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「真夏に聴くマーラー」

Monday, August 5th 2013

連載 鈴木淳史のクラシック妄聴記 第49回

「真夏に聴くマーラー」

 すっかり真夏になってしまっていた。
 ようやくクラシック音楽のシーズンも一区切り。というか、こんな蒸し暑さでは、交響曲だのオラトリオだのを聴けというのは無理がありすぎる。などと、毎年のようにこの欄でボヤいているのだけど、こんな状況なのにスーツ着て電車乗っている人も確かにあり、もしかしたら土鍋囲んできりたんぽパーティやっている御仁だってあるかもしれぬし、俺も男だ、ロシアのオーケストラによるチャイコフスキーでも聴いてみましょうかねと、ちょいと意気込んでみたのだが。

 やはり無理だ。「夏でもコートと手袋を手放しませんでした」のグレン・グールド様にもあやかれないし、「火もまた涼し」というほどの精神力もなし、「徹底的に自己を追い込みたい」といったマゾヒズムだって備わってはおらぬ。齢重ねてますます極まれりヘタレな人生。
 そういうときは思い切って、音楽を聴くのを休めばいいのだ。耳にもバカンスを。といいつつも、わたしの場合、全く聴かなくなったおかげで、炎天下でボロディンの交響曲第2番踊りをするなど、おかしな禁断症状が出るのも社会人として絶対に避けたく、あまり暑苦しくならない古楽や現代曲を選んで聴いたりはするのだけども(もっとも、「ショスタコーヴィチの交響曲全集を聴いてそのレビューを・」なんてご無体な仕事が入れば、耳から汗垂らしながら聴かなければならないのだし……)。

 というわけで、たとえマーラーの交響曲を聴きたくなっても、ここはピアノ版などの比較的涼しそうな編曲モノを探して聴くことになりがちなのだが、やはり原曲の華麗なオーケストレーションを知っている身としては、「なにやら味けねえ」と毎回ソーメンばかり並ぶ食卓を前にしたように感じてしまうのも致し方ないわね、と湿っぽい縁側で無言で爪を切ったりするわけで。
 そんな時分、出会ったのがヘンシェルの歌う「子供の不思議な角笛」なのだった。交響曲に入っている声楽曲も含んだコンプリート集だ。ヘンシェルの抜群の安定感を誇りつつも、絶妙な表情の推移は、さすがにお手のもの。
 しかし、なんといってもこの盤のウリは、伴奏を務めているのがベレゾフスキーなのだ。そう、とても歌曲伴奏なんかしそうにない、あのキラキラしたマジもんのヴィルトゥオーゾ。
 これが、マーラーの管弦楽を思わせるような多彩な音色や表現で聴かせてくれるのだ。マーラーのピアノ譜をこれほどまでに極彩色の音で弾いた例はないだろう。まず、アルバム冒頭に配された「死んだ鼓手」の鋭いリズム、クライマックスへの向けてのダイナミズム(ヘンシェルの表現も凄いのだが)、そして光彩放つコーダに圧倒されよう。次の「ラインの伝説」の可憐さと気だるさが歌詞によって表情を激変させるのも凄い。ほかにも「少年鼓手」の地鳴りのような低音トリル、「魚に説教する聖アントニウス」のシニカルな歌い回しなど、バリバリのヴィルトゥオーゾがマーラーに取り組むとこんなふうに面白くなるのかと、ほうほうと感心しながら耳を傾けたのだった。
 ピアノ伴奏歌曲という涼しげな体裁ながら、フルオケの管弦楽を聴いた気分も味わえてしまう、まさしく夏に聴くのにピッタリなマーラーなのである(もっとも、マーラーの作品は夏、とくにその夕暮れにふさわしいのだ。その場所がオーストリアの別荘地ぐらいの気温と湿度が保たれているなら)。

  とはいっても、今年の夏は意外に涼しい日も少なくないのだった。その涼しさに乗じて、バカンス返上とばかりにクラシック音楽に親しんでしまう自分。そのなかから、注目したい新譜を二枚ばかし。
 
 シャルパンティエは、バロックのなかでは決して夏向きとはいえない。妙に和声がネットリ感じられるし、かといってパリパリに乾いた演奏なんかで聴いてしまうと、やはり味わいに欠ける。
 ドゥセ率いるアンサンブル・コレスポンダンスの演奏を耳にするのは始めてだが、ネットリ感を損なわずにクールな印象なのがとても気に入った(あ、トルコアイスって感じかね?)。一つひとつの声部が明瞭ながら、カラミも濃厚。フランス・バロックの王道を突き進んで行って欲しいアンサンブルだ。

 そして、暑苦しそうだったら最初だけでやめて虫取りにでも行ってしまおうと思って聴き始めたシューベルトの交響曲。これが、最後まで気持ち良く聴けてしまった。演奏は、パプロ・ヘラス=カサド指揮フライブルク・バロック管。
 ジャケット写真で指揮者が宙に浮いていることからもわかるように、とても軽やかなシューベルト演奏である。しかもほんのり柔らかい。ギッチギチにピリオド節を強調しましたぜ、といった素振りなく、締めるところはキチッと締め、小気味良いリズム、機能性を生かしつつも、さっぱりと明るく、ふくよかささえ感じるアダルトな響きが実にいいねえ。憂愁を湛えた第4番第2楽章は、まさに夏の夕暮れなどに聴くと涙が出そうになっちゃう。

 フライブルク・バロック管も指揮者(あるいはコンサートマスター)によっては、カチカチの硬い音楽になってしまうことがあるが、その持ち前は南ドイツらしい陽光が感じられる明朗さにある。ラテン系のカサドは、そうしたオーケストラの音色を十二分に引き出してくれる指揮者だ。ヘンゲルブロックに続く次世代として、期待したいところ。

(すずき あつふみ 売文業) 

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