ジャズの巨星が最後に残した名演
Wednesday, July 14th 2010
亡くなる3ヶ月前に録音された、ハンク・ジョーンズ最後のアルバム。伊藤八十八プロデューサーが録音の模様やハンク像を語ります。
5月16日午後ニューヨークにて、91歳でその輝かしいジャズ人生に幕を下ろした、ハンク・ジョーンズ。
1976年以来彼が率いたグレイト・ジャズ・トリオの新作にして、最後のアルバムがこの『ラスト・レコーディング』です。GJT名義としては2008年9月に吹き込んだ『ブルー・マイナー』に次ぐ作品となります。
91歳という年齢、そして亡くなる直前という事を、微塵も感じさせない、パワフルできらめく演奏がここにあります。
本作品の録音日は2月24日で、GJTのブルーノート公演終了の翌々日でした。同時期に来日公演を行っていたロイ・ハーグローヴはGJTのブルーノート最終日にやって来て、2曲飛び入り演奏し、そのとき、レコーディングの話になり、ロイの方から是非とも参加したいとハンクに申し入れ、本作での共演が実現しました。
メンバーは、ロン・カーターの愛弟子である27歳のベーシスト、デヴィッド・ウォンと、デューク・エリントン楽団などで演奏経験を積んできたドラマー、リー・ピアソンの強力なトリオ編成。そして、ロイ・ハーグローヴに加えて、ホレス・シルヴァーとも共演してきた期待のテナー奏者レイモンド・マクモーリンが参加し、それぞれ2曲ずつ演奏しています。
カルテット編成が4曲、GJTのトリオ演奏が6曲で、最後の1曲のみハンク・ジョーンズのピアノ・ソロとなっています。曲はジャズ・メンの代表曲やスタンダードばかりで、スイング〜ファンキー〜ワルツ〜バラードと、まさに力強くも繊細なハンク・ジョーンズのプレイが存分に生かされたアルバムに仕上がっています。
伊藤 八十八プロデューサーが語るハンク・ジョーンズとラスト・レコーディング
ハンク・ジョーンズ on Eighty Eight’s Label / Village Music
1970年代にEast Wind Label からハンク・ジョーンズ率いるザ・グレイト・ジャズ・トリオの作品を制作し発表したところ、忽ちジャズ界を一世風靡した。以来サイドメンの交代はあったが、GJTは35年間継続された。
2002年、Eighty Eight Label（Village Music）がスタートし、記念すべき第一作を考えた。予てからザ・グレイト・ジャズ・トリオに弟のエルヴィン・ジョーンズを迎えて、録音をしたいと考えていた。ベースのリチャード・デイヴィスを加えて、その年の５月に「新生ザ・グレイト・ジャズ・トリオ」がニューヨークで実現した。
その夢のようなセッションは、期せずしてエルヴィンのラスト・レコーディングとなり、その後はドラマーとベーシストにジャック・ディジョネット、ジョン・パティトゥッティ、オマー・ハキム、ビリー・キルソン、ジョージ・ムラーツなどの名手を投入して意欲的に制作。ハンク・ジョーンズの輝かしいジャズ人生の晩年に花をそえた。
ここ数年ハンクさんは年に2回、夏と冬に来日していた。そのツアー・スケジュールに合わせて年に一枚のCDを制作。最近作では従来のスタンダードに加えてファンキー・ナンバーや比較的新しい楽曲にチャレンジしていた。例えば、バド・パウエル、ホレス・シルヴァー、ウェス・モンゴメリー、ハービー・ハンコック、ジョー・ザヴィヌルやミシェル・ルグランなどの作品である。
また、ハンクさんはいつも若くて才能のあるミュージシャンと競演するのを好んでいた。今回も若手のサイドメン、ベースのデイヴィッド・ウォンとドラムスのリー・ピアソンを従えて2月17日〜22日まで、東京のブルー・ノートに出演した。最終日のセカンド・セットにトランペットのロイ・ハーグローヴが飛び入りして、2曲吹きまくった。その場でレコーディングの話になると、ロイがどうしても自分も参加したいとハンクさんに申し出た。当初、東京在住の若手テナー・サックスのレイモンド・マクモーリンを予定していたが急遽二人のスペシャル・ゲストでいくことになった。
ラスト・レコーディング当日
ハンクさんはいつもピアノの椅子を高くセットするのが好みだった。この日も座布団のようなものを椅子の上に敷いて調節からはじまった。
12時頃、トリオで「愚かなり我が心」からスタート。「オパス・デ・ファンク」、「クレオパトラの夢」を順調に収録したところで、ロイ・ハーグローヴがやってきた。「チュニジアの夜」と「誰かが私をみつめてる」を実に気持ちよさそうにプレイ。夕方からはサックスのレイモンド・マクモーリンが参加。「カンタロープ・アイランド」とお馴染みの「サヴォイでストンプ」を豪快にブロウした。
