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「21世紀のサークル・ワルツ」 誕生

Friday, August 27th 2010


Don Friedman

 
Circle Waltz 21C
 
 Don Friedman / Circle Waltz 21C
 Village Records  VRCL18847 2010年9月22日発売
 
 1962年の名盤『サークル・ワルツ』から半世紀。自身の代表曲『サークル・ワルツ』のセルフカバーをはじめ、オリジナル曲『Spring Song』やスタンダード曲など全11収録。華麗なるピアノのドン・フリードマンの円熟味あふれるタッチ、スウィング感抜群のベース・ワークをみせるジョージ・ムラーツ、繊細なドラム・サウンドでサポートする名手ルイス・ナッシュの見事なインタープレイが、今また名盤をクリエイトしています。 (HMV レビュー)


「Circle Waltz 21C」 収録曲

01. Spring Song スプリング・ソング 
02. When You Wish Upon A Star 星に願いを 
03. Chelsea Bridge チェルシー・ブリッジ 
04. Everytime We Say Goodbye いつもさよならを
05. You're My Everything ユーアー・マイ・エヴリシング
06. Circle Waltz サークル・ワルツ
07. It's All Right With Me イッツ・オール・ライト・ウィズ・ミー
08. Ruby My Dear ルビー・マイ・ディア
09. Autumn Leaves 枯葉
10. A Minor Conundrum ア・マイナー・カナンドラム
11. I Remember Clifford アイ・リメンバー・クリフォード



左から:ルイス・ナッシュ、ドン・フリードマン、ジョージ・ムラーツ


ドン・フリードマンpiano
ジョージ・ムラーツbass
ルイス・ナッシュdrums

Recorded at Avatar Studio New York on March 31st, 2010


人生は、かくもスウィングするワルツに乗って。


 「ワルツ・フォー・デビー」「マイ・フェイヴァリット・シングス」、そして、「サークル・ワルツ」。ジャズで最も有名な「円舞曲(ワルツ)」を順番に3つ挙げていくとすると、ざっとこんな感じになるだろうか。

 ビル・エヴァンスの「ワルツ・フォー・デビー」。青白く、いかにも几帳面そうな面持ちのピアニストが、繊細なタッチで水墨画の如き濃淡を優雅に描く。なにやら「唯美至上」めいた思潮に翻弄されながらも、かろうじて「リリシズム」と名付けることのできた内省世界にもぐりこんでみせる。幽玄なんだけど愛らしい。一筋縄ではいかない「もののあはれ」のような事象を地でいく円舞曲といったところ。「1961年の6月25日に、N.Y.のヴィレッジ・ヴァンガードに居合わせたかったもんだぜ」とは、もはやジャズ・ファンお約束の寝言だ。オスカー・ピーターソンもよく取り上げていたけど、やはりエヴァンス特有の「侘び寂び」がたまらない。

 ジョン・コルトレーンの「マイ・フェイヴァリット・シングス」には、夕陽丘の焼け爛れた恍惚感がよく似合う。アトランティック盤のヴァージョンだったらなおさらだ。コルトレーンのソプラノ・サックスが真っ赤に燃える太陽ならば、さしづめマッコイ・タイナーのピアノは、やがて来る闇夜のカーテン。日常で最も「宇宙」を近く感じる時刻に降り注ぐ、恍惚の円舞曲。

 さて、ドン・フリードマンの「サークル・ワルツ」は、どうだろう。当時「エヴァンス派」、または「エヴァンスの好敵手」などと騒がれていた人だけに耽美な芸風に定評はあるが、絶句するほどに究極的な美や幽玄な世界を追いかけているような姿勢は欠片も見当たらない気がする。これが俗に言われていた「ネオ・ロマンティシズム」というやつなのだろうか? まぁ、その辺りの芸術派閥用語には明るくないので深追いはしないが・・・「陽気」と云ったら語弊があるかもしれない。エヴァンスの思い詰めたような深遠なる水墨画の世界より、ほんのちょっぴり社交的なムードが存在するような。いわば水彩画のごとき・・・と、これは昔何某かのジャズ雑誌の評論に書いてあった台詞だったと思う。ただ、それは至極的を得た表現だと思うし、初めて「サークル・ワルツ」という曲に出逢った時分に図らずもそう感じたのは紛れもない事実である。


Don Friedman
 1935年、サンフランシスコに生まれ、スタン・ケントン楽団の花形ソリスト、リー・コニッツコンテ・カンドリらの演奏に夢中になっていたという学生時代のフリードマン。ジャズへの開眼は、まさにウェスト・コースト・ジャズが全盛を誇った50年代後半のことだった。プロ活動開始後は、デクスター・ゴードンチェット・ベイカーらのサイドメンとして活躍。そのときの原体験が「水彩画のようなタッチ」に即結び付くとは思わないが、一方で、若かりし時代にすでに「リディアン・クロマティック・コンセプト」で知られるジョージ・ラッセルの録音に参加し、作曲面においてその影響をうかがわせていた、幾らか理知的な音楽回路に優れたものを持つエヴァンスとは、(当たり前のことではあるが)やはり描こうとした世界が、特に「色彩」という部分において大きな相違があったのではないだろうか。

