ジャジー、メロウ、洒脱な伊達男Vo

2011年10月12日 (水)

Schemaからリリースしたデビュー作”Handful Of Soul”が大ヒットしたマリオ・ビオンディの次なるアルバムは何と、ヨーロッパで20万枚を売り上げたという。



1971年1月28日、イタリア シチリア島のカターニアで生まれたマリオ・ビオンディ。父親もシンガーであり、12歳から教会で歌い始め、ソウル・ミュージックを愛し、特にルー・ロウズ、アル・ジャロウ、アイザック・ヘイズから影響を受けたという。セッション・シンガーとして様々な経験を積んでいき、17歳の時にレイ・チャールズのイタリア公演の前座を任されるまでになった。

2004年1stシングル"This Is What You Are"は日本のみのリリース予定であったが、DJのノーマン・ジェイがＢＢＣで強力にプッシュしたことで火がつき、ヨーロッパ中のラジオで話題となった。2006年、人気ジャズ・レーベル、Schemaから人気絶頂のHigh Five Quintetをバックにデビュー・アルバム『Handful Of Soul』を発表し、この作品は6万超を売上げた。

2007年、ディズニー映画Everybody Wants To Be A Catのイタリア・バージョンに参加。イタリアにおいてジャズ＆ポップス系シンガーの第一人者となり2008年チャカ・カーン、マイケル・ボルトン、インコグニート、クルセーダーズとの共演も果たす。

そんな彼が、2009年11月にレーベルを移籍し、アルバム『If』を発表。ヨーロッパで20万枚(イタリアだけで18万枚)を売上げ、一般音楽ファンにまでその人気が浸透した。この作品は、発売当時日本でも輸入盤で流通したものの、ハイ・プライスであったため、残念ながら広く浸透するにまでは至らなかった。

オリジナル発売から2年、国内盤として、ようやく日本発売がここに実現。ヨーロッパ中を大ヒットの渦に巻き込んだ話題作を耳にする事が出来る。

前作同様、踊れるジャズ＝クラブ・ジャズを基盤としているが、単にその一言で終わらない、ジャズ、ソウルを含んだ様々な音楽性を持つ総合的ポップ要素を包括したヴォーカル・アルバムに仕上がっている。

その中でまずは、彼の「渋い」声質につきる。バックの音は計算されつくされ、そして高度な技術に裏打ちされる「洗練された」サウンドだが、ビオンディの「その声」により、単なるライトでお洒落さだけを追求したサウンドに終わらないのが、大きな魅力だ。

一聴すると、まるで黒人シンガーではないかと思わせる、太くソウルフルな歌声。しかし、「コテコテ」には決してならない「スタイリッシュさ」こそ彼の持ち味なのだろう。

ホーンやストリングスを贅沢に配し、アコースティックとエレクトリックを巧みに使い分けたサウンドも申し分なし。グルーヴするリズム、ハモンド、フルート、口笛などが随所に効いたクール・サウンドは、まさにビオンディー・ワールドを忠実に体現している。

須永辰緒コメント

アコースティックな作風は”踊れる”ジャズであった前作とは変わらないがそのジャズにこだわっていないところが鍵である。個人的に冒頭を飾る「serenity」のイントロのドラムブレイクから「おお」と今作の成功を確信した。今作のテーマはずばり「マリオ・ビオンディ」なのだろう。マリオのマリオたるレーゾン・デートル（存在理由）を示すべく、ジャズにはこだわらずプロデューサーでもあるマリオの意志が100%反映されている。ミディアムな曲からおそらく出自でもある黒人音楽（R&B)のような路線の曲までその「意志」は見事に貫徹されている。

バックであるが、合間に覗くイタリアを代表するミュージシャンによるソロ演奏なども「one for all, all for one」のバンド精神ではなく『唄』を生かす為の布石として全てパズルのピースとして機能しているように聴こえるし、豪華なストリングスも然りだ。例えば「Little B's Poem」を聴いて欲しい。型通りのジャズアレンジではあるがボーカルが入ってくる瞬間の刹那、世界が一変する。エンディングはポルトガル語で唄うバラード「bom de doer」だがこの世界観は前作にはなかったごくエモーショナルなものだ。

　 全ては泥臭く男臭くしかし気高い孤高の声を持つボーカリスト、マリオ・ビオンディのためにセッティングされた舞台であると思わざるを得ない。

トラック・リスト

1. serenity (Original title “Sudden Senility”) by H. Geller
2. something that was beautiful by B. Bacharach/S. Sater
3. be lonely by M. Biondi/K. Hagen/M. Biondi
4. love dreamer by G. Gambogi/M. Biondi/G. Gambogi
5. black shop by M. Coclite/M. Biondi/P. Di Sabatino
6. if by M. Biondi/M. Biondi/G. Marani
7. i wanna make it by M. Biondi/K. Hagen/M. Biondi/P. Di Sabatino
8. no mo’ trouble by M. Biondi/K. Hagen/M. Biondi
9. ecstasy by M. Biondi/ K. Hagen/M. Biondi/ G. Marani
10. i know it’s over (e se domani)　　by G. Calabrese, A. Armato, C. Rossi
11. winter in America by G. Scott Heron
12. everlasting harmony by M. Biondi/ K. Hagen/M. Biondi/G. Gambogi
13. cry anymore by M. Biondi/K. Hagen/M. Biondi/L. Mannutza
14. little b’s poem by R. Hutcherson
15. bom de doer by N. Motta/M. Biondi/G. Marani