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7 people agree with this review 2011/07/17
いずれも15年以上前、J.MacGregorが30代の録音ですが、やはりとても通常のクラシック・ピアニストに対する感覚では推し量れない、一口で言って非常に求心力の強い演奏です。まずフランス組曲ですが、モダン・ピアニストのほとんどが、この曲集の愛らしい旋律や和声にとらわれて、内部構造の不明確な、外見はバロックでも内実はGallant様式の亜流のような音楽を作ってしまうのに対し、MacGregorの演奏は、複数声部を完全に独立させ、時には旋律や和声を犠牲にしても(?)まるで低音声部が主役のような、あくまで強固に多声的・構築的な音楽を実現しています。明らかにGouldの影響を受けていると思われる部分もあるのですが、そういった外見以上に、この点をモダン・ピアノではっきり実現できているのは確かに過去Gould以外は思い当たりません。ぱっと見、強烈な印象はそれ程にないのですが、繰り返し聴くにつれ、フランス組曲の簡素だが堅固な音楽に惹きつけられていきます。明らかにモダン・ピアノによるフランス組曲全曲での、数少ない名演奏の一つと思います。フーガの技法は、演奏の組み立てはさすがに若々しくラフで、即興性を重んじてるかと思えるほど。決してペダルも忌避せず、縦の線も厳格に揃えているわけではないのですが、各々の声部が完全に独立し、数人の奏者(声部)が自由にしかも生き生きと発言しつつ、全体を構成していく様が、MacGregorの強烈なテクニックに支えられて圧巻です。最新のGoldbergの名演に較べると、演奏全体の考え抜かれた透徹さは一歩譲りますが、それでも数あるモダン・ピアノによるフーガの技法中で、これだけ古典派以降のピアノ音楽伝統に囚われない、バロック的でも現代的でもある自由な演奏は、Gouldのピアノによる数曲を除いては、他に越えるもののないレベルであると思います。Gouldがいない今、現存するピアニストでMacGregorほどに、多声音楽に根ざしたJ.S.Bachの本質を生き生きと正しく伝えることのできる奏者は、いないのではないでしょうか。J.S.Bachの音楽を愛する、できるだけ多くの方に聴いてもらいたい好演盤です。
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0 people agree with this review 2011/06/11
マタイ受難曲という特別な作品に対して、こんな言い方が許されるかどうか判りませんが、非常に面白い演奏です。マタイを良く知っている人間にとっては、ここも違う、あそこも違う、という風に聴けば聴くほど後年の完成稿との違いが面白い。もちろん、この初期稿が後年の完成稿より芸術的価値が上、ということは絶対にありません。音楽史上、明らかに職人肌であったBachは、素材を時間をかけて丹念に磨き上げ、一歩一歩完成に近づけるため、ほぼすべての場合において改訂によって完成度が段違いに上がります。しかしながら、ゲオルク・クリストフ・ビラーが指摘するように、マタイの初期稿を聴くことは、実際にはみることができないJ.S.Bachの芸術的作業の進行過程をつぶさに実感できることであり、それは疑いなく非常にスリリングな体験です。他のレビュアーも言われるように、マタイが初めてな人に薦められるものではありませんが、すでにマタイ受難曲を良く知り、大切に思っている人には、必ず貴重な聴体験となるでしょう。樋口隆一氏/明学バッハアカデミーの演奏は、取り直しの利かないライブ一発どりで、それ故の傷や騒音、ミスなどは言うまでもなく、演奏の完成度としても2年後のヨハネ第2稿程ではありませんが、日本人による初演、世界初CD化の重責を果たす上で充分な堅実さをもった演奏と思います。初期稿のCDがまだわずかで、本家のビラー/ライプツヒの盤が極めて高価である現在、日本のBachファンには一度は聴いて頂きたい貴重なCDです。もちろん、樋口隆一氏のBach研究の最先端を行く的確な解説および、見事な歌詞対訳も持っておく価値が十分あります。
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0 people agree with this review 2011/06/08
