橋本徹 (SUBURBIA) × 山本勇樹 (Quiet Corner)『Seaside Chillout B...
350枚以上のコンピ監修を手がけてきた選曲家の橋本徹 (SUBURBIA)による、海辺でチルアウトしながら心地よい風を感じるようなとっておきの快適音楽をセレクトした、クール&メロウな新コンピ・シリーズ「Chillout Breeze」のスタートを記念して特別対談が実現!
HMV&BOOKS online-音楽CD・DVD|2024年08月07日 (水) 12:00
2025年07月29日 (火) 14:00
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「Free Soul」「Cafe Apres-midi」「Mellow Beats」「Good Mellows」「Jazz Supreme」「音楽のある風景」「Incense Music」シリーズなど多くの人気コンピを手がけてきた橋本徹(SUBURBIA)さんが、絶品のメロウ&グルーヴィーで心地よい楽曲を集めたコンピ・シリーズ「Chillout Breeze」の第3弾が登場です。
新作『Summer-drive Chillout Breeze』は “夏にドライヴしながら心地よい風を感じるようなとっておきの快適音楽”がテーマとなっていますが、新録カヴァー曲も史上最多ということで、充実度では過去有数かもしれません。そして「Incense Music」シリーズ同様に、アートワークは藤田二郎(FJD)、マスタリングはCalmが手がけているので、ぜひフィジカルでその魅力を味わっていただきたいです。ここ最近は、カフェ・アプレミディとインテリア・ブランドACME Furnitureのコラボをはじめ、矢舟テツローのアルバム『Free Soul』のプロデュース、さらに早稲田大学での講演会「渋谷文化漂流史」など、相変わらずお忙しい様子の監修・選曲を手がけた橋本徹さんですが、山本勇樹との『Summer-drive Chillout Breeze』特別対談をお届けします。
山本勇樹
前回の対談はこちら
01. Piers Faccini & Ballake Sissoko / One Half Of A Dream
02. ALA.NI / Summer Meadows
03. Labi Siffre / Summer Is Coming
04. Kaoru Inoue presents Chari Chari / Aurora
05. Calm / Sitting On The Beach
06. Anne Thomas / Summer Samba
07. Damian Lemar Hudson / Voyger Drive
08. Mia Doi Todd / Summer Lover
09. カジヒデキ / Summer Girl
10. 曽我部恵一 / That Summer Feeling
11. orange pekoe / Summer Sun
12. 関口シンゴ / North Marine Drive
13. TAMTAM / Love Is Stronger Than Pride
14. 西寺郷太 / Cruisin
15. lo-key design / Rocksteady
16. haruka nakammura / Summer Daze (Saudade Rework)
17. Nujabes / After Hanabi -Listen To My Beats-
18. 南佳孝 / 夏服を着た女たち
山本 今回の『Summer-drive Chillout Breeze』は三部作のしめくくりという感じになるんですか?
橋本 「Chillout Breeze」シリーズの第3作なんですが、ライフワークとして続けていきたいなと思うくらい、このシリーズは気に入っていて。でも昨年の夏「Chillout Breeze」シリーズの第1弾だった『Seaside Chillout Breeze』が、僕のキャリアでもトップクラスの、内容的にもコンセプト的にもとても充実した幅広い音楽ファンに強く訴求できるようなタイプのコンピだったにもかかわらず、CDもLPも7インチもリリースが予定より1か月ずつ遅れちゃって、プロモーション期間という意味でも、聴いていただく期間という意味でももったいなかったなという思いがあったんですね。だから僕は近いコンセプトでもう一回リヴェンジして再注目してもらいたいなっていう意向が強くあったのが企画の発端ですね。第2弾『Sunset Chillout Breeze』も品切れになってしまうほど好評でしたし。
それと今回はレーベルの方から原盤権を持つ新録制作音源を増やしませんかと提案されて、僕が出したカヴァー曲とアーティストのアイディアがほぼほぼ実現して、結果的に18曲中8曲と半分近くを占めたことも大きなトピックですね。本当に顔ぶれを見てもすごいですし、いろいろな素敵な偶然が重なって、仕上がりも素晴らしいカヴァー・ヴァージョンを制作できたということが、今回一番嬉しかったことですね。
山本 資料を最初に見せてもらったとき、選曲以上にこの新録音の多さに驚かされて(笑)。矢舟テツローさんの『Free Soul』も全曲新録ですよね。
