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HOT PICKS フレネシインタビュー

Monday, September 20th 2010

interview

フレネシ

一言で言えば電子風味の尖ったポップ、二言で言えば予定調和に背を向けた音のキュビズム。早耳リスナーの間で話題の才媛フレネシが贈るドキドキの会心作。

--- 『メルヘン』はどういうイメージで作られたのでしょうか?

とくにアルバム全体のコンセプトはないんですけれど、前作以上にキャッチーさ、というか、ポップ感を強めに出したものにしようというのはありました。アレンジの面では、今までに比べると歌をすごく前に出していて、しかもリバーブがかかっているという、音作りとしてはカラオケっぽい感じ。そういう音作りは時代錯誤かもしれないんですけれど、あえて洗練されていないテイストにしたいっていうのがありました。

--- 歌い方も前の『キュプラ』から少しだけ雰囲気変わりました?

歌に関しては、前は結構歌い込んでから録っていたのですが、今回はすべてのテイクにおいてファーストテイクが良いという結論に至りました。仮歌をそのまま使ったものもあります。その方がより臨場感とかニュアンスが出ていて、作品の本質に近い表現ができていると思ったので。

--- あまり何度もやり直さない方がいい、と。

はい。作品を作る時のスタンスとして、すべて初期衝動で作るっていうのがありまして。考えてしまうと、頭の中でいろいろなことがNGになってしまうんです。だから、とにかく勢いでアレンジまで詰めていきます。同じように、歌についても、短い時間で出てきた正解を使っていく感じで。

--- そういえば、フレネシさんのブログのタイトルにも「冷静さを失わないと曲が作れない」とありますね。

はい。よくよく考えるとこれってカッコ良くないんじゃないかとか、すでに誰かがやったことかもしれないとか、そういうことを気にし始めると、感覚的に、なんていうか、“揺らぎの表現”がなくなってきて、つまらないものになってしまうんです。

--- 前作と聴き比べてみて、個人的な印象としては、『キュプラ』よりやりたいことが明確になってきているような気がしました。

前は、まだPCを使って打ち込みをしていく作業をすべて自分で出来ていたわけではなくて、お手伝いをしてもらいつつだったので、その意味でも、今回は自由度が上がったんだと思います。

--- まわりの反応はどうですか?

(『メルヘン』を)聴いてくれた方から“テクノ歌謡”とか“テクノっぽい感じになってきた”って言われるんですけど、私自身はあまりテクノを知らなくて、テクノを聴いていると……苦しくなるんです(笑)。やっぱり自分の中では“揺らぎ”のあるものが好きで、打ち込みであっても、どこか音がズレていたりとか、何かが狂っているというか、タイミングが合っていないとか、そういうものに惹かれます。

--- この業界にいる人は、“テクノ系”とか“何々系”とか括りたくなるのが性ですけど、フレネシさんの音はどこか尖ってて、どのカテゴリーにもうまくおさまらない感じです。

多分、マニアックなものを作る方って、作る方自身がヘビーリスナーであることが多いと思うんですけれど、私の場合はそれほどでもないというか。聴くのは好きなんですが、幅広く聴いているかっていうと、いろいろな音楽をジャンルを問わずちょっとずつ知っている程度なので、強く影響を受けているジャンルっていうのが無いのかもしれないです。

--- ウィスパー・ボイスだと、単純にフレンチPOPSとかその系統の音楽を思い浮かべる人が多いでしょうけど、その手の音楽は雰囲気モノとして消化されやすく、詞なんかも聴き流してしまいがちですね。ただ、フレネシさんの場合、しっかり詞を聴かせますよね。ムードの中に還元されない詞っていうか。

そうですね。ウィスパーっていうと、カフェっぽいというか、オシャレなものと相性が良い感じがしますけど……個人的な趣味として“エロ・グロ・ナンセンス”なものが好きっていうのもありまして(笑)、どこかアウトサイダー的な感覚というのが、歌詞にも反映されているのだと思います。

--- 『キュプラ』はボサノバ風のテイストもありましたが、今回はそういう要素が無くなったことも大きいですよね。より電子音が入ってきて、音階も現代音楽っぽくなってきて。

最近そういう音楽を聴いているからそうなった、というわけでもないんですけど。ただ、一人で、セルフプロデュースで作ったらこうなっちゃったっていう感じです。

--- テクノはともかく、電子音自体はお好きなんですよね。

もともとピアノではなくて電子オルガンをやってまして、その電子オルガンには打ち込みを入力できる機能があったので、子供の頃からそれでリズムを作ったりして遊んでいました。

--- ルーツですね。

ルーツと言えるほど大それたものでもないんです。楽器に関しても、生楽器にこだわる人はこの楽器がいいとか、テクノ系の人はテクノ系の人でこの機材がいいとか、そういうこだわりがあると思うんですけど、私の場合、最終的に選ぶのは一番安いカシオトーンとかから出る音だったりして。今回の「不良マネキン」でもカシオトーンからサンプリングした安い音を使っています。