ヨハネ受難曲第2稿のCDも、数種類以上が聴けるようになった現在、学術的・資料的価値はもはやそれ程高くないかも知れませんが、日本人演奏家のみによる第2稿は、自分の乏しい知識ではこの盤だけのように思います(間違ってたらすみません)。演奏は、ライブ録音の一発収録であり、それ故の傷(ミスや不調など)や会場の雑音などが当然かなりありますが、それを考慮した上で演奏家の力量はかなり高いのではないでしょうか。全曲通してムラはありますが、Evangelistの高野二郎さんは、Bachの様式をよく理解された国際的にもトップクラスの歌唱と思われますし、他のソリストも総じて立派と思います。加えてオーケストラは常設でないことが信じられない整然とした合奏、コーラスもアマチュアながら非常に心の篭ったコラール等を聴かせます。樋口隆一氏の指揮は、ピリオド団体のBachにありがちな飾り気の無い、ひたすらBachの音楽の本質のみを提示しようとする地味ながら求心的なもので、随所にBach音楽の本質を理解したものでなければ出せない表現・音楽が聴かれます。ヨハネの古くからの名盤の中では目立たないかも知れませんが、ヨハネ第2稿がほとんど別曲と言えることを考えると、Herreweghe/Collegium Vocale Gentの驚異的な名盤には及びませんが、まだ限りある第2稿全曲としては、未だに貴重な盤ではないでしょうか。付加価値かも知れませんが、樋口隆一氏の世界のBach研究最先端の情報を踏まえた詳細な解説、そして第2稿全曲の(樋口氏自身による)見事な歌詞対訳は必読物です。個人的には、価格はやや高いですが、日本のBachファンには御薦めしておきたいですね。
0 people agree with this review 2011/06/02
第1巻に記したのと同様に、モダン・ピアノによる古典派・ロマン派的な平均律全曲として、リヒテルと同等かそれ以上の名盤と言えると思います。平均律第2巻は、バロックから前古典派に向かう近代的色彩を有する音楽と、一方で数百年に及ぶ多声音楽の歴史を体現したような音楽が混在している訳ですが、当然のことながらGuldaの演奏は前者のような曲においては、鮮やかな適合性を示し見事です。複雑な対位法を駆使した曲(第22番を始めとして)においても、さすがにテクニックにおいてこれ以上無い程のレベルだけに、声部の弾き分けは確信的で乱れは全く見られません。ただいくつかの曲において、やや単調な印象に陥ることが多いのは、おそらく複数声部の意味付けが曖昧になってしまうからでしょうが、これが十分で感動的なレベルの第2巻の演奏はわずかしか知りません。平均律第2巻の難曲である所以の一つで、これ以上の演奏が無い訳ではありませんが、Guldaの演奏もモダン・ピアノによる超一流のものであることは間違いないと思います。歴史に残るピアノの巨匠が、全身全霊で真摯に取組んだ平均律として、後世に残るものではないでしょうか。個人的に自分の愛聴盤ではありませんが、第1巻同様古典派以降の音楽を主に鑑賞される方には大いにお薦めできると思います。
5 people agree with this review 2011/06/02
恥ずかしながらこの名高い録音を全く聴いたことがありませんでしたが、発売元がDeccaに変わり大分値段が下がったので、思いきって両巻とも購入しました。自分は決してGuldaの熱心な聴き手ではありませんが、この平均律全集はGuldaの長いキャリアにおいて、特に大きな比重を持つ仕事だったのではないでしょうか。何より20世紀を代表する程の巨匠レベルで、充分な条件のもとに平均律全曲録音を残しているのは、Guldaの他はおそらくリヒテルしかいませんし、そしてある意味名高いリヒテルに匹敵し得る唯一の平均律全曲と思います(G.Gouldを全くの別枠として)。リヒテル同様基本的に、古典派・ロマン派音楽をベースにした和声的Bachであり、主旋律と伴奏という発想が基本にある訳ですが、リヒテルがロマン派的Bachの(節度ある)模範だとすれば、Guldaの平均律はMozart的平均律のおそらく究極的姿ではないでしょうか。J.S.Bachの死後、その音楽が忘れられていく中で、平均律を脈々と伝え続けたウィーン古典派の作曲家たち、Haydn, Mozart, Beethovenらの演奏していた平均律はこのような姿だったかも知れない、と思わせます。もちろんGulda特有の(Mozart的?)装飾音や、第24番フーガを始めとするやや大仰なクレッシェンドなど、バロック以前の音楽としては異質な部分はありますが、自分のように日々ルネサンス・バロックを中心に聴いてる者からすれば、モダン・ピアノによる他の奏者の平均律に比較してGuldaのこの盤が、特に騒ぐ程のレベルとは思えません(ある意味リヒテルの方がデフォルメは強いかも)。何よりもGuldaの磨き抜かれた音と、驚異的技術、そして全ての音に漲る表現の確信は20世紀を代表する巨匠の証明以外の何物でもなく、モダン・ピアノでこれに匹敵するレベルの平均律全曲としては、やはりリヒテルの録音以外に較べるものは思い浮かびません(Gouldは別枠)。個人的に自分は、このような古典派・ロマン派的Bachを愛聴することはないのですが、古典派以降の音楽を主に愛好される方に対しては、リヒテルと同等かそれ以上にお薦めできる名盤ではないでしょうか。