その後、トリオで「おもいでの夏」、「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」、「ビギン・ザ・ビギン」「ドント・エクスプレイン」と、いずれも2テイクから5テイクで、無事全11曲を収録。最後にピアノ・ソロ「君を想いて」を僕がリクエスト。圧巻のテイク3がOKとなった。（＊「ドント・エクスプレイン」は素晴らしい出来だったが、「おもいでの夏」と似た構成だったので、未発表となっている）
発売直前に、ニューヨークから彼の訃報が届き、期せずして「ラスト・レコーディング」となった。乃木坂スタジオで、レコーディングが終わっても余韻を惜しむかのように、なかなか椅子から立ち上がろうとはしなかったハンクさん。彼にこのCDを見せることが叶わないのが残念である。
このアルバムの聴きどころは
なんといっても、御大ハンク・ジョーンズのマジック・タッチであろう。その柔らかな手で撫でるように鍵盤上を滑らせて、美しいコロコロ・サウンドを奏でる。かと思うと、鍵盤の奥深くまで打ち抜き、力強くブロック・コードをサウンドさせる。鍵盤上での変幻自在なフィンガー・コントロールで、次から次へと繰り出されるフレーズに微妙なニュアンスをつけていく。そして、どんなにスロウなテンポでも、凄いスピードを感じるし、逆にどんなに早いテンポで演奏しても不思議とゆったり聞こえる。まさに名人芸の領域であり、いつも聴く人の心を癒してくれる。
現在絶好調のロイ・ハーグローヴの切れ味鋭いトランペット。俊英マクモーリンの豪快なブロウ。ステディで正確なリズムを刻むウォンのベース・ワークと繊細で豪放なピアソンのドラミングのコンビネーションも抜群である。
「もっとピアノが上手くなりたいな。まだまだ学ぶべきことが沢山ある。最低でも120歳まで生きるつもりだから、まだ上達する時間はあるさ（笑）」
これは、つい最近のインタヴューでのハンクさんの発言である。恵まれた才能を持ちながら、その才能に胡坐をかくことなく、常にチャレンジ精神あふれる努力家だった。また、ハンクさんはピアノの腕もさることながら、ジョークを言って人を笑わせるのが得意だった。そして、いつも若いものへの気配りも忘れることがなかった。ホテルのベル・ボーイにも気軽に声をかけていた。「元気かい？」、「出身は？」、「将来の夢は？」最後には決まってチップを渡しながら、励ましていた。ぼくは、そんなハンクさんが大好きだった。
ラスト・レコーディングのジャケット写真について
今回のジャケットは、写真家の操上和美さんが撮影したハンクさんのポートレイトだ。今年の2月、操上さんからの申し出が、やっと実現して、限られた撮影時間で撮った中の1枚である。沈黙のモノクローム画像から迫りくる視線に圧倒される。当初、予定されていた操上さんの風景写真を、急遽、このラスト・ポートレイトに差し替えた。ラスト・レコーディングに相応しいジャケットとなった。
Tracks
01. A Night In Tunisia02. Opus De Funk
03. Cantaloupe Island
04. The Summer Knows
05. Cleopatra’s Dream
06. Someone To Watch Over Me
07. Begin The Beguine
08. Fly Me To The Moon
09. My Foolish Heart
10. Stompin’ At The Savoy
11. The Very Thought Of You
※2010年2月24日 東京・Sony Music Studios 録音
Personnel
HANK JONES : pianoDavid Wong : bass
Lee Pearson : drums
Roy Hargrove : trumpet （M1.M6）
Raymond Mcmorrin : tenor saxophone （M3.M10）
ハンク・ジョーンズ Hank Jones
1918年7月31日、ミシシッピ州ヴィックスバーク生まれ（育ったのはミシガン州ポンティアック）。有名なジョーンズ兄弟の長兄（次男はトランペット奏者兼作曲家のサド、末弟がドラマーのエルヴィン）。十代の頃から地元で演奏活動を始めただけでなく、トミー・フラナガン、バリー・ハリス、サー・ローランド・ハナに代表されるデトロイト派ピアニストの創始者でもある。ホット・リップス・ペイジに認められ44年にニューヨークに居を移す。コールマン・ホーキンスやビリー・エクスタイン等と共演するかたわら、当時発展しつつあったビバップの要素を吸収してゆく。47年からJATP(Jazz at the Philharmonic)に参加。48年〜53年はエラ・フィッツジェラルドの伴奏者を務めたり、チャーリー・パーカーと共演するようになる。50年代になるとベニー・グッドマン、レスター・ヤング、キャノンボール・アダレイ等と共演。59年から17年間はCBSのスタッフ・ミュージシャンとしてラジオやTV番組の音楽に携わりながら、活動を展開。76年に結成したザ・グレイト・ジャズ・トリオをきっかけに再びジャズの第一線へと躍り出て、以降は名脇役から立派な主役を務める作品までと数え切れないほど様々なアルバムに参加している。