--- この楽器のこの音を聴いてくれ、というのは無いんですね。

こだわりにとらわれないのがこだわりというか。用意されたもので作っていくっていうお手軽感、お題を出されて反射神経で作っていくっていうテンポ感でやっていくスタンスですね。

--- ここからは、具体的に曲についてお聞きしたいのですが、まず「インフレイションII」について。

最初に録った時の「I」の音源が、すべてパソコンがクラッシュして無くなっちゃったんです。本当はそれを元にリミックスを作ろうと思っていたんですけど、イチから作るハメになって、そうしたら雰囲気の違うものになったので「II」でいいよね、と。

--- 不可抗力だったんですか。

不可抗力ですね(笑)。

--- 2曲目の「不良マネキン」はドラマ『ヤヌスの鏡』のオープニング(主題歌は椎名恵の「今夜はANGEL」/原曲は1984年の映画『ストリート・オブ・ファイヤー』の主題歌「今夜は青春」)に着想を得ているんですよね。

今回、新曲をGW中に何曲か書くという課題があって、ネタに詰まった時にちょっと大映ドラマを見ようと思いまして(笑)、『ヤヌスの鏡』のオープニングを見たんです。そこにシンセタムの音が何度も出てくるんですけど、それが気になって、タムだけの譜面を作って、そこから曲をつけていったんです。

--- これまでのフレネシさんの曲調とは違うタイプですね。

わりとこれまでの曲って転調を多用したりとか、コード進行もいわゆるよくあるパターンではないものにしていたんですけど、これはもう何も考えずにやろうと思って(笑)、本当に何も考えないで歌詞とか曲を書いています。

--- あのオープニングを見て、ここまで発想が広がるっていうのが凄いです(笑)。

もう一個、あの曲の中で気になったのが、黒人のゴスペルっぽいコーラス。椎名恵が『トップテン』の最終回に出て歌っている動画があって、そこで黒人の女の人が6人くらい立ってコーラスを歌っていたんです。その画がカッコいいなと思って、どうしても黒人っぽいコーラスを入れたくなって、そういう歌を歌える友達にお願いしました。ほんの一小節ぐらいしかないんですけど。

--- 『ヤヌスの鏡』が好きだった私からすると、そういう話を聞いていると、なんか、感情移入してしまいますね(笑)。あの冒頭の女の人のナレーションが聞こえてきそうな……。

来宮(良子)さんですよね。あの人の声っぽいのも今回PVの中に入れようと思いまして、変幻自在の声を出せる、エビ子・ヌーベルバーグさんという女優さんにお願いできないかと交渉中です。

--- 3曲目は「コンピューターおばあちゃん」のカバーですね。

私の友達のシーナアキコさんというシンガーが定期的に「みんなのうたカバーナイト」っていうイベントをやっていて、そこに呼ばれた時に「コンピューターおばあちゃん」のカバーを歌ったら、レーベルのオーナーが“これはカバーしようよ”と言いまして。私は最初はそんなに乗り気じゃなかったんですけど(笑)。

--- 7月のブログに「コンピューターおばあちゃんをカバーしないと
アルバム出さないよ」と言われた、とあります。

そうです、そうです(笑)。それにキャッチコピーも“コンピューターの涙。”ってついてますし……。

--- アレンジはがっつり変えましたね。

はい、がっつり変えました。原点に帰ろうと思って、一人でエレクトーンを弾きながら歌えるイメージで作りました。ベースラインも足で弾いているような感じでアレンジしています。

--- 4曲目の「街」は、仮面をつけている都会の人の空虚や欺瞞を突いた詞ですね。こういう詞は昔から書いていたんですか?

あまりコミュニケーション能力が高くないので……(笑)。人と人が接する時の距離がありますよね。その距離がどんなに近づいても、お互いに素性を見せていない。とくに東京という街だと最初からみんなが鎧を着ているような感じで…………あ、すみません、まとまっていなくて(笑)。

--- 大丈夫です。次の「シノノメ」も「街」の世界観に通じますね。歌の部分は不安定な音階を使っています。

そうですね。

--- 詞も「サディズムの/誘い水に/導かれ/踏み込むID」とか、匿名での陰湿ないじめが横行するネット社会の闇を突いてますね。

はい。

--- こういった詞を書くフレネシさんが実際に見据えている世界像について、それがどういうものなのか、もっとおうかがいしたいんですけど。

世界像ですか。うーん、そうですね。距離も時間も縮まりつつあるけれど、根本的には何も縮まっていないというか、さらに離れている。そのわりには、いや、そのせいか、世の中でうけているのが友達、家族をテーマにした曲だったりするという。まあ、(自分の曲が)そういうものへのアンチテーゼっていうわけではないんですけど(笑)。

