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許光俊の言いたい放題  『スヴェトラーノフの「レニングラード」』

Friday, July 28th 2006

特別寄稿 許光俊の言いたい放題 第15回

『すみません、不謹慎にも笑ってしまいました ― スヴェトラーノフの「レニングラード」』


 スヴェトラーノフ大先生の凄まじい「レニングラード」が聴きたい!
 これはありとあらゆる(と言ってしまおう)スヴェトラーノフ・ファンの積年の夢だった。

 もちろん、われらが期待するのは、
● 腰を抜かすような強音
● 軍楽隊顔負けの非人間的リズム
に決まっているじゃないか!

 とんでもない音の嵐に翻弄されたい、圧倒されたい、メチャクチャにされたい、という妖しくもマゾヒスティックな夢想は、しかしながら満たされぬままであった。

 だが、とうとうそれを満たすCDが発表されたのである。しかもわけがわからないライヴではない。1968年のスタジオ録音だ。

 ズバリ言おう。これは、ファンが期待するまま、想像するままの演奏である。壮年期の大先生ならではの一直線な音楽が満喫できるCDである。特に第1楽章後半は、ファンを狂喜させること間違いない。

 「こんなことやるか、普通!」という何はばからないお騒がせぶりに、私は途中で不覚にも笑い出してしまった(フランスの思想家ジョルジュ・バタイユは言っている、笑いとは恐怖の表明であると)。

 特に小太鼓がすごい!! よくバチが折れなかったものだと妙なことに感心してしまうような渾身の力演である。誰かのパンチのように、シャープでいながら重い。これでこそロシアの打楽器だ。文明や技術の野蛮さを肌でわからせてくれる。奏者はのちに労災を申請したのではないかと心配になる。

 音楽は次第に高潮してゆき、いよいよ15分過ぎから地獄の阿鼻叫喚が始まる。再びこの比喩を持ち出すのも気が引けるが、爆弾が次々と炸裂していくような音楽なのだ。金管楽器の狂ったような咆吼は、まさにスヴェトラーノフの独壇場! 老人ならショック死するかもしれない。「ローマの祭」では、本来名手揃いのオーケストラがよれよれになって騒ぎ立てているのが超可笑しかったわけだが、ここではピシッと決まっている。この部分、私はあえて音量を上げて何度も聴いてしまった。そのせいで、あとで耳鳴りがしたほどだ。

 集団的発狂状態、まさにそれだ。ひとつのシステムの中で集団が異常な狂気と興奮にまで沸騰していくという、戦慄すべき状態。とても非人間的な音楽に聞こえる。だが、これが人間なのだ。この非人間性が人間性なのだ。

 硬派にして精悍、そして野蛮。痛快無比にして不気味。こんな二重性を感じさせる音楽は稀有だ。

 と、ここまでは1960年代ならではのストレートな音楽作りが冴えた。が、残念なことに、第2楽章以下は未熟な不器用を感じさせる。スヴェトラーノフ、他の録音からもわかるが、やはり60年代はまだ青くて固い果実だったのだ。鋭い金管楽器、分厚い弦楽器といったように、何種類かの原色しか持っておらず、中間色に乏しい。たとえば、第2楽章は、最初そっけないくらいだが、突然お騒がせが始まる。それはそれでおもしろいし、ビックリさせてはくれるにしても、唐突すぎる。試みにケーゲルを引っ張り出して聴いてみたら、変幻自在で、しなやかで、立体感・陰影でスヴェトラーノフを圧倒している。やっぱりいいな、ケーゲル(それにしても、大先生のあとで聴くと、ケーゲルがエレガントで上品にすら聞こえてしまうというのが恐ろしい)。

 とはいえ、第1楽章だけでもこのCDは聴く価値がある。私は今、『世界最高のクラシック』(光文社)の続編を書いているところだが、もちろん、そこにも登場してもらう。こんな強烈な演奏、めったにないもの。

(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学助教授) 


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