「Struttin'」 収録曲
01. This I Dig Of You ディス・アイ・ディグ・オブ・ユー -Lee Morgan,Hank Mobley-
02. Without A Song ウィズアウト・ア・ソング Vincent Youmans-
03. Kary's Trance ケリーズ・トランス -Lee Konitz-
04. A Solar Eclipse ソーラー・エクリプス -Ayumi Koketsu-
05. I Fall In Love Too Easily アイ・フォール・イン・ラヴ・トゥー・イージリー -Jule Styne-
06. The Kicker ザ・キッカー -Joe Henderson-
07. I've Never Been In Love Before アイヴ・ネヴァー・ビーン・イン・ラヴ・ビフォア -Frank Loesser-
08. Orion オリオン -Rui Momota-
09. Softly As In A Morning Sunrise 朝日のごとくさわやかに -Sigmund Romberg-
10. Del Sasser デル・サッサー -Sam Jones-
10. Blues Connotation ブルース・コノテイション -Ornette Coleman-
纐纈歩美: alto saxophone
納谷嘉彦: piano
俵山昌之: bass
マーク・テイラー: drums
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美濃国のアルト・シスターズから、妹分登場
ともあれ、インパクトのある御苗字。「纐纈」=こうけつ、旧称で、こうけち、と読むそう。興味本位に調べてみると、奈良時代における「絞り染め」に対する古称で、蝋纈(ろうけち)、夾纈(きょうけち)と並ぶ三纈のうちのひとつ、とある。伝統ある職人家系の出身か・・・と、それはさておき、この纐纈歩美、実は出身地である岐阜、名古屋周辺のジャズ・シーンでは、「纐纈シスターズ」(血縁関係はないそう)として、すでに著名な存在。もうひとりの「纐纈」、纐纈雅代は、日本の重鎮ジャズ・ベーシスト、鈴木勲のオマサウンドで活躍中のアルト・サックス奏者で、2008年には師でもある鈴木のリーダー作品『Solitude』に大抜擢。腰の据わった肝っ玉ブロウをファンキーに聴かせてくれている。いわば、シスターズの姉御的な役回りを受け持っていると言えそうか。
そんな ”アルト・サックス姉妹船” 体制にて目下ジャズ・シーンをじわじわと中部・東海地区から侵略中の纐纈シスターズ。この度、妹分とも言える歩美が初のリーダー・アルバム『Struttin'』をリリースする。
先日、寺久保エレナが「現役女子高生サックス奏者の・・・」という触れ込みでデビューを飾ったわけだが、彼女のアルバム『North Bird』を聴けばむしろそんな形容は何の意味も成さないほど、年齢・性別・地域性全てのくびきを超えた普遍の万有引力のようなものが存在していることが判る。そして、この纐纈歩美にしても、おそらく同じ印象を持つ方が多いはず。ある意味パラドックスかもしれないが、「若い! かわいい!」に終始した幻想広告をしっかり裏切るだけのセンスとガッツ、彼女たちの作品にはそれがワンサカ詰まっている。
微かな甘い笑みを浮かべたような旋律が全編に溢れる。「音符が踊る」というのはこういうことを言うのだろうか。軽やかで、しなやか。歴史にとり憑かれたジャズおじさまにとっては、バド・シャンク、アート・ペッパーのような西海岸派の巨人の名が脳裏をよぎる瞬間もあるかもしれないが、あくまで等身大の纐纈歩美、それ以上でもそれ以下でもない纐纈歩美、彼女の現在の心境が音の粒となって空間を支配する。シンプルにしてリアル、東西南北関係ない、21歳、女性の「個」。
ふと見ると、ジョー・ヘンダーソンの「The Kicker」やオーネット・コールマンの「Blues Connotation」などを採り上げている。オリジナルは、いずれも60年代の既成のジャズ概念をぶっ壊した快演だ。「選曲の妙」とはよく言ったもので、同じような心意気で ”権威のシーン” に果敢に殴り込みをかけようとする纐纈の鼻っ柱の強さのようなものが垣間見えたりもして、痛快。そして、実際に彼女自身がペンを走らせた「A Solar Eclipse」は、イマドキなアッパー・モーダル。しなやかなだけではなく、爆発力を十分に備えていることをも窺い知れ、再度痛快。冒頭にも書いた名前のファースト・インパクト以上に、いつまでもこのヒリヒリした感じは残っている。痛快ならば何度でも歓迎。これぞ音楽の万有引力。
最後に、このアルバム、主役アルト以外にも、現在は大坂昌彦らとのサムライビバップや大隅寿男トリオ、小林桂グループなどでも活躍するピアニスト納谷嘉彦、同じくサムライビバップなどで活動中のベース奏者・俵山昌之といった我が国屈指の名人が見事なアンサンブル、アドリブ・ソロを聴かせてくれているところにも注目していただきたい。
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1988年10月5日岐阜県土岐市出身。現在21歳。
3歳よりピアノを習い、中学の吹奏楽でサックスに転向。高校から本格的にジャズを始め、椿田薫氏に師事。
卒業後、甲陽音楽学院名古屋校で、RandallConners氏、岩持芳宏氏に師事。在学中より、岐阜、名古屋を中心にライヴ活動を始めた。
卒業して現在、納谷嘉彦(pf)カルテット「f」を始め、様々なセッションに参加している。
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