2013年4月2日 (火)
昨年末、會田茂一/根岸孝旨/田渕ひさ子(bloodthirsty butchers)/斉藤祐樹(髭)らと共に制作した、九州地区限定で発売されたシングル「あたしの心臓あげる」が話題に。年明け早々には全国発売となるなど、今最注目のバンド“黒木渚”が3月20日に全7曲入りの1stミニアルバム『黒キ渚』をリリース。
その発売を記念し、ヴォーカルの黒木渚による連載がスタート。毎回、アルバム収録曲になぞらえた小説を黒木渚自らが執筆。アルバムの世界観に新たな角度から彩を添える7篇をお楽しみください。
第5回 「クマリ」
人が一番最初に覚える感情は何なのだろう。
普通の家庭で、普通の家族に囲まれて、普通の生活をしている子供達が最初に得る感情とは。そもそも、そういった環境で育つ子供にとって、感情というものはあまりに自然に身について行くもので、意識などしないうちに人間らしく育っていくのかも知れない。
しかし私は鮮明に覚えている。
私に芽生えた最初の感情は「嫉妬」だった。
それを「嫉妬」と呼ぶことさえ、当時の私は知らなかったのだけれど。
ものごころついた時から、私はこの村の神として崇められていた。
かすかな記憶にあるのは、満月の夜のこと。みずみずしい果実や、たくさんの穀物、そして水牛やヤギの首に囲まれてずっと夜明けまで独りだった。暗い塔の中で私は泣きもせず、ただ自分の置かれた状況が理解できぬまま、テラテラと月の光を反射する牛の目を見ていた。
それはこの村の生き神「クマリ」を決める儀式であり、泣かなかった私はその日から神になった。
家族と引き離され、神殿で大勢の大人に囲まれて生活するようになった。
私は美しい朱色の服を着て、いつも玉座に座っているだけだった。額には金属で作られた三つめの瞳を付けて、たまにお祈りにやってくる村人に水をふりかけたり、額に朱色の塗料を塗りつけるだけの日々。
唯一お祭りの日だけ私は外に出られた。もちろん神輿に乗せられたままなので、自分の好きな場所へ行けるという訳ではなかったけれど、人間の生活を少しだけ感じることができた。
私と同じくらいの背格好の女の子が必死に神輿の下から私を覗きこんでくる。おんなじ村に産まれて、見た目だってそんなに変わらないのに、私は「神」でこの子は「人間」。それを分けた決定的な違いとは一体なんなのだろう。いくら考えても分からなかった。
ただ、私は不自由無く生活できる存在なのだという事は分かっていた。下から見上げるこの子の服はみすぼらしく、体もやせっぽっちだ。私はいつも綺麗な服を着せてもらえるし、毎日食べきれないほどの御馳走が食卓に並ぶ。
けれど、当時の私は気付いていなかった。不自由なのは見上げる少女では無く、私の方だったということに。神として生きることを自分が強いられていたことにさえ気付いていなかったのだから。
8歳になったある日、私は突然初潮を迎えた。
足をつたう鮮血を見て、自分の体の中にこんなにも鮮やかな色がある事を知った。そして、毎日私の世話をする付き人にもそれを教えてあげようと思ったのだ。しかし、足元の血をみた付き人は、感心するどころか顔色を変えて他の大人達を呼びに行ってしまった。
クマリは血を流した瞬間に「神ではなくなる」のだ。
それからはもう、めまぐるしい周囲の変わりように、正直何が起きたのか良く覚えていない。
ただ、私は神では無くなったのだということだけははっきりと分かった。
美しい服も額の目も剥ぎ取られ、玉座から降ろされ、私は自分の「家族」だというものの所に返された。私は自分が人間から産まれたことさえ知らなかったのに。それからは地獄だ。普通の生活を知らない者にとって、人間らしくとか子供らしくという概念は理解が出来ない。笑ったり泣いたりを自然に覚えた子供達にとっては、私は不気味に映ったのか友達もなかなか出来なかった。
そして人間としての生活を始めて1年が経ったころ、村の祭りの日がやって来た。村人は朝から祭壇の掃除をしたり、市場へ供え物を買いに行ったりと、なんだかいつもとは違う雰囲気が漂っていた。何か素敵なものが見れるのだろうか?母親に手をひかれ、私は初めて祭りに行くことになった。
しかし、私が目にしたものは残酷な光景でしかなかった。
そこに現れたのは、豪華な神輿に乗った次のクマリだったのだ。村人は皆神輿に手を伸ばし、祈りの言葉や神への称賛を叫ぶ。あれはかつて私に向けられたものでは無かったか?すました顔をして座っている少女が身に付けている朱色の服も、装飾品も、そしてあの玉座も!!全て私のものだった。
今までにない大きな何かが私の中に湧きあがって来た。それは殺意にも似た、そして羨望にも似た強烈なうずまきで、私はこらえきれず金切り声をあげながらのたうちまわった。
あの日、ジェラシーという感情を知った幼い私は、初めて涙というものを流しながら、人間になることの洗礼を受けたのだ。
黒木渚 『黒キ渚』 [2013年03月20日 発売]
2012年12月12日に九州限定でリリースした1st Single「あたしの心臓あげる」が全国のオリコンインディーズチャートで14位、有線インディーズチャートでは1位を獲得し話題となり、1月8日に同作品が全国発売となった黒木渚。注目度が高まる中、1stミニアルバム『黒キ渚』をリリース。
アイゴンこと會田茂一をサウンドプロデューサーに迎えた新作「骨」から、同じく髭のメンバーであるギタリスト斉藤祐樹を迎えた「クマリ」、根岸孝旨をサウンドプロデューサーに、田渕ひさ子をギタリストに迎えたライブ人気曲「カルデラ」、アマチュア時代の音源で廃盤となっていた「赤紙」、ギターボーカル渚が初めて人に書いた曲というピアノとボーカルだけで収録されている「砂金」など全7曲を収録。
【HMV ONLINEオリジナル抽選特典】
黒木渚 『黒キ渚』をHMV ONLINE/HMV MOBILEにてお買い上げの方の中から抽選で5名様に「黒木渚サイン入りポスター」をプレゼント!
