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Review List of mimi 

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  • 11 people agree with this review
     2016/05/04

    これだけ古楽CD発売数が減少している現在、よもやこのような素晴らしいCDが出るとは夢にも思いませんでした。Guillaume Dufayの4つの後期ミサ曲は、疑いなくDufayの最も重要な作品群であるだけでなく、千年以上の西洋音楽の歴史上でもこれ以上ない重要な作品群であるのは古楽愛好家には常識ですが、そのあまりに高い作品の質にもかかわらず、演奏の困難さからか、決して名演奏に恵まれてはいませんでした。古楽の歌唱団体の質が飛躍的に高まったこの数十年間でも、これら4つのミサ曲の超一流の団体による演奏は、ダントツに録音の多いの”Se la face ay pale”含めてこれはというものがない事が多く、しかも数少ない新録音はすぐ入手不能になるので、自分等のような音楽学者でもプロの演奏家でもないものには、不満が尽きた事がありませんでした。古のDavid Munrowの”Se la face ay pale”、The Hilliard Ensemble/Oxford Camerataの”L’homme arme”...と挙げてくると、もう後は寂しくなってきます。The Tallis Scholars, Ensemble Musica Novaなどの超一流団体が、これらのミサを録音してくれないか、というのは自分たち古楽愛好者の本当に長年の希望でした(The Tallis Scholars初期にPeter Phillipsが”Ave regina celorum”の録音を予定していると、インタビューで語っていたのですが、立ち消えになったみたいですね)。Cut Circleという団体のことはもちろん自分も、このCDを手にするまでは(不勉強にして)全く知りませんでした。団体のホームページでは2003年にベルギーで結成された若い団体のようですが、総勢8人(女性2人)の少人数にもかかわらず、その技量は非常にすばらしく、Duet/Soloの部分でも、複数声部の箇所においても全く混濁ないクリアな歌唱をメンバーすべてが可能としてます。Dufayのミサにおいてはおそらく下声部の演奏形態が常に課題で、器楽で代用されることも多いのですが(器楽のみで通す方がまれ)、一切器楽を加えず声楽のみでこれだけ重厚な音楽を現実にできているのは驚異です。収録されている4曲すべて(+シャンソン”Se la face ay pale”、最後の”Ave regina celorum”という贅沢!)、音楽の質的にも西洋音楽史上も、その一つ一つが例えようも無い大きな存在なので、とても個々について記す余裕などありませんが、確実に言えることは、DirectorのJesse Rodinが、この4曲の音楽的歴史的な位置を十二分に認識した上で、Dufayの創作活動の全体像におけるこの4曲の意味から、各曲の細部と全体について深く考察し、その再現・演奏について既存の通念に囚われない解決を与えていることです。もちろん、そこには日々進化する音楽史学の最新の成果も取り入れられているようで、J.Rodin自身のCD解説をみると、彼がいかに深い理解のもとにこの画期的な録音を実現しているかが、よく解ります。4曲のうち最初期で最も多く録音される”Se la face ay pale”をclassicalと呼び、一般にDufayの白鳥の詩とも考えられる最晩年の”Ave regina celorum”をなお未来の発展を見据えたexperimantalな作品と呼ぶ。”L’homme arme”の革新的で時代的にも大胆な音楽を見事に分析した上で、それに対応した大胆で強靭な再現を実現し、一方”Ecce ancilla Domini”では定旋律となるマリア賛歌から、ミサとしての他にない繊細な性格を見事に表現する。解釈・再現について彼らが(独自に?)とった方法論を専門的に論じる資格は、自分にはもちろんありませんが、最後の二つのミサ(”Ecce ancilla Domini””Ave regina celorum”)において、器楽演奏されることが多いテノール声部で原曲の賛歌のtextを実際に歌うなど、実際に聴いてみればその複雑で豊かな響きはまるで全く新しい曲を聴く思いすらします。この点のみならず、彼らが自分等の知識と分析をもとに導き出した数々の解決法は、無論それが決定的回答ではないにしても、過去のどの録音と比較しても同等以上の説得力を有しています。演奏についてのみでも、言うべき事は尽きませんが、J.Rodinの確信を持った解釈・指揮の下に、過去のたいていの録音よりも少人数にもかかわらず、いずれよりも極めて強い表現力を秘めた腰の強い強靭な再現が実現できていることには、感嘆するしかありません。おそらくDufayの演奏・録音史上、さらに古楽の演奏史上でも画期的意義を有する演奏集と考えられ、Bach以前の音楽、特にルネサンス以前の音楽に関心を持たれる方には絶対的にお薦めしたい必聴盤と思います。ルネサンス・古楽愛好家として、おそらく十年に一度も出会えない素晴らしい盤に出会えた事を心から嬉しく思います。

