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「ベルリン・フィル・ラウンジ」第13号:ティーレマンのブルックナー、絶賛!

2009年12月16日 (水)

ドイツ銀行 ベルリン・フィル
ベルリン・フィル&HMV提携サイト
 ベルリン・フィル関係ニュース

ジルベスター・コンサート2009
 今年のジルベスター・コンサートは、ラトル指揮のロシア・プログラムです。ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番、チャイコフスキーの《くるみ割り人形》第2幕が演奏され、前者のソロは、ラン・ランが担当します。なおラン・ランは今シーズン、ベルリン・フィルのピアニスト・イン・レジデンスも務めています。日本では、NHK衛星ハイビジョンで2010年1月16日(土)午後11時より放送される予定です(NHKのウェブサイトによる情報。写真:©Monika Rittershaus/Berliner Philharmoniker)。

ベルリン・フィル、2012年以降もザルツブルク・イースター音楽祭に出演
 ベルリン・フィルは、2012年以降もザルツブルク・イースター音楽祭に出演し続けることになりました。ベルリン・フィルとイースター音楽祭、ザルツブルク州および市では、過去数ヶ月にわたり今後の契約の諸条件をめぐって審議を重ねていました。その過程でバーデン・バーデン音楽祭が、復活祭時のオペラ・プロダクションへの参加を申し出、当団では両者の間で決断する必要に迫られていました。しかしベルリン・フィルは、先週のオーケストラ総決議でザルツブルクに投票。これにより、ザルツブルクへの残留が確定しました。

 次回のデジタル・コンサートホール演奏会

ベルリン・ドイツ・オペラの新音楽総監督ラニクルズ、ベルリン・フィルに登場
(日本時間1月21日早朝4時)


 今年最後のデジタル・コンサートホール中継は、ベルリン・ドイツ・オペラの音楽総監督に就任したドナルド・ラニクルズが指揮します。ラニクルズは、日本ではあまり知られていませんが、欧米ではワーグナーやR・シュトラウスのオペラで高く評価されている指揮者です。ベルリン・フィルには、2003、06、08年に続き、4度目の登場。この町の音楽界で重要な役割を演じることになりますが、ベルリン・フィルではすでにブリテン《戦争レクイエム》やベルリオーズ「レクイエム」で成果を上げています。
 今回のメイン曲目は、ブラームスの《ドイツ・レクイエム》です。これによりラニクルズは、これまでの“レクイエム路線”を続行するかたちになります。合唱は、彼が首席客演指揮者を務めるアトランタ交響楽団の合唱団。ちなみに同団は、彼の前2回の客演にも随行しています。またコンサートの前半には、アメリカの現代作曲家セバスティアン・カリアーの《トレイシズ》が初演される予定です。この曲では、ベルリン・フィルのハーピスト、マリー=ピエール・ラングラメのソロも注目されます(写真:©André Rival)。

【演奏曲目】
カリアー:トレイシズ(ハープと管弦楽のための協奏曲)世界初演
ブラームス:ドイツ・レクイエム

ハープ:マリー=ピエール・ラングラメ
ソプラノ:ヘレナ・ユントネン
バリトン:ジェラルド・フィンリー
合唱:アトランタ交響楽団合唱団(合唱指揮:ノーマン・マッケンジー)
指揮:ドナルド・ラニクルズ


放送日時:12月21日(月)午前4時(日本時間・生中継)

この演奏会をデジタル・コンサートホールで聴く!

