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Review List of mimi 

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     2018/07/10

    これは良演盤です。A.Hakkinenは、近年師(?)のHantaiらと組んだ、J.S.Bach/チェンバロ協奏曲全集で初めて耳にし、そこでのチェンバロ奏者としての技能はともかく、重層的かつ生命力に溢れたJ.S.Bachのコンチェルトの構造再現まで、全く手が及んでおらず、やはりまだ若いのは如何ともし難いか、と思わせられましたが、このByrdではうってかわって素晴らしく美しい成果を見せています。元来、歴史的に豊饒なネサンス〜バロック・イギリス鍵盤音楽の分野で、William Byrdは質的にも量的にも、疑いなく最も大きな存在と思いますが、その名演奏に出会うことは決して簡単ではありません。西洋ルネサンス最大の作曲家の一人として、もちろん精緻で強固な多声様式がベースにあるわけですが、それに加えてByrdの音楽は、そのあまりに親しみやすい旋律、イギリス音楽伝統の和声法を纏い、決して劇的ではないがそのちょっとして瞬間瞬間に無限のニュアンスを秘めており、この微妙なニュアンスを十分に表現できる演奏にはちょっとやそっとではお目にかかれません。この盤にも多く収録されてるような名作が多いにも関わらず、自分の乏しい聴経験では晩年のLeonhardtのアルファ盤と、Gouldのピアノによる演奏くらいしか無かったのではないかとさえ、思います。A.Hakkinenはまだたかだか42歳、この盤はキャリア初期だからたぶんまだ30歳になるかならないかの若さでの録音だったと思うのですが、あまりにもさりげなく見事に、Byrdの音楽のさりげない瞬間瞬間の微妙なニュアンスが再現されており、こうした音楽の演奏が決して年齢と経験だけで解決できない、奏者の音楽への適合性が大事であることを痛感させられます。もちろん、Leonnhardtなどに較べると、曲によってはやや細部の精緻さが劣り、やや一本調子で雑に感じられる部分も無くはありませんが、それでも若き日のGouldのかけがえのない名演にあったような、新鮮さも備えており、繰り返して聴きたくなる魅力に溢れています。決して目立たない地味な盤かも知れませんが、W.Byrd鍵盤音楽の、紛う事無き良演奏であり、できるだけ多くの古楽ファンに聴いていただけたらと思います。

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     2018/06/15

    Rudolf Lutz/J.S.Bach-Stiftung St. Gallenのカンタータ第4集。冒頭のカンタータ第78番は、J.S.Bach/教会カンタータ全曲中でも10指に入る位の有名曲ですが、Rudolf Lutzの演奏は無数にあるこの曲の演奏中でも、記憶に残るべき演奏の一つと言えるかもしれません。導入合唱のパッサカリアを、やや遅めのテンポながら、鋭角的なリズムでラメント・バスを強調し、非常に厳しく悲劇的な世界を印象づけ、これに続くソプラノ・アルトの二重唱、たいてい夢見るようなテンポで奏でられるのを、早めのテンポでこれも厳しく描いていきます。これ以降、終曲に至るまで、コラール・カンタータとしてあくまで統一された厳格な音楽を、一瞬も弛緩しないリズムで組み立てており、このそうは長くない曲がいやが上にも壮大な建築物に仕上がっていきます。もう少し個々のアリアの美しさにゆったりと浸りたい気もしないではありませんし、こういった厳格な演奏には、好みは分かれそうですが、近年の78番中でも屈指の演奏ではないでしょうか。この第78番の名演奏に較べると、ヴァイマール・カンタータ中の有名曲である第54番、第63番の印象が強くはないですが、例によって精緻なリズムとテンポによる一級の演奏の一つには違いありません(やや後者においてテンポ変動の幅が、少し演奏会的に強調され過ぎかも知れませんが)。現在進行中のJ.S.Bach/教会カンタータ全集中で、客観的にみて最も質の高いプロジェクトとして、多くのBachファンにお薦めできると思います。

