第14回「桜会と《運命》の日」
2005年9月2日 (金)
はんぶる・ドットこらむ 山崎浩太郎第14回
「桜会と《運命》の日」
浜口雄幸、という首相が昭和初期の日本にいた。
特異な風貌から「ライオン首相」とあだ名され、清潔な人柄で国民の人気も高かったかれは、1929(昭和4)年7月に就任すると、数ヵ月後におきた世界大恐慌の大嵐のなかで緊縮財政政策をとり、金解禁や陸海軍の予算削減を実施した。
しかし時勢かれに味方せず、日本はますますの不景気に苦しむ結果となってしまった。危機感を強めていた軍部も、30年4月のロンドン軍縮条約で政府がアメリカと妥協したことによって、決定的な反感をいだくことになる。このとき「政府の勝手な妥協は、統帥権の干犯である」と浜口を国会で論難したのが、野党政友会の鳩山一郎だった。
そして半年後の11月、浜口は東京駅で狂信的国粋主義者に狙撃され、再起不能の重傷を負う。浜口は翌31年4月に辞職、日本初の輸血手術の甲斐もなく、8月26日に死去。
それからひと月とたたない9月18日、関東軍が独断専行で満州事変をひきおこし、15年戦争の悲劇の幕をあける。浜口を斃した抵抗勢力はその勢いで、みずからとみずからの国を滅ぼす大戦争へと、突っ走ってゆく。
「歴史は繰りかえす」という。ほんとうかどうか、わたしは知らない。
さて、重傷を負った浜口が辞職するひと月前の3月、陸軍省と参謀本部の少壮将校たちの組織「桜会」が、ひと足はやくクーデターを計画していた。警視庁と議会を占拠、内閣を総辞職させて陸相宇垣一成を首相にすえようというものである。
その後の軍部独走の、すべてのさきがけともなりうるこの計画は、しかしその内容を知った宇垣自身の命令によって、実行2週間前に中止させられた。
これは3月6日のことである。偶然ながらこの日、遥かニューヨークのカーネギー・ホールで、トスカニーニがニューヨーク・フィルの定期演奏会をおこなっている。ベートーヴェンの《運命》とブルックナーの交響曲第7番という、トスカニーニにしては珍しくもブルックナーを演奏した演奏会だった。
そのうち《運命》が、RCAビクターによってライヴ録音されていた。かれらがライヴ録音という面倒かつ危険の大きい作業を敢行したのは、トスカニーニのためであった。
この指揮者はそれまでの録音経験から、4分ごとに演奏を中断させられるSPの限界を厭うようになっていた。新規の録音をしたがらなかったのである。そこでRCAは新開発のトーキー映画の技術を応用して、フィルムに録音することを考えた。これなら長時間のとおし録音が可能になる。
《運命》のライヴ録音は、このようにして実現した。しかし、結局トスカニーニはその発売を許可せず、録音はお蔵入りとなった。RCAは懲りずに2年後の33年4月にも《運命》のライヴ録音をおこなったが、やはり指揮者は満足せず、これも未発売となる。
ナクソス・ヒストリカルによる、トスカニーニ&ニューヨーク・フィルのシリーズには、このふたつの《運命》が収められている。2年しか違わないので、演奏の基本的な傾向は変わらないが、わたしは31年盤をこのむ。迫力とスピード感、そして気合のはいりかたがまさっているように感じるからだ。
商業発売を意識しての録音だけに、音質も悪くない。この71年前のライヴ演奏を聴いて、当時の日本、あるいはわれわれの未来に似たものとなるかも知れない過去の日本の姿に、想いを馳せようではないか。
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ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。
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