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Review List of うーつん 

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  • 2 people agree with this review
     2022/07/27

    馴染みの前奏曲とフーガが独特な化学変化を起こしてくれる。なるほど、こんな楽しみ方が生まれるのか、この曲はこんな一面があるのかなど、不思議な感覚を体感したい方にもおすすめしたい。
    音が消えていくチェンバロと音が持続するポジティフオルガンの違いは当然ながら明らか。音が重なる部分は(音が減衰していく、いわば音響が減っていく)チェンバロと違い、音が(持続することで)積み重なっていくような感覚は面白い。ピアノやチェンバロの演奏で感じる鋭角的な部分はなく、穏やかに音が生まれてくるようにも感じる。言い方はよくないが曲によっては最初期のテレビゲームのように聴こえてきたのは面白く新鮮な驚きだった。曲の魅力やバッハの音楽の可能性の広さを再発見できるディスクだと思う。平均律クラヴィーア曲集第1巻の誕生年を祝うにふさわしい画期的なディスク。おすすめです。

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  • 2 people agree with this review
     2022/07/26

    若さがなしうる繊細な、切実なマタイ。いわゆる巨匠が演じるマタイとは違う。堅苦しい学問的なマタイとは違う。バロックの修辞学なる頭で考えるマタイとも違う。耽美的なまでにたおやかで美しい合唱と瑞々しいオケ。思えばナザレのイエスなる人物も年寄りではなかったはず。若さゆえの理想や改革を追い求めた人物だったのではなかったのか、と連想したくなるようなドラマを聴かせてくれている。どちらかというと「マタイ受難曲」というより「マタイが伝えた、若きイエスが死に至るまでのドラマ」というタイトルの方がディスクの演奏内容に近いような気がする。

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  • 2 people agree with this review
     2022/07/26

    情感豊かで、映像の風景が見えてくるような充実したすばらしい演奏。名優と制作陣と作曲家の書下ろしによる充実したドラマやドキュメンタリー…現代のTV番組ではもはや実現できないような組み合わせが昔は確かにあったのだ。武満徹は「世界のタケミツ」ともてはやされるより前から「武満徹」であったのだ。

     武満徹がコンサートホールを沸かせる存在であったと同時に映画やテレビなど様々なジャンルで豊かな音楽を作っていたのは頭では分かっていたが、こうして素晴らしい布陣で映像音楽集が発表され、彼の創作範囲の広さを体感する上で佳き財産になると思う。

     タイトルにも用いられている「波の盆」が特に感動的。私はこれを聴きたくて入手したようなものだ。朧げな遠景からカメラが入り、やがて海面が静かに映し出され、波が茫洋と寄せては返すような風景を連想させる弦の旋律、その波に比喩されるような歴史の痛みや人間の心の変化…胸が震えるような美しさをぜひ多くの方に聴いていただきたい。お奨めです。

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     2022/07/20

     2021年、快挙成し遂げた反田恭平のスナップショット。当時はネットで映像と共に視聴し「この演奏とホールの雰囲気、もしかすると…」と思っていたら2位の成績。一番印象深かったのは第3次予選の曲目。ソナタ2番『葬送』→ラルゴ『神よ、ポーランドをお守りください』→英雄ポロネーズというストーリー性のある選曲。このような物語を紡いでくるところに反田の音楽家としての構成力を感じた。もちろん、それを弾ききるピアニストとしての造形力も然り。決勝の協奏曲でも「ショパンの心の痛み」を随所に感じさせるフレーズのきめ細やかさ(中でも第1楽章 CDで18:05辺りの弱音のつぶやきは絶品と思う)、こぶしをきかせた節回し、オケや聴衆も巻き込むステージ作りなど、単なるピアニストを超えた活動を目指す彼の片鱗も感じる。一過性のフィーバーで終わらせずじっくりと音楽を作っていってほしいし、それをじっくりと見守っていきたいものだ。

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  • 3 people agree with this review
     2022/05/20

    鍵盤楽器の聖典を「before&after」で愉しめるのが最大のポイントであり、発見であろう。

      クラヴィコードを演奏した1枚目では、息子の教育のために書き溜めた小曲の中に平均律クラヴィーア曲集第1巻の「芽」を見つけることができ、2~3枚目のディスクではオーケストラの如き多彩な音とゴージャスな響きを持つ三段鍵盤機構のチェンバロで平均律第1巻の「果実」を聴かせてくれる新鮮な構成。