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     2018/06/09

    久しぶりのGuillaume Dufay作品集、特にモテットが収録されている盤はおそらくCantica Symphonia以来で貴重と思います。CD趣向としては、Dufay作品による架空の宴という設定であり、そのテーマになるのがDufayの有名シャンソンの一つ”Ce jour de l’an”(新年を迎えて楽しもう)ですので、新年がらみの宴席? 収録されている曲は、上記の曲を始めとした有名シャンソンが20曲ほど(重複あり)に、イソリズム・モテット5曲で、モテットは処女作とされる”Vasillisa, ergo gaude”を始めとしてほぼDufay前期、西洋音楽の歴史を変えた1436年の”Nuper rosarum flores”以前の作品がほとんどであり、宮廷の愛を歌うシャンソンと相まって、どちらかと言えば近代的であるより中世的な色合いを中心とした演奏集といえるでしょうか。しかしながら、Dufayのシャンソンが常にそうであるように、音楽自体が非常に強烈な表現意欲を発する、同時代としてはかなり個性的なものであり、有名曲が選ばれてるのもあるでしょうか、一度聴けば忘れられない旋律に満ちています。不勉強にしてGothic Voicesの演奏を本格的に聴くのは初めてで、その演奏は特にモテットにおいては上記のCantica SymphoniaやHuelgas Ensembleなどの、強烈に透徹した構造再現に比較すると、やや多声構造のクリアさが劣る傾向も無くは無く、現代の最高レベルの古楽再現とまでは言えないかも知れません。しかしながら、時代に即した、生き生きとした新鮮な演奏は、一方で魅力でもあります。モテットだけで言えば、他にこれを上回る演奏も複数ありますが(上記2団体のモテット全集は画期的だった!)、CD全体としての新鮮な演奏と好企画の故、推薦とさせていただきます。地味な盤かも知れませんが、ルネサンス以前の音楽に関心がある方なら、お聞きになって損はないかと思われます。

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     2018/05/25

    Rudolf Lutz/J.S.Bach-Stiftung St. Gallenのカンタータ第3集で、第1,2集同様、精緻で現代的なリズムとテンポ、指揮者の確信を持った楽曲解釈・実践による極めて質の高い演奏です。冒頭の132番は、高名なクリスマス・カンタータで、3人の独唱者によるアリア中心ですが、生き生きとしたテンポながら過度に力みすぎず、余裕を持った歌唱が美しい。アルトのソロ・カンタータである35番は、結構長大なので難しい面もあり、この演奏でも独唱と曲の解釈が、過去の他の演奏者と比較して必ずしも最高とは言えないかも知れませんが、それでも演奏の質は明らかに上々。そして、コラール・カンタータの名作中の名作である1番、予想通り、沸き立つようなリズムによる強力な演奏で、古のヴェルナーらのような、ゆったりしたしみじみとした味わいは希薄ですが、やはり古のK.Richterの生命力に溢れた演奏を彷彿とさせます。第5曲などはややリズムが前のめりになりすぎるような印象もなくはないですが、こういった解釈になると、合唱・オーケストラの技術が(おそらく決して常設メンバーではないでしょうに)非常に高いのが何と言っても強み、見事な演奏です。様々なタイプのBachカンタータ演奏を選べるようになった幸せな現代ですが、本企画は過去に完成した全集、現在進行中の全集含めて、疑いなく最も清新で質の高いJ.S.Bach/教会カンタータ全集企画の一つであり、Bachファンなら聴いていただく価値が必ずあると思います。

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     2018/05/24

    好企画・良演奏です。Schubertの傑作Sonata for Arpeggioneの、本来楽器であるArpeggione演奏によるCDは、自分が把握してる限りで現役盤は、世界初?録音であるKlaus StorckのArchiv盤(1974年録音)、本盤(2000年録音)、Nicolas Deletaille盤(2008年録音)の3種ではないかと思うのですが、本盤はSchubert以外のArpeggioneのための作品も集めたCDで、Vincenz Schusterに、Anton Diabelli、Friedrich Burgmullerの3人の作曲家の作品が演奏されています。この3人の作品では、Arpeggioneの教則本を書いたSchusterの作品が一番聞き応えはあるかも知れませんが、とは言っても、こう並べてみるとSchubertの音楽が光り輝いてしまうのはやむを得ない。まさに西洋音楽の歴史に残る傑作の一つです。Alfred Lessingの演奏は、時代が新しいだけあって、Klaus Storckよりは演奏法の研究・復元が相当進んでいるようで、技術的に軽々と弾きこなしており、ここまで見事なら確かにチェロやヴィオラなどの代用楽器の必要を全く感じませんし、何よりArpeggioneならではの軽く浮遊するような魅力が存分に生かされています。近年のPaul Badura-Skodaと組んだNicolas Deletailleの好演も見事でしたが、Alfred Lessingの本盤はそれと比較しても決して劣らない秀演です。正直Schubert以外の他の3人の作品は、繰り返し聴きたくなるものではないですが、Arpeggione演奏によるSonata for Arpeggioneの良演奏は貴重なので、推薦とさせていただきます。