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2 people agree with this review 2011/05/24
チェンバロ版「優雅なインドの国々」は、厳密にはラモーの作品とは言えない編曲物のようですが、Roussetの演奏があまりに素晴らしく、楽しいため、すっかり愛聴盤となってしまいました。ラモーのオペラ中の名作「優雅なインドの国々」は、管弦楽組曲版がよく聴かれていると思いますが、このチェンバロ編曲版をRoussetの演奏で聴くとオーケストラ版以上にラモーの音楽の特質、素晴らしさが端的に判ります。チェンバロ演奏としては近年のRoussetらしく、どちらかといえば装飾は控えめに、曲構造をストレートに表現する演奏ですが、Roussetの天才的な音楽把握力と最高のテクニックにて、この上なく美しいラモー/クラブサン曲集が生まれています。目立たないCDですが、バロック音楽の楽しさを存分に満喫できるお薦め盤と思います。
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9 people agree with this review 2011/05/24
実はとりたててショパンに関心が強い人間でもないので、大それたレビューの資格なぞ無いのですが、このコンチェルト1番は実演も含めて十数回以上聴いた中で最高の一つではないかと思います。特に第2楽章RomanceはArgerichの音楽性と長く幅広い経験・背景から生まれた、美しく同時に深い音楽で、自分の様なショパンに馴染の薄い人間でも強く引込まれました。シューマンは逆に自分の思い入れが非常に強い曲なので、いかに天下のArgerichと言えど、完全に満足はできないのですが(リパッティなど含め、過去に満足できた演奏が殆ど無い)、緩急自在のArgerichらしい奔放な演奏で、新日本フィルの好演と相まって非常に高いレベルのシューマンであることは間違いありません。我が国に寄せて下さる無垢の善意に、日本人の一人として心から感謝します。一人でも多くの方に聴いて頂きたいですね。
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1 people agree with this review 2011/05/21
これは名演と言えるのではないでしょうか。ラモーのクラブサン曲はそもそも、F.クープランと趣が大分異なり、斬新な描写が鋭いリズムに支えられ一種前衛的とも感じられる世界ですが、Pinnockの再録音は3巻のクラブサン曲集より、およそ半数を選曲、構成し直したもので、その演奏は極めて明快で確信的です。フランス風エスプリとは遠い世界かも知れませんが、ラモーの音楽の特質を十二分に理解した上で、曲の僅かな隅々でテンポやリズムをさりげなく変化させ、細やかな工夫をちりばめ、気軽に勢いで弾き飛ばすような所は皆無。しかも変転する細やかな表現の背後に、ラモーならではの強固な論理性を常に内在させており、それが「めんどり」のような一見たいした内容でない描写音楽のような小品にも、実に充実した内容が表出されることに繋がります。古雅な味わいは乏しくとも、これほど内容が充実し、表現に自信を持ったラモー/クラブサン曲集は少ないのではないでしょうか。HansslerのBach/パルティータ全集に次ぐ、近年のPinnockのチェンバロ名演奏と思います。現在チェンバロ奏者として円熟の極みにさしかかるPinnockには、もっと新録音を届けて欲しいです....。
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3 people agree with this review 2011/05/17
