『パンドラの匣』 公開記念! 冨永昌敬監督 インタビュー
Friday, November 20th 2009
冨永昌敬監督最新作『パンドラの匣』が太宰治生誕100年となる今年、いよいよ9/26(土)宮城県先行公開、10/10日(土)より全国順次公開となる。『パビリオン山椒魚』に続き、本作でも菊地成孔氏が音楽を手掛け、純文学が新たな装いを呈し、この現代に煌びやかな様で映像化された。冨永監督の作品はいつも、女の子がかわいい。今作の主演は、最新長篇作「ヘヴン」が発売となった、芥川賞受賞作家の川上未映子嬢や仲里衣紗ちゃん、友情出演のKIKI嬢に加えて、『シャーリーの転落人生』で大フィーチャーの瀬戸夏実ちゃん・・・と無敵な女の子達が”シアタープロダクツ”がデザインした衣装を身に纏い、その美貌を披露。また、監督作品にはおなじみ、杉山彦々氏や笠木泉氏らも出演。大映映画、菊地成孔氏の存在から派生して、”和服姿”の女性に辿り付き・・・果ては『シャーリーの転落人生』まで・・・と、『パンドラの匣』試写会にご招待!とは別の”読み物”として、おたのしみ下さい。INTERVIEW and TEXT: 長澤玲美
「太宰治を映画化したい」っていうのが先にあったっていうわけではなかったんですけど、「パンドラの匣」はやりたかったんです。もしそれが「生誕100年」を過ぎてたとしても、映画化しようとしたと思いますね。
- --- 本日はどうぞ、よろしくお願い致します。
よろしくお願いします。
- --- わたくしごとなのですが・・・監督の作品が大好きなので、直接お会いしてお話し出来て、すごく光栄です(笑)。
ありがとうございます(笑)。
- --- 最新作 『パンドラの匣』を完成披露試写会で拝見させて頂きました。太宰治生誕100年という今年、「生誕100年の公開に向けてなら、撮りやすいに違いない、と考えた」とありました。以前からこの作品を映画化されるお気持ちがおありだったそうなのですが、完成されて改めて、どうお感じですか?
そうですね。とにかく、『パンドラの匣』を映画化するためには、太宰の生誕100周年に公開することが半ば条件のようになってましたから、予定通り今年公開することができて、まずは安心してます。
- --- 『パビリオン山椒魚』はもともと、「井伏鱒ニの「山椒魚」を映画化したい」という構想からはじまった企画だったそうですが、今作は太宰治作品です。「純文学を映画化したい」というお気持ちは強いのでしょうか?
確かに井伏(鱒二)も太宰(治)も日本文学の巨匠ですが、僕自身は必ずしも純文学を映画化していきたいわけではないんです。要するに画と音に変換して面白く語り直すことさえできれば、ノンフィクションだろうが漫画だろうが、俳句だろうが三行広告だろうが、変換機である自分の目と耳を欲情させてくれるものなら何でも映画化したいと思います。
だから「太宰をやりたい」というより『パンドラの匣』をやりたかったんですよ。ただ、いわゆる文芸映画みたいなことがね、あんまりお客さんが来ないということになってるわけですよね。それはどうかと思うんですけど、配給会社からすると、「文芸映画は厳しい」というのは、1つの判断としてあるわけです。で、そういう見方に対して、「生誕100周年だったら大丈夫なんじゃないか」という大義名分を用意したと。だから、「100周年だから、太宰をやろう」ということではなかったんですよね。- --- 冨永さんの中で原作があってのものと、全くのオリジナルで小説などを書かれて、それを映画化するという区別というのは、ご自身の中で優先順位などがあるのでしょうか?
そこはあんまり区別してないんですよね。自分のオリジナル脚本で映画を作ったことは当然ありますし、漫画の映画化もやったことありますけども、どのみち脚本は自分で書くわけですから。もちろん原作のありかたを気にしないわけではないですけど、今回に関しても、もう『パンドラの匣』は僕の物語のつもりで撮ってるんですよ。太宰から奪ってる。こちらも人間だから、どんなにその原作が好きでも盲信はできないし、自分の物語として責任を取る自信がなかったら映画にできるものではないんです。だから原作通りになってるとは思ってないですね、ならないと思ってます。
- --- 音楽のお話しも伺いたいのですが、『パビリオン山椒魚』に続き、菊地成孔さんが今作でも音楽を担当されています。冨永さんは菊地さんのPV「京マチ子の夜」(「南米のエリザベステイラー」に収録)も撮られていますよね?今作の音楽は、「菊地さん以外あり得なかった」とありましたが、それはどういうお気持ちがあってのことなのでしょうか?