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     2018/05/13

    Rudolf Lutz/J.S.Bach-Stiftung St. Gallenのカンタータ第2集で、非常に高い演奏能力を有するピリオド集団と独唱、合唱によって、精緻でかつ現代的な推進力に富んだ、好演奏と思います。第22番はJ.S.Bachにとって、ライプツィヒのカントル就任試験の課題曲ですが、同じ課題曲の第23番と比較しても、決して目立つ曲ではありません。R.Lutzはどちかと言えば地味なこの作品を、生命観に溢れたリズムとテンポ、ひきしまった表現で、鮮やかで美しい演奏に生まれ変わらせます。個人的にはこの曲は、Leusing盤などにみる、あくまでしみじみとした演奏が合うように思うのですが、R.Lutzのこの表現も決して悪くなく、何より演奏が見事。第60番、第34番は華やかな有名曲に属すると思われますが、特にJ.S.Bachライプツィヒ時代の最後期の34番は、R.Lutzの演奏に時にみるやや過激に傾くまでの劇性が現れており、曲全体がまるで沸騰するような生命観を湛えています。この最後期の傑作において、ここまでの(やや)外面的な劇性が必要か、少し疑問も無くはありませんが、これも少なくとも演奏の見事さにおいては現在のカンタータ全集(プロジェクト)の中でトップクラスであることは間違いありません。価格は決して安くありませんが、Bachファンなら一度耳にされていい、カンタータ全集プロジェクトとではないでしょうか。

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     2018/05/11

    自分が若かった頃、J.S.Bachの教会カンタータは未だ全集が存在せず、H.RillingとHarnoncourt/Leonhardtが全集化を進めていましたが、やはり圧倒的な存在感を放っていたのはKarl Richterの選集でした。あれから40年、今では全集も上記のH.Rilling、Harnoncourt/Leonhardt以外にも、片手に余るくらい存在し、進行中の全集も複数で、Bachファンとしては考えられない位に恵まれた選択肢がある幸せな時代になりました。Rudolf Lutz/J.S.Bach-Stiftung St Gallenの進行中の企画も、その有力な選択肢の一つで、自分はロ短調ミサの好演で初めてその実力を知り、それ以前から徐々に発売されていたカンタータを購入しました。20世紀における古楽復興の発祥の地でもあった、バーゼル・スコラ・カントルムの教官であるRudolf Lutzを中心としたこの演奏は、当然の事ながら、演奏法・楽譜考証に厳格な作業を経た歴史的演奏であるわけですが、(近年のロ短調ミサがそうであったように)それ以上に非常に強靭な生命力と現代的なリズム感覚に満ちあふれたもので、ともすると歴史的であるよりもやや劇的に傾くくらいの、生き生きとしたものです。声楽・管弦楽とも、ベテランでないにしてもかなり実力者揃いのようで、その演奏能力は全く不安のない、非常にレベルの高いもの、おそらくプロばかりでないと想像される合唱も、適切な指導のもとにプロ集団に何ら遜色の無い素晴らしい歌唱を聴かせています。第1集に収録されてる3曲は、教会カンタータとしては、Richterの選集にも収録されている有名曲ばかりですが、過去のどの演奏者のカンタータ集にも負けない好演を聴かせており、ピリオド楽器ながら、その表現意欲の強い鮮明な演奏はそれこそ古のRichterの名演を懐かしく思い起こさせます。これだけ選択肢の拡がったJ.S.Bach/教会カンタータ集において、様々なタイプの演奏が割拠するのは当然の事で決定盤というものは存在し難くなってると思いますが、そういった中でこのRudolf Lutz/J.S.Bach-Stiftung St Gallenの全集は、現在最もレベルの高いものの一つであることは間違いないのではないでしょうか。ルネサンス・バロック音楽ファンにはもちろんですが、ピリオド楽器が苦手な方にも十分御薦めできる好演、好企画ではないかと思います。