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  • 7 people agree with this review
     2016/04/11

    決してモダン・ヴァイオリニストに詳しくなく、五嶋みどりさんの熱心な聴者でもない自分ですが、これだけ確信を持った音と技巧を奏でられる奏者は、日本はもちろん世界的にもそういないのではないでしょうか。年齢はまだ若くともキャリア的にはすでに30年を越えている彼女は、現在もしかするとヴァイオリニストとしてのキャリアの頂点を迎えつつあるかも知れません。その意味で、これは紛れも無く現代のトップ奏者による無伴奏として遜色ない演奏であると言えるでしょうが、一方でJ.S.Bachのこの曲集の演奏からみた場合、手放しで称賛できない部分もあるようです。確かにモダン・ヴァイオリン奏法を見直した上でヴィブラートを抑制し、ロマン的な音色とフレージングを排除した極めて誠実な音楽作りを実現されており、近年で言えばI.Faustが推し進めた方向性の基に(Faustほど徹底はしていないかも知れませんが)ある演奏として完成しています。しかしながら、曲の様式としてまでBach/バロック音楽として極めているかと言えばそうでない。全体の傾向として、各Sonataはもともと曲の構造がすでにある程度規定されているからでしょうか、あまり違和感なく聴けるのですが、一転各Partitaとなると、各舞曲のリズムと性格が全くバロック音楽特有のそれからどうみても離れており、さらに歴史的根拠の不明な装飾やテンポ変動が頻出するので、どなたかも書いておられますが、とても演奏の見事さを称賛する気分になれません(むしろパガニーニ的?)。もちろん、3番のPartitaなど、モダン・ヴァイオリンの高音でなければ楽しめないような瞬間も多々あるのですが、J.S.Bachの音楽の様式をあくまで忠実に再現する事を最優先した演奏とは考え難いと言うのが、正直な感想です。Bachの音楽の再現には、年齢、肩書きやキャリアなどはむしろ不要、必要なのはBachの音楽構造にあくまで真摯に寄り添うことであることは、だいぶ前にわずか21歳のJ.Fischerの無伴奏を聴いた時痛感しましたが、ひょっとすると五嶋みどりさんは、むしろ最初の無伴奏の録音を待ち過ぎたのかも知れません(無伴奏ヴァイオリン/チェロで2回目の録音の方がイマイチ、という例はあまりに多い)。作曲家に虚心に寄り添うよりも、演奏者としての「我」を抑えきれない瞬間が多々感じられるように思います。日本が世界に誇るトップ奏者としての五嶋みどりさんの演奏としては一級品と思いますが、いちバッハ・ファンとしては(遺憾ながら)あまり親近感を持てない演奏でした。Bachファンでなく、あくまでMidoriファンにお薦めするのが相応しい盤と思います。

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  • 6 people agree with this review
     2016/04/06