 「ワルツ・フォー・デビー」「サークル・ワルツ」の近そうで遠い、遠そうで近い関係。もちろんフリードマンがエヴァンスの演奏に刺激を受け、「ワルツ・フォー・デビー」にも深い感銘を憶えたことは、察するに易い。実際2002年にこの「ワルツ・フォー・デビー」を、ジョージ・ムラーツルイス・ナッシュとのトリオ編成で吹き込んでいる。構成的なアプローチこそ同じだが、導入部を経たスウィング部での躍動感はエヴァンスのそれより溌剌としたものがあり、その躍動感こそがまさに「水彩画」を想起させる瞬間でもあった。これは完全な邪推、というよりはかなり妄想めいた独り言であるのだが、1961年当時に「ワルツ・フォー・デビー」を耳にしすっかり心酔したフリードマンは、絵コンテのように、または彩りを持たない水墨画のように描かれていたこの曲に、なんらかの色彩を与えようと閃いた。そして、印象主義的な面持ちはそのままに出来上がった曲、それが「サークル・ワルツ」だったのでは、と。単なるオマージュというよりは、さらに自己世界の中でこの円舞曲を昇華したかった。それぐらいドラマチックな関係性を勝手に持たせ、その思いをめぐらせてしまう。

 ヴィレッジ・ヴァンガードの「ワルツ・フォー・デビー」には、フリードマンと知己のあるスコット・ラファロ(b)が、一方の「サークル・ワルツ」には、そのラファロ死後のエヴァンス・トリオに後釜として迎えられることとなるチャック・イスラエル(b)がそれぞれ参加。両曲の興味深い共通項として挙げられるだろう。ちなみに、フリードマンは2004年に「マイ・フェイヴァリット・シングス」を取り上げた同名のアルバムも発表している。  

Don Friedman
 「サークル・ワルツ」の色彩は、オリジナルが発表された1962年からほぼ半世紀近くの壮大な時の流れを経て、2回目の更新がなされる。1回目は、1991年の『Circle Waltz - Then & Now』。ルイス・ナッシュ(ds)にハーヴィー・シュワルツ(b)が加わったトリオ編成。ナッシュのドラムがかなり目立っていたような気もするが、フリードマンの力強くもなめらかなタッチは健在だった。そして2回目の更新となるこの『Circle Waltz 21C』。つまり、「21世紀対応サークル・ワルツ」ということだ。

 この21世紀に、群衆にも民衆にも愛される、新しくも素朴なジャズ・ワルツの名曲が生まれるとはなかなか考えにくいが、すくなくとも現在および未来に生きるフリードマンの音楽人生の旅路にこの「サークル・ワルツ」は欠かせない、そういうことなのだろう。ムラーツ=ナッシュという、2002年の『Waltz For Debby』から知る最高のリズム・セクションの旨味。驚異的なテクニックとイマジネーションという部分では、「現代のラファロ」と言っても過言ではないムラーツのプレイはやはり格別。1978年の『Later Circle』以来の旧知の仲だけあって、硬軟自在のプレイで全体をぐいぐいと引っ張っていく。その中心で悠々と、艶光りしながらスウィングするフリードマンのピアノ。なんだか愉しそうだ。「オレの人生こんな感じだぜ」と言わんばかりに。アドリブも力強く、やはりエヴァンスの「耽美」やコルトレーンの「恍惚」とはまた違った円舞の叙情世界がある。そこにおもむろに迷い込んだ幻想性、「サークル・ワルツ」にこんな白昼夢にも近いトリップ感覚が宿っていたとは・・・思わず鳥肌も立つってものだ。

 エヴァンスの没後30周年となる2010年に、自らの手で新しい息吹を吹き込んだ「サークル・ワルツ」が産声をあげる。なんと運命的な転生輪廻か。そして文字通り、ワルツが「環」となり、フリードマンの人生はスウィングしてゆく。  




 









 1961年のRiverside盤『A Day In The City』に続くフリードマンの2作目のリーダー・アルバム。繊細で美しいピアノ・タッチとリリシズム。「ビル・エヴァンスの後継者」「好敵手」として話題をさらったことは、本作の表題曲を聴けば頷ける。従来のピアノ・トリオの型を破ったそのエヴァンスのコンセプションを踏襲するかのように、ときにぶつかり合い、ときに拮抗し、ときに調和する。トリオ三者の表情が起伏に富み、静かなる興奮は約束された。表題曲における哀愁を帯びたメロディや柔らかなピアノのタッチも素晴らしいが、スコット・ラファロの流れを汲むイスラエルのベースも快い。1962年5月14日 N.Y.録音。 