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     2018/05/04

    普段自分は、古典派以降の音楽をほとんど聴かない人間なので、William Christie/Les Arts Florissantsの名は、当然の事ながら馴染み深いものでしたが、不勉強にして彼らのメインレパートリーである、フランスバロック・オペラ/オラトリオをほとんど聴く経験が無かったために、実際にこれまで彼らの演奏を聴いたのはたかだか1−2度でした。今回聴くに当たって少し勉強したところ、William Christie/Les Arts Florissantsは、あれだけの長い演奏経験・実績を誇るにもかかわらず、J.S.BachのCDはなんと初めて!、その初めてのBachに「ロ短調ミサ」を持ってくる事自体、Christieの今回のプロジェクトに寄せる想いが尋常なものでなかったのは、容易に想像されます。で、その演奏ですが、OVPPでない合唱・管弦楽団による演奏形態のロ短調ミサとして、こんなに素晴らしい演奏は、ちょっと無いのではないでしょうか。演奏の外形としては、上述したように何か目立って新しい事をやっているわけでないのですが、とにかくこんなにも自然でありながら力みの無い演奏は思い当たりません(しかもこれがLiveであるというのが、却って驚き!)。大編成の合唱・オケを使用していながら、この大曲の隅々まで、どこをとっても威圧的な表現がなく、KyrieやGloriaの冒頭、Cum Sancto Spirituから6声部のSanctusに至るまで、全体にむしろ静かとさえ言えるくらいの演奏ですが、その内実に込められた美しさと強い想いが計り知れず、それが聴くものをいつしか感動に導きます。演奏全体として、決して緻密な分析を全面に感じさせるわけではないのに、GloriaにしてもCredoにしても、全体を聞き通すのに何の抵抗も疲れも感じさせないのは(感じさせることの方が多い)、W.Christieがいかにこういった大曲の構造把握と実践を的確に行っているかの証明ですが、紛れもなくこの演奏者のバロック・オペラ/オラトリオにおける他に類をみない知識と経験のすべてがここに生かされているのでしょう。実際、特に変わった解釈を行っているわけでは無くとも、子細に聴くと、細部で決して他の多くの演奏者にはみないような演奏表現・解釈が、非常にさりげなくはりめぐらされており、それがちょっと聴いただけでも解るこの演奏の自然さの根底にあるようです。Christe eleisonのデュエットの伴奏や、Crucifixusの悲劇的なリズムはその顕著な例と思いますが、とにかく一見新鮮で無いようでいて、実はこれほどに同時代のあらゆる音楽の演奏実践の経験がすべて盛り込まれた「ロ短調ミサ」は、自分の知る限り決してあるものではありません。英文解説に寄せたW.Christieの文章には、Christieにとってロ短調ミサが決して敬遠していた対象でなく、実は遙かに幼少期から母を通じて経験してきた特別な音楽であったことが簡潔に綴られており、半世紀以上暖め、まさに満を持しての今回の演奏であったことが良く解ります。近年の数多ある新盤(OVPP以外)の中では、Gardinerの新盤はもちろんのこと、ある面ではSavall盤やBruggen晩年盤をも凌ぐかも知れません。美しく、静謐で、奥深い「ロ短調ミサ」として、全てのBachファンに一聴をお薦めしたい名盤の一つと思います。

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     2018/04/08

    Frescobaldiが当時活動していたローマ近郊、中部イタリアの3台の歴史的オルガンを引き分けたFrescobaldi/オルガン曲選集。Bernard Foccroulleらしく、楽器の選定、曲の選定、演奏法に徹底的に拘っており、数あるFrescobaldiのオルガンCDの中で、現在最も素晴らしいものの一つではないでしょうか。個人的に思うに、世界の現役のオルガニストの中で、演奏の明晰さ、透明性、声部一つ一つのクリアさにおいて、Foccroulle以上の人は無く、その意味でまるで幾何学模様の如きFrescobaldiの複雑な多声鍵盤作品にFoccroulleは最も相応しいと考えられます。数年前の驚異的な「フーガの技法」でもそうでしたが、この演奏においては、細部から全体、ピアノからフォルテに至るまで、声部、構造のクリアでない瞬間が全くありません。常に明晰である一方で、威圧的な大音量やテンポ変動は皆無(そこにこの奏者に対する好悪の分かれる部分もあるのでしょうが)、まるで眼前に楽譜そのものがめくられていくような錯覚にすら陥りますが、それでいて無機質な部分は一瞬たりともなく、演奏すべてにFrescobaldi特有の高貴な詩情が溢れています。Buxtehudeの時のような全集でないのが残念なところですが、現在Frescobaldi/オルガンCDで、疑いなく最も質の高いお薦め盤と思います。FoccroulleによるCD解説も、例によって極めて精緻、誠実で、充実した情報を提供してくれます。