      今年(2022年)に作曲300年の誕生日を迎える平均律第1巻を、できる過程・できた後で両方聴けるのは今までなかったのではなかろうか。しかもクラヴィコードとチェンバロの組み合わせ。聴いていて「バッハが自宅でクラヴィコードをかき鳴らし曲の構想を膨らませ、チェンバロでその成果・結論が演奏された」というようなバッハの作曲過程を垣間見る錯覚も感じられた。

      第1番ハ長調BWV846から第24番BWV869を番号順に演奏せず彼独自のやり方で披露するのも新鮮そのもの。Disc2の第1曲目 BWV846からしてかなり意欲的なテンポで奏され、その様子はさながら噴水から水が勢いよく噴き出るような瑞々しさを感じ、曲順の変更も相まって「お、次はこれが来るのか!」「あ、この角を曲がるとこんな風景があらわれるのか」と愉しく曲を追うことができるのもうれしい。レジスターの操作なのか、発音・撥弦のバリエーションも豊富で、もともと豊かな響きのこの名器がパートに分かれて自由に歌ったり、おしゃべりをしているかのよう。

      おそらく、今年あといくつか平均律第1巻がリリースされることだろう。当盤はその中に在っても、さらに過去のディスクと比較してもプログラミングの妙、使用楽器の音の良さと歴史的価値、演奏の充実さでひと際光彩を放ち続けるディスクであろうと思う。故に今まで同曲を多く聴いてきた方々にも満足を与え、知的好奇心をくすぐるものになるであろう。ぜひ聴いてみていただきたい。

      蛇足ながら…つい先日、バンジャマン・アラールのチェンバロ・リサイタル(5月11日、浜離宮朝日ホール)も聴いてきた。白シャツにニットタイ、上品なオレンジ色のジャケットとこげ茶色のパンツというフランス人らしいしゃれた服装で登場し、フランス、イタリアなど様々な音楽文化を吸収し作られたバッハの曲たちをていねいに演奏する姿を見て、バッハの音楽と共にさらに成長していくであろう彼の才能に触れることができて嬉しくなったことも書き添えておきたい。

      

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  • 3 people agree with this review
     2022/05/03

    全集の掉尾を飾るにふさわしい盤としておすすめしたい。

    なぜ3番(と1番)を全集のラストにしたのかは判らない。が、聴いてみて「これならラストに持ってくるのは正解だった」と感じた。感じた理由の第一は「勢いがある」、第二は「スリリングなノリの良さ」、第三は「冒険心が豊か」である。        

    第一:両曲とも一気呵成に聴かせる勢いが何よりすばらしい。前作や前々作にも共通するソロとオケ両者のフレッシュな勢いはここでも健在。    

    第二:畳みかけるようなノリのすばらしさと、グルーヴ感にも似た感覚に目が覚めるような感覚をもった。この演奏は他にあまりないテンションで、当然ながら他の盤に引けを取らない。    

    第三:ソロの演奏やオケへの受け渡しなど、曲ががっちり決まってしまっている4番・5番ではなかなかやりづらい即興的なひらめきや実験精神が終始充実しており飽きさせることがない。    

    作曲者自身のピアノ演奏で発表された当時のスリルやワクワク感はこんな感じだったのではと想像してしまう。「ベートーヴェンは今も生きている」と感じさせる一枚だと感じた。
    はなはだ表面的なレビューになってしまった。細かい部分がどのように凄くて愉しいかは聴いてみてほしい。

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     2022/04/20

    2022年4月17日、76歳でラドゥ・ルプーが逝去した。早すぎる引退、そして死。私が彼の実演に接したのは1度のみ。今でも大切な思い出として残っている。おそらくこの本で登場した音楽家たちもそれぞれの思い出を持っていることだろう。その思い出やルプーへの敬愛の気持ちを語っている。音楽家の「業績」を振り返るならCDなどの音楽を聴けばよい。しかし、ルプーのそれはその業績と比べると残念なほど少ない。(そのどれもが魅力的なディスクであるのは言うまでもない)