橋本 今年はたまたまそういうオファーが多くて、自分の監修CDやレコードでカヴァー曲の新録制作の機会が一気に増えた年として、2025年は記憶されるなと思ってるんですが、それはやっぱり2024年にインセンスミュージックワークスで毎回ひとつのコンピレイションにつき2曲〜3曲の新録制作をさせてもらったことの評判がよかったから、そういう話が増えたり、アーティストにオファーしても快諾してもらえてるんじゃないかなと思います。
自分の中で曲をセレクトすることと、この曲をこのアーティストにカヴァーしてもらって新しい素敵なヴァージョンが生まれたらいいなという気持ちは両立どころかほとんど同じ価値がある意味のある行為で。むしろカタルシスは原盤制作の方が大きいですね。コンパイラー生活30周年を過ぎて、日本のアーティストの制作ってあまり縁がなかったんですが、そういう機会をここにきて立て続けにいただけて、すごく幸せなことだなと思っています。
山本 コンパイラー/編集者としての橋本徹っていうのはもちろん定評があるんですけど、僕からしたら、プロデューサーというかディレクターというか、例えば古くはクレモンティーヌやカチアだったり、あとはNujabesとジョヴァンカや『ジョビニアーナ〜愛と微笑みと花』があったり、最近海外での再評価も著しいサテライト・ラヴァーズとか、そういった橋本さんの側面もここ数年熱くなっているところを感じます。
橋本 そうですね。自分は楽器もできないし、機材のこともわからないし、歌も歌えない人間なので、日本人のアーティストに対して何か自分が出すぎたことを言ったり、プロデューサー的な立場で関わることに抵抗感がずっとあったんだけれども、歳を重ねるにつれて、自分はただ音楽が好きな、レコードが好きなだけの人間だけれども、僕でいいならそのアイディアとかを生かして新しく素晴らしい音楽が生まれることに貢献できるなら嬉しいことだなと思うようになってきましたね。しかも自分のコンピレイションに真っ先に収録させてもらえるんだから、こんな幸運なことはありませんよね。
山本 そういう中にも、僕なんかは90年代の『Free Soul』から、その後の『Cafe Apres-midi』や『Mellow Beats』とか『Free Soul〜2010s Urban』とか、そういう橋本さんのこの30年以上の何か連綿とした繋がりが、集大成みたいに表れてるんじゃないかなと思います。
橋本 今回は大好きなサマー・ソングを日本人アーティストにカヴァーしてもらう中で、自分のコンパイラーとしての歴史も再編集していたのかもしれないですね。
山本 しかも、しっかり今の時代にむちゃくちゃアップデートされているところがすごいと思います。
橋本 僕だけでなくて、アーティストたちにとってもいいキャリアになったらいいなっていう気持ちがあるんですね。いろんなプレイリストに入ったりということはもちろん、コンピに収録されている別のアーティストのファンに知ってもらうきっかけになったりとか、そういう化学反応が起きたらいいなという気持ちはありますよね。FJDの素晴らしいアートワークとの相乗効果とか。
山本 まさにこのアートワークからイメージされる音が詰まっていますよね。
橋本 本当にそう思います。今回の7インチ4枚も含む5種類のジャケットは、夏の海辺のサマー・ドライヴの一日の時間の流れをイメージして描いてもらったんですが、本当に素敵すぎるとしか言いようがなくて。部屋に飾っているだけで気持ちよくすごせる、心が晴れて毎日をポジティヴにピースにすごせる素晴らしい日常のアートとして、僕自身も大切にしています。

山本 僕はいつも思ってるんですが、たぶんFree Soulファンもみんな、夏になると橋本さんのポジティヴな選曲が聴きたいと思ってると思います(笑)。それでは、新録音についてお聞きしていきたいんですが、まずは僕は嬉しいサプライズだったんですが、カジヒデキさんの「Summer Girl」。
橋本 カジくんはもう35年ぐらい前からいわゆるネオアコ・チームというか、ロリポップ・ソニック〜フリッパーズ・ギター周りにいた人たちの中の一人として知り合いで、共通の友人も多く、2001年には『From Cafe Scandinavia With Love〜For Cafe Apres-midi』というアルバムをトラットリアから出したことがあったんだけども、その後は20年ぐらい交流があまりなくて。でも一昨年ぐらいからかな、カフェ・アプレミディでもここ5年ぐらい、ネオ・アコースティックやジャズ〜ソウル寄りの80年代のUKのアーティストをかけるDJパーティーをやるようになったこともあってか、下北沢なんかでも一緒のパーティーにブッキングされることが増えたんです。そんな中で話したり、互いの選曲で盛り上がったりしてるうちに、今回はハイムの大好きな「Summer Girl」を絶対やりたいなと思っていたんだけれども、カジくんと何かやろうという機が熟しているなという感じがあったんで、ひらめいたんですよ(笑)。それでオファーしたらマネージャーからCHABEくん(松田岳二)と一緒に作ろうと思いますと連絡があって、これはいいものができるなと思いましたね。
山本 そうだったんですね。