    これほどに特異で複雑な内容を秘めたベートーヴェンのソナタ全集は例が無いのではないでしょうか。ほぼ40年の歳月をかけて断続的に進められたPolliniのこの仕事は、その音楽の外面も内面も、とても一口では表せない位に大きく幅があり、それはPollini自身の年齢の進行、(おそらく)生活・環境・思想の変化をも様々な意味で反映していると考えられます。多分、この全集はおそらくPolliniの人生そのものと言っても過言でないでしょうし、とても軽々しく単純に演奏の評価などできないような重い意味を秘めた演奏集と思います。ひょっとしたら、ここに記されてる多くの評者や自分のように、過去にPolliniの演奏に一度でも離れがたい想いを持った経験が無い方には、この全集はとてもお薦め出来るようなものではないのかも知れません。しかしながら、自分やレビュアー諸氏のようにPolliniと長年にわたって時間を共有してきた人間には、きっと多くのかけがえのない時間がつまったものであると思います(評点に客観性は自信ありません)。1976年のおそらく歴史上これ以上なく完璧な「ハンマークラヴィーア」と、2014年の「テンペスト」再録音の間に明白な技巧上の差が存在する事は、子どもでも解るでしょうし、そんなことはPollini自身が世界中の誰よりも自覚しているはずです。前者は素晴らしく、後者は価値ないと断じるのはあまりに容易ですが、そうやって演奏行為、作品を消費し切って捨てる自分たちの姿勢は(音楽の愛好者として自分もよくやってしまいがちですが)本来何でしょうか?問題はそのような断絶-老い、故障、挫折-を経ても、Polliniがなお録音し続けることを止めなかったことであり、Polliniにとってベートーヴェンのソナタ演奏が決して逃げる事が許されない人生そのものに近いものになっていたのではないでしょうか。そこにこの盤の、他のピアニストの演奏には到底替えられない大きい(尊い)価値があるように思います。他のレビュアーも記されてましたが、自分も原稿の作品番号順ではなく、発売順に、できたら複数存在する録音もすべて収録して発売するのが、Polliniの想いをより明確にできるのではないかと考えます(前述のテンペスト、ワルトシュタインなど、再録音があるものを、後の方を選んでるのも、Polliniの姿勢を表していて興味深いですが)。具体的な演奏から離れた抽象的な記述ばかりで申し訳なかったですが、たとえ長い年月間で技巧上のばらつきがあっても、各曲すべてが高い演奏の質を保っていることは間違いないと思いますし、昨今の平均律の演奏にみるように、むしろ未だにこれだけ楽譜にかかれたものだけを、一切の誇張無く表現しようとしたベートーヴェンのソナタ全集はやはり皆無かもしれません。だからこそ、繰り返し聴くたびに各曲が味わいを増してきます。最後に、空前絶後の完璧さを備えた後期ソナタ集の価値は永遠としても、(これまで多くの方が表明されたように)作品109-111の3曲については、現在のPolliniにぜひ再録音して欲しいと、心から希望します。

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     2016/04/04

    節度と高貴さに控えめだが確かな生命力を兼ね備えた、とびきりの名演奏と思います。心から、テレマンの音楽の魅力に浸れます。バロック好きだけでなく、なるべく多くの方に聴いて頂きたい普遍的な名盤です。

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  • 5 people agree with this review
     2015/01/31