 アーティスト・インタビュー

サー・サイモン・ラトル
「デジタル・コンサートホールは、新種のツアーと呼ぶべきものです」
聞き手:クラウス・シュパーン(『ツァイト』紙音楽記者)

 今号と次号では、2009/10年シーズン開幕コンサートの幕間に中継されたラトルのインタビューをご紹介します。ドイツを代表する週刊紙『ツァィト』の音楽記者クラウス・シュパーンが聞き手を務めていますが、質問の多くは、デジタル・コンサートホールの“ヴァーチャル性”を疑問視するものです。“ベルリン・フィルはライヴのコンサートよりも、ヴァーチャルなコンサートを重視しているのか?”という観点ですが、これはデジタル・コンサートホールがスタートした際に、ドイツのプレスで多く見られた批判です。これに対しラトルは、「ライヴを否定するものではない。その補足である」と明確に論じています。シュパーン氏の攻撃的な質問にも驚かされますが、それをすらりとかわすラトルの対応もなかなかの見ものです。

シュパーン 「指揮者というのは、現実世界における聴衆とのふれあいを求めるものだと考えられますが、デジタル・コンサートホールの話が出たとき、不審に思いませんでしたか?」

ラトル 「それはまったく思いませんでした。というのは、これが未来だということがあまりにもはっきりしていたからです。今日、レコード業界はどんどん難しくなっていますが、私たちとしては、オーケストラがやっていることを聴衆の皆さんに伝えてゆく必要を感じています。デジタル・コンサートホールは、言わばプロトタイプであって、単にコンサートだけではなく、今後劇場中継など、他の様々な分野でも広まってゆくでしょう。もちろんこれはライヴの代りになるものではありませんが、世界中の人々にとってベルリン・フィルがやっていることを観る可能性を開くものです。それが一番重要なことだと思います。これまで、インターネット中継を誰も思いつかなかったことを、不思議に思うくらいです」

シュパーン 「ベルリン・フィルは、完璧主義であることで有名です。ラトルさんは、中継の技術的な完成度にも満足されていますか?」

ラトル 「映像と音声のスペックは本当に高いのですが、最初このプロジェクトをスタートした時、我々は一般のインターネット・ユーザーが受信できる技術的状況になっていないだろう、と思っていました。しかし技術の進歩とは本当に早いもので、トップの水準で開始することができたのです。技術的には、ナイトメア(注:悪夢、つまりきわめて大掛かり)だと言えます。以前はフィルハーモニーで一番白髪があるのは私でしたが、今はこの技術に関わっている人たちに白髪の人が増えて困っているんですよ。しかし撮影と放送の現場は、たいへんうまく行っています。実際、デジタル・コンサートホールは、音楽ファンの間でとても話題になっているんです。使っている人たちが口コミでその素晴らしさを伝えて、利用者が増えています。もちろんそれは、こちらの意図でもあるわけですが」

シュパーン 「演奏が収録・放送され(ライヴでなくヴァーチャルなものとして提供され)ることについて、音楽的に危険だと思いませんか?」

ラトル 「演奏者が収録されている、と気がついたとき、危険になる可能性がありますね。というのは私が知る限り、最も素晴らしいライヴの記録とは、録画されていることを気にせずに演奏した時のものだからです。意識すると、間違えずに弾こうと構えてしまい演奏が固くなってしまいます。もちろん収録チームからは、3日ある演奏会のうち最後の日に中継があると言われています。でもすべての楽団員が、それをはっきりと意識しているわけではありません。実際カメラはまったく目に付かないので、撮影されているということは考えないですむのですよ。まずはごく普通に演奏すること。一番大切なのは、リスクを恐れないライヴのエモーションが、ネット上の聴衆にも伝わることです」

シュパーン 「映像のカメラワークは、どのようなスタイルなのでしょうか。指揮者にずっとスポットが当たっているものですか(笑)」

ラトル 「ああ、それが本当の私の希望ですね。現実はまったく違いますが(笑)。冗談はともかく、映像は6台のカメラで撮られています。指揮者をとらえたアングルのみを観ることはできません。実はそれは、昔ロンドンのプロムスの収録チームがやろうとしたことなんです。それから私の家には、カルロス・クライバーがオケ・ピットのなかで指揮しているヴィデオがあります。彼はもちろん撮られていることは知らなかったわけですが。私にとっては宝物です。それはともかく、デジタル・コンサートホールのカメラワークは、非常にシンプルで、音楽的なやり方です。何千回もアングルが変わる、というようなことはありません。観ている人が、コンサートホールに座っているような感覚を覚えるのに、必要充分なスタイルです。もちろん実際のコンサートより近く観れる部分もあるわけで、楽団員の表情やキャラクターを間近で観察することもできます」

