華やぎと憂愁が交差する、フランス近代の香り
「Musicien complet(完全なる音楽家)」を体現した作曲家フィリップ・ゴーベール。彼がヴァイオリニストであったことを知る人は、果たしてどれほどいるでしょうか。
フランスの風景や日常に息づく、目も眩むほどに美しい建築や街並み、パリジャンたちの粋な優雅さ、そして心温まる瞬間を切り取ったような旋律の数々。フランスの名ヴァイオリニスト、ニコラ・ドートリクールと、ピアニストとして共演する瀬尾和紀が、その香気に満ちた世界を精緻に描き出す貴重な作品集。
フィリップ・ゴーベールといえば、多くはフルート作品の作曲家、偉大なフルーティスト、教育者、あるいは指揮者としてのイメージを持つでしょう。しかし、彼の音楽家としての全貌を説明するには、彼がヴァイオリニストでもあったという事実が不可欠です。
ゴーベールは南仏カオールで生まれ、音楽好きの父によりフルートを与えられ、弟にはヴァイオリンが与えられました。一家がパリに移住した直後に父を亡くすと、まだ13歳にも満たないゴーベールは家計を支えるため、学校を辞めて近所の劇場でヴァイオリンを演奏して働きに出ました。その後、ポール・タファネルとの出会いからフルーティストとしての道を歩みますが、家計のためにヴァイオリン奏者の仕事も続けていました。彼のオペラ座でのキャリアもヴァイオリンから始まっています。1894年12月、グノーの歌劇『ファウスト』1000回記念公演で、彼は控えのヴァイオリン奏者としてオーケストラ・ピットに忍び込んだという逸話があります。彼はフルート奏者として入団する前(1895年)に、ヴァイオリン奏者としてオペラ座でデビューしていた可能性が高いのです。その後、1934年の『ファウスト』2000回記念公演では、首席指揮者としてその舞台に立ちました。パリ音楽院のヴァイオリン科にも在籍していた彼は、ジャック・ティボーやジョルジュ・エネスコらとの交流を通じて、後のヴァイオリン作品の創作に影響を受けました。
このアルバムは、ゴーベールが残したヴァイオリン作品を収めたもので、半数以上が世界初録音という極めて貴重な資料です。フルート作品として知られる楽曲も、ヴァイオリンの演奏で聴くとまた違った趣があり、これらの作品群を通してゴーベールの音楽の新たな魅力と再評価につながることが強く願われています。(販売元情報)
【収録情報】
Disc1
ゴーベール:
● 小品
● ロマンス(1902)
● 子守歌
● ロマンス(1908)
● ソナタ イ長調
● ファンタジー
Disc2
● 5つの前奏曲
● 4つのスケッチ
● ハバネラ
● 2つの前奏曲
● ソナチネ
● 2つの小品
ニコラ・ドートリクール(ヴァイオリン)
瀬尾和紀(ピアノ/Steinway D, Hamburg, #527890)
録音時期:2025年4月22-24日
録音場所:三重県総合文化センター大ホール
録音方式:ステレオ(デジタル)
プロデューサー:瀬尾和紀
エンジニア:山中耕太郎(Rec-Lab)