鍵盤音楽の歴史において大変重要な位置を占めるヤン・ピーテルスゾーン・スヴェーリンクですが、教会音楽の分野においても重要な貢献を果たしました。その中でも有名な作品が、カルヴァン派のジュネーヴ詩篇に作曲した全4巻に及ぶ『ダヴィデ詩篇集』です。1604年の第1巻を皮切りに、1613年に第2巻、1614年に第3巻、そして死後の1621年に第4巻が出版されました。ジュネーヴ詩篇集にはオランダ語訳が存在していたのですが、スヴェーリンクはおそらくその訳の不完全さを避けて、原典のフランス語訳に曲を付けました。各曲は詩篇の旋律を基にしながらも、最大8声部に至るさまざまな編成で作曲され、スヴェーリンクの精巧な作曲技法が発揮されています。
この録音には、スヴェーリンクが生涯の長い間に渡って作曲したラテン語による教会音楽集『カンツィオーネス・サクレ』から詩篇をテキストとした作品も併せて収録されています。作曲家晩年の1619年に、当時カトリックの都市であったアントワープでカトリック教徒の友人に献呈する形で出版した当曲集は、フランス語による『ダヴィデ詩篇集』とは言語が異なるだけでなく作曲技法も異なっており、聴き比べることでスヴェーリンクの教会音楽作曲技法の多様さを知ることができます。教会音楽の合間にはスヴェーリンクの鍵盤音楽の名曲が挿入されており、当時のオランダの礼拝における音楽のあり方を偲ばせるプログラムとなっています。
コルデス率いるヴェーザー=ルネサンスの精緻な歌唱は、楽曲の魅力を存分に堪能させてくれる上に、『ダヴィデ詩篇』と『カンツィオーネス・サクレ』の作曲技法の違いも明快に示されているので、スヴェーリンクの教会音楽を多角的に知ることができます。当アルバムは、この録音で見事なオルガン独奏を披露しながらも、録音からわずか1ヶ月後の2022年の2月に急逝した歴史的オルガン演奏の名手エドアルド・ベッロッティに捧げられています。
ジャケット絵画 エマヌエル・デ・ヴィッテ(1617年頃-1692年)アムステルダム旧教会の内部(輸入元情報)
【収録情報】
スヴェーリンク:
01. 私はあなたを目覚めさせ
02. 主に向かいて新しい歌を歌え
03. 主よ、我が神よ
04. トッカータ ニ短調 SwWV285
05. いかに幸いなことでしょう、弱いものに思いやりのある人は
06. 深き淵より
07. 主をほめたたえよ
08. エコーによるファンタジア SwWV275
09. 哀れな罪人を憐れんでください
10. 苦難の日に主があなたの祈りを聞かれ
11. いかに幸いなことでしょう。背きを赦され、罪を覆っていただいた者は
12. ファンタジア ヘ長調 SwWV265
13. 主よ、御もとに身を寄せます
14. いざ、主を祝福せよ
15. 主に向かいて喜び歌おう
16. すべて主を畏れ
17. 我が青春はすでに過ぎ去り
18. 主をほめたたえよ、その聖所で神をほめたたえよ
04,08,12,17:オルガン独奏
出典:
09,10,11:ダヴィデ詩篇集 第1巻(アムステルダム、1604年)
01:ダヴィデ詩篇集 第2巻(アムステルダム、1613年刊)
05,18:ダヴィデ詩篇集 第3巻(アムステルダム、1614年刊)
02,03,06,07,13,14,15,16:カンツィオーネス・サクレ(アントワープ、1619年刊)
ブレーメン・ヴェーザー=ルネサンス
エドアルド・ベッロッティ(オルガン独奏)
マンフレート・コルデス(指揮)
録音時期:2022年1月31日〜2月2日
録音場所:ドイツ、バッスム、シュティフト教会
録音方式:ステレオ(デジタル)