その優雅で流麗な演奏スタイルはもとより、暗記しているスタンダード曲が1,000を下らないと言われているため尊敬の念を込めて「ミスター・スタンダード」と呼ばれることも。1962年マジソン・スクエア・ガーデンで行われた故ケネディ大統領の45歳のバースデイ・パーティで女優のマリリン・モンローが唄う”ハッピー・バースデイ”のピアノ伴奏を務めたことでも知られる。90年代のパナソニックのCMで「What’s New」の演奏シーンに出演しただけでなく、「ヤルモンダ！」とにっこり笑っていたピアニストでもある。2008年11月 アメリカにて、今までのアーティスト活動が称され、ブッシュ前大統領より、National Medal Of Arts アメリカ国民芸術勲章文化勲章をスパイダーマンの作者スタン・リーらと共に受賞。2009年2月、グラミー賞“GRAMMY Lifetime Achievement Award”を受賞。
2010年2月、ブルーノート東京を始めとしたJAPAN TOURを行う。
2010年5月16日午後、輝かしいジャズ人生に幕を下ろす。享年91歳。
デイヴィッド・ウォン David Wong （ベース）
ニューヨークで生まれ育った若干2７歳のベーシスト。音楽とアートで有名なラガーディア高校を卒業し、クラシック音楽の名門ジュリアードを2004年に卒業。その後、エリック・リード･トリオやヒース・ブラザースに参加し、現在はロイ・ヘインズのメンバーとして活躍中であるが、その正確なベース･ワークとその人柄から多くのファンを獲得しつつある。ベースのロン・カーターの推挙により、ハンク・ジョーンズのグレイト･ジャズ･トリオの一員に抜擢された。
リー・ピアソン Lee Pearson （ドラムス）
1981年１月４日、メリーランド生まれ。バルチモアのハイスクールから、マンハッタン音楽院を卒業した新進気鋭のドラマー。デューク・エリントン楽団やロイ・エアーズ･バンドの一員としてツアーに参加し、ミュージシャンとしての技量研鑽を重ねる。現在はニューヨークを中心に活躍中である。サックスのケニー･ギャレット・グループに在籍したこともあるが、そのスピード感あふれるシャープなプレイで注目を集めている。
ロイ・ハーグローブ Roy Hargrove（トランペット）
1990年にウィントン・マルサリスに見出されデビューして以来、若手ジャズ・トランペッターの王道を突き進んできたロイ・ハーグローヴ。ハービー・ハンコック、マイケル・ブレッカーとのグループ“ディレクションズ・イン・ミュージック”の一員としても活躍。その一方で、NYのクラブ・シーンでのセッションを通じて、ジャズ以外のミュージシャンと積極的に交流をはかってきた。ロイ・ハーグローヴが世界最高のジャズ・トランペット奏者のひとりであることは、多くが認めるところである。1997年にラテン・ジャズ作『ハバナ』でグラミー賞を獲得。
レイモンド・マクモーリン Raymond McMorrin （テナー・サックス）
79年米国コネチカット州生まれ。11歳の時にテナー・サックスを吹き始める。99年にはハートフォード音楽院でアルト・サックスの大物ジャッキー・マクリーンに師事してサックス奏法を学ぶ。ピアノのホレス・シルヴァーやトロンボーンのスティーヴ・デイヴィス等とも共演している期待の新星である。最近ではティファニーのレコーディングにも参加して、その色気のあるサウンドと自由奔放なフレージングで聴く人の心を魅了している。
for Bronze / Gold / Platinum Stage.
ラスト録音
Last Recording
Hank Jones
Price (tax incl.):
¥3,300
Member Price
(tax incl.):
¥3,036
Multi Buy Price
(tax incl.):
¥2,805
usually instock in 2-3days
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グレイト・ジャズ・トリオ作品 on Village Music
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