教会音楽家による優雅で美しい世俗音楽
ユベール・ルノット:クラヴサン曲集(3CD)
フェルナンド・デ・ルーカ(チェンバロ)
知られざる作品の紹介に熱心に取り組むチェンバロ奏者、フェルナンド・デ・ルーカが今回とりあげるのは、後期バロック期の南ネーデルラント(≒ベルギー)で活躍した教会音楽家、ユベール・ルノット(1704-1745)のクラヴサン(チェンバロ)曲集。当時ヨーロッパ各国に浸透した活気のあるイタリア様式と、フランス宮廷の優雅志向を織り交ぜたかのような表情豊かな音楽が聴かれる曲集です。デ・ルーカの愛器、ブランシェ・モデルの典雅な響きも作品との相性が良さそうです。
ブックレット(英語・8ページ)には、イタリアと日本に拠点を置く作家でミラノ音楽院出身のフランチェスカ・スコッティによる解説などが掲載。スコッティはデ・ルーカのチェンバロ・コンサートで朗読を担当することもある人物。EU製で、ディスクはメジャー・レーベルでもおなじみの独オプティマル・メディアが製造。
南ネーデルラント
ルノットが生きた時代のベルギーはまだ「南ネーデルラント」だった頃で、ハプスブルクが支配しており、9歳まではスペイン・ハプスブルク領(1579-1713)、以後はオーストリア・ハプスブルク領(1713-1794)となっています。
ローマ・カトリック圏
プロテスタント化されハプスブルクから独立した「ネーデルラント連邦共和国」(≒現・オランダ王国)と異なり、「南ネーデルラント」では、ハプスブルクのローマ・カトリック体制が維持され、地元音楽家の職場として、教会や大聖堂が有力な存在でした。
ローマ・カトリックの音楽家
ルノットは、18歳から26歳にかけて南ネーデルラントのマーストリヒト(現在はオランダの都市)に滞在。ロマネスク様式の聖母教会でオルガニストを務めており、その後、リエージュの聖マルティヌス教会などでも働き、31歳から41歳で亡くなるまでの10年間は、リエージュの聖ランベール大聖堂でオルガニストを務めています。
聖ランベール大聖堂
尖塔の高さが135メートルもあるゴシック様式の聖ランベール大聖堂は、収容人員約4千人の広大な屋内空間を有しており、聖堂内のあちこちで催し物も可能だったことから、聖職者や教区民だけでなく音楽家たちにとっても重要な場所だったと思われ、教会音楽作曲家でオルガン奏者だったルノットも、1740年頃にこのチェンバロ曲集を書いています。
その後の聖ランベール大聖堂
ちなみにこの巨大な大聖堂は、ルノット死去の44年後、1789年に始まったリエージュ革命とフランス革命の際、略奪・転売の対象となり、屋根の鉛などすべて盗み終わった1794年から解体・破壊が始まり、1827年頃には完全に姿を消しています。
CDケースの表紙はポンサール(1780-1870)によって1810年から1815年頃に書かれた絵で、画題も「リエージュ大聖堂の廃墟」となっており、尖塔はありません。
一方、この大聖堂の絵で最も有名な「第一統領、ナポレオン・ボナパルト」では、背景の窓外に大聖堂の通常の様子が確認できます。描かれた時期は1804年なので、実際には大聖堂の破壊はすでに進んでおり、尖塔も無かったので、画家アングル(1780-1867)による「想像」となりますが、まだ若かったアングルがこの肖像画を受注した際、ナポレオン本人をモデルにすることができず、1802年にアントワーヌ=ジャン・グロが描いた肖像画を参考にしたため、全体が「想像」だったという事情もあります。
しかも当時は、フランス革命による教会への膨大な犯罪行為により、フランス政府と教皇庁の関係が悪化しており、そうした状況を改善すべく、1801年にフランス第一共和国がローマ・カトリック教会を「保護」する協約「コンコルダート」を締結し、和解したばかりだったことから、教皇庁に配慮して大聖堂の在りし日の様子を再現したものとも考えられます。
Brilliant Classics ・
Piano Classics ・
Berlin Classics ・
Neue Meister
演奏者情報
フェルナンド・デ・ルーカ(チェンバロ)
1961年、ローマで誕生。9歳の時にはすでにバロックのイディオムで作曲をおこなっていたというデ・ルーカは、14歳でローマ・サンタ・チェチーリア音楽院に入学し、オルガンとピアノなどを勉強。続いて、ヴァティカンのシスティーナ礼拝堂のマエストロ・ディ・カペラであるドメニコ・バルトルッチに弟子入りして宗教音楽と対位法、即興演奏、作曲を学び、1992年にはチェンバロをパオラ・ベルナルディに師事。
その間、1989年には、17世紀後半から18世紀初頭のイタリア音楽を専門とする音楽アンサンブル「Et in Arcadia Ego」を設立するなど、ソリスト、アンサンブル奏者として活動し、最近ではバロック風の衣装で演奏したりもしています。
CDは、Brilliant Classics、Uraniaなどから発売。
トラックリスト (収録作品と演奏者)
ユベール・ルノット (1704-1745)
CD1 73'24
クラヴサン曲集. イ長調
1. ラ・バディンヌ 4'03
2. 第1メヌエット. -. 第2メヌエット 3'41
3. ロンドー 5'01
4. ランジュエ 1'10
5. ミュゼット・ルレー 1'52
6. 軽歩兵の行進 1'38
クラヴサン曲集. ト長調
7. アレグロ 3'40
8. ロンドー:プレスト 2'02
9. メヌエット 1'22
10. ル・プティ・リアンと4つの変奏 5'01
11. ミュゼットのロンドー 1'42
12. メヌエット 1'37
13. アンダンテ 2'56
14. アレグロ. [ジーグ] 2'43
15. ロンドー:アレグロ 4'36
16. [プチ]. メヌエット 0'43
17. アンダンテと変奏 4'11
18. メヌエット 1'29
19. アレグロ 3'49
20. スイート [デュ・プレセダン] 短調のアレグロ 2'41
21. アレグロ 3'19
22. アレグロ 4'01
23. ロンドー 2'23
24. スイートのジーグ 2'37
25. アレグロ 4'49