不勉強にしてOVPPによるヨハネ受難曲は、数種類しか聴いたことがありませんが、J.RifkinやA.Parrottが実際のBach演奏に適用し始めた当時に較べると、その演奏の質の向上は信じられないくらいです。この最新の、Ricercare consortによるヨハネも、1パート1-2人、総勢8人という構成であちながら、驚くべき声楽の質の高さを聴かせてくれます。群衆の合唱の比重が高いヨハネでは、各人の声質・声量のバランスがとれていて、なおかつ指揮者がよほど厳密に歌手間をコントロールできていないと、縦の線および声量の乱れが、容易に堪え難くなってしまいますが、Philippe Pierlot/Ricercare Consortは、激しく激する合唱部分でもそうした不満を感じさせず、OVPPであることを忘れさせるくらいの完璧なバランスを実現しています。それどころかいくつかのコラールや、挽歌’Ruht wohl’などでは、これほど美しく純な印象を与える演奏は経験がなく、終結合唱の心の篭った美しさを聴くと、やはりこれ(小編成)がBachの意図した再現に近いのでは、と思わされます。もちろん、ヨハネ受難曲の再現として全く不満がないわけでなく、冒頭合唱や第2部の多くの群衆合唱など、少人数で早いテンポでたたみかけると、劇的を通り越して劇画的に陥る部分も有り、Evangelistの歌唱もともすれば外面的な激情を意図しがちで、ヨハネの本来的な姿である福音書の聖句の正確な伝達を逸脱しているのでは、と感じられることもあります。それでもこれだけ美しく質の高いヨハネ受難曲演奏が、OVPPにて現れつつあることは悦ばしいことで、お薦めするべきではないかと思われました。今後のOVPPによるJ.S.Bach演奏がますます楽しみです。できたらKuijken/La Petite Bandeも、OVPPでヨハネを再録音してほしいですね.....。
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3 people agree with this review 2011/05/14
演奏はP.Hantaiの、(Leonhardt譲りの?)時代考証をあくまで尊重する誠実この上ない良演奏ばかり。半音階的幻想曲とフーガや数曲のトッカータなど、チェンバロによる演奏としてはこれ以上ない名演も含まれているので、全体評価としては以上の通りとさせていただきます。しかしながらVirigin Veritas×2シリーズは、多くの場合、演奏の質以外は、安かろう、悪かろうの典型的商品で、CDの装丁はお粗末、曲順の編集もなげやり、音質も劣悪というのによくぶち当たります。この盤もCD1の終わり、無伴奏ヴァイオリンソナタ2番の編曲/Gigueで聞くに堪えない音飛びが数分に亘って続きます。著しく誠実さを欠くレコード会社の姿勢には、疑問を感じざるを得ません。原盤が手に入るようなら、そちらを入手するよう努力したいと思います。
3 people agree with this review 2011/05/12
J.S.Bachの大曲中で、ヨハネ受難曲ほど、様々な意味での課題を抱えた傑作もないでしょうが、第2稿は冒頭合唱にマタイ第1部の終曲、終結合唱にカンタータ第23番の終曲を用い、総譜版にないアリアを3曲使用し、ある意味音響的な華やかさは最も高い版であるかも知れません。異稿の意義や優劣などの議論はさておき、全く別曲と言える程に異なる第2稿ですが、Herreweghe/Collegium Vocale Gentの演奏は、現時点の第2稿のDiscにおいてこれ以上ない名演奏で、ヨハネ受難曲の演奏史上でも特に優れたものの一つではないでしょうか。まず、モダン楽器、オリジナル楽器全て含めて、これ以上に声楽の上質なヨハネはちょっと思い当たりません。ヨハネの要であるEvangelistのMark Padmoreは、いついかなる時にも気品と冷静さを失わず、いかに劇的に切迫した場面でも、決して声が感情的に荒ぶることがなく、凛とした佇まいを保つ。典型的なのが第1部終盤のペテロの否認の場面で、時間をかけて切々と歌い上げていても、その語りには悲しみや怒りといった感情は感じられず、あくまで聖ヨハネの聖句を美しく明確に伝えることに終始する素晴らしい名唱と思いました。これはPadmoreのみならず、他のソリストおよびコーラスにも言えることで、早めのテンポで一見劇的な場面でも、声は決して乱れず、群衆の合唱ですら生の感情をぶつけるような表現は聞かれず、聖句の持つ内容以上のものを込めようとはしていないため、全ての声がまるで教会堂の淡い光輪に包まれたような美しさを湛えています。言うまでもないことですが、これはHerrewegheのヨハネに対する素晴らしい理解と、それを共演者全てに実現させる指揮者としての統率力の功績以外の何物でもありません。とにかくどこをとっても表現に逡巡するような部分がみられないのは、数あるヨハネ受難曲の名盤の中でもそうあることではないと思います。全集版によるBruggenの旧盤と並ぶ名演奏ではないかと思いますが、Bruggenのどこまでも透明で気高い静けさに比較して、このHerrewegheは常に静けさが軟らかい暖かさに包まれています。近年のLassussの名録音でも感じましたが、Herreweghe/Collegium Vocale Gentを凌ぐ古楽合唱団体は存在しないのではないでしょうか。自分は個人的に、ヨハネ全集版も西洋の受難曲史上の最高の傑作と考えるので、無い物ねだりながら、このコンビでヨハネ全集版も録音してくれたら....と思います。