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     2018/04/03

    一言で言って、非常に精度が高く、にもかかわらず現代的な躍動感にも溢れたロ短調ミサです。昨今、若手(といってもR.Lutzは60過ぎ)の優秀な指揮者によるロ短調ミサが立て続けにリリースされていますが、この演奏はその中でも、演奏の質から言えば疑いなくトップクラス、どんな細部をとっても曖昧な部分がなく、Bachの音楽として考え抜かれた回答が与えられており、OVPPでない様式のロ短調ミサ演奏としては、ひょっとしてBrugghenの晩年盤や、Savall盤をも超える完成度を有しているかも知れません。特に凄いのは、実は多くの演奏で躓きの石になってしまう、第2部Credoが、全体から細部に至るまで、構造的に完璧に分析された上で演奏実践されていることで、この部分だけとってみれば、もはや伝説的なLeonnhardt盤に次ぐかも知れません(言い過ぎ?)。自分はR.Lutzの録音を聴くのはこれが2,3回目なので、CD解説以上の情報は知らないのですが、経歴をみると、ながくBach研究家、オルガン・チェンバロの即興演奏の専門家として教育・演奏に地道に携ってこられたようで、その経歴がこのロ短調ミサの分析・演奏実践に、他の多くの指揮者にはない、強固で説得力のある根拠を与えているのが理解できます。演奏者も、独唱者、合唱、管弦楽すべて、決して誰でも知っているような著明演奏家ではないにもかかわらず、その演奏のどこをとっても上質で破綻の無いものであり、こちらも現代のバロック演奏団体として疑いなく現代のトップクラスです。…と書いてきて、客観的には最高評価をつけるべきなのでしょうが、これだけ質の高い演奏でも、不満が無い訳でないのが、この難曲の難曲たる所以でしょうか。正直なところ、最初に聴いた時はかなり鮮やかでインパクトの強い印象だったのですが、いくどか聞き返すうち、どうも、ここかしこに「何かが違う」感を覚えます。それが何なのか、実は当初よく解らなかったのですが、CD解説のR.Lutzのインタビューを読んで、朧げながら見えてくるものがあります。R.Lutzはこの難曲の演奏実践にあたり、当然のことながら、自己の深い音楽史上の知識と長いBach演奏家としての経験から来る、Bach音楽に対する確かな直感で、錯綜とした音楽諸要素の構築に回答を与えており、それはそれだけで大変に見事な成果です。ただ、そういった学識と経験から来る作業を経た上で、最終的な演奏実践の形を決めるに当たって、R.Lutzが拠り所としているものは、自分が考えるにこの大曲が現代の演奏場で鳴り響く時に、いかに効果的に現代的に、演奏者にも聴衆にも聴かれるか、という一点に収束しているようです。従って、紛う事無き歴史的演奏なのですが、最後の最後で優先されるものが、KuijkenやLeonhardtがあくまで拘ったような「それがその当時いかに響いたか」ではなく、「現代の聴衆にいかに訴えかけるか」であるために、時にやや物量的、外面的な演奏に聴こえ、それが幾度も聴いてくると、こちらを疲れさせる原因になっているのではないでしょうか。ともあれ、大編成、大合唱団を使用したロ短調ミサの中で、最上級の演奏であるのは間違いないところで、演奏形態としてあくまでその形態を好まれるBachファンには、疑いなく一番にお薦めできる演奏の一つではないでしょうか。

