが、より規模が大きく、感情の振幅も大きくなっています。ピアノによる「歌」の表現が一層深化しており、レブエルタスの旋律美が際立っています。
24. ラディッシュの形をした悲劇 [3'38]
1924年作曲。タイトルはエリック・サティの「梨の形をした3つの小品」などを意識したシュルレアリスム的なものであり、「no es plagio(盗作ではない)」という括弧書き自体が、サティ風のアイロニーであると同時に、自らのオリジナリティへの屈折した主張でもあります。調性は不安定で、多調的あるいは旋法的な響きが支配的。不協和音を含む乾いたユーモア、突飛なリズムの変化など、レブエルタス独自の「土着的前衛」のスタイルが確立されています。
25. 夕べの歌 [1'38]
1915年作曲。「朝」と対をなす作品であり、夕暮れ時の静寂や安らぎを描いています。
ロドルフォ・リッテル(ピアノ)
録音:2024年12月9日
場所:メキシコシティ、ベジャス・アルテス宮殿大ホール
演奏者情報
ロドルフォ・リッテル(ピアノ)
【生地】
◆1977年、メキシコシティで誕生したドイツ系メキシコ人。
【賞歴】
◆第4回アンヘリカ・モラレス=ヤマハ全国ピアノコンクール、第1回リスト=パルナッソス国際ピアノコンクールで金メダル、そして特別賞も受賞。第1回パルナッソス国際ピアノコンクール(2003)で第1位。
【仕事】
◆ソロと室内楽の両方で活動し、フランス、ドイツ、デンマーク、スペイン、アメリカ、オーストリア、イタリア、イスラエル、カナダ、キューバ、エクアドルなどで演奏。ピアノ協奏曲レパートリーは40曲以上。また、ヤマハ・アーティストでもあります。
◆教育者としては、パナメリカーナ大学国立音楽院教授のほか、ローザンヌ高等音楽院、ジュネーヴ高等音楽院、ブロワ音楽院、グロ・ド・ヴォー音楽院などで客員教授として教えています。
【録音】
◆CDは、Brilliant Classics、Toccata Classics、Sterling、Conacultaなどから発売。
トラックリスト
CD [48'45]
シルベストレ・レブエルタス(1899-1940)
1. マルガリータ [3'00]
2. アルバムの綴り [2'03]
3. 前奏曲 [2'27]
4. アレグロ [1'00]
5. アンダンティーノ・クアジ・アレグレット [2'25]
6. 第2曲 サロンの舞曲 [2'05]
7. レント・ドロローゾ [3'58]
8. 歌 [1'04]
9. ヴァルセッテ [2'05]
10. 第1曲 練習曲変ロ短調 [0'57]
11. アルバムの綴り [1'22]
12. 冬の歌 [1'43]
13. 秋の歌 [2'25]
14. ハンガリー風奇想曲 [1'20]
15. マッティナータ [3'18]
16. 楽興の時 [0'55]
17. 憧れ [1'17]
18. 歌曲 第1番 [1'06]
ソナティナ [2'14]
19. 第1楽章 アレグレット・クアジ・アレグロ [1'10]
20. 第2楽章 アンダンティーノ [1'04]
21. アルバムの綴り [2'17]
22. 詩曲 [1'51]
23. 歌曲 第2番 [2'08]
24. ラディッシュの形をした悲劇 [3'38]
25. 夕べの歌 [1'38]
ロドルフォ・リッテル(ピアノ)
録音:2024年12月9日
場所:メキシコシティ、ベジャス・アルテス宮殿大ホール
Track list
Silvestre Revueltas 1899-1940
1 Margarita 3'00
2 Feuille d'album 2'03
3 Prelude 2'27
4 Allegro 1'00
5 Andantino casi allegretto 2'25
6 II. Danza de Salón 2'05
7 Lento doloroso 3'58
8 Canción 1'04
9 Valsette 2'05
10 I. Estudio en si bemol menor 0'57
11 Hoja de Albúm 1'22
12 Invernal 1'43
13 Otoñal 2'25
14 Capricho Húngaro 1'20
15 Mattinata 3'18
16 Momento Musical 0'55
17 Añorando 1'17
18 Lied I. 1'06
Sonatina
19 I. Allegretto quasi allegro 1'10
20 II. Andantino 1'04
21 Albumblat 2'17
22 Poema 1'51
23 Lied II. 2'08
24 Tragedia en forma de rábano(no es plagio) 3'38
25 Vespertina 1'38
Rodolfo Ritter piano
Recording: 9 December 2024 in the Sala Principal del Palacio de Bellas Artes in México City