3 people agree with this review 2011/04/27
年齢のことを書くのはゴシップ的で品が無いかも知れませんが、まだ35歳にもならないのに、何と言う完成度でしょうか!A.Bacchettiの驚異的な技巧が端的に判るのは、余白に収められたA.Magdalena Bach音楽帳からの5曲で、ペダルも使用した演奏であるにも関わらず一点の濁りもなく、まるでモダン・ピアノで演奏してるのではないかのような軽やかさと美しさです。Goldberg変奏曲は、基本的に現代ピアノの機能を制限せず、開放的でありながら、全く自由な演奏。各変奏曲の反復のどれ一つとして同じようには演奏はせず、楽想によってテンポも強弱も自在に動かしていながら、殆ど全くしつこさを感じさせないのは、演奏の基幹にGoldbergの柱である低音主題の回帰と発展があくまで厳然と据えられていることと、Bacchettiの演奏が古典派・ロマン派以降のピアノ音楽の伝統に全く囚われないからで、まるでポピュラー音楽や現代音楽を聞いているかのような錯覚を覚える瞬間さえあります。決してバロック音楽としての歴史的様式を強く感じさせるタイプの演奏ではないのですが、演奏者の音楽性と背景を、それが何であれ受け入れてしまう点で、Goldberg変奏曲という類の無い受容力を持つ傑作の魅力を、改めて実感させる演奏と思われました。以前のイギリス組曲では、さすがに様式感の欠如が気になったのですが、今回の演奏については、此れ程美しく楽しいGoldbergは、ひょっとするとGouldの旧盤以来ではないかと思いました。Gouldが亡くなって30年、こうしてGouldの呪縛(正負いずれかの影響)から自由なモダン・ピアノによるBachの名演奏が、ようやく少しずつ現れつつあるのを、心から嬉しく思います。
2 people agree with this review 2011/04/27
ロ短調ミサ1985年、昇天祭オラトリオ1990年、ヨハネ受難曲1991年、復活祭オラトリオ1994年と、ほぼ20~25年前のJ.S.Bachの大曲集です。まず、比較的規模の小さい昇天祭・復活祭オラトリオは、きびきびとしたテンポと活力に溢れた好演で、近年の他の録音と比較しても遜色ないと思われます。最も古いロ短調ミサは、リフキンの歴史的録音よりわずか4年後の、OVPPによるロ短調ミサとしては最も初期に属する演奏で、リフキンによる盤が歴史的重要性はさておき、演奏としては必ずしも後世に残る質とは言えなかったことを考えると、A.Parrott/Taverner Consortの演奏は、歌手陣もKaikby,Tubbを始めとする当時のスターを揃え、おそらくこの演奏方式のロ短調ミサでは実質初めての本格的な盤ではなかったでしょうか。ただ、草分け的な演奏の宿命として、現在のレベルの演奏からすれば、どうしても不満な部分が目に付くのはやむを得ません。特にOVPPの場合、合唱と比較して、各声部間のバランスのわずかなずれも非常に目立ちやすく、スター歌手を揃えても余程指揮者が強力にコントロールしていないと、すぐ多声構造の崩れが露になりやすいようです。ほぼ同年のOVPPでないLeonhardtの、歌手陣にスターを器用していない、驚異的に透徹したバランスと比較すると、演奏の質の差はあまりにも歴然としてしまい、スター歌手の器用がかえって脚を引っ張る結果に繋がったのでは、とさえ思えます。もちろん、まだ若かったA.ParrottをLeonhardtと較べるのは気の毒なのでしょうが、当時のOVPPによるロ短調ミサが、合唱使用のスタイルのレベルにはまだまだ達していなかったのも事実ではないでしょうか。ヨハネ受難曲もこの演奏スタイルとしては、最も初期のものでしょうし、誠実な演奏ですが、この難曲中の難曲の演奏としては、解決しないといけない問題が山ほどありそうです。まずマタイなどと異なり、コラール・アリアよりも群衆のコーラスの比重が大きいヨハネでは、小編成使用による場合、やはり歌手間の乱れ・不統一が聞き進むにつれ、どうしても我慢できなくなってきます。もちろんこれは演奏スタイルの問題というより、いかに指揮者がそこを音楽的に強力にコントロールできるか、だと思うのですが、当時のParrottにここにみるキラ星のようなスター歌手をねじ伏せるのは、まだ荷が重かったのでしょうか。もう一つ、Evangelistの比重が何より重要なヨハネ受難曲において、アリアや合唱のみが浮き上がってしまうのは一番まずいのですが、R.C-CrampによるEvangelistが気品をもった歌唱を聞かせているにもかかわらず、どうしてもややロマン的に激しい合唱やソロの背後に隠れてつなぎのような位置にしか聞えず、これは指揮者のヨハネ受難曲の解釈がまだ十分固まっていない、未成熟な現れと考えられました。とはいえ、OVPPによるヨハネとしては、ロ短調ミサとともに演奏史上の重要性は大きいと思われますし、CD全体としては価格的に非常にお得ではないかと思います。