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     2018/03/11

    まさに珠玉の名演と言えるのではないでしょうか。そもそも本盤は、渡邊順生氏にとって、本盤で使用した2台のチェンバロ製作者である故柴田雄康氏への追悼盤としての録音のようですが、おそらくそれと同時にどうあっても避けて通れないのが、まさにFrescobaldi, Frobergerの歴史上(おそらく)最高の再現者であった、師のGustav Leonhardtの演奏でしょう。実際にこの盤の収録曲のいくつかは過去にLeonhardtの録音がありますし、若い頃からその死の直前まで、Leonhardtの最も近くにおられた愛弟子である渡邊氏なら、ここでの収録曲のほとんどを師の演奏で聴いておられるのではないでしょうか? 従って、自分らにとってどうしてもあのLeonhardtの名演の数々との比較が避けられないのはやむを得ません。特に中世以来の対位法技術の極とバロック音楽としての緩急自在の変化を融合し、後世の鍵盤音楽の基礎を築き上げたFrescobaldi,において、Leonhardtの一点一画も疎かにせずに細部から全ての構造を築き上げていく圧倒的な演奏に同等に並べられる演奏は現時点でも存在せず、この点においてはいかに愛弟子の渡邊氏の演奏であっても未だ及ばない部分があるのは、渡邊氏自身が誰よりも解っておられると思います。しかしながらそれでも、ここでの渡邊順生氏の深く曲構造を考察し、それをあくまでルネサンス・バロック時代から古典派にかけての幅広い時代の音楽理解を背景に、堅実に再現していく様は例えようもなく魅力的であり、実際海外の多くの奏者のFrescobaldi演奏と比較しても、これほど滋味溢れ幾度も聴きたくなる演奏は稀です。特に前半の終わり、Leonhardtも名演を遺しているCapriccio 12 sopra l’Aria di Ruggieroと、Cento Partite sopra Passacagliは渡邊順生氏の数多くの名演奏の頂点と言っても差し支えないのではないでしょうか。そして、渡邊氏がより親近感を覚えると言われる後半のFrobergerは、前半をも超える名演奏。Frobergerにおいてもすべての音符、すべての瞬間に意味付けがなされた晩年のLeonhardtの圧倒的な名演奏が存在しますが、渡邊氏の演奏は時に多くの奏者において重々しくなりがちなFroberger演奏(特に組曲)において、メランコリックではあっても全く重さは感じさせず、あくまで柔らかく繊細な響きによってFroberger独特の和音をしみじみと紡いでおり、この滋味と繊細さにおいてはひょっとして師をすら超えているかもしれません。Frescobaldi, Frobergerいずれにおいても、現在世界の古楽界の頂点に位置する演奏であり、ルネサンス・バロック音楽を愛好する者にとっては、宝石のようなアルバムです。日本のみならず、ぜひ、世界の多くの方々に聴いていただきたいですね。

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     2018/02/25

    数あるロ短調ミサの録音中でも、そう多くは出会う事のない良演ではないでしょうか。Hosannaの2重合唱でSopranoを2名ずつ、総勢10名の合唱によるOVPP方式を基本としており、MinkowskiやJunghanelと同等人数、器楽は27名のやや小編成で、いずれも現在のOVPPとしてほぼ標準的な演奏規模と考えられます。昨今、OVPPによる演奏もすっかり珍しくなくなりましたが、一方でOVPPによるロ短調ミサの名演奏、と呼べるほどのものはまだ決して多くはありません。その中にあって、Lars Ulrik Mortensen/Concerto Copenhagenのこの演奏は、ひょっとすると(S.Kuijken/La Petite Bandeを別格としても)Minkowskiを凌ぐ好演盤と言えるかも知れません。近年のいくつものConcertoの名演奏でも明らかなように、Mortensenという指揮者は決して自らの個性を強烈に打ち出すタイプではなく(それこそMinkowskiとは正反対)、どうかすると指揮者の存在すらあまり感じられないような瞬間も多いのですが、それでいてBachの音楽に欠かせない、リズム、テンポ、音色の、声部間・楽器間の理想的なバランスをあまりにもさりげなく、いつの間にか実現してしまいます。それは声楽が入ることによって、より一層困難な課題となる声と器楽の自然なバランスにおいても、かなりなレベルの再現を実現できているように思います(晩年のLeonhardtほどに理想的な回答を見いだしているわけではありませんが)。とにかくこのロ短調ミサは、OVPPであることも相まって、一切威圧的でなく、あまりにも自然で美しい演奏です。もちろん、J.S.Bachの全作品中、最大傑作であるロ短調ミサにおいては、最も重要なのは多声音楽としての全体から細部にいたるまでの、網目のようにはりめぐらされた音構造であり、その再現においてはこの好演盤といえども、全体も細部もまだまだ厳格な構造再現に甘さを感じる部分は多々あります。それでもこの演奏は、他の大部分のロ短調ミサ演奏が全く実現できていない(過去、唯一理想的な再現がなされたのは、おそらくLeonhardt盤のみ)、演奏に何らの熱も力も必要としない、純粋にJ.S.Bachの音楽構造のみによる感動に近づける可能性を感じる意味で、他の多くのロ短調ミサ演奏の一段上の可能性を秘めているように思われます。まだまだ未完成の部分も多いでしょうが、他のBach作品における演奏とともに、今後のMortensen/Concerto Copenhagenの演奏に大きな期待をかけずにいられません。現時点で決してめだつ演奏ではありませんが、紛れもなく最高レベルのロ短調ミサ演奏として、多くのBachファンにお薦めしたいですね。なおCD裏面をみますと録音時期は、HMVホームページに記されてる2011年は誤りで、2013年5月21~25日のようです。

