『キャンディード』全曲　バーンスタイン＆ＬＳＯ、他

沸き立つようなリズムと美しい旋律を持つ序曲で名高いバーンスタインの傑作『キャンディード』。1956年に初演されたこの作品は、マッカーシズムの影響で公然と「赤狩り」（思想弾圧）がおこなわれていた時代に、バーンスタインがある種の使命感をもって発表した作品でもあり、自由主義的な言動からＦＢＩにマークされながらも、劇場人として、人間の夢や欲望、権力闘争、挫折、哀愁といった諸相を、真の自由と尊厳とはいったい何かという問いかけを持ってつくりあげた力作でもあります。
　しかし、バーンスタインがこの作品に込めた寓意や風刺的な内容は、実際のミュージカルの現場ではほとんど無視されて、あまりにもお気楽志向な改作が頻繁におこなわれてしまったため、作品本来の姿をきちんと知らしめるためにバーンスタイン自身が納得の行く形で改訂し、演奏会形式で取り上げたのが、このＤＶＤに収録された『キャンディード』なのです。
　『キャンディード』の原作は、フランス革命時代の高名なフランスの作家、ヴォルテールによる『カンディード』。この壮大な楽天主義批判の物語に感銘を受けた女流劇作家のリリアン・ヘルマン（赤狩り時代を描いた映画『ジュリア』で有名）が、バーンスタインに舞台作品にするよう薦めたのが『キャンディード』作曲のきっかけとなりました。
　戦争、略奪、殺人、火刑、黄金郷、恋愛、別れ、再会といったさまざまなキーワードが思い浮かぶ作品ですが、ヴォルテールが示した結論は、人間の幸福は、穏やかな生活の中でのささやかな仕事とその成果がもたらす喜びにあるのではないかといったもののようで、バーンスタインの音楽もそのことを雄弁に語りかけてきます。

レナード・バーンスタイン：『キャンディード』全曲
　キャンディード：ジェリー・ハドレー
　クネゴンデ：ジューン・アンダーソン
　オールド・レディー：クリスタ・ルートヴィヒ
　パングロス博士：アドルフ・グリーン
　総督：ニコライ・ゲッダ
　パケット：デッラ・ジョーンズ
　マクミリアン：カート・オルマン
　船長：カート・オルマン
　熊使い：クライヴ・ベイリー
　裁判官：クライヴ・ベイリー
　ツァー・イワン：クライヴ・ベイリー
　化粧品売り：ニール・ジェンキンズ
　裁判官：ニール・ジェンキンズ
　チャールズ・エドワード：ニール・ジェンキンズ
　医者：リンゼイ・ベンソン
　裁判官：リンゼイ・ベンソン
　スタニスラス：リンゼイ・ベンソン
　ジャンク屋：リチャード・スアート
　裁判官：リチャード・スアート
　ヘルマン・アウグストゥス王：リチャード・スアート
　練金術師：ジョン・トレレーヴェン
　裁判官：ジョン・トレレーヴェン
　サルタン・アクメット：ジョン・トレレーヴェン
　ヴォルテール：アドルフ・グリーン
　ロンドン交響合唱団
　合唱指揮：サイモン・ジョリー
　ロンドン交響楽団
　指揮：レナード・バーンスタイン

　収録時期：1989年12月
　収録場所：ロンドン、バービカン・センタ
　収録時間：148分
　演出：ハンフリー・バートン