パーセル前夜の英国に静々と浸透していたフランス音楽の足跡
太陽王ルイ14世のフランス王室にあって、先代ルイ13世の頃からの王室クラヴサン奏者として、この楽器特有の音楽語法の開拓に大きく寄与した名匠シャンボニエール。クープラン一族を見出した逸話でも知られる作曲家ですが、その偉業は早くからフランスの外でも賞賛されており、本盤はその英国における影響を充実したプログラムで辿れる好企画です。
一般に英国音楽史では、清教徒革命でルネサンス以来の伝統が断絶した後、1660年の王政復古で亡命先のフランスから戻ったチャールズ2世がフランス風音楽の流行を促したとされますが、鍵盤音楽の世界ではそれよりも早く、既に共和政時代に作られ始めた写本でもシャンボニエール作品が筆写されており、同時代の作品にもフランス風の作法が垣間見える舞曲が散見されるほか、その頃に英国を訪れたフローベルガーもフランス式の曲を同地で書くなど確かな影響関係が見られます。
演奏者ルイーズ・アカボは7歳の頃から名手アリーヌ・ジルベライシュ門下にクラヴサンを学び、18歳でスコラ・カントルムに入りイェルク=アンドレアス・べッティヒャーとフランチェスコ・コルティらの薫陶を受けた後パリに移り、21世紀フランス屈指の実力派ベアトリス・マルタン門下でディプロマを得た古楽ネイティヴ世代の輝かしき俊才。17世紀モデルのクラヴサンによる精妙な演奏を「ALPHA」レーベル初期からの名技師アリーヌ・ブロンディオが場の気配と共に見事に収録しています。(輸入元情報)
【収録情報】
● ニ短調の組曲
01. ジョン・ロバーツ(生歿年不詳]:プレリュード ME
02. アルメイン ME
03. ジャック・シャンピオン・ド・シャンボニエール[c.1601-1672]:アルメイン(クラント) ER
04. シャンボニエール:サラバンド MB
05. シャンボニエール:ジグ『ラ・マドレネット』 MB
06. ジャン=アンリ・ダングルベール[1629-1691]:プレリュード JA
● イ短調の組曲
07. シャンボニエール:アルマンド『稀有』 JC1
08. シャンボニエール:クラント MB
09. マシュー・ロック[c.1621-1677]:サラバンド(ウィリアム・サッチャー編) ME
10. ブライアン氏(アルベルトゥス・ブライン)[c.1621-1668]:エア(プレイフォード編『音楽の侍女』1678年版より)
11. ブライアン氏:サラバンド(『音楽の侍女』1678年版より)
12. シャンボニエール:ジグ『ラ・ヴェティル(瑣事)』(オールダム写本より)
13. ヨハン・ヤーコプ・フローベルガー[1616-1667]:憂鬱を晴らすためにロンドンで作られた嘆きの曲
● ハ長調の組曲
14. ロック:プレリュード ME
15. ロック:アルメイン ME
16. シャンボニエール:クラント『イリス』(ブリュッセル王立音楽院図書館の写本 Ms 27220より)
17. ロック:カントリー・ダンス ME
18. シャンボニエール:パヴァーヌ MB
● フローベルガー:組曲 第18番ト短調
19. アルマンド
20. ジグ
21. クラント
22. サラバンド
ダングルベール:
23. シャコンヌ・ロンド JA1
● ト長調の組曲
24. クリストファー・プレストン(生歿年不詳]:プレリュード
25. シャンボニエール:アルマンド JC2
26. ダングルベール:シャンボニエールのサラバンドにドゥーブルを添えて(フランス国立図書館所蔵のダングルベール自筆譜 Res 89 terより)
27. シャンボニエール:クラント MB
28. シャンボニエール:サラバンド MB
29. ダングルベール:シャンボニエール氏のトンボー JA1
【出典略記】
ME:マシュー・ロック編纂『メロセジア』(1673年ロンドン刊)
ER:『エリザベス・ロジャースのヴァージナル音楽帳』(1656年、手稿譜)
MB:ボーアン写本(17世紀後半、手稿譜)
JC1:シャンボニエール作曲『クラヴサン曲集 第1巻』(1670年パリ刊)
JC2 : シャンボニエール作曲『クラヴサン曲集 第2巻』(1670年パリ刊)
JA1:ダングルベール作曲『クラヴサン曲集 第1巻』(1689年パリ刊)
ルイーズ・アカボ(クラヴサン=チェンバロ)
使用楽器:製作者不詳の1679年製モデル「ディエム」(パリ、個人蔵) に基づく、アンデシュ・シルストレーム製作の再現楽器
録音時期:2024年10月
録音場所:オランダ、スヒーダム、ヴェストフェスト90
録音方式:ステレオ(デジタル)