それはですね、菊地(成孔)さんとは知り合って6〜7年になるんですけど、そもそも僕が一方的にファンだったのが、ある時たまたま、菊地さんが僕の映画(初期の短編『ビクーニャ』(02))を観てくれたことがきっかけで仲良くなったんですね。同時に、菊地さんが所属してるイーストワークス(レコード会社)とも親しくさせてもらうようになって、はじめは菊地さんのライブの撮影を任されたんです。そこから自然に映画の話になって、いつか一緒にやりましょうと。そしたら、映画よりも先にPV(「京マチ子の夜」)を作るチャンスが廻ってきたんです。
「京マチ子の夜」を撮って気づいたことは、映画というのは映画音楽家のための長尺のPVなんじゃないか、ということでした。普通は逆ですけどね。映画とPVは目的が反対だから、映画の演出意図に沿った音楽というのが本来の映画音楽のはずです。いわゆる劇伴ですね。ところが僕の場合、そこが逆転するんですよ。たとえば『パビリオン山椒魚』は、極端にいえば「デギュスタシオン・ア・ジャズ(以下、「デギュスタシオン」)」のPVなんですよ(笑)。なぜなら、台本執筆中に延々あれを聴いてて、確実にどこか影響受けちゃってるから。当初は本気で「デギュスタシオン」みたいなことを映画でやろうとしてましたしね。だからあの映画に必要な音楽は、もともと「デギュスタシオン」の中に既に存在してるんです。そういうことを菊地さんに伝えた上で、より映画の場面に即したかたちで録り下ろしたのが『パビリオン山椒魚』のサントラです。もう「デギュスタシオン」関係ない(笑)。
今回の『パンドラの匣』も、あえて言うなら菊地さんの「記憶喪失学」のPVのつもりなんです。「大天使のように」という曲があるんですけど、あの曲を使いたいシーンがあるから貸してくれって僕は熱心に頼んだんですよ。そしたら菊地さん、嫌がるんですよ(笑)。あんな曲、合わないからって。僕のほうはもう、絶対に合うと思い込んでるでしょ。あの曲を聴きながら台本書いたもんだから。で、菊地さんが代わりにアイディア出してくれて、それというのがチェロとピアノのデュオだったんですが、なんかね、それ聴いて僕はスーッと気持が落ち着きましてね。変な話ですけど、僕の案なんかよりも映画の展開に美しくマッチした演奏だったので素直に従いました(笑)。ま、そういうように、いわば菊地さんの旧作のPVを作ろうとする僕と、僕の映画のために新録してくれる菊地さん、というふうにお互いに後出ししようとするんですね。- --- 昔の大映映画などでは、映画と音楽とのタイアップが当たり前のように行なわれていたようで、今の独立してあるミュージシャンのPVが映画の中で流れていたりしたみたいですよね?映画のシーンに突然、ピーターさんが出て来て歌を唄うシーンがあったりして。今の冨永さんのお話しを聞いて、そういう風に解釈されるとまたすごく、贅沢ですね。
そっか、HMVさんだから菊地さんの話は、おもしろいかもしれないですね(笑)。
- --- 以前、菊地さんに取材させて頂いたこともありまして(笑)・・・。
そうですか。ちなみにいつ頃でしたか?
