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まるで《ワルキューレの騎行》? 

2008年4月11日 (金)

連載 許光俊の言いたい放題 第140回

「まるで《ワルキューレの騎行》? テンシュテットのブルックナー8番」

 テンシュテットのブルックナー第8番。結果から言うと、まさにわれわれがテンシュテットのライヴに期待する、「肉汁滴る巨大ステーキ、さあ好きなだけ食ってくれ!」みたいな音楽である。
 開始からしてすでに熱い。この曲の場合、第1楽章は抑制され慎重に進められることが多いが、とんでもない、金管楽器の鳴りっぷりはすさまじく、最初からこの調子でスタミナが持つのか危ぶまれるほどだ。濃厚な木管楽器の独奏といい、弦楽器の粘りぐあいといい、静謐で神秘的なブルックナー演奏の対極にある。テンポの動かし方や強弱の変化は時にフルトヴェングラーみたいだが、特に頂上部分において止まるほどにテンポを落とし、壮大な音響空間を出現させるあたりは、これ以上ないくらい完璧に大技が決まったという感じで、溜飲が下がる。おそらく舞台上の演奏家たちは、「今日はもう何でもやってやる!」的な特殊な心理状態に入り込んでいたと思われるが、聴いているほうも同様だ。
 第2楽章の金管楽器の饗宴も異常。それにしても思うが、テンシュテットの場合、単に燃え燃えとか興奮している、という音楽ではないのである。あくまで彼ならではの作品像、音楽観が根底にしっかりある。だから、浅薄、単純にならない。「体が軽いので、ちょっと走ってみました」とか「アドレナリンが出ればいいだろ」みたいな安っぽさがない。この楽章にしても、あまりにも輝かしく壮麗な音響像とは好対照をなす中間部分が設定されている。
 もちろん第3楽章も期待通りだが、何と言ってもすごいのはフィナーレ。冒頭からしてまさに決死の突撃だ。「コサックの騎兵」(と、当時たとえた人がいた)だか何だか知らないが、息詰まるような緊迫感である。この一カ所だけでノックアウトされる人続出なのは間違いなし。当然のことながら、こうなるとワーグナー的とも呼べない。強いてたとえるなら、「ワルキューレの騎行」か。
 以後も音楽はこのうえない力強さでぐんぐん先へ進む。そして最後は、巨大な滝から水が四方八方へ飛び散るような圧倒的クライマックス。神秘的な大聖堂のようなチェリビダッケのブルックナー、ヴァントの精巧なブルックナーなどとはまったく方向性が異なるが、これはこれで驚愕するしかないような演奏だ。今更こんな事を言っても詮無いが、テンシュテットがライヴでこんな演奏をしているのを知りながら冴えないスタジオ録音が作られ続けたのはまったくもって不思議というしかない。

 ところで、ペーター・コンヴィチュニー演出の「アイーダ」公演が近づいてきた。きわめて真剣に主人公たちの心理を描くとこうなるという好例である。東京ではコンヴィチュニーの講演会が満員盛況のうちに開かれ、自ら見どころを映写しながら解説が行われた。ラダメスが勝利の歓声を浴びつつ帰還するシーン・・・私がグラーツで見たときも「この演出のキモはまさにこの場面!」と思ったが、やはり本人もそこにこだわった。この場面でヴェルディの音楽が恐ろしいほどの表現力をもって響くありさまは、想像を超えている。合唱やらをすべて舞台上から隠し、アイーダとラダメスだけが舞台上にいる。彼らの様子を見ていると、個人の力ではどうにもならないやるせない状況がひしひしと伝わってくる。すぐれた演出とはどういうものか、演出によって音楽がどれほどまでに迫真的に聞こえるか、来週、ホールで明らかになろう。注目されている演出家は世界中に何人もいるが、ここまで音楽的感性のすごい人は他にひとりもいない。
 コンヴィチュニーと言えば、なんと学校を舞台にした「ローエングリン」のDVDは十分推薦できるいいできばえだ。カメラ・アングルによってオペラの収録は生きもするし死にもする。「ローエングリン」の撮影は幸いにも演出の要点をはずしていないから、演出家の仕掛けや意図が実にはっきりと伝わるのだ。はっきり言ってこの世に存在するオペラの映像収録の大半は失敗作だと思うがゆえ、超おもしろくかつ深いこの大傑作がきちんと製品化されたのはまことにありがたい。

(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授) 

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