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【インタビュー】ミュージカル「スクルージ」市村正親
2015年11月24日 (火) 10:00
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市村正親スクルージと豪華キャストによる、クリスマス時期にピッタリの舞台が2年ぶりに帰ってくる。イギリスの国民的作家チャールズ・ディケンズの名作『クリスマス・キャロル』を原作としたこのミュージカル。1994年の初演以来、市村正親が何度も再演を重ねてきている。一人芝居の「クリスマス・キャロル」も含め、“スクルージ”といえば、市村正親をおいて他にはいないと感じるファンも多いことだろう。
今回、2年ぶり5回目の主演を務めることになった市村正親の中には、既にスクルージその人が息づいていた。稽古場を覗かせてもらうと、スクルージの市村が、その場その場で感じたことを発言し、返し稽古が進められていく。そのピリっとした緊張感と、少しずつ着実にでき上がっていく稽古の背景に、市村のこの舞台への想いと、愛情の強さが垣間見えた。
稽古中の市村は、スクルージでありながら、まるで他の役者の皆さんに魔法の粉を撒いている精霊のようにも見えた。「あら、そう?なんの精霊かしら?おかまの精霊かしら?(笑)」とジョークで受けて周囲を和ませる反面、一人芝居「クリスマス・キャロル」での台本も含め全てを手がけた経験から、そのテーマを誰よりも把握できているという確固たる自信で臨んでいる厳しさも滲ませていた。
「今日ね、まだ稽古3日目なんだよ。」といいながら、ミュージカル「スクルージ」に再度挑む想いを語ってくれた市村。
その圧倒的な熱量と、作品にこめられた愛情、そして俳優として感動を与え続けることができる彼の魅力をたっぷり伺うことができた。
なぞるのは一番よくない。その時に感じたことを大事にしたい。
市村 稽古が始まる前に一人で自主稽古で思い出しをして、稽古場に入ったら直ぐにパッとできるようにしていましたね。5日ほどやったら後はもう通し稽古に入るんだけど、1週間で本番ができるくらいの気持ちで入っています。
―稽古を拝見したのですが、市村さんが全てのシーンをひとつも見落すことなく、共演者の皆さん全員を丁寧に細かく見ていらしたのが印象的でした。
市村 あ、見てたんだね、全然気付かなかったよ。俳優さんの中には、でしゃばっちゃいけないという風潮があるんだけど、でしゃばっていいと言ってるんだよね。「それは俳優の仕事じゃないでしょ?」って。役者は周りに合わせちゃダメ。自分の役が何であろうと、全部の役を作っていかなくちゃならないんだ。他の芝居の時にはそんなことはないけれども、今は「スクルージ」だから嫌味を言ってるんです。そういう役が降りてきちゃってるんだね(笑)。「それ違うよ。」「そんなところでごちゃごちゃ言っていてもわかんないよ。」ってね。時間がないからこそ、気付いたことはどんどん言う、そしてみんなで作っている感じかな。
―凄く刺激になりました。
市村 いやいや、偉そうに言っているだけだよ。でもね、凄く真剣にやってますよ。2年前にやったことをなぞるのは嫌なので、今この瞬間でどう感じるかを模索して、違和感があればどんどん言う。そのなかで一番いい方法を見つけていくというかね。
―身体に染み付いているであろう役柄なのに、新鮮に対応していらっしゃる様子に驚きます。
市村 そうでなかったらお芝居じゃないんだよね。用意したものではダメなんだよ。その場その場で感じたことを、台詞を借りて表現しなくてはいけない。でも、そういう風になれるまでに時間はかかったかもしれないな。昔の舞台録画を見るとそこまでできてなかったしね。不思議な話だけれども、このコスチュームを着て、この音楽の中にいると、何もしなくてもスクルージになってくるから、思わぬ表現が出来たりする。なぞるのは一番良くないし、そのときに感じたことを大事にしていきたいよね。
―常に新鮮な気持ちを保つための秘訣があるのでしょうか。
市村 作品がいいからそういられるんですよ。「ハムレット」や「マクベス」、「ミスサイゴン」などもそうだけど、この「スクルージ」でもある何年かの旅ができる。過去、現在、未来、それぞれの精霊と会い、一夜のうちに、子どもの頃から未来までのステキな旅をする。美味しいものやキレイな景色、いい心、いろいろなものと出会えるから飽きないし、新鮮にやれる。でも新鮮に受け止めるためには、相手もそういう芝居をしてくれないと、そう受け止められない。だからみんなお互いに黙っているのはおかしいよ、とそこに行き着く訳なんです。リアルにお芝居をやらないといけないんだよね。稽古の間はたくさん恥をかくべきなんだけど、なかなかそれも怖いのかな。この間「NINAGAWA・マクベス」で蜷川さんからいっぱいダメ出しをもらったとき、「よくへこたれないですね」って言われたの。僕からしたらそんなにダメをもらえることが財産だって思うんだけどね。
―そんなに凄かったんですね。
