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【インタビュー】 エミ・マイヤー

2015年12月27日 (日)

エミ・マイヤー

 『Galaxy's Skirt』でバンド・サウンドを徹底追求し、さらに2014年、永井聖一とのコラボ・アルバムではJ-POP/Jインディロック・マナーを完膚なきまでにわきまえてみせた、変幻自在のエミ・マイヤー。

 デビュー時、たしか彼女はジャズの文脈から現れたと思っていたが・・・と、多くのリスナーが常にその鮮やかな七変化ぶりに驚かされてきたことは言うまでもない。さて次の一手は何? と誰もが固唾を呑んでいたところへ、予想をはるかに超える一報が。
 最新作は何と、モノクロームの世界に彩られた、彼女自身初となるジャズ・スタンダード集。しかも、ヨーロッパNo.1のリリカル&ヴァーサタイルなピアニスト、エリック・レニーニとの共同プロデュース、さらにエリックのレギュラートリオが歌伴を付けるというのだから、そんじょそこらのスタンダード集と質を違えていることは明白だ。

 「ジャズを演奏することは里帰りのようなもの」と語るエミさん。最新作となるジャズ・スタンダード・アルバム『Monochrome』について伺ってまいりました。


インタビュー/文・構成:小浜文晶


これまで何百回、何千回カヴァーされたスタンダードでも、尊敬するエリックさんのカラーが全曲に反映されればきっと特別なものになるって確信していましたから。


-- 今回はエミさんにとって初のスタンダード集となったわけですが。

 私自身、デビュー・アルバムがジャズのカテゴリーに入っていること自体に違和感はなかったんですが、ただ「ジャズ・シンガー」と形容されることについてはかなり抵抗感がありました。なので、あえてジャズとの距離をとるためにポップスやロックの要素が強い作風に向かっていき、ついには去年J-POPアルバムを出して、完全にジャズからかけ離れたところまで行ってしまいました(笑)。で、その次に何をしようかなと考えたときに、小さい頃からよく聴いてきた音楽、自分にとって一番“comfortable”な音楽でアルバムを作りたいなって。


-- それがジャズだったんですね。

 もし日本で育っていたら、自然と歌謡曲やJ-POPに馴れ親しんでいたと思うんですが、私の場合はジャズだった。自らチョイスしたわけじゃなくて、周囲にいつもジャズが流れている環境だったんですよ。そういう意味でも、今回の作品は「里帰り」って言うことができるし、何よりジャズを歌ったり演奏することで自分らしくいることができるんですよね。


-- ご両親が家で常にジャズのレコードをかけていたり?

 家では特にピアニストのレコードがよくかかっていました。だから今回のようなスタンダード・ナンバーでも、歌モノというよりは、ピアニストによるヴァージョンを好んで聴いていたんですよ。例えば「My Funny Valentine」だったら、チェット・ベイカーよりハンク・ジョーンズ、セロニアス・モンク、ハービー・ハンコック、あとは、キース・ジャレットのヴァージョンもよくライヴで観ました。


-- 今回はパリ・レコーディングになるんですよね。

 J-POPアルバムが日本だったので、次は海外でレコーディングしたいなって。しかも、これまで経験のあるロスやシアトルではなく、まったく初めてのところで。結果、今回プロデュースをお願いして、なおかつ以前一緒にツアーも回ったことのあるエリック・レニーニさんが住んでいるパリがちょうどいいんじゃないかなということで、2014年の10月にパリに赴いてレコーディングをしました。


-- 『Galaxy's Skirt』はバンド・サウンドを追究していたわけですが、ここではシンガー+ピアノトリオというシンプルなフォーマット。

 「足し算から引き算になった」っていう変化ですね。バンドをもっと大きくしたいっていう気持ちはたしかにあったけれど、それを一旦リセットして最もミニマルな形で音作りしながら、また必要に応じてそこに足していくのも悪くないかなって思ったんですよ。


-- エリック・レニーニさんのレギュラートリオがバックを付けているというのはエミさんにとっても大きかったんじゃないですか?

