山中千尋のビートルズ愛はどうだ!
2012年7月9日 (月)
胎動するビートルズをしっかりと生み落とし、いざ次のステージへ。
ストトン、と快活なタブラが夢見るエキゾ・リゾートの五感を大いに刺激。主役ピアノは伸縮豊かなダイナミック・フォームで、セント・ジョンズ・ウッド〜ディエゴガルシア〜日本〜ニューヨークを一気に駆け抜ける。
聴き手にとっては、冒頭「ビコーズ」で勝負アリと謂ったところだろうか。”勝負アリ”というのは、「ビートルズをギュッと抱きしめながらも、しっかりとネクスト・ステージに到達した」、そんな主役の姿が屹立していることを大いに意味する。
デビュー50周年、さらにはロンドン・オリンピック開催間近ということもあり、そろそろビートルズ周辺が騒がしくなり始めた矢先ではあるが、誤解を恐れずに謂えば、音楽家にとって既に”手垢まみれ”となっている彼らの楽曲群においそれとタッチすることだけは、どう見ても避けたい行為のハズ。とはいえ、アレコレ智恵を出し心を砕き、畏敬の念さえ以ってリスペクト・カヴァーされたものは、これまでに星の数ほど存在することも最早説明するまでもない。
さてそこに「オリジナルを越えた越えない」といった議論は全くもって御門違いだが、しかし、「演者のオリジナリティがそこにどれだけ盛り込まれているか」となると話は別。無論ビートルズに限った話ではないが、四角四面の淡白カヴァーが市場に氾濫する昨今にこそ、その重要性を問い質す意義というものがありそうだ。
結論から謂えば、この『ビコーズ』は、そんじょそこらの「ジャズ meets ビートルズ」作品とは一線どころか二線・三線をも画する、主役の表現力の強さや想像力の逞しさに溢れ返った作品集となっている。
元来、「ジャズ・インスピレーションの自由さ」に魅了されこの世界に足を踏み込んだ山中千尋。予定調和に足を向け、歴史主義に牙を剥き、そのルックスからはおよそ想像できない ”攻める” ピアニズムで現代ジャズの闇部をナデ斬りにしてきたことは、ここであらためて説明するに及ばず。音楽表現に対する彼女の強く芯のある姿勢は、愛しのビートルズを前にしても変わらず動じず、むしろ「私の中から生まれたビートルズ」という飛躍によって、その愛は良妻賢母のそれの如く端然と温度を高めている。
収録曲
- 01. ビコーズ
- 02. イエスタデイ
- 03. フォー・ノー・ワン
- 04. インサイト・フォーサイト
- 05. ヒア・ゼン・アンド・エヴリホエア
- 06. インプリンツ / ドライヴ・マイ・カー / 愛のことば
- 07. イット・ワズ・ア・ビューティフル・エイト・ミニッツ・オブ・マイ・ライフ
- 08. ユア・マザー・シュッド・ノウ
- 09. ハニー・パイ
- 10. ミッシェル
- 11. イエスタデイ (別ヴァージョン) ※ 通常盤 / SACD のみのボーナストラック
[特典DVD] 収録曲 (※初回限定盤のみ)
- 01. インサイト・フォーサイト
- 02. イット・ワズ・ア・ビューティフル・エイト・ミニッツ・オブ・マイ・ライフ
- 03. フォー・ノー・ワン
山中千尋(p, synth, g, hammond B3, ukulele, harmonica) /
中村恭士(b) / ジョン・デイヴィス(ds) / ジョン・ノレン(tabla)
2012年5月7、8日 ニューヨーク、イーストサイド・サウンドにて録音
2012年5月23日ニューヨーク、スターリング・サウンドにてマスタリング(マスタリング・エンジニア:グレッグ・カルビほか)
本家の「ビコーズ」と謂えば、ジョン・レノンが、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調作品27の2 「月光」にヒントを得て書き上げた曲として有名かもしれない。ジョージ・マーティンが弾くエレクトリック・ハープシコード、ジョージ・ハリスンのムーグ・シンセサイザー、ジョンのエピフォン・カジノ、そして三部合唱をオーバーダブした九声ハーモニーなどが、月世界からの美しくも幻想的な光線を情緒纏綿に描いている。
山中千尋が見ほれた ”月とビートルズ” の神秘的な関係「ビコーズ」は、本家のミニマル仕立て(歌詞は何とも壮大!)の向こうを張るかのような力感溢れるリズミックな語り口だ。しかも硬軟自在に、一筆書きの粋の良さで、瞬く間に21世紀の「ビコーズ」が産声を上げる。早々圧巻の山場にして、あの「八木節」カヴァーをも蘇らせる大胆な楽想と切り口。
『レミニセンス』にも参加していたジョン・デイヴィスのスピーディなドラムにジョン・ノレン(!?)のタブラ、そこにシタールが加えられ、リズムの色彩はさらに混沌度を増す。「イエスタデイ」では、あわよくば電化マイルス世界を想起してしまいそうな禍々しい律動の大波小波に押し寄せられそうになるが、主役ピアノの身体能力に長けた回転力がそこを違える。気付けば天空、 ”山中オリジナル” ワン・アンド・オンリーのミクロコスモスが大きく広がっていることに気付かされる。誰もが知り得るあのメロディでさえ、至極新鮮なものとして、あるいは初見の如き感覚でスススッと入り込んでくる。
「フォー・ノー・ワン」、「ヒア・ゼン・アンド・エヴリホエア」、「ユア・マザー・シュッド・ノウ」においても同様、そこにこそ演者のオリジナリティ、それが愛を以って習作を抱きしめた瞬間、つまり「私の中から新しいビートルズが生まれる瞬間」というものを大いに感じ取ることができるはずだろう。中でも、「ユア・マザー・シュッド・ノウ」のアレンジ・センスはピカイチ。ポールやヨーコが聴いても目を回すのでは?