市村 蜷川さんも「今回、いっちゃんに死ぬほどダメ出した」って(笑)。でも僕は全然へこたれない。だって嬉しいからね、そういう風に言ってもらえるのは。いっぱいダメ出しをもらうと自分がどんどん良くなっていくんだよね。でも「スクルージ」では、自分でダメを出さなくちゃいけないし、誰かが出してくれる訳じゃない。だから慣れでやりたくないんだね。観に来てくださったお客さんに、以前とはまた違うものを届けたいですから。だから稽古場でも真剣勝負です。
スクルージと共に行く、自分を見つめ直す旅

―今回はどのような「スクルージ」になりそうでしょうか。
市村 再演を重ねる毎に、どんどんシンプルになってきているような気がするんだ。スクルージの旅をお客さんが同じように体験するというか、スクルージの若い頃を通して自分の若い頃を見るように、共に旅ができればと思っているんだよね。スクルージ自身が発見することがお客さんの発見に繋がると思っているから、僕が舞台上できちんと物を見て発見していくことが大切なんだ。だから、どうしようと言うよりは、むしろその中で漂って、生きていくという感じかな。
―今回、新たに発見したことはありますか。
市村 まだぶつ切りの稽古で旅をしていないから、通し稽古をしていく中で感じていくんでしょうね。通しをしながら「ここはこういうことなのかな…」と都度発見をしていくんだと思うな。そこはスクルージとしてというよりも、演者の市村が感じることだけどね。
―市村さんにとって「スクルージ」はひと際特別な演目のようですね。
市村 そうね、ディケンズの『クリスマス・キャロル』はある種崇高なものであり、普遍的なものだから。残り少ない人生の中で人間が変わっていくというのは「スクルージ」でないと演じられないしね。
―ご自身とスクルージの共通点はありますか?
市村 「働かないで人の寄付だけで生きようなんて冗談じゃない!」「浮かれているな!」というのは、スクルージと同じだと思うよ。僕の知っている牧師さんから、18世紀後半にディケンズが「クリスマス・キャロル」を書いたのは、人々が本当のクリスマスの意味を忘れてどんちゃん騒ぎをするようになったことに対しての警鐘というか、それに気付かせるためだと聞いたのね。「クリスマス?はん、馬鹿馬鹿しい」とか、「クリスマスのプレゼント?そんなんじゃあないだろう!」とディケンズはスクルージに言わせている。そこでスクルージが本当のクリスマスに気付いていく。一人芝居では「クリスマスの本当の意味を知っているのはスクルージでしょう」って言っているんだけれども、そこが感動なんだよね。今の渋谷のハロウィンもクリスマスもね、何なんだって話しなんです。うちの子どもからもサンタさんにお願いしたいって頼まれますよ。でもそんなもんがクリスマスじゃないんだ、という話を、ディケンズが作ったんだと思うんだよね。まあ…子どもに返事は書くけれども(笑)。
常に自分を見つめ直しているという市村。目に見えるもの、心に去来すること全てに対して思いを馳せ、考え、「やっぱり限りある人生だから、どんなに小さいことやどうでもよく思えることにでも、こだわりを持つことは大事だなと思うよね」と語る。何事にでも楽しめる感性を持った市村の「スクルージ」、今年はどんな姿を見せてくれるのか楽しみだ。
下は3歳のお子さまから楽しめる内容であるばかりか、大人は自分を見つめ直すこともできる深さを持つ作品。「ぜひ過去・現在・未来という人生の旅を、スクルージと共にしてみませんか?」という市村スクルージと一緒に、自分を見つめ直すステキな時間を過ごしてはいかがだろうか。
ミュージカル「スクルージ」は、2015年12月4日(金)から15日(火)まで、赤坂ACTシアターにて上演される。

公演詳細
ミュージカル「スクルージ」
2015/12/04(金)〜12/15(火) 赤坂ACTシアター
CAST
エベネザー・スクルージ 市村正親
ボブ・クラチット 武田真治
イザベル/ヘレン 笹本玲奈
ハリー/若き日のスクルージ 田代万里生
過去のクリスマスの精霊 香寿たつき
トム・ジェンキンス 畠中洋
ジェイコブ・マーレイ 安崎 求
フェジウィッグ夫人 今 陽子
現在のクリスマスの精霊 今井清隆
阿部裕
青山航士 乾あきお 高橋広司
中西勝之 安福毅 秋園美緒
小島亜莉沙 田中利花 七瀬りりこ
三木麻衣子 森 加織 横岡沙季
飯田汐音 ※加藤憲史郎 加藤智恵里 古賀瑠
設楽銀河 ※高橋玲生 鶴野華苗 松本拓海
※Wキャスト
STAFF
原作:チャールズ・ディケンズ「クリスマス・キャロル」より
脚本・音楽・作詞:レスリーブリカッス
演出:井上尊晶
訳詞:岩谷時子
音楽監督:鎮守めぐみ
音楽監督補:前嶋康明
振付:前田清実
美術:横田あつみ
照明:塚本悟
音響:山本浩一
衣裳:スー・ウィルミントン
衣裳コーディネート:沼田和子
ヘアメイク:佐藤裕子
指揮:西村友
演出助手:西祐子
舞台監督:中村貴彦
技術監督:小林清隆
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