CD2 79'22
クラヴサン曲集. ヘ長調
1. ロンドー(速すぎず、優雅に) 4'02
2. メヌエット 0'54
3. アンダンテと変奏 3'56
4. 民兵の行進 1'22
5. アレグロ 3'48
クラヴサン曲集. ニ長調
6. アンダンテ 4'14
7. アレグロ 2'33
8. 第1メヌエット - 短調の第2メヌエット 3'53
9. アンダンテと変奏 4'05
10. アンダンテ 3'26
11. アレグロ 3'04
12. アンダンテ 3'33
13. アレグロ 2'38
14. セシリアナ:アンダンテ 4'11
15. アレグロ 3'03
16. ファンファーレ付きの狩人の行進 - H.の行進 3'32
17. アレグロ 3'56
18. パストレッラ 3'56
19. アレグロ 3'48
20. アレグロ 3'49
21. アンダンテ 5'53
22. アレグロ 5'26
CD3 79'43
クラヴサン曲集. 変ロ長調
1. アレグロ・ノン・トロッポ 4'07
2. アレグロ 3'11
3. アンダンテと2つの変奏 - スイートのアンダンテのジーグ 14'49
4. アレグロ 4'53
クラヴサン曲集. ハ長調
5. レ・ルーラドとアルペジオ 6'31
6. ロンドー:ルーレ 3'34
7. 第1メヌエット - トリオの第2メヌエット. . 2'09
8. ロンドー 3'27
9. ジーグ 3'31
10. ロンドー:カンタービレ 4'05
11. アンダンテ - アレグロ 7'08
12. レ・バガテル、あるいはリエージュのフォリアと11の変奏 - リエージュのフォリアのメヌエット 15'41
13. 急流:アレグロ 6'25
フェルナンド・デ・ルーカ(チェンバロ)
使用楽器:ブランシェ・モデル(1754)/クラウディオ・カポーネ製作(1985)
録音:2022年7月25〜31日
場所:イタリア、ノヴァーラ、ボルゴ・ティチーノ
Track list
Hubert Renotte 1704-1745
Pièces de Clavecin
CD1 73'24
Pièces en La [in A]
1 La Badinne 4'03
2 1er Menuet - 2me Menuet 3'41
3 Rondeau 5'01
4 L'Enjoué 1'10
5 Musette lourée 1'52
6 Marche des Pandoures 1'38
Pièces en Sol [in G]
7 Allegro 3'40
8 Rondeau. Presto 2'02
9 Menuet 1'22
10 Le petit Rien & 4 Variations 5'01
11 Rondeau en musette 1'42
12 Menuet 1'37
13 Andante 2'56
14 Allegro [Gigue] 2'43
15 Rondeau. Allegro 4'36
16 [Petit] Menuet 0'43
17 Andante & Variation 4'11
18 Menuet 1'29
19 Allegro 3'49
20 Suitte [du précédent] Allegro en mineur 2'41
21 Allegro 3'19
22 Allegro 4'01
23 Rondeau 2'23
24 Gigue en Suitte 2'37
25 Allegro 4'49
CD2 79'22
Pièces en Fa [in F]
1 Rondeau. Pas trop vite mais gratieusement 4'02
2 Menuet 0'54
3 Andante & Variation 3'56
4 Marche des Miquelets 1'22
5 Allegro 3'48
Pièces en Ré [in D]
6 Andante 4'14
7 Allegro 2'33
8 1er Menuet – 2me Menuet en mineur 3'53
9 Andante & Variation 4'05
10 Andante 3'26
11 Allegro 3'04
12 Andante 3'33
13 Allegro 2'38
14 Cæciliana. Andante 4'11
15 Allegro 3'03
16 Marche des Chasseurs en fanfare – Marche des H. 3'32
17 Allegro 3'56
18 Pastorella 3'56
19 Allegro 3'48
20 Allegro 3'49
21 Andante 5'53
22 Allegro 5'26
CD3 79'43
Pièces in Si bémol [in B-flat]
1 Allegro non troppo 4'07
2 Allegro 3'11
3 Andante & 2 Variations –
Gigue en Suite de l'Andante 14'49
4 Allegro 4'53
Pièces en Ut [in C]
5 Les Roulades et harpegio 6'31
6 Rondeau. Louré 3'34
7 1er Menuet – 2me Menuet en Trio 2'09
8 Rondeau 3'27
9 Gigue 3'31
10 Rondeau. Cantabile 4'05
11 Andante – Allegro 7'08
12 Les bagatelles ou les Folies de Liège & 11 Variations – Menuet en Suitte des Folies de Liège 15'41
13 Le Torrent. Allegro 6'25
Fernando De Luca harpsichord
Recorded on 2022 July 25-31 in Borgo Ticino (Novara, Italy)