ちなみに、「ドライヴ・マイ・カー」での強烈なアドリブ・ソロも本盤のハイライト。本家が年代モノのアストン・マーティンならば、彼女のマシンはニューヨーカーまでをも虜にする最新型レクサス・ハイブリッド仕様といったところか? 兎も角も新味を加えた”心、動かす力”というものにワールドクラスのパワーをビンビン感じさせてくれる。
山中自身が書き下ろしたビートルズ・インスパイア楽曲は合計3曲。スウィンギン・ロンドンの急先鋒としてイギリスにロックンロール革命を起こした四人の若き雄姿とそのインパクトを、60'sロックンロールさながらの気っ風のよさで描いた「インサイト・フォーサイト」(「BSフジLIVE ソーシャルTV ザ・コンパス」テーマ曲)、「ドライヴ・マイ・カー」の助走とも謂えるインタールード的小品「インプリンツ」(彼らの偉大なる足跡に敬意を表したと思しきタイトル)、レノン、マッカートニー、それぞれの作風をタスキ掛けにしたかのようなバラード「イット・ワズ・ア・ビューティフル・エイト・ミニッツ・オブ・マイ・ライフ」と、この3曲を耳にしただけでも彼女の”ビートルズ愛”が浮ついた薄っぺらいものでないことを推して知ることができるかもしれない。「こんなビートルズ、聴いたことがない。」 いやはや、その通り。
デビュー10周年、全米本格進出を経た山中千尋。今までのイメージを一新したかのようなジャケット・デザインを含め、彼女の音楽世界は確実に新しい章へと突入した。本人曰く「次のステップに入ったことを実感したアルバム」というこの『ビコーズ』は、自身に胎動していたビートルズをしっかりと分娩した記念すべき母子手帳であると同時に、さらなる10年を見据えたロードマップ、その第一頁ともなる。
アルバム・リリース後の9月には、山中の自身初となる全国ホールツアー(今回唯一のツアー)も控えている。すでにライヴでは、本作からの楽曲がアレンジを大幅に変えた形などで多数披露されているということだが、来る国内ツアーではより進化/深化したビートルズ楽曲がお披露目されるに違いない。山中千尋の次のステップ、お見逃しなく。
SHM-CD+DVD、SACD〜SHM-CD、SHM-CD通常盤の3ヴァージョン、各盤ジャケ違いで同時リリース!
今後のライヴ・スケジュール
「真夏の夜のJAZZ in HAYAMA2012」
〜Saturday Night Jazz〜
2012年7月28日(日) 葉山マリーナ特設ステージ
開場:15:00/開演:16:00 〜 20:00 終了
チケット:ベンチ席 8,500円 / テーブル席(BOX席) 9,800円 (全席指定)
プレミア・チケット 29,800円(数量限定) (全席指定) 6,500円
お問合せ:ユニバーサル ミュージック カスタマー・サービスセンター 045-330-7213
「山中千尋 全国ホールツアー 2012」
9月7日(金) 大阪 サンケイホール ブリーゼ
開場:18:30/開演:19:00
チケット:全席指定 4,500円(税込)
お問合せ:ブリーゼチケットセンター 06-6341-8888
⇒ ローソン・チケット (L コード:51369)
9月9日(日) 多治見市文化会館 大ホール
開場:16:30/開演:17:00
チケット:全席指定 4,000円(税込)/たじともClub 3,000円(税込)
お問合せ:多治見市文化会館 0572-23-2600
⇒ ローソン・チケット (L コード:48541)
9月14日(金) 太田市新田文化会館 エアリスホール
開場:18:30/開演:19:00
チケット:全席指定 3,500円(税込)
お問合せ:太田市新田文化会館 0276-57-2222
9月15日(土) めぐろパーシモンホール 大ホール
開場:15:30/開演:16:00
チケット:全席指定 S席 5,000円 / A席 4,000円(税込)
目黒区民(ホールのみ) S席 4,500円 / A席 3,600円
お問合せ:めぐろパーシモンホールチケットセンター 03-5701-2904
9月16日(日) 石川・北國新聞赤羽ホール (金沢JAZZ STREET 2012 SPECIAL CONCERT)
開場:19:00/開演:19:30
チケット:全席自由(大人) 4,000円 / (高校生以下) 2,000円
お問合せ:金沢 JAZZ STREET 実行委員会 076-224-8133
9月17日(月・祝) 焼津文化会館 小ホール
開場:18:00/開演:18:30
チケット:全席指定 4,000円(税込)
お問合せ:焼津文化会館 054-627-3111
10月7日(日) 長崎・アルカスSASEBO (佐世保JAZZ 2012)
開場:14:15/開演:15:00
チケット:全席自由(大人) 4,000円 / (学生) 1,500円
お問合せ:佐世保JAZZ実行委員会 0956-25-1170 / アルカスSASEBO 0956-42-1111