橋本 GW前ぐらいのことかな、CHABEくんと電話で話す機会があって。そのときに、まずカジくんに、橋本さんは絶対にDJでかけられるトラックを期待して頼んできているからと言って、エイドリアナ・エヴァンスの「Remember The Love」のSpotifyリンクをつけて送りましたと話してくれて。まさに僕の意図にジャストだったんで、それからはできあがりが楽しみで待ち遠しかったですね。カジくんもハイムの「Summer Girl」はもともと好きだったそうで、CHABEくんもプログラミングからスティールパンまでトラックに大貢献してくれて、女性ヴォーカルも入ったらいいよねと話していたら、矢舟テツロー『Free Soul』でも歌ってくれたSwinging Popsicle/Grenfelleの美音子 Fujishimaさんが参加してくれて、とてもいいプロジェクトになりました。原曲のブレイクっぽいリズムやルー・リード「Walk On The Wild Side」的なベース・ラインや、ヘンリー・ソロモンのサックスといったチャームが絶妙のセンスで昇華されて、一番気持ちいい感じのネオアコ・ソウルになったと思います。これはホント、ポール・トーマス・アンダーソンに負けないMVを作りたくなるぐらい、ハマりましたね。
山本 めちゃめちゃハマってますね。ボサっぽい感じのカヴァーで来るのかと思ったらいい感じにグルーヴィーでカッコいいと思いました。
橋本 せっかく「Summer Girl」のカヴァーを作るなら、夏のDJ パーティーでかけたいなと思ってましたが、ホント期待通りの仕上がりで、さっそくかけてます(笑)。
山本 気持ちよく盛り上がりそうですね。続いてのジョナサン・リッチマンのカヴァーは、なんと曽我部恵一さんですね。
橋本 これはもう「That Summer Feeling」っていうのは、ホント自分にとって高校生のときから思い入れ深い愛してやまないサマー・ソングで。高校2年のときかな、NHK-FMでやっていた佐野元春さんの「サウンドストリート」をよく聴いていたんですけど、そのエアチェック・テープで何回も聴きましたし、すぐに7インチ・シングルを買いに行きましたね。自分がコンパイラー・ライフ30周年を過ぎたこともあるのかもしれないですが、最近、音楽を好きになったばかりの頃に心惹かれた曲を、いわゆるダンス・ミュージックやクラブ・ミュージックではないんだけど、パーティーの最後にかけたりするようになって。ビリー・ジョエルの「Piano Man」をかけてみたりとかね(笑)。みんなお酒も入っていてすごく盛り上がったりするんだけど、去年ジョナサン・リッチマンの「That Summer Feeling」もかけてみたんです。そのときなんか、めちゃグッと来てしまって、それもあって、今回のコンピレイションは夏がテーマなのでカヴァー制作したいなと思ったんですね。誰に頼むかといったらもう、すぐに曽我部くんのあの声で歌ってもらえたらいいなと思って。特にジョナサン・リッチマンのオリジナルを知っていると想像ができると思うんだけど、曽我部くんの声であの曲だったら絶対いいよねっていう、多くの友人もこの話を知った瞬間に思ったみたいなんですが。それでお願いしたらすぐOKいただいて。曽我部くんには2007年に僕がプロデュースしたアントニオ・カルロス・ジョビン生誕80周年記念コンピ『ジョビニアーナ』の1曲目で、「イパネマの娘」の弾き語りをしてもらって以来だから、ご一緒したのは18年ぶりですね。サマー・ドライヴというテーマがあったので、曽我部くんらしい、心地よいギター・カッティングの効いたグルーヴィーなヴァージョンに仕上げてもらえたらとオファーしたら、まさにその通りに上がってきました(笑)。よれよれの感じでやってもらってもよかったんですが(笑)、曽我部くん周辺で、グルーヴィーな曲をやるには一番いいリズム隊を起用してくれたと思います。間奏のハンドクラップはオリジナルにもあるんですが、何か心晴れやかになるというか、笑顔になれるサニーでブリージンなナイス・カヴァーですね。ミックスは彼のこだわりでモノラルで。
山本 ちょっとプライヴェイト感のあるミックスですね。
橋本 快活でグルーヴィーなアレンジなんだけど、インディー感とかDIY感みたいなものを大切にしたかったんでしょうかね。それはやっぱりジョナサン・リッチマンの良さでもあり曽我部恵一の良さでもあるから。
山本 曽我部さんも学生時代に「Suburbia Suite」を読んで「Free Soul」の影響を受けたとインタヴューで公言してましたから、そういった根底のところで通じ合っているのかなって感じます。
橋本 あと、なんでお願いしたかっていうと、僕は「サマー・シンフォニー」という曽我部くんの曲がすごい好きで。「アイスクリームとろけるような暑い暑い夏に」って曲なんだけど、その“12inch Version”が特に。曽我部くんに新録カヴァー制作をお願いしてなかったら、本当はセレクションで「サマー・シンフォニー」のそのヴァージョンを入れさせてもらいたいなと思っていたぐらいなんですよ。実はその曲は今、UNITED ARROWSのショップBGMにセレクトしていたりもします。日本語の曲も少し混ぜてみてほしいみたいなオファーを、ブランドのディレクターから受けて、実は2年前の夏からそういうチャレンジをしているんです。曽我部恵一の「サマー・シンフォニー」もそうですが、そういう中で、じゃあ自分の選曲と親和性の高い日本語詞の曲って何だろうというのを、この2年ぐらいセレクションを更新するたびに考えていたんですよ。その経験があったから今回のコンピでいろいろ豊かなアイディアが浮かんだところはあると思います。実は僕は2年ぐらい前まで、ほとんど日本語の曲を聴いてなかったんですよね(笑)。UNITED ARROWSのおかげで、自分の中で日本語の曲への意識やアンテナが広がっていたことが、今回結実して嬉しいです。
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