 お決まりのジャズ然としたアレンジよりは、ピアニストの個性が反映されたものを作りたかったんですよ。それもあって、今回はピアニスト選びから始めました。これまで何百回、何千回カヴァーされたスタンダードでも、尊敬するエリックさんのカラーが全曲に反映されればきっと特別なものになるって確信していましたから。


-- エリックさんも、エミさん同様、様々な音楽を吸収して自分の音楽に取り入れるタイプのピアニスト/コンポーザーですよね。

 よく「なぜエリックさんを選んだのか?」っていうことを訊かれるんですけど、結局そういうところなんですよね。私にしてもジャズ・スタンダードを歌うのは初めてでした。日本語で歌った『Passport』のときもそうでしたけど、インスピレーションやフィーリング、半ば直感のようなものを大事にしながら歌った部分がすごく大きかったんですね。ようするに、今の私にしかできないジャズ・スタンダードの捉え方。その点で、「エミが歌いたいように歌えばいいよ」って言ってくれた“決めつけ”のないエリックさんとのレコーディングはすごく安心感がありました。それこそ“comfortable”で開放的な感じでしたね。


1970年ベルギー生まれ。20歳前からヨーロッパ各地のトップ・ミュージシャンと交流をはじめヨーロピアン・ジャズを牽引する存在として注目を浴び「ベルギーの逸材」と称されたジャズ・ピアニスト。キース・ジャレット直系のスタイルから、ファンキー路線、さらにはラテンやアフロのテクスチャまで、アルバムごとに大きくカラーを違えた作風は、リスナーの想定のさらにその上をゆく。また、ヒップホップやR&B系のアーティスト、さらに2008〜2009年にはミルトン・ナシメントの作品への参加などジャズ以外の仕事も多い。最新作は、ヒュー・コルトマン、ママニ・ケイタ、エミ・マイヤー、3人のシンガーを起用した2013年の”ジャズ×アフロビート”プロジェクト第2弾『Sing Twice!』。


-- これまでの作品がカラフルなものばかりだったので、“monochrome”さがより際立った印象はあります(笑)。

 それこそ『Galaxy's Skirt』やJ-POPアルバムでは、サウンドのレイヤーやカラーだったり、かなりプロダクションを盛り込んでいたので、ある種“spontaneity”が自分の中で失われかけていることに気付き始めて・・・なので今回はシンプルに、そこまで作り込んでいない“monochrome”な雰囲気を目指したところはありますね。


-- 全曲ほぼ一発録りというのもかなり新鮮だったんじゃないですか?

 曲ごとのテイクの合間も音楽に集中していましたね。エリックさんをはじめ、トリオのメンバーがみんな私より年上だったということもあって、休憩時にツィッターのタイムラインを気にしてる人もいなかった(笑)。今いるスタジオの雰囲気を味わって大事にしている感じ、それがかなり新鮮で楽しかったですね。


-- 『Galaxy's Skirt』のときと歌の表情がかなり異なるのは、そういったスタジオの雰囲気も大きく影響していたとか。

 それもあるかもしれませんよね。でも歌い方自体、そこまで意識して変えようとはしていないんですが、ただ他の人によって書かれた歌詞なので、一語ずつの発声や滑舌、どこでエモーションを込めるべきかっていう模索が私自身にとってのチャレンジでした。

 自分の書いた歌詞であれば、多少聴き取りにくい歌い方でも自分の気持ちだからOKだっていうところはあるんですけど(笑)。だから今回は真逆。自分の世界から出ていないものだからこそ一語一語丁寧に歌い込むべきなんだって、そこは強く意識していました。

 ジャズ・スタンダードのカヴァー・アルバムって本当に多いじゃないですか? でも、そういう作品をあまり聴き込まなかったのもよかったのかなって。それこそ私の「Fly Me To The Moon」のシングルがリリースされたときに、たまたまそのカヴァー・ヴァージョンをネットで検索してみたら、こんなにあるんだってビックリしたぐらい(笑)。


エミ・マイヤー



-- 今回2曲のオリジナルも収録されるのですが、そのうちの1曲「If I Think Of You」のメロディはそれこそエリックさんぽいなと。

 80%ぐらいの完成度のまま何年か寝かせておいて、これまで録音するきっかけがなかった曲なんですけど、今回エリックさんとやる機会まで取っておいてよかったです。彼にピアノを弾いてもらうことで、よりいいものを引き出してもらえたような気がします。


-- そして、おふたりの共作となるのが「Monochrome」。

 エリックさんがメロディやピアノのフレーズを考えて、私に「このメロディに合う歌詞を付けてくれないか」って。ちょっとサウダージな感じ。今回歌ったスタンダードを意識しながら作った曲ですね。


-- この曲にかぎらず、全体的にサウダージ感が程よくまぶされているなと。

 そうそう、それこそエリックさんのカラーですよね。ラテン、ボッサ、アフロジャズなんかも好きで、人間的にも陽気なんですけど、でもひとたびピアノの前に座ると結構哀愁のあるメロディやフレーズを繰り出してくる。彼のそういうところが好きなんですよ。

 スタンダード・ジャズのハッピーな側面だけに寄せすぎちゃうと、やっぱりベタなものになってしまう気もするんですよ。スタンダードの歌詞の意味を咀嚼してゆくと、かなり辛い経験をしてきた人が、そんな素振りも見せずハッピーな曲を書いているのかな?って思わせるぐらい言葉に絶妙なヒネリがあったり、それがおもしろいんですよね。


-- それは今回あらためて歌い込む中で発見したこと?