    S.Kuijken/La Petite Bandeは、ヨハネ受難曲とこのクリスマス・オラトリオは、OVPP以前の時代に録音がありますので、再録音ですね。旧録音も、決して誇張のない、それでいて活力に溢れた演奏で、同時期に出た鈴木雅明/BCJ盤と比較しても(こちらもBCJの隠れた名盤と思いますが)好印象を持った記憶があります。ただ、その旧盤と今回の新盤の差は計り知れません。そもそも、Bach大曲中で、クリスマス・オラトリオ程、決定的な名演というのが少ない曲は珍しいかも知れません。J.S.Bachで最も、純な喜びに溢れた作品であり、どんな演奏であっても何がしかの魅力がないことが無い反面、これが一番という突出した演奏が生れ難い(生れる必要がない?)ためでしょうか。これまでの演奏で自分の記憶する限り、印象に一番強いのはやはりKarl Richter(新盤)の、強烈な信仰告白を前面に押し出した名演で、ヴンダーリヒの名唱と相まって、まるで宗教儀式に立ち会うような感動を覚えました。ただRichterは疑いなく名演ではありますが、あれが最高のクリスマス・オラトリオかと言われれば、そのあまりに強烈で在る意味恣意的な演奏に疑問も感じる瞬間もあります。S.Kuijkenの新盤の演奏は、まさにそのRichter盤の正反対の性格と言えるかも知れません。OVPPであることももちろん影響している訳ですが、それ以前にあまりにも簡素でどこにも何の思い入れも誇張も無い。ちょっと聴いただけでは下手をすると何の印象も残らない、「ああ、クリスマス・オラトリオだな」という位の印象ですが、一方でこれだけ虚飾から自由な、聴いていて自然な演奏はありません。その意味では一つ前のヨハネの新盤の延長線上にあり、Richterの演奏が良くも悪くも一瞬たりともRichterの存在を意識せずには聴けないのと対称的に、Kuijken新盤は正直聴いている間にKuijkenの存在を完全に忘れて、ただJ.S.Bachの曲を聴いている以外のことは頭にのぼりません。それでいて、演奏のどこかに不満を感じるかというとそれはなく、実際OVPPであることすら聴いている間忘れている位でした。このことは裏返せば、S.Kuijken/La Petite Bandeが、決して表に現れない部分でどれだけの分析と研究によって限りなく精度の高い演奏を実現させたかの証明であるわけでしょう。このほとんど演奏者の存在を感じさせない、透明な演奏は(好悪が分れることもあるかも知れませんが)、少なくともJ.S.Bachの作品で最も悦びに溢れたこの作品の魅力を、どんな仲介も介さずに純粋に、ダイレクトに味わうことが出来るこの演奏は、そのあまりに何気ない見かけと対称的に、クリスマス・オラトリオの演奏史上でも実は稀有なものであるかも知れません。古楽ファン、Bachファンはもちろん、クリスマス・オラトリオという作品に初めて接してみたい方にもぜひお薦めしたい好演盤と思います。

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     2015/01/02

    近年、その新譜をみることが本当に少ない、Guillaume Dufayのファンにとって、Cantica Symphoniaの存在はどれほど貴重なものであるか計り知れませんが、この久々の新盤は、数年前に出された2枚のMotet集と並んで、彼らの代表作となる素晴らしい名演ではないでしょうか。何を置いても前半のMissa ”Se la face pale”、Dufayで最も多くの演奏に恵まれている傑作ですが、それでも長らくDavid Munrowの名演を凌駕する盤はやはり無かったと思います。Cantica Symphoniaの演奏は、Munrowを超えるとは言えないかも知れませんが、彼らの長く幅広いDufay研究、演奏の上に立って他のどの団体よりも、この中世を完全に終わらせ、ルネサンスの扉を開いた傑作の価値を生き生きと再現して感動的です。もう一つのDufay後期の傑作Missa ”L’homme Arme”も、大胆さと繊細さを兼ね備えた、おそらく現在彼らしか為し得ない安定した演奏を実現していますが、こちらの作品においては、やや器楽の重ねる比重が大き過ぎ、後期Dufayの多声音楽の妙味がやや薄れた感があるのが唯一心残りで、この点は声楽主体で歌い上げたThe Hilliard Ensemble、Oxford Camerataの重厚で深い世界にやや劣るかも知れません。だいぶ前のMissa ”Ave Regina Caelorum”/Missa ”Resvellies vous”でも、彼らは特にCantus firmus中心にほぼ低音声部を器楽に任せる演奏形態を選択していましたが、メンバー上の制約のせいでしょうか? あのMotet集の名演を実現させた彼らが、器楽の助けを借りずにこのMissa ”L’homme Arme”を演奏できないとは思えないのですが….。しかしながら、演奏としてはやはり一級品には間違いありません。本当に数年ぶりに巡り合えたDufayの名盤であり、特に時代を転換させた名作Missa ”Se la face pale”の現在望み得る最上の名演の一つとして、古楽ファンのみならず、多くの音楽を愛する人にお薦めしたいと思います。

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     2014/12/13

    もともとラストのLove never diesを中心に作られたアルバムでしょうか?確かに同曲は、通常のJ-POPのシンガーとはちょっと次元の異なる熱唱で、舞台で実際に聴いたら感動で圧倒されたでしょうね。CDで聴く場合は、必ずしもそうなりきれないですが…。他の曲もすべて誠実な好演ばかりとは思いますが、どうしてもこういったMy favoritesのカバー集は、曲の選択面で歌い手と聴き手の好みが完全に一致するのが稀なので、100%満足できないのは仕方ないのでしょうね。そもそもジュピターで名を上げたカバーの名手ではありますが、自分はファンとして、Jazzyなフィーリングに裏打ちされた彼女のオリジナルナンバーの魅力がやはり第一と思いますので、前作、前々作程には惹かれませんでした。でも、カバー集としては疑いなく上質な作品集と思います。