シュパーン 「聴ける人の数を増やすということは、それほど重要なのでしょうか」

ラトル 「ベルリン・フィルを聴きたい人がデジタル・コンサートホールを訪ねてくれれば、とても嬉しいというだけです。もちろん人数を増やす、ということが目的ではありません。しかし我々がツアーで世界中を回って人々に演奏を聴いてもらうということは、物理的に限界がありますよね。ですから人々に、我々のところに来てもらいたいと思うのです。新種の演奏旅行のあり方、と言ったらよいでしょうか」

シュパーン 「デジタル・コンサートホールが、将来(ライヴのコンサート以上に)ベルリン・フィルを聴く最も主要なメディアになると思われますか」

ラトル 「もちろん生の舞台を観て、肌で感じることができれば、それが一番だと思います。しかしベルリンのフィルハーモニーに来れないという人にとっては、デジタル・コンサートホールは次善の策だと思います」(後半に続く)

シーズン開幕演奏会の予告編映像を観る(無料)
シーズン開幕演奏会をデジタル・コンサートホールで聴く!

 ベルリン・フィル演奏会批評(現地新聞抜粋)

ティーレマンは、ブルックナーの交響曲第8番を「恍惚とした、全宇宙を映し出す永遠の瞬間へと変貌させた」
定期演奏会(2008年12月11〜13日)

【演奏曲目】
ブルックナー:交響曲第8番

指揮:クリスティアン・ティーレマン

 先週ベルリン・フィルに客演したばかりのティーレマンですが、1年前のブルックナーの「第8」もたいへんな評判を呼んでいます。ベルリンの批評家からは一様に誉められているとは言いがたいティーレマンですが、今回ばかりはさすがに各紙絶賛。実際、デジタル・コンサートホールで聴くことのできる演奏は、アンチ・ティーレマン派でさえ認めざるを得ない圧倒的な密度を湛えています。ベルリン・フィルでこれほどの「第8」が実現したのは、2001年のギュンター・ヴァントの客演以来かもしれません。

「全身全霊を傾けて演奏するベルリン・フィルを従えたティーレマンは、透徹したブルックナーを聴かせた。雷鳴のような大音声、ぞっとするような囁き、意味深いゲネラルパウゼの数々…。これは今シーズンの演奏会のなかでも最も特別なものに数えられるだろう。喝采を送る聴衆は、そのことを強く意識していた。(略)ティーレマンは、ブルックナーの内心を開示するだけではない。彼はそれを、指揮棒を使って演出するのである。この晩の彼の演奏は、以前に比べて緊迫感と集中力を明らかに増していた。ジェスチャーは目に見えて少なくなり、音楽表現の強度と説得力が増強していたのである。解釈は、見事な瞬間の連続であるにとどまらず、文字通り曲と一体になったもので、作品の光と影を完全にマスターし、表現し尽くすものとなっていた。それはブルックナーが1時間半にわたって聴かせる感情の大海を、まさに波立たせるものであった(2008年12月15日『ベルリナー・モルゲンポスト』クラウス・ガイテル)」

「ティーレマンのブルックナーは、厳粛でカトリック的であり、ワーグナー的である。それは厳しいタクトに貫かれているが、決して空虚な大音声に陥ることはない。彼は行進曲を、コラールへと変貌させる。それは信仰のコラールであり、恭順さにみたされているのである。そしてのその恭順さは、アダージョを恍惚とした、全宇宙を映し出す永遠の瞬間へと変貌させた。フィナーレではコサックの行進は聴かれない。それは、天国への階段を上る人々の歩みである。その意味でティーレマンは、“優しいプロイセン人”だと言えるかもしれない。彼はまったく妥協しない一方で、恭しく跪くことを知っている。そしてベルリン・フィルに、無用に声高になることを禁じるのである。全曲の終わりは、この世のものとは思われない神々しさを示していた。喝采の嵐!(2008年12月13日『ターゲスシュピーゲル』クリスティアーネ・パイツ)」

