【対談】三浦信×小西康陽

2010年11月1日 (月)

interview

〜これはエトランジェが夢想した、50年代のサンジェルマン・デ・プレ〜

Mix CDシリーズ/アナログ12インチのリリースや、Routine Jazz他イベントでのDJなど、10年以上に渡る活動を経ていよいよ1stアルバム『je suis snob(僕はスノッブ)』をリリースする三浦 信。“ボリス・ヴィアンの小説の架空のサウンドトラック”というテーマで作られたという本作は、さまざまなレコードを掘り続けてきたDJとしてフレンチへの憧憬を注ぎ込んだリコンストラクト・ジャズ・アルバム。 このアルバムのリリースを記念し、三浦さんと親交の深い小西康陽さんとの対談が実現!まさしく師弟的な関係と言えるお2人のトークをお楽しみ下さい。対談後半には『ジブン目線で選ぶフレンチ(的)名盤』というテーマでオススメCD作品をご紹介いただきましたので、ソチラもお見逃しなく。それではドウゾ!


90年代の価値観に育てられたし、今もその中にいるのかな



-- 小西さんと三浦さんの最初の出会いというのはいつなんですか?

三浦 信(以下 三浦)  そもそもの小西さんとの出会いは、僕が大学生の時にイベントをやっていて、ゲストDJとしてお越しいただいたのが最初で、それが10年ぐらい前ですね。
そのあと、readymadeからブレイクビーツのコンピ(『Readymade Magazine no.1』)に1曲参加させてもらって。

小西 康陽(以下 小西)  でもそれから今までやってきてCD 1枚作ったんだからすごいよね。

三浦  そうですね、でも10年かかりましたね。次は10年後ですかね(笑)?

小西  うん、それもアリだと思う。 DJとかトラックメイカーって1曲ずつ作るのが基本だからね。10年かかるのも当然だと思う。 そうすると…、一生でせいぜい5〜6枚ぐらいになるね(笑)。

三浦  (笑)。今日、音楽の対談と知りつつ雑誌を持ってきたんですよ(「BRUTUS」1998年6月号と「relax」2001年12月号)。 コレどっちも元・マガジンハウスの岡本仁さんが編集された「フランス特集」号で。
僕今回アルバムを作ろうと思った時に、まずはボリス・ヴィアンをテーマに作りたいなと思ったんですけど、 そのまま悶々とした状態が続いていたんですが、改めてこの2冊の雑誌を見た時に何か吹っ切れたような感じがあったんですね。

小西  うんうん。

三浦  日本人が憧れるフランスっていうのは本国にはないワケで、自分達の妄想の中で作り上げたフランス感… つまりは赤塚不二夫がイヤミで表現したそれと変わらないことだと。でもそれでイイじゃない、みたいな。 それと、アルバムに参加してくださった猫沢エミさんと話してて「ああ、要は“あこがれフレンチ”の話ね」っていう風に言われて、僕の中でその“あこがれフレンチ”っていうのがすごくキーワードになったんですよ。 で、日本人の視点で作り上げたボリス・ヴィアンのことをテーマに出来ないか、っていうところでアルバムを作っていったんです。
それでお聞きしたかったんですけども、アルバムを作る時に「タイトルから絶対考える」とかそういう話を何度か小西さんのインタビューでお見かけしたんですが、テーマを決める上で自分の中でルールみたいなものがあったりするんでしょうか?

小西  いや、きっと三浦君もそうだと思うけど、テーマっていうのはこう…考えるもんじゃなくて降りてくるものでしょ?たぶん今回の三浦君のアルバムのテーマもすでに三浦君の心の中にはあった、っていうことでしょ。 考えて捻り出してもそれは違うっていうか。

三浦  なるほど、腑に落ちるお話ですね。 でもそうやって、掘り下げて掘り下げてテーマがやっと1つ出てきて、今度は逆にアルバムが出来た後の不安みたいなのも感じたりしてて(笑)。

小西  まぁ、1コ出せば次も出ますよ。トイレ行くのと同じです(笑)。

三浦  (笑)。あと、友達と時代論みたいな話になったんですよ。60年代ならビートルズとかスゥィンギン・ロンドンとか、その時代その時代を象徴するカルチャーとか風潮みたいなのがありますよね。当然70年代・80年代にも。 じゃあ、90年代ってどういう時代だったか?ってことになって。それでその友達は「編集文化の時代だったと思うんだよね」と。すげー良いこと言うなと思って。20世紀の再編集というか。
僕自身その90年代の価値観に育てられたし、今もその中にいるのかなっていう感覚はあって。 90年代って今振り返ると、小西さんにとってどんなものでしたか?

小西  うん…三浦君の言ってることとある部分で重なってると思うんですけど、90年代って音楽をパッケージとして捉えるようになった時代だと思うんですよ。元々レコードっていうのはさ、商品になった時点から「音楽=パッケージ」だったんだけど、ただ、50年代とか昭和の時代の人たちって、音楽をそういうものと関係なく“音楽”として楽しんでたと思うし…、もっと言うと60年代後半以降の新しいロックが出てきた時って、音楽をよりもっと精神的なものとして捉えてたと思うんだけど、90年代にCDがメインになって、そしてCDのアルバムが大量に出て売れたりする時代…、それって作品であり音楽自体ではあるけども、同時に“パッケージ”とか“ソフト”っていうものだってみんなが思い始めた、認識しだした時代だったんじゃないかと思いますね。
そして今は、パッケージ商品としてのCDあるいは音楽がなくなりつつある時代なのかなと。

三浦  モノが溢れすぎちゃった、っていうことなんですかね?