  • The Composer

    『The Composer』 (2010)

    ドン・フリードマン率いる「Salzau Trio」による作品集。スコット・ラファロへ捧げられた「Memory of Scotty」をはじめメランコリックな旋律とストリングスの柔らかい響きが絶妙にマッチした秀作・・・

  • Straight Ahead

    『Straight Ahead』 (2008)

    知的でリリカルなサウンドがよりいっそう円熟味を増し、当時73歳という年齢を感じさせない繊細で滑らかなタッチと美しい旋律を存分に楽しむことのできる作品・・・

  • Moon River

    『Moon River』 (2007)

    都会派ピアノの詩人がモノローグで綴る、摩天楼の肖像。フリードマンが愛する街N.Y.にちなんだスタンダードを中心にした選曲によるソロ・ピアノ作品・・・

  • Waltz For Debby

    『Waltz For Debby』 (2003)

    ジョージ・ムラーツ(b)、ルイス・ナッシュ(ds)を迎えた珠玉のトリオ集。ビル・エヴァンスの名曲「Waltz For Debby」の解釈が最大の聴きどころ・・・

  • Timeless

    『Timeless』 (2004)

    トリオ編成による2003年10月14日、NYC「Avator Studios」におけるスタジオ録音作品。ウェザー・リポートで知られるオマー・ハキム(ds)の参加が意外だが、メリハリのあるプレイで主役を好サポートしている・・・

  • Prism

    『Prism』 (2001)

    1997年7月にミラノで録音された、フリードマンとマルコ・リッチ(b)、ステファーノ・バニョリ(ds)という地元イタリアの俊英ミュージシャンとのトリオ・アルバム・・・

  • My Foolish Heart

    『My Foolish Heart』 (1997)

    マイケル・レオンハートのトランペットを擁したワンホーン・カルテットによる2001年録音作。表題曲をはじめ、「Desafinado」、「Bye Bye Blackbird」といった名曲を穏やかに綴る・・・

  • Invitiation

    『Invitiation』 (1978)

    ジョージ・ムラーツ(b)、ロニー・ベドフォード(ds)によるトリオ録音・・・


  • LIVE AT JAZZ ON TOP

    清水ひろみ
    『LIVE AT JAZZ ON TOP』
    (2010)

    ジャズ・シンガー、清水ひろみとフリードマンの再会セッション。心の通い合った2人の一味違う「ジャズ・オン・トップ」ライヴ・・・






  • Don Friedman

    Don Friedman
    (ドン・フリードマン)

    1935年5月4日、カリフォルニア州サンフランシスコ生まれ。5歳でピアノを始め、50年代中頃から西海岸を中心にデクスター・ゴードン、ショーティ・ロジャース、バディ・デフランコ、チェット・ベイカー等と共演して頭角を現す。1958年にニューヨークに居を移し、以降ペッパー・アダムス、ブッカー・リトル、ジミー・ジェフリー、アッティラ・ゾーラー等と共演するかたわら自己のトリオを結成。 62年録音の『サークル・ワルツ』で一躍注目を浴びる。70年からクラーク・テリーのビッグ・バンドにも参加、現在もクラーク・テリーとの関係は続いている。ピアニストだけではなく教育者としても熱心に後進の指導にあたっている。

  • George Mraz

    George Mraz
    (ジョージ・ムラーツ)

    1944年9月9日チェコスロバキア生まれ。61〜66年にプラハ国立音楽院でコントラバスを学び、その後ミュンヘンに移り地元のジャズ・クラブでデクスター・ゴードン、マル・ウォルドロン等と共演。1968年渡米し、バークリー音楽院で学ぶかたわらクラーク・テリー、カーメン・マクレエ等と共演。71年からはオスカー・ピーターソン・トリオに参加。その後スタン・ゲッツやトミー・フラナガンなどのレギュラー・ベーシストとして活躍、知名度を上げる。自己名義のアルバムも数枚発表している。

  • Lewis Nash

    Lewis Nash
    (ルイス・ナッシュ)

    1958年12月30日アリゾナ州フェニックス生まれ。8歳の時に学生オーケストラのドラマーとして初めてステージに立つ。大学を卒業した81年にNYに居を移してから、あっという間にファースト・コール・ミュージシャンの一員に仲間入りし、ベティ・カーターを始めトミー・フラナガン、オスカー・ピーターソン、ロン・カーター等の超一流ミュージシャンたちから引っ張りだことなる。アート・ブレイキー追悼コンサートでは栄誉あるドラマーの座を射止めるほど、ミュージシャン同志の間でもその実力に信頼が置かれている。