- --- 「服は何故音楽を必要とするのか?ウォーキング・ミュージックという存在しないジャンルに召還された音楽達についての考察」と「M/D マイルス・デューイ・デイヴィスV世研究」の書籍とDUB SEXTETの2ndアルバム「Dub Orbits」のリリースのタイミングです。
その去年ですけど、菊地さんのDUB SEXTETのライブでVJをやらせてもらったことがあったんですね。使った映像が、ある60年代の日本映画だったんです。DUB SEXTETは60年代のマイルス・クインテットをある程度イメージしてると思うんですけど、ちょうど同じ時期に作られた映画なら、何か響き合うものがあるんじゃないかと思って。そしたら女優がね、和服で出てくるんですよ。で、男は洋服なんですよ。混在してたじゃないですか?まだそのころ昭和30年代なんで。ギラギラしたモノクロの画面を超スローモーションで和服の女が階段を降りてくる映像なんかが、僕にはDUB SEXTETにぴったり合ってるように見えたんです。そしたら菊地さんもそれをえらく気に入ってくれたんですよ。菊地さんがそこで一番気に入ったのって、たぶん女優の和服だったと思います。どうもそのころ、菊地さんは「Dub Orbits」のジャケットを「和服の女性」にしようと考えてたらしく、僕が用意した映像が、偶然それに近かったんだと思います。で、『パンドラの匣』は当然、和服の女がいっぱい出てくるんですけど。まあ『パビリオン山椒魚』も出てくるんですけど・・・。
- --- 出て来ますね。
どうもね、僕の中に「和服の女には菊地成孔」という型があるのかもしれない(笑)。それは、あの人「京マチ子の夜」というタイトルをあの曲に付けたじゃないですか。ラテンラウンジの曲に。
- --- そうですよね(笑)。
それがすごくかっこよかったんですよね。女優と和服とラテンミュージックといえば、連想するのは昭和のグランドキャバレー文化ですよ。そこでムラムラッとしてしまうのは、結局のところ僕は菊地さんから影響を受けてるってことでもあるけど、やっぱり僕みたいな田舎者は、この年になっても都会っぽいものに惹かれるんですよね。菊地さんがね、ああいうゴージャスな昭和の下半身の香りを颯爽と振りまいてるじゃないですか。あれには単なるインテレクチュアルな関心を越えたところで憧れを感じますね。人間に必要なのは知性と品性と獰猛な下半身なんだろうなあと。ま、『パンドラの匣』とキャバレーは関係ないですけども(笑)、普段から「菊地さんの音楽みたいな映画をつくりたい」という意志はありますね、僕の中にね。
- --- すごく興味深いお話しをお聞き出来てうれしかったです。冨永さんは女の子をかわいく撮られる監督だと思っていて、そういう部分もすごく好きなんですけど、今作のヒロイン、竹さん役には、「川上未映子っぽい人で誰かいないか?」という風にキャスティングの段階でお話しがあったそうですが、本当にご本人が出演されることになりましたね。
もう、無理矢理口説き落としたような感じですよ。「竹さん」という役は、大阪出身という設定なんで、実際に大阪出身の女優さんが良かったんです。で、大阪出身の女優さんなんて沢山いますよね。いますけど、今の女優さんは皆さん、すらーっとしてるじゃないですか。当然、現代の女優さんですから、わりと線が細くて、顔が小さい。つまり現代人の顔、体型なんですよ。昭和20年の日本人に見えないんです。そんな人たちから探しても、竹さんは見つかるわけがない。じゃあ女優以外の人なら、という話になったときにプロデューサーに言ったのが、「そりゃあ、川上未映子でしょ」って(笑)。もう、はっきり大阪の人だし、もともとミュージシャン(未映子名義で活動)かもしれないけど、ぜんぜん女優じゃない。少なくとも8頭身のモデル体型ではない。昭和20年の人から見て、ちょっと大柄な女性という意味で「竹さん」にかなり近いんです。なんとなく顔もね、大阪の女の人らしい顔で(笑)。
- --- そうですか(笑)。
勝手にそう思ってるんですけど。「じゃあ、もう、川上さんにダメもとでお願いしよう」と、お願いしに行ってお話ししたら、うれしい偶然ですけど、川上さんが「上京した日に初めて行った場所が三鷹の禅林寺の太宰の墓だった」っていう、それを聞いた時点で、「じゃあ、(映画に)出るしかないじゃないですか。お願いしますよ」って熱烈に口説き落としまして、それで出演してもらったんですよね。
- --- あの・・・川上さんのお尻を狙って撮られてますよね?(笑)。
ええ(笑)。狙って撮るつもりじゃなかったんですけど、雨漏りのシーンを撮ったときに、川上さんが床を拭いてる後ろ姿を、窪塚洋介くん演じるつくしが黙って見つめるというのは予定してたんですよね。で、それを撮ってたら、一生懸命に床をね、四つん這いになってごしごし擦ってる姿がすごく美しかったんですよね(笑)。でね、映画の後半にもう1回、今度はね、炊事場の床をたわしで擦るっていうのをお願いしますと(笑)。
- --- 炊事場のシーンは追加だったんですね(笑)。