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     2018/02/23

    大編成合唱団・管弦楽団(ピリオド)によるロ短調ミサであり、形式的に新鮮なところはありませんが、その演奏スタイルにおいては粗いところが全く無い、非常に引き締まったまとまりのよい演奏と思います。楽曲楽曲の再現において、決してロ短調ミサ演奏の最前線に居るとは言えず、正直現代のレベルとしては、中途半端で曖昧な部分も多いのですが、それでもこれだけ演奏の全体としてのまとまりが良いのは、ひとえに合唱指揮者としてのRademannの能力の高さ故と思われ、その意味ではまさにH.RIllingの正統的な後継者と言えるかも知れません。現在の世界のBach研究の最先端である、U.Leisinger校訂の最新版(Dresdenパート譜を全面的に採用)による初めてのCDという、歴史的意義も高い演奏であり、近年のロ短調ミサの中で決して目立たないながら好演の一つと言えるのではないでしょうか。

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     2018/02/20

    Jordi Savallとしては、意外にも珍しい、ルネサンス・フランドル楽派の本格的な作品集ですが、CD冒頭の器楽ファンファーレでびっくりしました。Savallのライナーにも楽曲解説にも何も触れられてませんが、この”Palle,palle”は、Guillaume Dufayの名シャンソン”Se la face pale”の旋律を元に作られており、Josquinの同時代人であるHeinrich Isaacも、この旋律によるパロディ創作を行っていた事を初めて知りました。CD全体は、いかにもSavallらしい、一本のコンセプトの元にIsaacの生涯を紡いでいくようになっており、様々な形式の曲を織り交ぜながら、決して飽きさせないように作られてるところはさすがです。しかしながら、主な部分を占める Isaacの多声モテットにおいては、やはり日ごろのレパートリーとは異なるからか、近年数多あるルネサンス音楽を専門にする合唱団体に較べると、どうしても声部声部の厳格さ、独立性、そして楽曲構造の再現のクリアさが今一つで、ここらへんはIsaac yearで近年出た、Cantica SymphoniaやEnsemble Gill Binchoisなどの強烈に透徹した声楽表現には、この巨匠といえど、明らかに及んでいません。やはり畑の違いは如何ともし難い、というところでしょうか。ただその代わり、高名な「インスブルックよさらば」はそれこそ、涙の出るほどの美演で、これだけでも購入の価値はあるかも知れません。バロック・ルネサンス音楽ファンなら持っておかれてよい佳演盤と思います。

