DVD Ikimono No Kiroku

Ikimono No Kiroku

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    izkeiske  |  不明  |  不明  |  03/July/2021

    この映画は随所に懐かしい。都電、外車、工場の様子、冒頭の雑踏を示すシーン。この映画の前年に起きた第5福竜丸の事件でしばらく魚屋でマグロは買えなかった。風評被害であろうが放射能マグロと呼ばれていた。その新聞の3面記事の活字をよく覚えている。映画の第5福竜丸は小学校の体育館で見せられた。ブラジルの様子を写す8mm映写機は雄飛号と同型だ。私は明治通りを走る外車のテールランプの一部をみただけで名前を当てる、というゲームに没頭していた。志村が三船に話かけるガード下は大塚だろう。三船は池袋方面へ去っていくのだ。 核の恐怖に大人たちは怯えていた(ようだ)。東日本大震災の時と同じである。当時私の知人の何人かは、九州に引っ越した者、アメリカに移住したもの、などがいた。私はなんとなく嫌な感じがした。農薬をきらって自然食品だけしか食べない人みたいな気がしたからだ。自分は放射能がくれば病気になってしまうし、それは農薬を食べたって同じだ。それはコロナ騒ぎの今だって同じことだ。だがこのドラマはその感じを上手く表せていない。それはきっと、黒澤演じる老人の行動に説得力がないからだ。この家族のことを全て決めてきた家長のパターナリズムにある種のリアリティはあるが、それがブラジル移住に移るしくみがわからない。日本が放射能が流れる谷間だという新聞記事だけでは弱い。でもまあ当時、この気分はなんとなく皆に浸透していたからそれで通じると思ったのだろうか。 そもそも映画は暗闇で見る仮そめのものである。そこに現実の気分や判断を持ってくるのが社会派で主義主張のプロパガンダになると映画の話はとたんにつまらなくなる。ゴジラはこの1年前で志村喬は芹沢博士だ。この映画の歯科医よりよほど覚えている。メディアを扱っている映画人の中には現実の気分や制度や理念をリアルに感じているかもしれないが、それを映画で示しても仕方ないことである。暗闇の中でこそ伝わる何かを経験するために映画をみるのだから。

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