1 people agree with this review 2011/04/06
「モテット全集」「バラード集」と続いたEnsemble Musica NovaのGillaume De Machautプロジェクトの、おそらく締めくくりのCDと思われ、Machautの「ノートル・ダム・ミサ」を中心に、同時代作曲家のモテットを併録、最後をMachautの死を悼む二重バラードで終えるという構成。これまで14世紀の作品としては、異例な程に録音に恵まれてきた「ノートル・ダム・ミサ」ですが、Kandel/Musica Novaの演奏はこれまでのいずれとも異なります。有名なA.Dellerの録音以来、どちらかと言えば早めのテンポできびきびと演奏されることが多かったのですが、Musica Novaは器楽を加えず声楽のみで押していくにもかかわらず、遅めのテンポでしかもラテン語の発音、反復の際の微妙なニュアンスを意図しながら、あくまで美しくじっくりと歌い上げて行きます。その精緻なこと、緊張感の高いこと、細部の変化の変幻自在なことでは、同じ声楽のみによるHilliard Ensembleの名演奏をすら確実に超えています。Kyrie,Sanctusなどのイソリズムによる部分はもちろんですが、Gloria,Credoのコンドクトゥス部分はこれまでの録音では軽快にあっさりと過ぎるのが普通なのに、Musica Novaの演奏は一歩一歩ニュアンスを克明に描いて、同じ曲を聴いてると思えない程です。同時代のアルス・ノヴァ・モテット他も、この錯綜とした難曲群にして考えられないくらいに美しく精緻であり、David Munrow以来の名演の一つではないでしょうか。現在のEnsemble Musica Novaの恐るべき実力が十分に発揮された名演奏で、疑いなく数ある「ノートル・ダム・ミサ」の録音の最上位に位置づけられる名盤と考えられます。
7 people agree with this review 2011/03/30
個人的にChristoph Roussetは、現存する世界最高のチェンバロ奏者(の一人)であり、同時に世界最高のバッハ奏者と考えています。Roussetのバッハは「W.Friedemanのための音楽帳」以来5年ぶりと思いますが、あの天才的なイギリス組曲・フランス組曲の録音からもう10年、この年月は確実に変化を生んでいるようです。J.S.Bach初期作品集と言えば、2年前のA.Staierの名演が記憶に新しいですが、ほとんど同様の企画でも重複する曲は「旅立つ最愛の兄のためのカプリッチョ」のみ。StaierのCDが初期作品でもどちらかと言えば演奏効果のある華やかな曲が多く、演奏もStaier特有の前古典派に立脚したダイナミズムをはっきり打ち出したものであったのに対して、RoussetのCDはより無名で地味な曲ばかり、有名と言えば上記カプリッチョ以外になく、演奏も曲の構造をゆったりした、どちらかと言えば変化の少ないテンポで克明に描いていくもので、一聴して強い印象には残りません。「旅立つ最愛の兄の...」にしても、Staierが情景描写を様々な工夫によって前面に出して聴かせるのに対し、Roussetの演奏は純粋にバロック・チェンバロ曲としての魅力のみに力点を置いてるようで、面白い演奏とは言えないかもしれません。しかしながら、繰り返し聴くと、この決して傑作とは言えない初期作品群の味が、Roussetのあくまで堅実でしみじみとした演奏によって、少しずつ染み渡っていきます。かってあれ程奔放で天才的な装飾をちりばめて、われわれを圧倒したRoussetも着実に年齢を重ねているようで、それはここ数年のL.Couperin,Frobergerなどの美しい演奏でもすでに明白でした。決して目立ちませんが、第一級のBach初期作品集として、お薦めできると思います。今後Roussetがどんなバッハを聴かせてくれるのか、楽しみに待ちたいですね。
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