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     2014/07/28

    R.Egarrの演奏者としての特質に、非常にマッチした好演盤と思います。ヘンデルのチェンバロ独奏曲は(オルガンもそうですが)、どうしてもパーセルやJ.S.Bachなどと較べると、やや外表的な効果に依存した単調な面が否めないからか、組曲集第1巻すべてとなると、過去の演奏者でも緊張が続かないところが避けられなかったと思います。しかしながらR.Egarrの細部にわたるまで工夫を凝らされた、真にバロックの時代様式に則した演奏は、通常の奏者なら通り過ぎてしまうような瞬間にも美を見出すため、結果として長い1巻を飽きさせずに聞き通させてしまいます。不勉強にして、同曲集の演奏をたくさんは聴いてませんので、この演奏がトップかどうかは判定できないですし、これ以上の演奏もきっと存在するでしょうが(曲は違いますが、Pinnockが若い頃に大英博物館所蔵の名器を使用した演奏は凄かった!)、少なくとも上位に位置する演奏であることは間違いないでしょう。バロック音楽の良さをしみじみと感じることが出来る良演と思います。

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     2014/07/26

    昨秋、輸入盤を購入して以降、数回聴き返しました。演奏の質の面で、疑いなくここ数年のマタイ受難曲演奏の中でトップクラス、ひょっとすると完成度の点のみからすると、S.KuijkenのOVPP盤を上回るかも知れませんが、同時に非常に難しい、色々な事を考えさせられる演奏と思います。まずこれほど、全体の音楽の流れ、響きの構築を何よりも優先したマタイ受難曲は、鈴木雅明盤位しか思い当たりません。演奏のどこをとっても、刺激的な響き、突発的な中断といった瞬間がなく、一見劇的に思える瞬間もすぐ全体の美しい音楽の流れの中に埋没していきます。細部・瞬間から全体に至るまで、少なくとも1-2度マタイ受難曲を聴いたことのある人なら、マタイはこう、という漠然とした音楽のイメージから裏切られることがほとんどないはずで、いろんな意味で最大公約数的演奏が極めて高い質の演奏で実現されており、これほど聴きやすいマタイはちょっと珍しいかも知れません。このような音楽にももちろん、人によって色々な観賞法があると思うのですが、例えばマタイ受難曲の物語の意味・歌詞の内容などにほとんど興味がなく、ただひたすらここにある美しい音楽に浸りたい方にとっては、これ以上の演奏はちょっと無いと思います。それくらい、響きと演奏外形があくまで重視された演奏であり、逆に自分に課題を突きつけられ、人間としての内面を揺さぶられることの無い演奏です。バロック・オペラの第一人者として、バロック声楽の様式化された再現を得意とするR.Jacobsならではと言えるかも知れません。ただ、自分のようにマタイ受難曲を、西洋キリスト教文明の根源的秘密を明らかにし、自分の生きる意味に(時には不快なまでに)向き合わせられる芸術と考える人間にとっては、過去のいくつかの、それこそ己の存在を削ってまで成し遂げたような命がけのマタイ演奏に比較して、どうしても意味の大きいものにはなり難そうです。ただ、芸術に向き合うのは個々人の生き方であり、この全体の響きをあくまで重視した完成度の高いマタイ受難曲演奏も、おそらく何らかの存在意義を有しているとは思われます。ちなみに、R.Jacobsは(おそらく彼自身の理想とする響きの完成度を高めるために)、かなり個性的なテンポ変動や強弱の動かしを行っており、彼自身がC-Tで参加したLeonhardtや昨今のS.Kuijkenなどに較べると、Richter盤などとは別の意味で、有る程度恣意的な性格の演奏と言えるかも知れません。