--- この曲、転調も凄い効果的ですね。こういうの、大好きなので。

ありがとうございます。長調と短調の両方が交互に出てくるような、そのどっちでもないような、そういう展開が好きなんです。

--- 次が「ロイコクロリディウム」。これは寄生虫のことですよね。

はい、そうです。寄生虫ですが、美しいっていう風に思ったので、自分が美しいと思うメロディーをつけました。歌詞も英語詞なんですけど、寄生虫がかたつむりに冠を与えるっていう内容なんですね。触覚の部分に寄生して、そこが毒々しい縞模様になるんです。それを“冠”と表現しています。

--- あえて英語詞にしたのは?

ダイレクトな言葉よりも、中和した言葉で表現する方が、より不安な感じを出せるんじゃないかなと思って。美しい言葉でまとめてしまえば簡単なんですけど。

--- これ、ハットっぽい音が……。

はい、チキチキっていう。

--- なんかこのリズムが独特な感じで。

そうですね。そんなに裏打ちなの?っていう。裏だらけです。

--- でも、だんだんハマっていくんですよね。

それがループしていくと、“あっ、安定してる”って。気持ちいい場所になってる。

--- 計算しているわけではないんですか?

ドラムから最初に作るんですけど、何も考えずに適当に(打ち込みを)入れていくんですね。それで“あっ、ハマってる”と思ったら、そのまま直さずにドラムのパターンを作っていくという。だから計算してないですね。

--- アルバムのタイトルでもある「メルヘン」は、佐々木昭一郎監督の『夢の島少女』にインスパイアされて書いたとのことですが?

前から知っていたわけではないんですけど、知り合いの方に教えていただいて。そうしたらPVを撮った一週間後に渋谷の映画館で上映されまして、観に行きました。ワンカットごとの印象が凄く鮮明に残っていて、(劇中音楽の)パッヘルベルのカノンを聴くとその映像がよみがえります。

--- あれ、PVを撮った後に初めて観たんですか?

はい。だから影響されているのかされていないのか分からないっていう……(笑)。“夢の島”のイメージだけで曲を書いたので、観た後に書いていたら全く違う曲になっていたと思います。だからちょっと恥ずかしいんですけど、それはそれで違うものとして。

--- ボーナストラックの「覆面調査員」ですが、またなぜ中国語で歌おうと?

前作を作った時からその構想はありまして、いろんな国の言葉でやってみようと思っていて、あえて中国語っていうのも面白いかなと。

--- 何か狙いがあるのかと思いましたが?

ないです。ただのノリというか(笑)、言葉尻とか、ニュアンスに、お転婆な感じが入ってくると面白いかなと思ったくらいで。

--- 曲に関するインタビューは以上です。最後にひとつだけ。フレネシさんは「シンガーソングライティングアニメーター」という肩書きを持っていますが、「アニメーター」までやろうと思ったのは?

プロモーションビデオって、音楽を伝えたり表現したりする上で欠かせないものだと思うんですけれど、ビジュアルで入ってくるものって凄くダイレクトですよね。それを映像作家の人にお願いしてしまうと、どうしてもその人の感性のものになるので、やっぱりそこはより純度の高いものを作ろう、という。ただ、自分のビジュアルは出したくないっていうのがあって、だったら絵を描いたら良いんじゃないかっていう単純な発想ですね。もともと絵を描くのは好きなので。

--- 絵コンテから何から全部自分で描いているんですよね。

そうですね。“自分で描きたい”っていうのがありますね。今後も可能な限り、わがままが通る限り(笑)、それは続けていきたいです。

新譜『メルヘン』 / フレネシ
前作『キュプラ』で話題騒然、マジなのかふざけてるのかさっぱりわからない??ナチュラルボーンなのか、計算なのか??そんなかことはさておき音のほうは超最高品質!渋谷系も真っ青なコジャレタ音、フレンチポップから歌謡曲まで、ジャンルの壁を軽々越えて、80s趣味で味付け。ソコに乗るのはドリーミーなウイスパーヴォイス。フレネシワールド炸裂です。
profile

8歳でささやき声しか出なくなる。20歳で衝動的に音楽活動を開始、22歳で「フレネシ」と名乗る。
以降「ささやいていても硬派」な楽曲を多数作曲、坂本龍一氏のミュージックサイトMusictreeでは、 LiveBrain賞、ONKYO賞などを受賞し、遅れてきた天才少女と噂される。
そして2009年6月に乙女音楽研究社からリリースした初のフルアルバム「キュプラ」が HMV渋谷店インディーチャート1位、カレッジチャート1位、mF247チャート1位を獲得するなど、耳の早いファンの間で大きな話題を呼ぶ。