大西順子　ユニバーサル移籍第1弾

Wednesday, July 7th 2010

ユニバーサル移籍第1弾。オールスター・メンバーが集結した、久々のニューヨーク録音。

　”独特の黒いタッチ”と称賛され、ジャズ・シーンでは異例とも言える5万枚以上のセールスを記録した初リーダー・アルバム『WOW』でセンセーショナルなデビューを飾った1993年。あれから早17年。

　衝撃デビュー以後も、ニューヨークの名門ジャズ・クラブ「Village Vanguard」に日本人として初めて自己グループを率いて出演（『ビレッジ・バンガードの大西順子』として発表）するなど、瞬く間に90年代ジャパニーズ・ジャズのアイコンとなった大西順子。

　卓越した技巧に加え、バークリー音楽院を主席卒業、さらには可憐でクールなビジュアルと、 ”才色兼備”のミューズとして近年の本格的な女性ジャズ・ミュージシャン・ブームの先駆けとなったのも、おじさまたちには懐かしい話でしょうか？

　その後も、ジャッキー・マクリーン、フィル・ウッズといったジャズ・ジャイアントたちとの共演を実現させたり、90年代後半には突如音楽的志向を急転回させた『フラジャイル』を発表したりと、紆余曲折ありながらもジャズ・ピアニストとして着実に歩みを続けてきた2000年春、突然の長期休養宣言。





　以降、およそ7年間の沈黙を守っていた彼女が、シーンに本格復帰したのが2007年（2005年に、トランペット奏者大野俊三のツアー・サイドメンとしてライヴ出演はしていました）。ブルーノート公演など精力的なライヴ活動を中心に、往年の”JUNKOファン”を歓喜させたのは記憶に新しいところでしょう。

　昨年7月には11年ぶりの新作となる『楽興の時』を発表。大西本人曰く「正式な復帰」を果たしました。エリック・ドルフィー『Out To Lunch』から3曲を取り上げるという抜群の選曲センスは相変わらず。且つ、彼女の新たなる局面を見せてくれる作品となりました。

　そしてこの度、さらなる本格的再スタートに加速をつけるために、デビューからの古巣EMIを離れ、心機一転 ユニバーサル・ジャズへの電撃移籍を発表。加え、移籍第1弾アルバムとなる『バロック』のレコーディング場所として選んだのは、ニューヨーク。かつて80年代末のバークリー音楽大学卒業後に、プロとしてのキャリアをスタートさせた ”第2の故郷” で、共に研鑽を積んだ仲間たちを含む同世代のオールスター・メンバーとスタジオ入りを決意したそうです。

　「90年代前半のニューヨーク・ジャズにこそ、自身の音楽の核がある」と考える大西。今は亡きジャズの巨人たちから精神的にも技術的にも直々に薫陶を受けた最後の世代。ジャッキー・マクリーン、フレディ・ハバード、ジョー・ヘンダーソンらのバンドで研鑽を積んだ大西の原点回帰は、同時代的に自身と同じ経験、そこから共有できる音楽言語を持ち合わせる同世代の仲間たちを迎え入れることで、ある種のコンセプショナルなものとして成就されようとしています。

　旧知のロドニー・ウィテカー（b）、レジナルド・ヴィール（b）、ハーリン・ライリー（ds）をはじめ、ほぼ同時期に初リーダー・アルバムを発表している、”90sジャズ・トランペット界の神童”と謳われ久しいニコラス・ペイトン、チャレンジ精神旺盛な気鋭マルチ・リード奏者ジェームス・カーター、現代トップ・クラスのトロンボーン・マスター、ワイクリフ・ゴードンといった、90年代のニューヨーク・ジャズ・シーンから世界に羽ばたいた面々が一堂に介し、盃を酌み交わす。同窓会的なダイアローグにホッと一息つきながらも、大西順子は、この”第2章の幕開け”に、これまでになく意欲的なのです。

　今回『バロック』における楽曲作りにおいては、3管のホーンに加えて、曲によってはダブル・ベース編成を起用し、ダイナミックでリッチなサウンドを展開。ピアノ・プレイだけでなく、作曲やアレンジの面においてもその才能をフルに発揮しています。8月下旬には、早くもヨーロッパやアメリカでのリリースも決定。「本格的な復帰」という意味では、再びワールドワイドでの活躍が期待されます。

　彼女が不在だった7年間に、山中千尋、上原ひろみといった女流ピアニストのニュースターたちが登場し、日本のジャズ・シーンを盛り上げていますが、まだまだ男性上位にあった80年代末〜90年代にかけてのシーンにおいて、その土壌を切り拓いたパイオニアは、間違いなく、この大西順子だったこと。そのことを誰しもが再確認できる1枚。大西ジャズ、新章のスタートです。