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「この『四季』に驚いた!」

2007年6月21日 (木)

連載 許光俊の言いたい放題 第114回

「この『四季』に驚いた!」

 ヴィヴァルディの「四季」といえば、最近ではカルミニョーラの演奏がバカ売れしていた。確かに魅力的な演奏で、このコラムでも触れた。
 ところが、私はまたもや「お、これは!」というのを見つけてしまったのである。演奏者はなんと昔懐かしいシモン・ゴルトベルク。この人は、若くしてフルトヴェングラーに呼ばれてベルリン・フィルのコンサートマスターになったものの、ユダヤ人ゆえ、ナチが台頭するとドイツを去るしかなかった。以後、決して派手な存在ではなかったが、知る人ぞ知る名ヴァイオリニストとして老齢まで活動し、教育にも熱心だった。私は、昔、LPで出ていたブラームスのヴァイオリン・ソナタなど愛聴していたが、まあ何にしても、本来は異常な演奏を行うタイプの人ではない。ところが、オランダ室内管を弾き振りした「四季」は、無数にある他の演奏と比べてもことに強烈な特徴を示しているのだ。
 別に、超描写的だとか、変な奏法が出てくるとか、楽器を追加しているとか、テンポがおかしいとか、そういうことではない。ではどこが他と違うのか? ひとことで言えば、「四季」を古典派以後の音楽みたいに演奏してしまっているのだ。これを読んでピンときたら、あなたは相当の音楽インテリである。当たり前だが、「四季」はバロック音楽、バロック協奏曲だ。ズバリ、その基本とは、@低い音はチェンバロなどの「通奏低音」と呼ばれる楽器が担当する。Aヴァイオリン独奏と、それ以外の複数楽器が対比される。つまり、バロック音楽において特徴的なことは「コントラスト」を強調するということ。アーノンクールだろうが、イル・ジャルディーノ・アルモニコだろうが、コープマンだろうが、この基本においては変わりない。これでもかと刺激的な演奏が生まれる背景には、こうしたコントラスト重視というバロック音楽の性質も大きく作用していたのである。
 ところが、おそらくはバロック音楽の様式に精通していないか、あるいはよしとしなかったゴルトベルクは、徹底的に古典派以後の音楽みたいにやってしまったのだ。もっと言うなら、特に室内楽だ。あらゆるパートが同様の重要度でアンサンブルするのである。たとえば、ここではチェンバロがクローズアップされている。本来、チェンバロは通奏低音楽器で、ほとんど聞こえないくらいがちょうどいいという説すらあるほど。だが、この演奏だとそのチェンバロが実に意味深い。
 1973年という年代においては、今みたいにバロックの演奏様式は周知されてはいなかった。ミュンヒンガーやカラヤンやストコフスキーなどの演奏もゴルトベルクと同様の路線上ではある。だが、これほどまでに絶妙のバランスで、超丁寧にニュアンス豊かで緊密なアンサンブルを実現させた指揮者は他にいなかったのではないか。それくらいに徹底しているのがゴルトベルクだ。
 「夏」の第3楽章なんて、その最たるもの。壮麗かつ立体的だ。まるでリヒャルト・シュトラウスの交響詩かという瞬間もある。「秋」第1楽章のソロとチェンバロのやりとりも印象的だ。そして、「冬」第1楽章冒頭の刻みのすごさ。ケーゲルみたいな厳しさで迫ってきて、恐怖を覚えさせる。
 とにかく、「四季」が好きな人には、ぜひともこのあらゆる楽器が精巧な歯車のように噛み合って奏でられる演奏を聴いていただきたい。他のどんな「四季」でも知ることができない独特の世界が繰り広げられている。

 これとは対照的に、最新のヴァイオリン録音についても触れておこう。ジョゼフ・リンという若いヴァイオリニストのアルバムも好感が持てる1枚だ。無伴奏作品ばかりでまとめてあるが、特にイザイがいい。若々しい勢いのよさだけでなく、ねっとりした濃いめの情感(だが、濃すぎない)がうまいぐあいに配合されていて、飽きずに聴かせる。
 そして、録音が実にすばらしいのだ。私は決してオーディオ・マニアではなく、おそらくはたいがいの音楽評論家よりも安い装置しか持っていないし、めんどくさいのでSACDを買う気持ちもまったくないくらいだ。ところが、このCDの音の生々しさには驚いた。単に接近して録音したから生々しいという下らないレベルではない。月並みな表現だが、まさに会場にいてその場で聴いているかのような気持ちがしてくるのだ。弓の動きや奏者の呼吸、姿勢が目に見えるようなのだ。私はこのヴァイオリニストをステージで見ていないが、そのたたずまいが想像できてしまう。ぜひとも機会を作ってこの音質は体験してみる価値がある。

(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授) 


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