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ジャズ定盤入門 =第九回=

Friday, July 30th 2010

  「ビル・エヴァンスに志す」 〜 私が知ってるピアノ・トリオ
bill evans

 心機一転、今回からピアノ編に突入である。ピアノ編を始めるにあたり、今回もまたジャズ担当者にいろいろ見繕ってもらい、最終的には12枚も選んでもらったのだが、そのうちの4枚がビル・エヴァンスのアルバムだった。

 ビル・エヴァンスと聞いて連想するのは、画家で言えばルノワール、クラシックの作曲家で言えばモーツァルトである。ただし、恥ずかしながら、それは芸術的な連想ではない。3人に共通しているのは『第二号の人』という点である。創刊号がゴッホで第二号がルノワールだった。創刊号がベートーベンで第二号がモーツァルトだった。横山大観そして、創刊号がマイルス・デイヴィスのとき、第二号がビル・エヴァンスだったのである。もちろん創刊号は特別価格だ。ただし、創刊号が葛飾北斎のときの第二号が横山大観だったが、流石にビル・エヴァンスと横山大観はイメージ的に結びつかなかった。まぁ、そんなことはどうでもいいのだが、要するに、その世界で2番目に有名で、重要で、人気がある人、という見方はあながち間違った捉え方ではないだろう。ことジャズ・ピアニストに関して言えば、間違いなくビル・エヴァンスが一番有名である。

 選んでもらったアルバムの中から今回聴いてみたのは、ジャズ・ファンなら聴いたことのない人はいないであろう、歴史的名盤の誉れ高い一番の人気作『ワルツ・フォー・デビイ(Waltz For Debby)』(61年)。実際に聴いてみると、ビル・エヴァンスのクールな大学教授のような風貌と、ピアノという楽器の音色からイメージしていた通りの珠玉の演奏が詰まっていた。

Bill Evans/Waltz For Debby スローなリズムの中に丁寧にピアノの音を置いているかのような1曲目「マイ・フーリッシュ・ハート」から、転がるようなピアノの音色に導かれる2曲目「ワルツ・フォー・デビイ」へ。この2曲目の1分を過ぎた辺りのテンポアップする刹那がたまらなく気持ちよく、この部分を聴いただけで「聴いて良かった」と思わされた。曲名のせいも多分にあるとは思うが、実際にその音からだけでも、女性か子供が幸せな余暇を過ごしているようなイメージが沸いてくる。あとで調べてみたら、この曲はビル・エヴァンスが幼い姪っ子のために作った曲だそうだ。作曲にしても演奏にしても、本当の「表現力」とはこういうことを言うのだろうな、と思わず唸らされた、愛情に溢れた名曲であり名演であると思う。

 他の収録曲も、この2曲同様、理知的で繊細で洗練された、それでいて人間的な優しさを感じさせる美しい演奏揃いだった。全体的に、これまで聴いてきたサックス中心のアルバムの音とは「音の匂い」が違う。非常に澄んでいる。男臭さとかヤニ臭さがしない。しいて言えば、マイルス・デイヴィス作の6曲目「マイルストーン」がジャズ然とした感じで他の曲とは少し風合いが違う印象を受けたが、その音像はあくまでも透明感に満ちている。

Bill Evans/Explorations Bill Evans/Portrait In Jazz Bill Evans/Sunday At The Village Vanguard 今作は、1961年6月25日、ビル・エヴァンス、ベースのスコット・ラ・ファロ、ドラムのポール・モチアンによるトリオが、ニューヨークの名門ジャズクラブ「ビレッジ・バンガード」で行った歴史的ライヴ録音。対をなす『サンデイ・アット・ザ・ビレッジ・バンガード(Sunday At The Village Vanguard)』というアルバムもあり、そちらも同日に収録された音源とのことなので聴かないわけにはいかないだろう。Scott LaFaro残念なことに、ベースのスコット・ラ・ファロは、このライヴの11日後に交通事故でこの世を去ってしまっているのだが、このメンバーによるトリオ編成がビル・エヴァンスの歴史の中で「最強」と言われており、同じメンバーで録音した『ポートレイト・イン・ジャズ(Portrait In Jazz)』『エクスプロレイションズ(Explorations)』とあわせ「リヴァーサイド初期四部作」としてファンの間では特別な評価を受けているようだ。

 「入門者からウルさ型のマニアの鑑賞にも耐える稀有な作品。エバンスはクラシック仕込みのハーモニーがきれいです。ドラムとベースがしっかり反応しているのも、このトリオの特徴です。」

 これは、選んでくれたジャズ担当者の『ワルツ・フォー・デビイ』についてのコメントである。この短い文に全てが集約されている気もするが、それを言ってしまうと、こうして長々と原稿を書いている意味がなくなってしまう。そこで、ひとつだけ気になることを調べてみた。

 よく「ピアノ・トリオの名盤」「名曲をピアノ・トリオにアレンジ」などという解説を目にするが、「ピアノ・トリオ」という、ジャンル的に確立された音楽的スタイルがあるのだろうか?

 あるらしい。というか、このアルバムがまさにその最たるものらしい。基本的には「ピアノ」「ベース」「ドラム」の3人によるグループ演奏を指し、それ以外の楽器が入っている場合は、ピアノが主役であっても「ピアノ・トリオ」とは呼ばないようだ。ジャズ・リスナーの中には、ジャズと言ったらもっぱら「ピアノ・トリオ」しか聴かない、という方もいらっしゃるようで、最低限の編成から鳴らされるピアノを中心とした透明感あるサウンドは、シンプルなだけに各プレイヤーの個性や力量、三人の相性などが如実に表れ易く、奥が深いのかもしれない。

Ben Folds Five Ben Folds Five/Ben Folds Five さて、強引な拡大解釈をお許しいただけるなら、ロックにもピアノ・トリオの名盤はある。ベン・フォールズ・ファイヴの95年のデビューアルバム『ベン・フォールズ・ファイヴ(Ben Folds Five)』だ。バンド名は「ファイヴ」だが5人組ではなく、実際のバンド編成は「ピアノ」「ベース」「ドラム」のギターレス・トリオなので条件には合っている。日本でも大ヒットしたのでご存知の方も多いだろうし、音はジャズとは別次元だが、ピアノの音色を最大限に生かしたメロディアスでいて爆発力のあるサウンドは今聴いても新しく、私は15年経った今でも愛聴している。ピアノが活躍するロックとしては、以降、今作を超えるアルバムは出ていないと思うので、もし未聴の方でご興味があれば、是非こちらも聴いていただきたい。

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JAZZ INDEX
* Point ratios listed below are the case
for Bronze / Gold / Platinum Stage.  

今回の主役の「定盤」

Waltz For Debby

CD

Waltz For Debby

Bill Evans

User Review :4.5 points (70 reviews) ★★★★★

Price (tax incl.): ¥1,885
Member Price
(tax incl.): ¥1,735

Release Date:19/September/2007

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こちらも「定盤」

Sunday At The Village Vanguard

CD

Sunday At The Village Vanguard

Bill Evans

User Review :5 points (11 reviews) ★★★★★

Price (tax incl.): ¥1,885
Member Price
(tax incl.): ¥1,735

Release Date:19/September/2007

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こちらも是非

やっぱり最高です

  • Ben Folds Five

    CD Import

    Ben Folds Five

    Ben Folds Five

    User Review :5 points (32 reviews)
    ★★★★★

    Price (tax incl.): ¥2,299
    Member Price
    (tax incl.): ¥2,069

    Release Date:25/July/1995


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