    ラドゥ・ルプーという名の音楽家・芸術家の人となり(ほんの一面にすぎないだろうが)を表すために集められた「素描集」。この本を読みつつ、彼の演奏したCDを合わせて聴くことで彼の死を悼みたい。

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     2022/03/31

     沈黙という名の空白の中にバッハの音符をはめ込んでいく、またはちりばめていく…数回聴いてそのような印象をもった。

     時間的にみるなら108分という演奏時間はたしかにべらぼうな印象を受けるが、聴いていると「遅い」という印象はない。リピートの有無の問題ではなく、上述のような音の配置が結果的に108分ということになったのかもしれない。残響の長い録音場所で演奏することで発せられた音が沈黙に還っていくようにも感じられる。装飾音についていうととても個性的。楽譜の記述によるのかロンドー本人のinventionなのか私には判らないが、それがあることで曲が不思議な煌めきと生命力を発するので、いろいろな方に聴いてみてほしいところだ。更に言うと、休止または無音も装飾音の一部になっているようにも感じる。沈黙と言うのか、沈思と表現するかは人それぞれだろう。 また、音楽を奏でると同時に詩を編んでいるような印象もなんとなく感じる。彼の名前(Rondeau)から連想してしまうのかもしれないが…。

     ふと思ったのは、こんなゴルトベルクならM.フェルドマンのピアノ曲どれか(「マリの宮殿」か「三和音の記憶」のどれか1曲あたり?)とカップリングしてみたら面白そうだなとも思った。一見、性格や思想がかけ離れていると思えるが、どことなく合いそうな気もする。両曲ともその長さで演奏者も聴く方も大変なのはまちがいないだろうが。

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     2022/03/19

    全ての楽器から鮮烈に音がほとばしる。聴いてまず思ったのがこれだ。奇抜なことをやっているという印象はない。聴いているだけだが、各奏者がすべての音を情熱をこめて「創造」しているのを眼前にしているような錯覚にとらわれてしまう。

     セッション録音でありながら、ライヴのような緊迫感とドライブ感がすばらしい。どんなに短いフレーズでも、テーマを縁取るような小さい音でも今まさに生まれたかのようなほとばしりを感じる。聴きなれたはずのベートーヴェンの交響曲が「生まれ変わった」かのように鮮烈に響き、かけめぐる。他のレビューにもあるように録音も秀逸。ドライすぎず痩せぎすにならず立体的で、モダン楽器によるフル編成のオーケストラにも引けを取らない迫力と推進力がある。それぞれの音がはじけながら聴こえ、「個の集合」といった趣で全体的にもバランスが取れている。ティンパニの縦横無尽の活躍は特筆もの。おそらく他のティンパニ奏者が聴いたら「ここまでベートーヴェンでやれたら本望」と羨ましがるのではないだろうか。

     「ベートーヴェンなんてもう食傷気味だ」と思われる方に、「古楽器演奏は痩せていて、とてもベートーヴェンのボリュームを期待するのは無理だろう」と考える方に、「より鮮烈なフレッシュな演奏を聴いてみたい」と希望される方にお薦めしたい。私自身が「宣伝レビューは話半分に考えておこう」とか、「今さら他のベートーヴェン交響曲全集といっても大して違いもないだろう」と高をくくって入手を遅らせていたが、良い意味で裏切られたくちなので余計にそう思う。

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     2022/03/12

     劇的な表現を前面に出すより、じわじわと哀しみや悲劇、そして救済を歌いだしているように感じた。冒頭からテンション全開にせず、イエスの磔刑とその死にクライマックスを置くことを重視しているかのようだ。もちろん他の盤でも同じだろうが他の盤のような動的な表現というよりはいくらか静的な印象を受ける。

      ディスク見開きの写真ではホールに半円を描くような配置になっている。楽器奏者は通常の配置よりもう少しソーシャルディスタンスをとり着席、歌い手はその後ろにこれもソーシャルディスタンスとったかなり距離のある配置。聴こえてくる音も左右それぞれ様々な方角から耳に入ってくる。響きは豊かだしさすがの合唱なのだが、先述のソーシャルディスタンス配置のせいだろうか歌によるメッセージが私の中では一つに収斂せず、あちこちに発せられてまとまってこないような印象を受けた。 