小西  うーん、パッケージ商品としての魅力が下がってきたってことじゃないかな?

三浦  なるほど。また本の話になっちゃうんですけど、POPEYEの元・編集者の人がまとめた本が文庫本になってるんですよ。それを読んでたんですが、POPEYEの革新的な部分って“モノ”と“街”、つまりは1つのプロダクトを通して人の生活・カルチャーを見るとか、そこから知識を得たりだとか、そういうことを編集する独自性が読者に新しく捉えられたことだと。僕もCDとかレコードを買って、その時代を紐解いていく勉強みたいなことをして、 実体験として「パッケージとしての音楽に育てられた」みたいなところがあるので、カタチこそ違えど“モノ”として音楽を作れたらな、っていう思いが強いんですよね。

小西  でも、これからの若い人たちが音楽を聴く時って、やっぱりもうパッケージっていう概念がほとんどなくなるんじゃないかな。曲単位で聴くと思うし。

三浦  Beatport(※ダンス/クラブミュージックに特化した有料オンライン音楽配信サービス)ってあるじゃないですか。この前それを見てみたんですが、摂取出来る情報量とかタイムラグのなさとかを考えると、単純に楽なんだろうな、とは思うんですよ。でも例えば、そこで小西さんの音楽をダウンロードはしても小西さんの顔は見たことがないっていう人がこれからはいっぱい出てきちゃうのかなって思ったら、なんか寂しいなぁっていう気持ちになりますね。それが今っぽいっていうんであればしょうがないけど、僕ちょっと古い人間なので抗ってみたいなって(笑)。
それと、時代を経た時に、パッケージであるっていうことは実はすごい大事なのかなって。 過去のモノを掘り返して、それを見つけたり人に伝えたりする喜びっていうのは、これから50年100年経っても変わらないと思うんですよ。そう考えると、音楽はパッケージとして存在することで残っていくし見つけられるモノとなるのかなって。そう自分に言い聞かせて、パッケージとして音楽を作ることの意味を持っておきたいかなって思ったんです。

小西  うーん、でもその考え方は古いのかもね(笑)。

三浦  ダメですか(笑)。

小西  いや結局さ、「音楽を作りたい」のか「パッケージを作りたい」のか、っていうことだよね。
たぶん三浦君はパッケージを作りたいんだと思うんだよね。もし音楽がこの先パッケージ商品として成り立たなくなってきたら、きっと三浦君は雑誌作ったり本作ったりさ、何か違うモノを作るのかもしれない。それでも音楽にこだわるっていう覚悟みたいなものってある?

三浦  山盛りにやりたいことがあるんですよ。だから正直に言うと、いろんなやりたいことの中の1つが音楽なのかなって思うんですよね。雑誌だっていつか作ってみたいとか、そういう欲求って自分の中ですごくあって。 自分の好きなモノに等しい距離を保っていられることが、居心地の良いことなのかなっていう実感がなんとなくあって。まぁ、それがジレンマでもあったんですけど。 だったら1コ1コ掘り下げてやろうぜ、っていう気持ちでまずは音楽をパッケージして。
だから媒体としてCDになるのか紙の束になるのかっていうのは、僕は表現手段として厭わないのかも、っていうところはあります。ただ、何でもアリっていうんじゃなくて、横串で刺して首尾一貫することをやりたいなとは思ってますね。



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      Makoto Miura / Je suis snob
    2010年11月03日発売

    90年代後半から活動し、現在は小林径が主宰するRoutine Jazzなどを拠点、初の制作楽曲はreadymade internationalのブレイクビーツコンピに収録という、DJ/トラックメイカー・三浦信(Makoto Miura)がいよいよ1stアルバムをリリース。各曲タイトルからも分かるとおりボリス・ヴィアンの小説をモチーフに作られたという本作は、サンプリングによるジャズ愛・フレンチ愛を詰め込んだ現場感溢れるスウィンギンな1枚。 10年以上というキャリアで培われたそのDJ的ネタ感覚は、須永辰緒、谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)らも賛辞を送るという確かなモノで、前述のreadymade関連作品やRoutine Jazz諸作品などのファン、クラブジャズ・リスナーにも是非チェックしていただきたい作品です。
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三浦 信 [MIURA makoto]

90年代後半よりDJ活動をスタート。トラックメイクの処女作はreadymade internationalのブレイクビーツコンピに収録され、以後岩村学、中塚武が監修する各オムニバスアルバムに参加。自身の主宰するcomedy tonightレーベルからはソロ名義monsieur mieuraxでEP盤をリリースした後、Emi Kawano Trio、Yoshioka Kerouac等のプロデュースを手掛けた。座右の銘は「スイングしなけりゃ意味がない」。

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小西 康陽 [KONISHI yasuharu]

作編曲家。DJ。1985年、ピチカート・ファイヴとしてデビュー。 バンド解散後も作詞、作曲、編曲、プロデューサー、DJ、リミキサーなど音楽活動に加え、アート・ディレクター、映像監督、文筆業など多方面で活躍。 現在は前園直樹グループの一員としても活動中。