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     2014/07/05

    これは好演盤と思います。チェロ協奏曲は、C.P.E.Bachの代表的傑作の一つでしょうが、昨今それほど多くの名演に恵まれてる訳でないので、Gaillardの演奏は大いに歓迎されるでしょう。惜しむらくはBylsma/Leonhardtの古典的名演に比較すると、意外とチェロ自体の存在がやや控えめで全体に埋没しがちな事、さらにはLeonhardtのあくまで時代様式をがっちり踏まえた演奏より全体の曲構造が曖昧な部分が有る事でしょうか。ただ反面、C.P.E.Bachらしい生命力は優っているかも知れず、優秀な音色・録音と相まって充分存在意義はあると思います。Wq170のカデンツにヨハネ受難曲が出てくるのは、なかなかびっくりしました。傑作交響曲集Wq182よりの一曲も、好感の持てる演奏でした。

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     2014/03/23

    音楽学者でもプロの音楽家でも無いので、この演奏の構成の細部にどの程度歴史的根拠があるか、は判定する能力がありませんが、ヨハネにせよマタイにせよ、当時の典礼における役割があり、それに組み込まれた一部であったのは常識ですし、おそらく実際の演奏においてこのような試みは(録音は別として)海外において、決して初めてではないと想像されます。また全体としても、確かに構成は説得力のあるもので、興味深いCDではあると考えられます。ただ、反面、特にコーラス・独唱含めた声楽を主として、演奏に非常に粗い部分がめだち、最初のシャインなど、ちょっと聞くに耐えない部分があります。中核になるヨハネも、演奏面でも指揮者の力量としても、中庸にまとめて決して特殊な解釈を押し付ける部分がないのは好感が持てますが、どこをとっても平均以上の部分はなく、とても近年の数あるヨハネの名演奏と同列の、感動を得られるレベルではありません。あくまで興味深い資料的な価値が第一の盤ではないでしょうか。J.Buttが監修をして、演奏をヘレヴェッヘ辺りに任せれば、かなりの名盤になった可能性はあると思うのですが…。

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     2014/03/08

    J.S.Bachの音楽を生きる糧とする自分たちのような人間にとって、Bach作品の満足できる演奏に出会うことは、それこそ数年に一度もありません。特にBach鍵盤作品中で、最も難しい平均律、わけても格段に十全な演奏の少ない第2巻では、個人的には、不満を覚えなかったことは殆どありませんでした。C.Roussetの演奏、これ以上は無いくらい、隅々までが美しい演奏です。第2巻でここまでの印象は個人的には、Leonhardt以外に経験がありません。そこまで第2巻が難しい訳は、逆にRoussetの演奏を聴くとよく解ります。この演奏、前奏曲もフーガも、右手も左手も、特に音楽のすべての部分に意味付けされてない瞬間が全くありません。それは現在の古楽界において、Rousset以外はおそらく不可能な高度な演奏技術と、Roussetのルネサンスから前古典に至る、広範な演奏経験に基づく広く深い歴史的理解をもって、初めて可能となったのです。第2巻にちらばる、千年の多声音楽史の精華のような大曲からまるで古典派のショウピースのような愛すべき小曲までの恐ろしく多様な曲集を、一つ一つの曲、音楽、フレーズ、リズムについて、真に時代に則した歴史的再現を完璧な技術で実現することで初めて、このようなすべてが例えようも無く美しい第2巻となったのではないでしょうか。とにかくチェンバロでは、自分の知る限り、此れ程に深く広い歴史的背景を実感させる第2巻の演奏は、やはりLeonhardt以外は無かったし(PianoではG.Gouldが全く別方向で実現していますが)、そのLeonhardtの歴史的名盤からすでに半世紀が経ていることを思えば、今回のRoussetの演奏がこの半世紀の、Bach研究・古楽研究の成果を可能な限り生かしたさらに素晴らしいものになっていることは、言うまでもありません。第18番フーガの深い解釈、Bach晩年の鍵盤フーガの頂点を溢れるような想いで再現した第22番、そして人間として生れたことの幸福さえ感じさせる虹のような輝かしい第23番など、言葉で到底言い表せない時間がいっぱい詰まった素晴らしい名盤です。疑いなく、他の演奏と次元を異にした、Bach愛好家が滅多に出会えない、真のBach再現と思います。それにしても、現代最高のチェンバロ奏者であるRoussetが、Bachを録音し続けてくれていることは、われわれBach愛好家にとって、何と言う幸せなことでしょうか!