      福音史家やイエスなどの歌手は見事に思えたが、第20曲のアリアなど一部で少々表現に苦労している(?)ような印象も持った。私個人の印象として、(指揮者の希望によるのだろうか)無理に表現に傾くより、もっと音の流れがあった方が良いのでは? と感じる部分もあった。 少なくとも1986年アルヒーフへの録音盤では自然な流れでアリアが歌われていたのも確認してみた。  歌唱の経験もない私の聴き込み方がまだ稚拙なのかもしれないが、今の印象ではこのようになってしまう。

     古巣に戻り、満を持してのヨハネ受難曲だから悪かろうはずはない。それでも今ひとつ音楽が、そして歌がまっすぐに心に届いてこない、いくばくかのもどかしさも感じた。ガーディナーのDG復帰第一作なのだから…、と期待値が高すぎたのかもしれない。

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     2022/03/07

    真っ黒なソナタ、漆黒の幻想曲、真っ暗闇の夜想曲…。ポゴレリチの新しいショパンアルバムに、ダークというか黒一色のイメージをまず持ってしまった。 華麗なショパン、美しいショパン、いわゆるまっとうなショパンを期待するなら正直お勧めできないこともあらかじめお伝えしておきたい。

     異形な演奏なのは「彼のことだから」と予想(期待)はしていたがここまでくると黙りこむしかない。このディスクがダメとか受け付けないという意味ではない。むしろこんな演奏だからこそ聴きたかったのだ。力強いを通り越し禍々しいまでに強靭なタッチと、死を連想させるような異常な静けさを併せ持ち、独特な感性でショパンの「ダークサイド」、または「異世界のショパン」を抉り出すかのようなポゴレリチの新譜は好悪がはっきり分かれると思うので購入される際は充分考えてから(?)決めてほしい。私の意見を述べさせてもらうなら、当盤は充分に聴き応えのある評価になる。

     昔の録音「夜想曲 Op.55-2」は、ポゴレリチのショパン演奏の中でのお気に入りだった。退廃というのか死の香りというのか、他の演奏者では感じられない感覚があったが、その延長線上に当盤はあると思う。  以前、彼のコンサートでソナタ第3番を聴いたときの衝撃もすごかった。彼は何を考えているのだろう、どこを見つめているのだろうと迷ううちに演奏は終わっていたのだ。一度しか聴けないコンサートゆえ、彼の言いたいことを理解しようとする前に曲が終わってしまったのが悔やまれたが、こうしてディスクになったので繰り返し聴いてみてポゴレリチの世界に浸ってみたいと思う。決して心地よい世界でないのは解っているが、その中に「何か」が潜んでいるはずだ。それを探してみたい。

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     2022/02/23

    やや太めの音の線で丹念に語られた無伴奏と感じた。華美にならない丁寧な楷書体のような装飾音でまわりをふち取り、音の出だしから音が消えていくその刹那の瞬間まで弓づかいのコントロールが行き届いているのがすばらしい。 彼のキャリアからみればもっと技術的にいろいろ盛り込むことはできたと思うが、削るべきものを削り、余計な飾りや着こなしを脱ぎすてた、さながら禅僧の着こなしのような表現を選んだように感じる。(蛇足だが、パガニーニ国際コンクールでキャリアを勝ち取ったヴァイオリニストにバッハ無伴奏の名盤が多い気がするのは偶然なのだろうか…。)

     聴いた感覚として、パルティータとソナタではカヴァコスの接し方が異なる気がした。どちらもヴァイオリンで歌うという感じではないと思う。パルティータはダイアローグ(対話)、ソナタは思索(またはモノローグ?)という感じだろうか。パルティータではなんとなく音楽の構成や表現が、対話して何かを探求していくような姿勢に感じる。一方ソナタでは思索かモノローグで登場人物は一人。ひたすら心の内奥に視線を向けているような気がする。どちらかと言えばソナタ3曲の方に彼の本領がより表現されたように感じた。

    それほど多いとはいえないが私が聴いてきた「無伴奏」の中でも独特な孤高の姿を提示していると思う。お奨めします。

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     2022/02/16

     何も考える必要はない。すばらしいリュートから発せられる音楽に、ただ身を浸すだけでいい。本当にそう思える演奏と音質。甲高く、緊張感を発する音でなく、どことなくゆったり、身構えずに聴くことができる。

