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2006年12月15日 (金)

特別寄稿 許光俊の言いたい放題 第20回

「クーベリックのパルジファル」

 12月20日(土)に朝日カルチャーセンター(新宿)において鈴木淳史氏と「2003年のクラシック、これはよかった」という講座をやる。このタイトル、お気づきの人はお気づきのように、吉田秀和氏のまねっこをして、これ以上シンプルなものはあり得ないというものを付けてみたのである。

 それもあって今年のCDをあれこれ聴いてみた。今年の製品でもまだ聴いていないものも多い。そんな中からーー

 クーベリック指揮のワーグナー「パルジファル」がものすごくよかった。1980年、バイエルン放送によるデジタル録音だという。音質はきわめてクリアだ。指揮者、歌手、合唱、オーケストラ、すべてにわたって満足すべきこんな録音が、優秀な音質で残っていたとは。

 「パルジファル」というと、すぐにクナッパーツブッシュの名前が挙がる。しかし、私はあのバイロイトでの演奏に心底感心、感激したことが一度もない。オーケストラの音色は単調だし、音質はよくないし、演奏スタイルが古すぎるし、人は神秘的だの崇高だのと言うが、過度に神格化されているように思えてならない。

 これまた名演奏の誉れ高いカラヤンは、立派な演奏だとは思うが、誰でもわかる美音の垂れ流しみたいなところが好きではない。これみよがしの壮大さも。

 私が今まで好んできたのは、やはりバイロイトでのライヴであるブーレーズ指揮の演奏とケーゲル(廃盤)だ。どちらも透明感が勝った演奏で、特に後者の冷たいまでの人工的な美しさは忘れられない。

 クーベリックの演奏では、まず歌手陣の豪華さに目を見張る。モル、ヴァイクル、サルミネン、キング、マツーラと、時代を代表するワーグナー歌手が勢揃いである。何しろ花の乙女をポップが歌っているくらいなのだ。キャリア終盤にあるキングも常以上の大熱演だし(熱演すぎて、最後でくたびれてしまっている)、ミントンのクンドリーも生々しい。

 だが、何と言ってもグルネマンツを歌っているモルを褒め称えねばならない。この役を看板としていたモルにとっても、これは例外的な名唱ではないだろうか。言葉のひとつひとつまですべて自分の手の内に入った自信と余裕が圧巻。朗々と歌い続ける長い歌詞がこれほどまでに陶酔的だなんて。まるでこの作品がモルひとりのためのベルカント・オペラであるかのようにすら感じられる。それほどに美しいのだ。その美しさは、オーケストラともども、例の「聖金曜日の音楽」あたりからいよいよ絶頂に達する。モルの歌を聴くためだけにでもこのCDは存在してよい。

 バイエルン放送交響楽団の弦楽器群もまた見事だ。十分に量感的でありながら、決して塊のような無用の圧迫感を与えることがなく、清潔感が強い。クーベリックの指揮は、彼が普段なら見せる熱気は後退していて、端正かつ流麗だ。音楽は滞ることなく、スムーズに流れ続ける。わざとらしくなく、晦渋でなく、過度に重々しくもなく、神秘めかしてもおらず、ごく当たり前にきれいな音楽が聴ける。一見簡単なようでいて、なかなか実現されない種類の音楽だ。
 そして最後、シュミット=ガーデン率いる合唱団の清澄な響きに包まれて、まさに曇りなき浄化の至福に誘われるのである。まさにワーグナーならではの魔術だ。クーベリックが描き出す至福はあくまで肯定的で、明るくて、やさしくて、親しみやすくて、穏やかで、しみじみと情感的で、平和である。ごく自然に音楽が高揚して大団円に至る。いかがわしさのかけらもない。このまるで微笑んでいるかのような最後の部分には、心底降参しました。

 ニーチェは、単純すぎる旋律や動機が何度も何度も繰り返されるこの作品の中に堕落や退廃や老衰を聴き取ったが、堕落や退廃や老衰の快楽というものも存在するのだ、おそらく。
 少なくとも、クーベリックの演奏で最後の場面を聴いていると、大喜びでワーグナーに籠絡されたくなる。私は天気のよい日曜日、このCDを居間で流しながら、繰り返される動機や響きの変化に恍惚となった。18歳のころ、来る日も来る日もワーグナーを聴かないと気が済まないくらいこの作曲家にイカれていた記憶が蘇った。

(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学助教授) 


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発売日:1993年02月09日
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