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「ジュリーニ最高のモーツァルト」

2006年6月19日 (月)

連載 許光俊の言いたい放題 第80回

「ジュリーニ最高のモーツァルト」

 少し前になるが、ジュリーニのライヴでモーツァルト「リンツ」(フィルハーモニア管)が発売された。これがすごい演奏なのである。
 ジュリーニは生前評価が高かったわりにはあまり日本に来なかった人だったが、ロス=アンジェルス・フィルとの来日公演で演奏した曲のひとつが「リンツ」だった。そのときには確か東京では3プログラム指揮した。私は気合いを入れて全部出かけた。やたらと深刻で重々しいヴェルディの前奏曲にも驚いたが、もっとも満足できたのが「リンツ」とブルックナーの第7交響曲の一夜だった。どちらも共通して小細工で聞かせるタイプの音楽ではなかった。どこがどうと言いたくなったりはしないのだけど、ともかく流麗で美しかった。と同時に、ちょっと大味でニュアンスに乏しい感じもしなくはなかった。
 このライヴCDはそのときの演奏を思い出させる。柔らかく厚みがある響きで自然に音楽が湧き出てくる。決して緊張を強いるものではない。おおらかな幸福感に満たされている。ただし、以下に述べる通り、大味とはかけ離れ、実に繊細である。
 第1楽章の序奏からして、これがイギリスのオーケストラかと疑われるほどにきわめて濃厚な匂いを持っている。甘露が滴るようなヴァイオリン、それを支える伴奏の官能的な抑揚、とろけるような管楽器。やがてテンポは大きく落ちていく・・・。ジュリーニがこんなふうに「ドン・ジョヴァンニ」や「コジ・ファン・トゥッテ」を指揮していたら、どれほどすごいことになったことか。
 快速な部分になってからも、今日のモーツァルト演奏のような騒々しさとは無縁の優雅な音楽が続く。ほぼ同時期と言っていいだろうが、1980年代にカルロス・クライバーがウィーン・フィルを指揮した「リンツ」もきわめてエレガントで昔懐かしい雰囲気を強く漂わせていた。ジュリーニも同様だ。
 第2楽章もワルター時代のウィーン・フィルとまではいかないにしても、心ゆくまでたっぷりと甘く歌う。やはりヴァイオリンの粋な表情がすばらしい。明るくのびやかと思えば、陰影を帯びた寒そうな音色も。少なくとも古典派音楽において、オーケストラの主役はやはりこの楽器なのだ。むろん、そうは言っても他のパートが死んでいるわけではなく、非常に効果的にヴァイオリンを助けているのである。生き物の四肢のようにつながりあっている。それに6分過ぎに端的なように、絶妙なピアニッシモ。なまめかしいクレッシェンド。繰り返すが、これがイギリスのオーケストラとはにわかに信じがたい。フィルハーモニアがこんなに自由自在に変化する柔軟性を持っていたとは。
 第3楽章のメヌエットでは、最初の1音のアウフタクトに悶絶しそうになった。ずいぶん長めに奏されているのだが、絶対こうでなくてはという爛熟のコケットリーに満ちているのだ。中間部分もみやびな踊りのステップが見えてきそうだ。絶品。
 フィナーレも突進調ではなく、あくまで上品な疾走。全体を通じてテンポの微妙な伸縮が決してあざとくないのもいい。もちろん四角四面でもない。
 ジュリーニのモーツァルト録音の中でもこれほどまでに美しいものは他にないとまで断言したい。フィルハーモニア管とやったスタジオ録音の交響曲やオペラだって悪くはないが、最初から最後まで美しさが押し寄せてくるこの演奏とはとうてい比べられない。こんな可憐なモーツァルトを知ってしまうと、昨今のトランペットがむやみとパンパカやっている演奏など、何にでもタバスコをドバドバとかけて食べているようなもので、顔をしかめたくなるのも当然なのである。

(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授) 


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