     もしかすると、バッハ自身もカントルの激務が終わった深夜、一日の最後に自室でつま弾いて楽しんだのかも…、と想像するのも一興。 おすすめの聴き方は、ほの暗くした部屋でソファーなどでくつろぎながら耳を傾けるやり方。バッハの時代に想いを馳せながら、または何も考えずにどうぞ。1992年に録音したリュート曲集(2枚組)も併せておすすめです。

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     2022/02/11

    50年(!)かけて醸し続けた吟醸ゴルトベルク。派手さはないが、実直に曲に向かい合ってきた氏の姿勢そのものが演奏に反映されているような気持ちで聴かせてもらった。

     吟醸=素材を吟味し、丁寧に作り上げる…音楽で使うのは間違いかもしれない。しかし、一音一音をじっくりと吟味しつつ、慈しみながら、まるで今新たに発見しながら弾いているような演奏には「吟醸」がぴったり合うような気がした。

     音は比較的大きくくっきり出てくる。装飾音をちりばめるより、音楽の自然な流れを壊さないようひとつひとつの音の重なりや構造に重点を置いて演奏しているように思えた。

     2枚にまたがるのでディスク交換で少し間をとってしまうのは当初マイナスかなと思っていたが、第15変奏でじんわりと終わり、ディスクを入れ替えて2枚目冒頭第16変奏 Overtureで新鮮な空気が流れ込んでくると「これもアリだな」と思える。2枚組はこういった活かし方もあるのですね。

     加えて、アンコール曲 BWV.699を紹介する時の、氏の声のなんと若々しいこと。若輩者の私が言うのもおこがましいが、ゴルトベルク変奏曲と共にすばらしい年輪を重ねてきた人物だからこその声と感じた。

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     2022/02/11

     オルガン、チェンバロ、クラヴィコードを愉しみ、バッハの音楽の幅広さを感じられる3枚組だ。

      1枚目はオルガン。誰もが知る「トッカータ ニ短調 BWV565」から壮大かつ華麗に始まるのが心憎い。演奏は早めで、音を伸ばして引きずらずサクッと楽想や音を変化させていく。あまり大げさに響かせず明るくのびのびとしたオルガンと感じた。刺激的なトッカータBWV565から始まり、コラール前奏曲で歌い、トッカータとフーガBWV540の壮大なドラマで幕を閉じて聴き応えは十分。

      2枚目はチェンバロ。第5集の主要演目であるトッカータを中心に軽やかに弾き進んでいく。トッカータは今まであまり聴いてこなかったがこうしてまとまった量で聴くと楽想のきらびやかさと即興的技術の冴えが問われる作品なのだろうか。現代のジャズにも通じそうなスリルと愉しさを満喫できる。

      そして3枚目はクラヴィコード。アルバム全体として大きく壮麗な音からディスクを替えるたびにミニマムで室内楽的に落ち着いてくるのも面白い。クラヴィコードでの演奏をCDで聴くのは初めて。なるほどチェンバロとも違う音色と空気感が面白い。どことなく、チェンバロにリュートとツィンバロンのテイストを加えて3で割ったような朴訥な音色がするものと知ることができた。楽器の音はかなりこじんまりしているということだが、CDで聴いているので楽器のすぐ傍で聴かせてもらっているようなごく私的な室内楽を愉しむ感覚だ。セバスティアン・バッハも仕事が終わって自室でリュートやクラヴィコードなどを愉しんでいたのだろうか。

      一つだけ注文としてあげたいのは解説書の中身。せっかく初登場の楽器もあるのだからもう少し楽器の写真の撮り方や量を工夫してもらいたい。解説書にはクラヴィコードの鍵盤部分アップが数枚のみ。楽器全体が写ったものや演奏中の写真などがそろっていたらよかったのにと思った。このシリーズは様々な楽器を使い分けていくのでも画期的なのだからオルガンでもチェンバロでも収録場所全体が目で楽しめるような写真が入ってくれたら嬉しいです。

      挑戦的な作品、壮麗な作品、即興的な作品、ひとりでつま弾くような作品を楽器を替えつつ広く聴けるのでお薦めしたい。 

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