※HMV ONLINE本サイト及びHMV MOBILEサイト以外からのご購入、非会員でのご購入は特典対象外となります(HMV Yahoo!店、HMV 楽天市場ストアでのお買い上げは対象外です)。
※お客様の携帯にて指定着信許可をされている場合は、“@hmv.co.jp”のドメイン指定許可設定が必要になります。
※HMV ONLINE/HMV MOBILEでご注文頂いた場合、タイミングによっては対象期間を過ぎる場合がございますことをご了承下さい。
※当選は賞品の発送をもってかえさせていただきます。
【応募方法】対象商品ご購入後(商品出荷時)に、メールにて応募フォームのURLをお知らせ致します。
【購入対象期間】〜2013年4月19日(金)まで ※以前にご予約いただいた方も対象となります。
【応募対象期間】2013年03月19日(火)〜2013年04月26日(金)
【購入対象期間】〜2013年4月19日(金)まで ※以前にご予約いただいた方も対象となります。
【応募対象期間】2013年03月19日(火)〜2013年04月26日(金)
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※HMV ONLINE/HMV MOBILEでご注文頂いた場合、タイミングによっては対象期間を過ぎる場合がございますことをご了承下さい。
※当選は賞品の発送をもってかえさせていただきます。
収録曲
- 01. あたしの心臓あげる
- 02. クマリ
- 03. 骨
- 04. 赤紙
- 05. エスパー
- 06. カルデラ
- 07. 砂金
【黒木渚 プロフィール】
黒木渚という名のバンド。2010年12月福岡にて結成。
崇高と低俗、汚れとイノセント、甘美と狂気、相反するものを同じ絶対値で歌う歌詞世界。全てを征服してしまうような凛とした渚の歌声。その世界を最大限に引き出そうとするエッジの効いた変幻自在のバンドサウンド。一つの演劇を見ているかのような独特の雰囲気漂うライブ。
2012年12月12日に処女作となる1st single「あたしの心臓あげる」を九州限定でリリース。大きな反響を受け1月8日から全国発売となり、これが10週連続でオリコンインディーズチャートTOP20にランクインのロングセラーとなる。同月22日には福岡VIVRE HALLで黒木渚独演会「ゆりかごあやし」を開催し、SOLDOUTの超満員。
3月20日に1st mini album「黒キ渚」リリース決定。全国各地アルバムツアーも決定している。
[関連リンク]
黒木渚 オフィシャルサイト
黒木渚 facebook
黒木渚 公式Twitter(STAFF)
崇高と低俗、汚れとイノセント、甘美と狂気、相反するものを同じ絶対値で歌う歌詞世界。全てを征服してしまうような凛とした渚の歌声。その世界を最大限に引き出そうとするエッジの効いた変幻自在のバンドサウンド。一つの演劇を見ているかのような独特の雰囲気漂うライブ。
2012年12月12日に処女作となる1st single「あたしの心臓あげる」を九州限定でリリース。大きな反響を受け1月8日から全国発売となり、これが10週連続でオリコンインディーズチャートTOP20にランクインのロングセラーとなる。同月22日には福岡VIVRE HALLで黒木渚独演会「ゆりかごあやし」を開催し、SOLDOUTの超満員。
3月20日に1st mini album「黒キ渚」リリース決定。全国各地アルバムツアーも決定している。
[関連リンク]
黒木渚 オフィシャルサイト
黒木渚 facebook
黒木渚 公式Twitter(STAFF)
Live 情報
黒木渚 1st mini album 『黒キ渚』 RELEASE TOUR 「複合人格」4/12(金)【東京】下北沢ClubQue ロックの夜明け presents「INCIDENT 13.04」
4/23(火)【愛知】名古屋APOLLO THEATER「本格派vol.2」
4/27(土)【福岡】薬院BEAT STATION 黒木渚 福岡独演会「黒キ渚」〜x∩X≠Φ〜
5/02(木)【京都】MUSE
5/03(金)【大阪】阿倍野ROCKTOWN
5/10(金)【北海道】札幌Spiritual Lounge
6/01(土)【東京】下北沢ClubQue 黒木渚 東京独演会「黒キ渚」〜x∩X≠Φ〜
※神戸・仙台など後日追加公演発表!詳細は公式HPまで。
チケット情報・販売はローソンチケット『ローチケ.com』へ!
その他オススメ情報はコチラから!
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【連載】黒木渚の 「無限草子」
注目バンド“黒木渚”のヴォーカル・黒木渚による書き下ろし小説『無限草子』、バックナンバーはこちらから!
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※表示のポイント倍率は、
ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。
ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。