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 ドイツ発最新音楽ニュース

本コーナーでは、ドイツおよび欧米の音楽シーンから、最新の情報をお届けします。

2010年ザルツブルク音楽祭の予定
 2010年ザルツブルク音楽祭のプログラムが発表された。オペラは計6プロダクションが予定されており、リームの《ディオニソス》が初演(メッツマッハー指揮オーディ演出)。その他ムーティ指揮のグルック《オルフェオとエウリディーチェ》(ドルン演出)、M・アルブレヒト指揮のベルク《ルル》(ネミロヴァ演出プティボン、フォレ、シャーデ他)、ガッティ指揮のR・シュトラウス《エレクトラ》(レーンホフ演出W・マイヤー、テオリン、ウェストブレーク、パーペ他)が新制作となる。再演はモーツァルト《ドン・ジョヴァン二》(ネゼ=セガン指揮グート演出マルトマン、レッシュマン、シュロット他)、グノー《ロメオとジュリエット》(ネゼ=セガン指揮シェア演出ネトレプコ、ベッチャーラ他)。この他、グルベローヴァ、ジョルダーニ、ディドナート、フルラネットによる演奏会形式の《ノルマ》も予定されている(写真:記者会件の模様©Wolfgang Lienbacher)。

ベルリン・ドイツ交響楽団、ベルリン放送響交響楽団の統合案とその顛末
 12月初旬、ベルリンのふたつの放送オーケストラ、ベルリン・ドイツ交響楽団とベルリン放送交響楽団が合併されるという案が持ち上がった。これは、出資者のひとりであるドイッチュラントラジオが発案したもので、それによればベルリン放送響のマレク・ヤノフスキが首席指揮者に留任。ベルリン・ドイツ交響楽団は、事実上併合される立場に立たされた。これに対しては、プレスが激しい批判を浴びせ、さらにベルリン・フィルをはじめとする文化機関も反対声明を発表。その結果、もうひとつの出資者である国が案を拒否する姿勢を示し、統合案はとりあえず撤回となった。なお両オーケストラは、ドイツ連邦共和国(35%)、ドイッチュラントラジオ(40%)、ベルリン州(20%)、ベルリン・ブランデンブルク放送(5%)が共同出資するROCベルリンという運営団体の傘下にある。

ミラノ・スカラ座、シーズン・オープニング《カルメン》新演出は大騒動
 12月7日に初日を迎えたスカラ座の《カルメン》は、演出が大スキャンダルとなっている。シチリア出身のエンマ・ダンテ(伊演劇界のスター演出家)の舞台は、カトリック教会のシンボルを批判的に用いたもの。カーテンコールではブーを意味する口笛が鳴り、大騒動となった。公演を観たフランコ・ゼッフィレッリは、「彼女を招待したスカラに責任がある」と批判。これに対しダンテは、「ゼッフィレッリのようなミイラに批判されるのは本望」とやり返している。バレンボイムはダンテを援護し、「この演出は将来伝説になるでしょう。指揮することができてとても幸せです」と談話。キャストでは、カルメンを歌った新人のアニタ・ラハヴェリシュヴィリが、有望なメゾとして高い評価を受けている。

ZDF、ティーレマン&ドレスデン・シュターツカペレによるジルベスター・コンサートを中継
 ZDFドイツ第2放送では、これまでのベルリン・フィル・ジルベスター・コンサートに代り、ティーレマン指揮ドレスデン・シュターツカペレによる演奏会を大晦日に中継する。スタートは、2010年末。日本への中継が実現するかは、現在のところ未定。

訃報:ヴィエコスルフ・ステイ
 クロアチアの指揮者ヴィエコスルフ・ステイが、12月2日に58歳で亡くなった。ステイはウィーン国立歌劇場等のオペラ指揮者として知られ、同劇場では通算17演目129公演を指揮しているという。ウィーンでの最後の舞台は、2007年4月の《トスカ》であった。


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