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     2018/02/16

    古くから、バロック以前の古楽で、これほどに録音の多い作品もないでしょうし、当然、自分はその数分の一くらいしか聴けてないですが、自分の乏しい聴体験から思うに、これまでのどのVesproとも異なる演奏ではないでしょうか。実は過去の演奏とあまりに印象が違うので、未だこの演奏の真価は正直、測りかねている部分もあるのですが、印象としてS.Kuijken/La Petite Bandeの徹底的に少人数に拘った盤(それはこの曲においては必ずしも成功とは言えなかったかもしれません)以来の、個性的な演奏と感じます。不勉強にしてLa Compagnia del Madrigaleの演奏を聴くのは初めてですが、実質のMusical directorを務めるGiuseppe Malettoは、言うまでもなくCantica Symphonia(この録音にも参加)のリーダーとして、あの驚嘆すべきMotet全集を始めとする、Guillaume Dufayの名演奏の数々(Cantica Symphoniaが無ければ実際に聴けない名作・傑作も多い!)を我々に送り届け続けてくれた名歌手・音楽学者であり、おそらく過去にVesproを手がけたどの指揮者よりも、中世以来の西洋多声音楽の歴史と演奏実践に深い知識と経験を有しているのは想像に難くない。そのようなG.Malettoがリーダーとなって再現するMonteverdi/Vesproが、これまでのどの演奏とも異なる独自の存在感を放つのはあまりにも当然と言えるかも知れません。輸入盤解説(英語で読みました)でMalettoが述べているように、おそらくこの決して演奏史も浅くはない、演奏者も聴きてもある意味慣れきった名作を、隅々まで光を当て直して行った演奏であり、その特徴はとても簡単に説明できないのは言うまでもありませんが、自分の印象としてこの演奏の過去の演奏の数々と決定的に異なる点の第一は、解説の最後でMalettoが述べている”legato”の重視ーテンポの問題ではないかと思います。誰しも印象的な冒頭合唱からすでに、これだけゆったりしたテンポでじっくりと歌い進めた演奏は前代未聞で、その差異は特に過去多くの演奏で劇的に急速なテンポ変動を強調されることが多かった詩編各曲で顕著で、第2曲Dixit Dominusで2分30秒、第4曲Laudate pueriで2分15秒も、あの決定盤と名高いGardiner新盤より長い演奏時間を要しており、正直まるで違う作品に接するようです。Monteverdi/Vesproが500年以上前の古楽であるにもかかわらず、これだけ現代の我々に人気があり演奏されてきたのは、この作品に内蔵された現代性の故であると思われ、その重要な一要素が、詩編各曲における現代的なテンポと目まぐるしいリズム変動にあったと思うのですが、ここでの演奏者が採用している、あくまでlegatoを重視したゆったりしたテンポでは、そういった現代的にきびきびしたテンポやリズム変化の妙味はあまり感じることは出来ず、それよりも声部声部の絡みと縦の線における多声性の正確さが重視され、聴き手によってはVesproにこれまで感じていた魅力が減じる印象を持つ可能性があるかも知れません。しかしながら、G.Malettoは解説で、これまでの多くの演奏者は”many experts in 17th- and 18th century music tend to have a positive bias towards setting a rapid pace, and often, a hasty one”と述べ、このような再現が16〜17世紀のMonteverdiの音楽に本当に相応しいのか?と問題提起しています。過去のこのような多くの演奏が、現代的な急速なテンポとアクセント(イタリア的よりは北ヨーロッパ的である、とも)を強調する結果、この時代の音楽のそもそもの精緻な構造と魅力が曖昧にされることを、Malettoは最も懸念しており、Monteverdi自身の手紙も引用して、この演奏解釈にいたった経緯を詳細に述べています。個人的には、正直これまでの多くのVesproとあまりに印象が違うので、G.Maletto/La Compagnia del Madrigaleのこの解釈が、本当に正しいのか、まだ確信が持てない部分はありますが、少なくともこれまで数多の演奏者が気付いてこなかった多くの部分に新たに光を当てて再考を迫る重要な演奏であるのは確かで、それを行っているのがあの複雑きわまりないDufayの作品から、見事な音楽を引き出し続けたG.Malettoならば、その見解と主張に十二分な歴史的裏付けがない訳はありません。30〜40年以上前に、まだ大規模合唱と管弦楽による威圧的なBach再現が主であった時代にOVPPを初めて聴いた時は、感動よりも違和感と当惑の方が誰しも大きかったものですが、今では何の違和感もなくなったことを考えれば、今回のVesproに接した時の自分の違和感もこれから乗り越えていくべきものなのかも知れません。過去の華々しい多くのVesproに比較して、決してより華やかでもより刺激的でもありませんが(Gardiner盤はじめ、Vesproの名盤とされるものはたいていそういう演奏でした!)、間違いなく深い学識と経験をもった一流の演奏者達が、過去にとらわれずに一から音楽を考察し直して世に問うた重要盤と考えます。万人にお薦めするのはあまりに渋いかも知れませんが、少なくともバロック以前の音楽に興味をお持ちの方は、一度お聴きになられることをお薦めしたいですね。

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