シーン自体はありましたけど、お尻を撮る予定はなかったんです。で、同じようにもう1回やるとね、そのときは結構、意識的になってるから、「もう少し、お尻高くして」「こうですか?」なんて楽しいやりとりに展開して(笑)。だから、あの映画の男どもは、同じ風景を見る、竹さんの同じ姿を見る、というようにしたんです。同じ姿というのは、四つん這いになって床を拭いてる姿。そうすると、やっぱりあのお尻がね、前に来ちゃうわけですよ。川上さんは、「あたしはお尻が大きいから・・・」なんて少し恥ずかしがってたんだけど、「大きいからいいんじゃないですか。大きいから和服も似合うんだし、看護婦の衣装も似合うんです。もし9頭身のモデル体型でペッタンコの小尻だったら、絶対こんな衣装似合わないですよ」って(笑)。もう、だから、そのとき僕は、女優のあるべき姿を川上さんに見てたんですよ。「マア坊」役の(仲)里依紗もやっぱり、そうなんですよ。あの子もこう言ったら失礼ですけど、細くないんですよね。でも、そこが素敵なんですよね。生命力を感じる。
- --- 里依紗ちゃんもかわいかったです。肉感的なといいますか、皮膚感覚を感じさせるような女優さんが出演されているから、色っぽい映画なのかもしれませんね。今作では、ハイチャイ役で出演されている瀬戸夏実さんですが、『シャーリーの転落人生(以下 『シャーリー』)ではひろみ役で、相対性理論のPV「地獄先生」にも、ひばりの母役で出演されている洞口依子さんと一緒に共演されていますし、すごくかわいいなあと思っていて。冨永さんの作品には、ちょっとぽっちゃりした色白で黒髪の女の子が多いような気がするんですが。
まあ、べつに体型だけで俳優を選んでるわけじゃないんですけど、僕は少し前の日本人の顔や体つきが好きなので、いま細くて薄くて背の高い人ばかりになってきてるのが心配ですね。誰も彼もがスレンダーなるものを目指すことによって、固有の身体が持ってる癖や歪みや佇まいみたいなものが失われてくような気がするんで。いっぽう瀬戸(夏実)さんなんかは、初めて会ったときに、ああ、この人は女優の体型だな、と思いましたね。要するに変な努力の一切ない体で、生命力があって、自然に演じてくれるところがいい。
- --- すっごくかわいかったです(笑)。
伝えておきますよ(笑)。
- --- 『シャーリー』は公開もまだ続いていますが、わたしは池袋のシネマロサで拝見させて頂いたんですけど、DVDでも欲しいんですが(笑)、いつリリースされますか?
そんなこと書いてくれるんですか?(笑)。
- --- もちろんです(笑)。
10月にもう1回都内で上映します。(10/17(土)〜23(金) 渋谷ユーロスペースにて 21:00〜レイトショー、リヴァイバル上映決定!)『パンドラの匣』の公開にちょっと重なります。具体的なことが分かったら連絡しますよ。
- --- ご連絡、心よりお待ちしております(笑)。平沢里菜子さんも本当にかわいいですよね?
何かそういうこと・・・よく知ってますね(笑)。平沢(里菜子)さんとか。
- --- 最近ちょっと、ピンク映画も勉強してるんです(笑)。『シャーリー』には平沢さんがたくさん出演されているので、すごくうれしかったんですよね。
いやあ・・・あの人はおもしろいですよ。
- --- まだまだお聞きしたいことがたくさんあって、すごく残念なのですが・・・そろそろお時間のようですので、ぜひまた、機会がありましたら、お話しを伺いたいと思っておりますので。本日は、ありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。
アジア、アフリカ、ラテンアメリカに特化した映画祭、ナント三大陸映画祭2009 (11月24日〜12月1日) に特別招待上映決定!『パンドラの匣』 9/26(土)宮城県先行公開、10月10(土)より、テアトル新宿他、全国順次ロードショー中!
- プレゼント 『パンドラの匣』、冨永監督のインタビュー、いかがだったでしょうか?公開記念と致しまして、試写会ご招待!に続き、監督のサイン入りプレスシートを抽選で3名様にプレゼント!
※応募締切 2009年10月31日(土)
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(とみながまさのり) 75年10月31日、愛媛県生まれ。99年、日本大学芸術学部映画学科を卒業。卒業制作の『ドルメン』が00年オーバーハウゼン国際短編映画祭にて審査員奨励賞を、続く『ビクーニャ』が02年水戸短編映像祭にてグランプリを受賞。以降、短編シリーズ『亀虫』(03)、『テトラポッド・レポート』(03)、『オリエンテ・リング』(04 / オムニバス 『be found dead』 第4話)、『シャーリー・テンプル・ジャポン・パート2』(05)など短編作品が相次いで劇場公開され、06年には『パビリオン山椒魚』で待望の劇場用長編映画に進出する。また、菊地成孔「京マチ子の夜」(05)、SOIL & “PIMP” SESSIONS「マシロケ」(07)、相対性理論「地獄先生」(08)、やくしまるえつこ「おやすみパラドックス」(09)など多数のPV作品を手がける。長編劇映画は、安彦麻理絵の同名マンガを原作とした『コンナオトナノオンナノコ』(07)に続き、本作『パンドラの匣』で3作目となる。
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