⇒ ローソン・チケット (L コード:88471)
総合お問合せ:プランクトン 03-3498-2881
※ 石川公演を除く
山中千尋 プロフィール
桐朋女子高校音楽科、桐朋学園大学音楽学部演奏学科(ピアノ専攻)を経て米国バークリー音楽大学に留学。在学中より幾多の賞を受賞し、数多くの有名アーティストと共演を重ねる。バークリー音楽大学を首席で卒業後、2001年10月に「澤野工房」から第1作『Living Without Friday』を発表、直後に大手CDショップのジャズ・チャートで一躍トップセールスをマークし、新人としては異例のデビューをかざる。
2002年12月にニューヨークの若手トップミュージシャンを従えた第2作『When October Goes』をリリース。ジャズ・チャート初登場第1位となり聴衆から絶賛を受ける。日本でのライブ活動も本格化し、2003年初頭に行なった「山中千尋 ニューヨーク・トリオ ツアー2003」の模様を伝えたTVドキュメンタリ「情熱大陸」(MBS系)ではその国際的な活動をさらに広く知らしめることとなった。ニューヨークを中心に世界各地で活動を続け、2004年1月には米NBCラジオ、カーネギーホールへ出演、5月には1年半ぶりとなる新作CD 『Madrigal』を発表。 2005年1月にユニバーサル クラシックス&ジャズと契約。9月に待望のヴァーヴ移籍第1作『Outside by the Swing』を発表。オリコン デイリー・アルバム・チャート(邦楽・洋楽全ジャンル)で初登場20位、各ジャズ・チャートでは前作・前々作同様初登場第1位をかざる。
2006年9月、ヴァーヴ移籍第2作となる『LACH DOCH MAL』をリリース、2007年4月発表のスイングジャーナル誌「第57回日本ジャズメン読者人気投票」<アルバム・オブ・ザ・イヤー>部門で第1位を獲得。2007年8月にヴァーヴでの3作目『Abyss』を発表。各種ジャズ・チャートで第1位を獲得。 10月にはヴァーヴから初のライブDVD作品『Live In Tokyo』をリリース(同年6月のツアー最終日を収録)、各ジャズ・チャートでの第1位はもとより、オリコンの全ジャンルDVDチャートで初登場第7位となる。 11月中旬より、「山中千尋 ニューヨーク・トリオ ツアー2007 "Abyss"」をイタリア〜イギリス〜ドイツ〜日本で敢行。
2008年1月に『Abyss』がスイングジャーナル誌ジャズディスク大賞「日本ジャズ賞」を受賞。4月には同誌「第58回日本ジャズメン読者人気投票」<アルバム・オブ・ザ・イヤー>部門で2年連続第1位となる。 2月にピアノ、ギター、ベースによるドラムレス・トリオで故オスカー・ピーターソンに捧げた『After Hours』をリリース、9月には『Bravogue』を発表。両作品ともジャズ・チャート初登場第1位。 2009年3月、『After Hours』が「第23回 日本ゴールドディスク大賞 <ジャズ・アルバム・オブ・ザ・イヤー>」を受賞。同月に『Abyss』がヨーロッパでもリリースされ、オーストリア、ドイツ、フランス、イタリアでライブ・ツアーを行なう。 5月から6月には、ニューヨークのトップ・ピアニスト10人の共演で開催される「富士通スペシャル 100 GOLD FINGERS」に参加。 10月に、今年生誕100周年を迎えるベニー・グッドマンへのトリビュート作『Runnin' Wild』を発表。また、群馬交響楽団の公演にて、「ラプソディ・イン・ブルー」を共演した。
デビュー10周年となる2011年は、年初からソロ・ピアノによるコンサートをはじめ、オーケストラとの共演やアメリカ・ヨーロッパでのライブツアーなど各種プロジェクトが目白押しで、5月には米Deccaレーベル初の日本人アーティストとして『Forever Begins』が全米発売。リリース記念ライブをニューヨーク「Iridium」で開催。7月にはイタリアの「ウンブリア・ジャズ・フェスティバル」にてハービー・ハンコック、ウェイン・ショーター、マーカス・ミラーらによるスペシャル・グループのオープニング・アクトを務める。8月には新作CD『レミニセンス』を発表、「第1回 NISSAN PRESENTS JAZZJAPAN AWARD 2011 ”アルバム・オブ・ザ・イヤー”」を受賞。5月には、『レミニセンス』の続編とも言えるEP『スティル・ワーキング』を発表した。
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ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。
限定盤 SHM-CD+DVD
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