 そうですね。今までピアノで弾いたことはあったけど、さすがにここまで言葉に集中したことがなかったので、どの曲もハッとさせられるぐらい新しい解釈の仕方を発見しました。

 「Cheek To Cheek」にしても、「ここのところずっと気にかけていた不安は消えそう 勝ち続きのギャンブラーのように」みたいな言い回しをうまく使って奥深さやメランコリーを感じさせてくれる。こういう逆説的な表現方法はソングライターとしても本当に勉強になりますね。今は感情をストレートに表に出す音楽が多い。私自身そういうムキ出しのものも好きだけど、少し引いた視線から曲を書いてみるのもおもしろいなって。

 ちなみに「Cheek To Cheek」でギターを弾いているロッキー・グリセットさんは、いわゆるマヌーシュ系のギタリストで、エリックさんの紹介なんです。ロッキーさんは楽譜が読めないから、今回のタイトなレコーディング・スケジュールでは参加が難しいかなって思っていたんですが、ギタープレイを聴くとやっぱり彼じゃないとダメだなって。ここでのギターソロ、本当に素晴らしいですよね。


-- マイケル・ブーブレの「Home」に関しては、エミさんご自身「現代のスタンダードになり得る可能性があるかも」とおっしゃっていますね。

 ブーブレさんが書いたオリジナルの「Home」はもちろんですが、アメリカではカントリー・シンガーのブレイク・シェルトンによるカヴァー・ヴァージョンもすごく有名で、私も大好きなんですよ。そういう意味でも、ジャンルを問わずこの先も歌い継がれていく可能性があるんじゃないかなって。

 カヴァーについては、最近ジャズでもインディ・ロックの曲を採り上げたり、かなり意表を突いた、選曲からしてユニークなカヴァーも多いと思うんですよ。ジャズにしてもカントリーにしてもポップ寄りになっている証拠なのかもしれないけど、いずれにせよどんな曲をカヴァーしても“アリ”な時代になったんじゃないかな。


-- エタ・ジェイムスでよく知られる「I'd Rather Go Blind」もいいチョイスですね。

 それまでクラシックなブルースやリズム・アンド・ブルースを歌ったことはほとんどなかったんですが、この曲は昔から好きですね。特にロッド・スチュワートのヴァージョンが。


-- ロッドのヴァージョンが習作に?

 女性目線ではない彼のヴァージョンを聴いて、よりこの曲の真意に触れることができましたね。あと、ビヨンセが映画「キャデラック・レコード」の中でこの曲を涙を流しながら歌うシーンがあって、それも大好きなヴァージョンのひとつ。とはいえ、彼女と同じように歌うことは絶対無理なわけで。結局、どんなに素晴らしいパフォーマンスでも女性シンガーのヴァージョンはあまり参考にしないようにしています。男性が歌ってるヴァージョンを習作とする割合の方が断然多いんですよ(笑)。


-- (笑)意外ですね。

 なんでだろう? 声質もあるのかもしれないけど、なぜか入りやすいんですよ。「Moon River」もエリック・クラプトンのヴァージョンを参考にしているし。「My Funny Valentine」はアンディ・ウィリアムス。彼が日本のテレビで歌っている動画がアップされていて、それをフランク・シナトラのヴァージョンと比較したりして(笑)。メロディの伸びだったり、盛り上がる箇所がそれぞれで違うから興味深かった。


「I'd Rather Go Blind」収録。前作『Every Picture Tells A Story』に続いて大ヒットを記録したロッド・スチュワート1972年のソロ4作目。サウンド的にも前作の路線を継承。フェイセズそのものの音に溢れている「True Blue」を皮切りに、「Maggie May」の続編とも言うべき「You Wear It Well」、ジミ・ヘンドリックスの「Angel」などで脂の乗り切った歌唱を聴かせる。後半の「I'd Rather Go Blind」、「Twisting' The Night Away」という2曲のR&Bカヴァーこそが今のロッドに繋がるルーツ。


-- ラストの「What A Wonderful World」も昔から思い入れの強い曲ということで。

 歌い始めた頃、実はカヴァーって好きじゃなかったんですよ。自分のヴォーカル・レンジに対してコンプレックスがあったから、自分で作った曲以外うまく歌える自信がなかった。でも、トランペットをメイン楽器にしているルイ・アームストロングの個性的な声は、ピアニストだった私にとってすごく共感しやすいものがあったんです。


-- エミさんにとって「スタンダードの条件」みたいなものってありますか?