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     2014/02/01

    Pinnock/The English Concertが「自国の」大作曲家として、Bach以上に愛情を込めて演奏しているヘンデル作品集。やはり「水上の音楽」は今もって、登場時の素朴さ・瑞々しさ・爽やかさを全く失っていない圧倒的な名演奏。このような全く平易でともすると通俗に陥りかねない音楽においては、Pinnockの高貴な音楽性が(Vivaldi同様)最大限に生かされ、一聴して他の誰にも求められない個性が刻まれています。次いで、オルガン協奏曲全集は、Simon Prestonとの息がぴったり合って、強烈さは全くないが、どこをとっても上品で誠実な音楽性に溢れた好演。合奏協奏曲集は、もともとCorelliなどに比較すると、曲によって質の差がかなり幅があるために、どうしてもすべてが名演とは行かないものでしょうが、一つ一つを誠実に、丁寧に演奏しています。本来的に声楽作曲家であったヘンデルですから、こうやって管弦楽だけ集めてみるとやや無い物ねだり的な印象も湧きますが、値段面も含めると本CDは、現在でも総合的にやはり最も上質な、ヘンデル管弦楽作品集と言えるのではないでしょうか。

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  • 2 people agree with this review
     2013/11/11

    ゲオルク・ベームの鍵盤作品全集における好演が印象的で購入しました。ブクステフーデのチェンバロ作品全集を聴くのは初めてなのですが、これも好演と思います。ブクステフーデにとって、おしらく最も重要であった楽器はオルガンでしょうが、オルガン作品に比較するとチェンバロ作品の印象は控えめです。聴く方の偏見も相当あると思うのですが、曲構造がどこか壮大なオルガン演奏の響きで初めて生きるような傾向を感じるので、よりインティメートなチェンバロ・クラヴィコードなどでは、細部のデリケートさ、構造の精密さに欠ける印象が少し拭えず、やや緊張感の途切れる瞬間も散見されます。Stellaの演奏も、この後のベーム作品集程のレベルにはまだ達していないかな、とも思わせます。おそらく過去にも複数あったであろう、チェンバロ作品全集の最上位には来ないでしょうが、それでも堅実・誠実な作品全集としての価値は高いのと思います。

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     2013/11/01

    リアルタイムで聞き始めたのは「インディゴ地平線」辺りからなので、それ程コアなファンではなく、昔に較べてどうこう言える立場ではありませんが、それでも、これまで及びこれからも続く長いスピッツのキャリアの中で、特別なアルバムではないでしょうか。おそらくスピッツ全作品のみならず、あらゆるJ-P0P作品でこれだけナイーブで純粋な盤は稀でしょう。聴かせよう、とか、訴えよう、とか、の何らかの意図(欲?)が凄く希薄で、さりとて自分の枠に閉じこもってる訳でも無く、臆病と感じられる位にその音楽全体が謙虚です。おそらく、ここ数年の社会の激動に直面して、音楽家としての無力さを骨の髄まで感じ、それでも自分たちに出来る事は何かをぎりぎりまで考えた結論がこのアルバムなのでしょう。そこには巷に山と溢れた復興ソングの欠片も感じられません。一曲目からまるでRequiemの様な光景が目に浮かぶ。タイトルの最高にシンプルで控えめなバラードを経て、アップテンポの3曲目に至っても決して陽光の降る明るさからはほど遠い。それがラストから2曲目の天真爛漫な「潮騒ちゃん」までも、続きます。アルバムのどこにもそんな歌詞はないけれど、やはりこの基調にあるものは「祈り」としか言い様がないかも知れません。やっと「救い」に出会えるのはこれ以上ない美しいラストで、ここに至ってようやく本当の希望が垣間みえます。日本で最も美しく、ささやかで、謙虚な、まさにアルバムタイトル通りの作品であり、グループであると思います。

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