 男女問わず歌えたり、それこそジャンルの枠を超えて、どんなアレンジでどんな形になっても「いい曲だな」って思えるものが、スタンダードだったりユニバーサルな名曲って言えるんじゃないかな。あと、全然古くならないっていうこと。いつ聴いても、何度聴いても新しいものとして耳に入ってくる独特なサウンド・ワールド。これは例えばビートルズに言えることでもあって。ポールの几帳面なアレンジもそうだけど、陰と陽のコントラディクションを好んだジョン・レノンの歌詞の世界が、彼らの音楽をずっと色褪せないものにしていると思うんですよ。

 それこそスタンダードの歌詞の世界も同じで、二重否定や逆説的な表現を絶妙なバランスで使うことでフレッシュさが保たれている。それが世代を超えてみんなの心をくすぐり続けている理由なんじゃないかなって思います。



【取材協力:プランクトン 】




 Emi Meyer 『Monochrome』

スモーキー・ヴォイス、ピアノ、甦る名曲たち。
パリでレコーディングされたロマンティックなジャズ・スタンダード集。


数々のコラボレーションやCM,映画への楽曲提供などで話題のシンガー・ソングライター、エミ・マイヤー。デビュー時には、iTunes Storeや多くのCDショップのジャズチャートで1位を獲得しており、元々ジャズシーンでの評価も高い彼女が満を持して取り組むテーマが「ジャズ・スタンダード」。共同プロデューサーとしてジャズ・ピアニストのエリック・レニーニを迎え、パリで録音されたロマンチックな名曲の数々に、スモーキー・ヴォイスが歌い、時に寄り添う。セイコーCMで歌われていた「ムーンライト・セレナーデ」のアルバム・ヴァージョンを収録。



収録曲

  • 01. フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン
  • 02. ムーン・リバー
  • 03. アイド・ラザー・ゴー・ブラインド
  • 04. イフ・アイ・シンク・オブ・ユー
  • 05. チーク・トゥ・チーク
  • 06. スマイル
  • 07. ムーンライト・セレナーデ
  • 08. マイ・ファニー・ヴァレンタイン
  • 09. モノクローム
  • 10. ホーム
  • 11. この素晴らしき世界


  エミ・マイヤー プロフィール
  (Emi Meyer)

アメリカを拠点に活動するシンガー・ソングライター。日本人の母親とアメリカ人の父親の間に京都で生まれ、1才になる前にアメリカのシアトルに移住。幼い頃よりクラシック・ピアノを学び友人と共演したいとの理由でジャズ・ピアノも学ぶ。18才で曲を書き出し、L.A.と東京でヴォーカリストとしての活動を始める。2007年にシアトルー神戸ジャズ・ボーカリスト・コンペティションで優勝。その後、Jazztronik、ジョー・ヘンリー、ヤエル・ナイムなど国内外の著名アーティストと共演を重ね、フジロックなど各地の大型フェスにも出演。その歌声と存在感で多くの聴衆を魅了している。

2009年にリリースされたデビュー・アルバム『キュリアス・クリーチャー』は、iTunes Storeや多くのCDショップのJAZZ チャートで首位を獲得。iTunes StoreではJAZZカテゴリーの「年間ベスト・ニュー・アーティスト」にも選ばれた。2010年にShingo Annen(Shing02)との共作となる全曲日本語詞の2ndアルバム『パスポート』をリリース。数々のCMソングも手掛けており、キリンビバレッジ「午後の紅茶 アジアンストレート<無糖>」TVCFで使用された「ジャマイカ・ソング」、「アヲハタ55ジャム」で使用された「フレンドリー・フェイス」は、2011年リリースの3rdアルバム『スーツケース・オブ・ストーンズ』に収録されている。

2012年にリリースしたミニ・アルバム『LOL』は収録曲「オン・ザ・ロード」がTOYOTAプリウスのCMでオンエアされ、スマッシュヒットとなった。またケン・イシイや大橋トリオとの共作曲でも幅広い層に支持されている。2013年4月に『ギャラクシーズ・スカート』を、2014年には永井聖一とのコラボ・ユニットで全編日本語詞のアルバム『エミ・マイヤーと永井聖一』をリリース。そして2015年秋、キャリア初のジャズ・スタンダードをエリック・レニーニとの共同プロデュースでリリースした。








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初のジャズ・スタンダード集

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